【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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88_騒つく雪景色

 

「役立たず」

 

 スズムシが溶け消えてすぐに起き上がった明宏へ向けて放たれた一言。しかし、それには反論する。

 

「俺が手出したらすぐ終わっちゃうだろ」

 

「そういうのは戦ってから言って」

 

「じゃあ、仮にここにいたのが日向だったらどうしたんだ?」

 

「ヒナタなら戦ってた」

 

「…………方目さんだな、うん、方目さんがここにいたらどうしたよ」

 

「ナナオは口だけだから……私の後ろにいさせる」

 

「言うよね君」

 

「事実」

 

「けど、そういうことだよ」

 

「わざとやられたってこと?」

 

「まあ倒せたんだからいいじゃん! 二人ともよくうごけてたよ」

 

「……?」

 

 口ぶりがおかしい。二人が戦っている間、この男は眠りに落ちていたはずだ。

 ダマシオオスズムシの波紋はさまざまな異常を引き起こす。麻痺、幻覚、疼痛、睡眠など多岐にわたる異常──あの波紋が魔素を含んだ波であり、脳や体内の魔素を揺らすのではないかと言われている。

 なぜ、レイト達が戦っていたのを見ていたかのように語るのか。

 

「あんな低レベルの精神攻撃なんか食らうわけないだろ、フリだよフリ」

 

「……最悪」

 

「そう言うなって」

 

「あなたのせいでレイトが怪我したらどうするつもりだったの」

 

「流石にそこまでドジじゃない」

 

「…………」

 

 内心、面白く思っていた。

 シエルの態度ときたらいつまで経っても絶対零度。

 日向や早苗に対しては割と緩くなったし、レイトに対してはもはや最初に比べるとダダ甘もいいところなのに。

 明宏に対してだけはこんな感じで冷たい。何が原因なのか──考えつく事があるとしたら、初対面時の塩対応だろうか。

 

「──やったよ加賀美さん! うべっ……」

 

 駆け寄ってきて、寸前で転ぶ。

 ドジなところも可愛いなあと助け起こすと、それでも笑顔だった。右手に握られた魔石はほんの小さい大きさだが、最初から最後まで彼自身の力で手に入れたものだ。

 

「カッコよかったぞ」

 

「えへへ…………あれ? 見てたんですか?」

 

「寝たふりしてた」

 

「ええ!?」

 

「とにかく、良い感じだな!」

 

 さらっと流して批評に入る。レイトがなるべく注意を引き寄せ、シエルが矢を当てる。理想的と言って良い形だった。細かい反省点をあげればキリがない上に、それを今言ったところで嬉しそうな顔が暗くなっていくだけ。

 そんなことをするくらいならと明宏は頭を撫でる。

 

「──」

 

 心地良さそうに目を細め、身を委ねる。

 

「…………邪魔」

 

「おっ?」

 

 当たり屋ぐらいわざとらしく身体をぶつけ、行為を中断させる。やや驚いた様子の明宏は、一瞬考えると退いた。

 

「どうぞ」

 

「ふんっ」

 

 微妙に機嫌の悪くなったシエルが先行し、レイトはなんとか機嫌を直そうと話しかけていた。

 

「シエルちゃんが最初に接敵したら良くないからせめて隣にいてってば!」

 

「…………」

 

「ねえ、聞いてる……!?」

 

「…………」

 

 ムッツリと黙り込んだままのシエル。

 すれ違う探索者達は『なんでこいつらこんなところで痴話喧嘩してんの……?』と不快そうに顔を歪めていた。

 

「もう! 止まってよ!」

 

「…………」

 

 肩を掴まれ、不貞腐れたまま立ち止まる。

 

「はぁ……やっと止まった…………シエルちゃん、僕たちは遊びに来てるんじゃない! ダンジョンに来てるんだから! ちゃんとしなきゃ! 加賀美さんのことを悪く言えないよ!」

 

「いや……悪く言わないでね?」

 

「僕が話してるんだから、ちゃんとこっち見る! ほら!」

 

 むににぃーっと頬を挟み、強制的に自分の顔を見させる。

 

「……ね?」

 

「…………あの人、嫌い」

 

「分かったから」

 

 なんとか機嫌を立て直し、先ほどと同じくレイトシエル明宏の順になる。しかしショックなのは明宏だ。

 嫌いなんて言わなくて良いじゃないか、と少しだけ悲しそうに──数分でケロッと、なんでもない様子に戻った。

 

「うーん……っ!?」

 

 背後に手をやり、頭を下げるように指示を出す。しゃがみ込んだ三人──何を見つけたのか知ろうと、シエルもレイトの肩から目だけを出した。

 

「──人?」

 

 それは探索者だった。出血は見られないがよろよろと歩いている。しきりに後ろを振り返るのは、もしかしたら背後からモンスターが来ているのかもしれない。

 

「なんだろう」

 

「…………だめ」

 

「シエルちゃん」

 

「あれは、だめ」

 

「……わかった、僕が一人で」

 

「だめっ」

 

