【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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90_ムフフでスヤスヤ

 

「ただいま」

 

「──ふわああああああん!」

 

 明宏の家に入った途端、二人は暖かさで倒れ込む。

 帰路──これも4日ほどかかったが、その途中も寒さで心が折れた2人は何度も泣いていた。

 しまいには大泣きするので、子育て時のノイローゼ気味になっていた頃を思い出しながら引っ張って帰ってきた。

 

「おかえりなさーい! ……ん」

 

 倒れ込んで床に頬をすりすりしている2人を避けつつ、明宏に唇を差し出す。

 エプロンを着け、奥から良い匂いが漂っていることから判断するに、帰ってくる明宏のために料理を作っていたようだ。

 

「ん──変なこととかあった?」

 

「なんにもないっす! ヒロさんも怪我とかしてないですよね?」

 

「俺は怪我してないよ」

 

 事前に連絡は入っている。それでもいまいち信用できないのが、この明宏という男の連絡だ。何にもないフリをして、裏では腕が吹っ飛んでいるみたいな事がよくある。

 しかし今回は、本当に何もないようで安心した。隠し方をしていると露骨に態度に出るからだ。むしろ、この二人がいきなり倒れ込んでいることに驚いていた。

 

「二人は?」

 

 なんなら、なんで自分たちの家にいきなり入ってきているのかという事にも驚いている。イチャイチャしたくてウズウズしていたのに……とやや目を細め、芋虫のような二人を睨む。

 

「こいつらは……疲れてるんだよ」

 

「ふーん」

 

「…………ちゃんと夜は帰らせるから」

 

「!」

 

 耳打ちをする。

 しかし、その前に聞きたい事、確かめたいことが明宏にはあった。

 

「勉強は大丈夫なんだよな?」

 

「ダイジョーブ! ちゃんとやってますとも!」

 

「おお〜偉いぞ〜」

 

「へへーっ」

 

 久しぶりのアリサの感触を、抱きしめる事でしっかりと確かめる。人肌寂しいとか三人の中で特別だとか言ったりはしないが、やはり三人の中で明確に特徴だっている部分も存在する。

 アリサの耳や尻尾──特に今、尻尾はウネウネと起き上がって明宏の足に巻き付いている。猫耳もへにゃりと垂れて嬉しそうだった。

 

「ご飯、食べましょ!」

 

「おう」

 

 楽しそうにリビングへ向かう二人。

 しかし、廊下に寝そべっているもう一組の少年少女は、やけに静かになっていた。

 

「あわわわ……大人だ……」

 

「…………」

 

 レイトは口を手で抑え、シエルも恥ずかしそうに目を逸らしている。これまでに見た明宏の姿の中で、ダントツに大人だと感じた姿だった。

 両者の視線が交わり、また恥ずかしそうに逸らす。変な感じになってしまっている。

 

「あ、あはは……なんか恥ずかしいね」

 

「…………手、洗おう」

 

「そ、そうだね!」

 

 そう、いつまでもここに寝そべっていたいし、なんならそのまま眠りにつきたいけど夕飯が待っている。ノロノロと立ち上がり、荷物を脱ぎ捨てて手を洗いにいった。

 

「──商工会への報告はしたんすか?」

 

「うんにゃ、まだだよ。明日しようかなって思ってる」

 

「ふーん……」

 

「二人とも疲れてっからな。ほら、報告は基本的に全員でやらないと行けないし」

 

 業務とは別にダンジョンに行く時は、届出を出すのが推奨されている。どこに行ったか不明、みたいな状況にならないためだ。逆に言うと、そういった届出を出さずにダンジョンに行ってしまった探索者がどこにいるかというのは、商工会も全くもって把握していない。

 

「んむ、んむ……」

 

 レイトとシエルは、モソモソとご飯を食べていた。

 目もうつらうつらしているが、それでも腹は減っている。閉じかけの眼に反するように、自然と手が口と皿の間を行ったり来たりしていた。

 

