【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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85_暇か!

 

「──あっ! お、お茶淹れるね!」

 

「ぼ、僕も手伝います!」

 

 この世で一番気が利く女の子と書いて、山田早苗と読む。彼女は気を利かせて人数分のお茶を淹れに行った。

 場の空気に耐えきれなくて逃げたとかでは決してない。

 イカついオッサンが妹の事をジッと見つめていたが──全然、見捨てたとかではない。

 

 レイトも同じだ。

 山田家で明宏が日向にしばかれてた時みたいに、なんか巻き込まれそうだからトバッチリを喰らう前に避難しておこうとか、全くもって考えていない。恩人ではあるけどそれはそれ、とか思ったりしてない。早苗は自分より背が低いから、倒れないように見守っておこうと思ってついてきただけだ。

 

 さて、席に着いているのは明宏、光輝、日向の3人。

 口を開いたのはモヒカンのヤバい奴からだった。

 

「あー……1ヶ月ぶり?」

 

「お久しぶりです」

 

「その前は……高校生だった時に一回くらい会ってた……よな?」

 

「そうですね、生徒会にきた時に」

 

「………………あー! そうだそうだ、思い出した! アレ、あのぉ〜学園祭!」

 

「はい」

 

「いやぁ、そうそう……」

 

「はい」

 

「…………なんでここにいんの?」

 

「…………隣に住んでるんで」

 

「……えっっっっっ!?」

 

 信じられない言葉を耳にして明宏を3度見する。

 ──隣に住むとは。

 ──それは昔からだろうか。

 だとしたら、今まで知らなかったのが驚きモモの木山椒の木だった。それでミツキとあーだこーだのしてたのはコウキの脳みその処理能力を超えている。単純な思考速度なら人間など及びもつかないが、そもそも処理できない変数が入ってきたら機能停止するのもやむをえまい。

 

 しかし、知り合いの父親程度の分際でこれ以上突っ込んで聞くのは──

 

「あれっ!? 幼馴染だったっけ!?」

 

 そんな気遣いはなかった。見た目通り、細かいことは気にしない気質なのだ。結婚し、娘が生まれたことで多少はその気質もおさまっているが、根本的には変わっていないし娘以外にその繊細さを向けることはあまり無い。

 

「いや、幼馴染じゃないっす」

 

「……出会ったのは?」

 

「高一です」

 

「あっ……じゃあ幼馴染じゃないわ」

 

「…………」

 

 ヒナタがムッとした表情を浮かべる。幼馴染じゃないというのはただの事実なので自分で言う分には何も思わない。だけれども他人──それも本物の幼馴染の父親から言われるのは形容しづらい負の感情が浮かんでくる。

 

「よく考えたら昔は明宏ここに住んでなかったもんな!」

 

「……ミツキさんは近くに住んでたんですか?」

 

「いや全然。こいつらが小学生の頃は18セクターに住んでて、中学の頃に嫁の実家の36セクターに引っ越した」

 

「そうなんですね」

 

「…………で、なんでヒナタ──ちゃんはコイツの家の隣に?」

 

「なんでって言われても……避難、みたいな」

 

「避難? …………ああ!」

 

 大変だったという話は聞いていた。明宏からの連絡があった際に参加していたパーティーには商工会の職員も参加していたりする。

 しかも、コウキに関しては実状を目にしている。現在は危険だと思われるようなものはなかったが、いつまたダンジョン化が起きるかもしれないという不安がつきまとうのは当然のことだ、と納得した。

 

「それで知り合いのところにね!」

 

「はい」

 

「……二人はアレだよな、結構仲良いんだよな? 泊まりに行ったりもしてるんだし」

 

「い、一応は……まぁ……」

 

「…………ん?」

 

 何やら様子が変だ。

 日向は少し頬を染めると明宏の方をチラッと見た。

 仲がいいという質問に対して、このように顔を赤らめるということがあるだろうか。いや、ない。

 

「おっと……?」

 

「ぴゅ〜」

 

 コウキの心中を、嫌な予感という名の猛烈な嵐が吹き荒れていた。

 

「……おい」

 

 脈絡もなく口笛を吹き出した男を見る。

 この若作りのジジイは昔から子供をよく誑かしていた。ミツキはそのうちの一人──筆頭だった。この山田日向とかいう同級生女子もきっとそうなのだろう。

 誑かしただけならまだいい。あまり良くはないが、それは平常運転なので何が起きるということもないだろう。しかし、この顔。これは見た顔だ。具体的には、娘が実家に帰ってきて土産話を語る時に見せた顔。一週間以内の話。

