【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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89_暖房から離れては生きられないのよ

 監視所に連れて行って終わりかと言えば、その通りだ。明宏達の仕事はここまで。ここから先はメイと職員がやり取りをすることになる。

 

「とりあえず、一休みしたら戻りなさい。武器は貸し出す」

 

「……」

 

「辛いのは分かるが、帰ることができるのだから帰りなさい」

 

 送迎のタクシーなどないし、鉄道もない。職員が付き添うこともない。正真正銘自分一人で帰らなければならない。

 冷たいように見えるが、これが普通なのだ。

 命があるだけマシと言い換えることもできる。彼女の仲間はここに辿り着くことすら出来ずに命を散らしたのだから。

 

「…………」

 

 レイトは少しの間見つめていたが、やがて視線を外す。今、彼は一人ではない。シエルや明宏がいるのに勝手なことはできないし、そもそも何かを成す力も無い。

 先ほどの雪の精だって、強力なモンスターでは無いが今のレイトでは抗うことは難しく、一人、あるいはシエルと二人で来ていれば犠牲になっていたのは彼らの方だ。

 

『誰も失わないくらい強くなれば良い』

 

 力が欲しかった。

 誰かを助けられるくらい。

 そうでなきゃ、このモヤモヤとして、淀んでいて、暗くてどうしようもない感情は消えそうもなかった。

 幸せになるなんて夢のまた夢。

 

「──不思議ちゃんだねえ君は」

 

 先程撃ち放った銃を取り出し、物珍しそうに観察する男。自分の武器であろうというツッコミはできるが、レイトはその行動を不思議には思わなかった。実際に見たわけではなくとも、彼が彼自身の想像を超えるような体験をしているのは理解していた。それがたとえ、彼自身の記憶の中に無いのだとしても。

 あの銃も、以前とは違った見た目に至っている。

 微かに見えた黒い残滓。

 きっと、あの時の空と同じ性質を持っているに違いないと感じた。

 

「レイト」 

 

「ぁ…………な、なに?」

 

「人の事ばっかり考えてると何もできなくなる」

 

「……ばっかりじゃないよ、僕なんか」

 

「……さっきはごめん」

 

「!?」

 

「な、なに」

 

 謝った。

 あのシエルが。

 嘘だろ。

 

「バカ」

 

 謝った人間の態度じゃない。

 

「変なこと考えてるのが悪い」

 

「変なのはシエルちゃんだよ、怒ったり謝ったり……変なものでも食べた?」

 

 レイトが思いつく限りでは、明宏の作ったカエルのスープだろうか。あれは酷かった。よくわからないキノコとか、モンスターのハツ──心臓って言ってた──とかを入れて煮込んだもの。

 美味え〜って言って本人は貪っていたけど、一口食べた感想は『ゴミ』。

 正直生ゴミだった。

 アリサは美味しそうに食べていたが、目元がピクピクしていたのをレイトを見逃さなかった。

 ちなみにシエルはなんでもない顔で食べていた。

 

「私だって謝ったりするし……」

 

 それは謝らない人間の言い分ではなかろうか。

 

「そうなんだね」

 

「っ!」

 

 キッ、と顔を赤らめながら睨みつけてくる意味とは。やや困惑しつつも、穏やかに受け流した。いつもアキヒロがシエルからの言葉をサラッと流しているのと同じように。

 

 そういうわけで、一行とメイはここでお別れ。

 

「まあ、なんだ……向こうであったら一杯やろうや」

 

「…………そうね」

 

「じゃ、気を付けろよ」

 

 普通な相手には普通に対応。それが鉄則だ。

 これが『なんで俺が一人で行かなきゃなんねえんだ! お前らがついてこい!』『金払え! お前らがもっと早くくればこんなことにはならなかったんだよ!』みたいな手合いだとぶん殴ってから出ていく。

 実際そういう奴はいるものだ。

 

 外に出ると、先ほどまでのぬくぬくとした見た目から一転して雪景色に戻る。そしてやはり、中と外では温度まで違う。二人はすぐさま踵を返して中に戻りかけた。しかし明宏に首根っこを掴まれて外世界へ。

 

「も、もうちょっとだけ中にいてもいいんじゃ無いかなって! ほ、ほら、僕がリーダーだし!」

 

「そう、思う」

 

「シエルちゃんもこう言ってますよ!」

 

「ううううう」

 

 ガタガタと震える身体。

 管理人は中で暖房を焚いていた。

 管理所周りにあまり雪が残っていないのはそのせいだろう。そして、それに慣れた身体にはこの寒さはあまりにもキツい。

 心も身体も完全に、一気に折れた。

 人助け……?

 誰でも助けられる力……?