 何故ダメなのか。

 それはすぐにわかった。

 

『ひ……ああああ!』

 

「っ!」

 

 腰を抜かし、絶叫。

 飛び出しかけたレイトもそこで気付く。背後から現れたのは、空中を飛び回る半透明のヒトガタ。子供の姿をしていた。

 

「雪の精だな」

 

「雪の精……あれが……」

 

 強いわけではない。

 もちろんレイト達には早いが、そこまで高いレベルではない。彼らは寒さで亡くなった子供達の無念から生まれた存在なのではないかと言われている。育てなかった、捨てられた──親元で生きることの叶わなかった子供達が冬を越えられず野垂れ死に、死に際の強い情念がより集まって形をなしているのだと。

 冬になると彼らは頻繁に目撃されるようになる。ダンジョンで見られることもあるが、目撃数は段違いだ。

 

 そして、彼らは何をするか。

 

『遊ぼう』

 

『もっと』

 

『ずっと遊ぼう?』

 

 彼らは無邪気な存在だ。基本的には集団で存在し、人を見つけると寄ってきて遊びの誘いをかける。子供の姿に絆されて誘いに載ると、様々な遊びを一緒にすることになる。そして誘いに乗った人間が疲れても、子供達は満足しない。生前に満足できなかったからか。

 

「も、もう無理だから……! やだ! こないで……!」

 

 レイトたちの前にいる彼女も誘いに乗った一人なのだろう。手も顔も白い。そして声が震えている。

 

『まだ遊べるよ?』

 

『だって、まだ歩けるじゃない』

 

『ほら、鬼ごっこしよう!』

 

「やだ! やだ! 助けて! 誰か!」

 

 しかし、冬の第100セクターには職員が少ない。もちろん魔素のモニタリング自体は継続しているが、内部管理とは全く関係なく外から入ってくるモンスターがいる以上、この時期の管理は不可能に近かった。そして、その事実は周知されている。理解した上でこの場に来ているのがすれ違った探索者達であり、レイト達であり、彼女なのだ。

 

「……っ」

 

 今にも発狂しそうな姿を前に、拳を握りしめる。

 

「やっぱり、助けなきゃ……」

 

「…………」

 

「僕らが助けなかったら誰が助けるんだ!」

 

「……どうやって倒すの」

 

「………………」

 

 やる気とは関係なく、そこの問題はあった。彼らに対して物理的な攻撃は効果が薄い。鍛治師に頼んで追加効果を付与した武器であればそのまま傷つける事ができるが、レイトが持つのはただのナイフ、シエルの矢も特製ではない。そしてレベルも──氷の精の推奨レベルは20。彼らが相手するには少々早い。逆に取り囲まれ、氷漬けにされるのがオチという可能性もある。

 

「付与……」

 

「…………私は──」

 

「……え」

 

 何かを言いかけたシエル。しかし、口を開いて逡巡している間に動き出した影があった。

 

「怨念だとか、死霊だとか、水子だとか……くだらねえ!」

 

 氷の精に関する噂を全否定する男がたまたまここにいた。死にきれなかった者達の無念だとか、死者がしがみついているだとか、そういう話が大嫌いなのだ。

 怖いのではない。何故か自分を否定されたような気になる。その感情は傲慢で、おおよそ共感を得られず、死霊擁護団体の非難を受けるだろう。

 だが、すでに武器を抜いていた。

 それは銃。

 悍ましく侵食を受けた得物を構えて、撃鉄を起こし、無造作に引き金を2回引く。

 

 本来なら無色透明の空気の弾を放つはずだが、今回は違った。黒いモヤを後引きながら突き進み、探索者の腕を掴んで無理矢理に引きずっていた二体の胴体を撃ち貫いた。

 

『────ギャアアアアアアアアアア!!』

 

 悍ましい叫びをあげ、のたうちながら消える二体。しかし、氷の精はまだ3体残っている。探索者の腕には掴まれた跡が痛々しくついており、力が抜けたのか股の辺りから湯気が。

 

「失せろとは言わない。お前らモンスターに対してはな」

 

 構えた銃を見て、氷の精達は何かを言いかけるがそのまま撃ち貫かれた。子供の姿ということで何か思うところはないのかということだが、彼も全ての子供が無条件で無垢であり無害で守るべき存在だとは思っていない。

 それがモンスターであれば尚更、人に似てようがそんなことは関係ない。

 あの探索者があそこまで怯えていたことが真実だ。

 

「一瞬……」

 

「…………」

 

 レイト達は、圧倒的な戦力差を改めて実感した。自分たちが全裸で逆立ちしても絶対に勝てない相手、それが目の前の男だ。

 そんな男が、武器を収めて倒れている探索者の元へ。

 

「──大丈夫か?」

 

「うああ…………」

 

「大丈夫そうだな」

 

 涙で顔が濡れに濡れているのを拭い、上着を着させると抱き上げる。防具やらも取られたのだろう。彼女が身につけているのは衣服だけだ。

 

「みんなが……」

 

「どこだ」

 

「あっち…………」

 

「──三船くん!」

 