 

「おい明宏、お前まさか──」

 

「…………そうですが何か?」

 

「………………」

 

「既にね、俺も色々悩んだんですよ。その上でこうなっちゃったんで」

 

 まさかの開き直り。

 

「ミツキは? あと、アリサちゃんはどうするんだ?」

 

「それはもちろん全員──」

 

 明宏はさりげなく彼女を見た。

 

「ちっ」

 

 一瞬にして、日向は露骨に機嫌が悪くなっていた。

 

「と、とにかく……日向も大事なんです」

 

「……」

 

 あるとしたら、ミツキとアリサの二人だと思っていた。そこに突然違う子が入り込んできたものだから、コウキの頭は完全にパニック寸前だ。記憶では、ミツキはそんな素振りは見せなかった。ただ、嬉しそうに話すだけだった。他の女の話など……

 

「二人は知ってるんだよな?」

 

「知ってます」

 

「うぐぬぅ…………エリック達は?」

 

「連絡はしました」

 

「なんつってた?」

 

「程々に、と」

 

 そりゃそうだろう。

 コウキは半ば呆れながらエリックの心中を察した。

 自分たちの息子が三股野郎だなんて聞かされても、すぐには受け入れられまい。無難な答えだ。

 

 しかし、コウキやミナはまた別の視点にいる。自分の娘が三股相手のうちの一人なのだ。しかも娘は三股を知った上であんな顔をしていた。

 別れろというのはあまりにも安直で、一方的な意見でしかない。

 

 そもそも焚き付けたのがコウキだという事もある。夢との完全な訣別を果たしていない明宏のケツを蹴っ飛ばして先へ進ませた。アレがなければ、こんなことにはならなかったのは間違いなかった。

 なにせ目の前にいるこの男はあんな魅力的な娘がそばにいながら、性欲真っ盛りの高校生時に手を出さなかったのだから。しかも娘だけでなく他の誰にも手を出す気がなかったという。

 実際出していなかったのだから本心なのだろう。

 

 コウキは今更ながらに、この男がどれだけ理性的な人間かという事を思い知らされた。そして同時に、夢という楔があったからこそ周囲との関係が良い具合に停滞していたのだと改めて理解した。

 

「──すいませんコウキさん、これに関してはぶん殴られても曲げる気はありません」

 

「…………じゃあ謝るんじゃねえ」

 

「そうですね」

 

「別に怒っちゃいねえよ…………アンタが正しかったなって、そう思ってただけだ」

 

「──そうか」

 

「だが!」

 

「…………」

 

「ミツキを軽んじたりしたら、こう! だからな」

 

 股間を、引きちぎる。

 ジェスチャーでしっかりと示した。

 

「分かってる」

 

「…………」

 

 もしかして、例の夢の中でもこんな感じになってたんじゃ無いだろうな……と一度だけ睨む。しかし、その程度で読み取れるほど浅い人間ではなかった。

 

 

 ──────

 

 

 そこの話を終え、ようやく届いたお茶を飲みながら二人は本題に入る。早苗達はソファーに避難した。

 

「──アレは結局、なんの連絡だったんだよ」

 

「どうやら俺のレベルが相当上がってるっぽくて」

 

「ああ……それで?」

 

「それでって……他の例とか知らない?」

 

「知らない事もないけど」

 

「おっ! 流石!」

 

「で?」

 

「直近でまずいことになったりしないかが心配でさ──というか、あんまり驚かないな」

 

「そりゃあ……なんとなく分かってたし」

 

「意味分からないんだけど」

 

「あの時、パッと見でな」

 

「山田家に来た時?」

 

「おう」

 

「へえ……!」

 

 コイツそんな事もできるのか、と少々の驚きを見せる。

 異能を持たぬ身である明宏からすれば、羨ましい限りだった。

 しかし、コウキは目線から理解して首を振る。

 

「異能じゃねえ、直感的にだ」

 

「そういうことか」

 

 探索者として頂点に登り詰めるまでに積んだ経験。出会った探索者やモンスター。大きくレベルが変動している相手を見ると、コウキの全身になんとなく感じるものがあった。

 

「なにか酷いことになったりしないかと不安でして……実際どうなんですかね」

 

「その時によってって感じだな」

 

 知り合いの探索者やパーティーメンバーが魔素焼けで酷い状態になっているのを見たことは複数回。彼らはいずれも魔素溜まり、そして強力なモンスターの攻撃を喰らっていた。おそらく類似のことがあったのだろうという予想──しかし、目の前の青年はどこにもおかしなところはない。