 そういうのは温かい世界で、自分に何一つ不自由がない時の話かなって。

 

「はいはい、ちゅよいちゅよい」

 

「強く無いんです!」

 

「大丈夫、10分もすれば慣れる」

 

「そこまでがイヤじゃないですか!」

 

「まあ探索者だからな、そんなこともあろうて」

 

 ガキの戯言に興味は無いと突き進む。レイト達がいるべき場所はぬくぬくホカホカでカーペット敷きの天国ではなくて、この冷凍庫のような寒さの中だ。

 そもそも明宏からしてみれば、この程度はイヤとかそういうのには入らない。拒絶感を示すのは、コキュートスのように全てを凍り付かせるレベルの世界だ。

 

 しかし、10分経っても慣れない。

 慣れないどころか。

 

「ひぃ……寒いよお……」

 

「うう……モンスター……」

 

 半泣きで明宏の後ろを進む。風上に向かって突き進んでいるのだ。先頭に立っている人間には20m毎秒の極寒の風が吹き付け、体感気温も10度以上下がる。まだ寒さの中に戻りきっていない身体ではキツイ。

 明宏もそこは承知しており、先頭に立て! と鬼軍曹のようなことを言ったりはしない。それでも、体の横をすり抜けた風が2人を酷く痛めつける。

 

「三船くん! さて、どこまで進みますか!」

 

「帰りたいよお……」

 

「ふぅぅぅ……」

 

 もうなんか、ダメダメになっていた。

 一度暖かさを体験すると堪える為の心力がめっこり減るのだ。明宏は二人の様子を見て、富士山を登った時のことを思い出しながら進む。

 そう、泣き言は無視だ。

 彼は一人でこれをやってきた。コマちゃんがいる時もあるが、基本的には一人。人間もモンスターも等しく警戒し、自分のところへやってくるか、そして襲ってくるかを完全に見極めなければならない。襲ってきたら殺すか殺されるか。

 それに比べてこの環境のなんと平易なことよ。

 ……寒いから帰りたい? ぶっ殺すぞ。

 

 口には出さない。

 しかし、甘ったれは厳しく教育しなければというのが根本にあった。人からものを奪うような奴や、路地裏で屯して腐っているような奴はぶん殴る。わからなければ病院送りにしてでも。

 そうでなければ言葉で。

 なんと優しいんだ。

 

「加賀美さぁん……」

 

「……じゃあ、あと一種類モンスターを倒したら撤退な!」

 

 春夏秋に比べると、だいぶ厳しい季節なのは間違いない。長時間居座るだけで容易に命が失われうる。八季後半になるともっと厳しい季節もあるが、四季の中では一番だろう。

 まだ人間の域を脱していない二人には、今の明宏の何十倍もキツイことは確定的に明らかだった。

 なので条件を設けた。

 ゴールのわからぬマラソンは死ぬよりもキツイが、しっかりと定めてやればそこまでは頑張れるだろう。そこから先は流れだ。

 

「モンスター……モンスター……!」

 

「…………」

 

 案の定、鼻息を荒くして周囲を探し出す。やる気が満ちているようで感心だと笑い、二人の様子を見守る。

 だが、探すほど見つからないとはよく言ったもので、2時間ぐらい目を凝らしても何も視界に入らない。

 

「ふぇぇ……」

 

 犬も歩けば棒に当たる。

 つまり、同じ場所に留まって景色を眺めているだけでは房もやってこないのだ。

 2人は大して移動せずに、目だけを使っている。無意識のうちに体力の消耗を抑えようという意識が働いたのだ。

 

「レイト」

 

「ふぇ?」

 

「あっちの方に進もう」

 

「あっち……分かった……」

 

 しょぼしょぼしながらシエルの後に続く。自分たちはここで凍え死ぬんだ……となっていた。少し厳しすぎたか? と腕組みをする明宏の目の前で、シエルがガシッと手を掴む。

 コレではどちらが指示役かわからない。

 しかし、明宏は何度も嬉しそうに頷いた。

 

「足りないものは補う、そうそう!」

 

「……」

 

 興味ないね、と称賛はスルーして進むシエル。

 弓使いらしく目はいい。

 そもそも、端末という連絡手段はあってもスマホのように多機能で暇を潰すようなものがない世界。第一期の頃よりも余程人々の目は優れている。

 その目を使って、進める道をレイトよりも効率よく見つけ出す。

 そして、小高い丘を超えた先で、

 

「あ──」

 

「あ」

 

 見つけたのは、ブリザードマイマイ。

 モリモリと雪を食べている。

 彼らも天命山脈に普段はいると言われており、冬になるとこうしてやってくる。雪を食べるほどに成長し、冷たすぎて寄生虫もいないので調理さえしっかりすれば美味しく食べられる。

 悲しいかな、今回見つけたのは体高が10mを越えようかという巨大なバケモノ。絶対倒せないっしょコレ……と2人は絶望した。

 帰れない……帰りたい……でも倒せない……帰れない? ……帰りたいという一心と寒さでゆらゆらし始めた2人の肩にポンと軽い衝撃が。

 

「──よし、観察してから帰るか!」

 

「「え」」

 

 見つけたのでOKです! 

 監視所を出てから4時間後のことだった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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