 慌ててやってきたレイトに問いかける。

 

「どうする」

 

「ど…………」

 

「俺が行くか、君たちが行くか」

 

「…………」

 

「10秒で選べ」

 

「──お願いします」

 

「よし、この子は任せた。シエル、お前がメインでな」

 

「うるさい」

 

「うるさいじゃないが」

 

 

 ──────

 

 

「──なるほどな」

 

 そこにいるのは──あったのは、二つの白い塊。雪から突き出た腕、半開きの口、苦悶に満ちた顔。倒れた体には霜がおり、もう動くことはないということを理解させるような姿になっていた。

 

 つまり、壊滅。

 この光景を先ほどの彼女に見せるのはあまりにも酷だろう。そして、葬式を執り行うような余裕も無い。管理用の地下施設にいる職員に報告だけはしておく必要があるが、それが精一杯だ。

 

 二人は、彼女同様に武器を持っていない。防具もない。

 抗うためのものを奪って遊ぶのだ。顔を顰め、しゃがみ込むと手を合わせる。

 神への祈りは嫌うが、この時ばかりは祈ることも仕方ないだろう。

 冥福を──来世では精々良い人生を歩めよ、と心中で言葉を投げかける。彼らの服の中を漁り、タグを引っ張り出すとそれだけ持って三人の元へ。

 他の荷物は散逸的に落ちているが、それを集めるようなことはしなかった。

 

「あいつらは……あそこか」

 

 明宏を真似たのかカマクラを作っていたシエル達。入り口から覗くと中に全員いた。

 

「加賀美さん」

 

「ちょっと来て」

 

「はい」

 

 レイトだけを連れ出し、カマクラの外で例の光景のことを話す。

 

「──そう、でしたか」

 

 なんと言えば良いかわからないのだろう。悲しげに眉を垂れさせると入り口の方を見る。

 

「あの人はメイさんです」

 

「メイか」

 

「その……」

 

「俺から伝える」

 

「あ…………はい」

 

 自らを抱きしめるメイ。

 ガタガタと震えていたが、明宏が目の前に腰を下ろすと何も言われずとも口を開いた。

 

「ダメだったんでしょ……?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

「どこか痛むところは?」

 

「…………」

 

 首を振る。実際、雪の精が力に任せて相手を傷つけることはあまり観測されていない。彼女の腕に残っているアザも、あくまで彼女と遊ぼうと腕を掴んだだけのことだ。傷つけようという意図があったわけでは無いと考えられた。

 

「職員のいるところまでは送るよ」

 

「…………良い人なんだね、やっぱり」

 

「?」

 

「あなた加賀美さんでしょ」

 

「あー……どこかで会ったか?」

 

「私も一応同じ支部にいるからね」

 

「──そうか」

 

 明宏は同じ支部だろうが違う支部だろうが、基本的に探索者のことはあまり覚えていない。何せ入れ替わりが激しい。コイツ面白いな、と思っても次の日にはいなくなったりするので覚える意味がないのだ。覚えているのなどそれこそ、受付や馴染みの顔ぐらいだろう。

 レイトのことだって、同じ支部なのに最初は知らなかった。

 

「乗ってくれ」

 

「……」

 

 ゆっくりとした動き。

 先ほどまではモンスター達に弄ばれていたのだ、無理もないだろう。こうして息をしているのが奇跡と呼べるような状況でもある。たまたまレイトが進行方向をこちらにしていなければ、間違いなく彼女は死んでいた。

 

「…………」

 

 慰めの言葉はかけない。親しいものが亡くなった直後にかけられる言葉ほど意味のないものはないと明宏は知っていた。

 無言で歩みを進める。

 地形から大まかな場所はわかっているので、進む方角を行きたい場所に合わせるだけだ。彼女も大怪我を負っているわけではないので、多少の時間はあった。

 

 しかし特に詰まることはなく、管理所の入り口を見つけることができた。

 

「──最近多いんだよ」

 

 たどり着いた監視用の保安所。やってきた明宏達からの話を聞いて、少し歳のいった職員がそうボヤいた。

 なんでも、冬の入り少し前くらいからこういうことが増えているらしい。

 こういうこと、というのは雪の精に限った話ではない。探索者達がやってくる事が、という話だ。

 

「なんでかねえ、妙にざわついてるというか」

 

「魔素の管理自体はやってるんでしょう?」

 

「そりゃね? 魔素自体には乱れは少ないんだけど……どうにも流れ込んでくるのが多いんだよ」

 

 シャーッとジェスチャーを見せる。

 

「モンスターですか」

 

「こんなこと言いたか無いけどね、西の奴らがまたなんかやってるんじゃ無いのかって疑いたくもなるよ」

 

「西……」

 

 明宏は実際に見たことはないが、獣みたいな奴らなのだという話は聞いていた。言葉は通じるけど野蛮すぎて会話が成立しないと。

 

「まさか来てないよな……」

 

「そうなったらここも廃棄だな」

 

 物騒な話だと、管理人と明宏は揃ってため息を吐いた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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