 

「具体的には何があったんだ?」

 

「分からないんです、記憶が無くて」

 

「ああ? ……記憶が無い?」

 

「外傷のショックなのかモンスターにやられたのか、さっぱりそこだけ消えてるんです」

 

「……それでよくアドバイスしてくださいとか言えたな」

 

「そこは専門家として良い感じに頼みますよ」

 

「お前こういう時だけ無駄に下手にでやがって……」

 

「頼みますよ、お義父さん」

 

「──気持ちわりい! やめろそれ! 2度と呼ぶな!」

 

「真面目な話……記憶喪失とレベルアップ、関係あるんじゃないかと疑ってまして」

 

「ああ待て、そもそもどんくらいレベル上がったんだよ」

 

「それはですね……」

 

 ガサゴソと足元を探る。何かを準備していたようで、椅子や机にぶつけながら取り出した。

 

「おい、なにしてんの」

 

「──じゃーん!」

 

「…………」

 

 取り出されたるは二つのプラカード。

 明宏らしき男やコマちゃんらしき犬が走り回っている絵が描いてあるが、それが強調しているのは──

 

「29から52です」

 

「お前っ…………お前、暇なの?」

 

 ただ、数字を書いてあるだけ。

 どうやらこのためだけに準備したらしい。

 

「暇じゃないぞ、夜なべしてつくったんだから!」

 

「暇じゃねえか!」

 

「暇じゃないからわざわざ夜に作ったんだぞ」

 

「こんなもののために時間使ってんじゃねえ! 目悪くなるぞ!」

 

「目はだいぶ良いぞ、昔に比べたら」

 

「どっちだよ! どっちの昔だよ!」

 

「うるさいからもう少し静かにしてもらっても?」

 

「お前のせいだ!」

 

「ほら見てこれ、23も上がってる」

 

「口で言やあいいだろ!」

 

「可愛いでしょこれ、コマちゃん」

 

「知らね…………いやまあ、コマちゃんは可愛いけど」

 

「そうだろ」

 

「……お前の絵はなんだよこれ、こんな武器持ってねえだろ」  

 

「それはノリで」

 

「…………これ俺の爆燐甲じゃね!?」

 

 主題そっちのけで絵の話をし始める義親子。

 意外と絵自体は下手じゃなかった。

 しかし、それも数分で終わって具体的に235セクターで明宏が主観的に過ごした日々の話になる。

 

「──そこの姉妹がねえ」

 

「姉妹だけじゃない、他の二人と1匹もだ」

 

「ふーん……じゃあ、しょうがないんじゃねえの?」

 

「はぁぁ〜」

 

「だって話す気ねえんだろ? 別に悪巧みとかしてるんじゃないなら諦めろよ」

 

「はぁ…………」

 

 コマちゃん達は二人が話している間、必死に聞いてないふりをしていた。全員目が泳いでいるし挙動不審のでバレているが、それを見て見ぬ振りするだけの度量はモヒカンにもあるのだ。

 

「永井さんに聞くしかねえだろ」

 

「やっぱり?」

 

「ああ、あの人ならなんか知ってると思うぜ」

 

「そうだよなあ……そうするわ」

 

「そもそも、商工会はどうなんだよ。あいつら、レベルが上がると露骨に謙ってくるから意外といけるかもしれねえぞ?」

 

「うーん……今ちょっと微妙なんだよな」

 

「なにが?」

 

 大学に行った時に商工会の高峰レオなる人物がいた事を話す。

 

「霊領か」

 

「根が深いんだよ」

 

「深いんだか浅いんだかわかんねえけど、とにかく手を尽くせよ」

 

「文献だって大した量もねえしよ……」

 

 論文だって、大学だって、書籍だって、歪なネットワークしかない現状は足で探すしかない。永井ならばある程度は知っているが、それで調べられる本の類はすでに調べ尽くしている。当然だ。

 その上で、記憶を探る限りではこのことに関するものは無かった。もちろん隅から隅まで端から端まで覚えているわけではないが、霊領とダンジョン、レベルの関係なんて忘れるわけがない。

 

「せっかく呼び出されたと思ったら、こんな話か……しかもよくわかんねえもん作ってるバカしかいねえし、また女増やしてるし」

 

「そっちはもう許して……」

 

「っせえばーか! 帰るわ!」

 

 風が巻き起こるとコウキはいなくなっていた。

 しかし、勢いに耐えきれなかったのか玄関の扉が完全に壊れていたので請求しておくことを明宏は心に決めた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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