「面白……」

 

「まあ、散々日向たちに鍛えられ──なんでもない」

 

「ふんっ」

 

 余計なことを口に出しかけて、慌てて押し込める。半ばまで出ていたのであまり意味はないように思えるが、やめたということに意味があるのだ。

 

 シエルとレイトが半ば眠りながら手を動かせる理由は、日向たちとの共同生活の成果だ。最初の頃は爆睡してご飯を食べないなんてことも起こったが、後半は白目を剥きながらでも作られた物を食べられるようになった。それは全て過酷な稽古をこなすための知恵だが、意外なところで効くなと明宏は感心した。

 

「…………」

 

 やや暗い顔をしたアリサは、尻尾を明宏の左手と結んでいた。

 

 ──山田何某とかいうアバズレの家に一ヶ月も泊まりに行って、浮気されないかが心配で──案の定絆されてきた。それは……正直仕方ない。なにせ自分とミツキの二人をけちょんけちょんにしたのだ、他の女がいるのだって不思議ではないと思う。だけど許せないのは、記憶喪失になっていること。

 向こうで、明宏はきっととんでもなく厳しいダンジョンに潜った。そのダメージがきっと、彼からそのダンジョンでの記憶を奪った。それが、ニュースにもなった、セクターのダンジョン化によるものだということに疑う余地はなかった。人類を滅ぼす最悪の災害の一つ。

 彼は言っていた。科学文明と魔素は、極めて相性が悪いと。おそらく、既存の知識のみでは第一期の文明は取り戻せないと。

 それが彼の身にも降りかかった。

 聞けば、あの一家はその土地の神様に仕えているらしい。であるならば、あの女達と神様がしっかりと場所のコントロールを行なっていなかったからそうなったのだろう。

 

 詳しいことは分からずとも──明宏と一緒に過ごしてきたアリサはミツキから話を聞いて、直感的にそんなことを考えていた。

 そして日向の方はアリサより胸が大きいし身長も高い。

 普通にムカついていた。

 

 しかし、明宏に関してはアリサの様子には気付きつつも、敢えてご飯にのみ集中する事にした。

 

「ううん、美味い! おかわり!」

 

「っ! お、おかわりならいっぱいあります!」

 

「お、おう、ありがとう」

 

 いきなり元気よく立ち上がったアリサの不審な様子に、やや引きながらも笑みを浮かべる。

 

「…………」

 

 なんにせよ、無事に帰ってきてくれて良かったと、安堵が彼女の心中を覆った。あとは──

 

 

 ──────

 

 

「おひゃまひまひひゃ……」

 

「んゆ……」

 

 お邪魔しましたとは帰る時に発する言葉だが、二人は帰ってないし、帰りそうな気配もない。お風呂まで借りて、リビングのあったかい空気に包まれ、ソファーに腰を下ろした途端に目を閉じてしまったのだ。

 それでもまだ完全な眠りに落ちる途中。自分たちは帰ってるよ〜と明宏に主張しているのか、フニャフニャのお邪魔しましたを何度も呟く。

 

「はは……こりゃ帰れないな」

 

 そんな二人を見て、しょうがないねえ!? と笑う。レイトとシエルが仲良く並んで寝ている姿を写真に撮り、ミツキとアリサだらけの写真フォルダーに新たな一枚が加えられた。

 

「うん、良い写真だ」

 

 満足げに頷くと、ロウテーブルを挟んで向かい合わせのソファーをくっつける。ロウテーブルはどかした。枕と毛布を引っ張ってきて、二人をきちんと寝かせた。朝起きた時はやや身体を痛めているかもしれないが、今ぐっすり眠っていられるのならば問題は無いだろう。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ススス──

 二人の寝姿を見下ろす明宏の背中にピッタリと密着する影。誰かなどと、疑問に思う余地すらない。右脇を通って、身体を撫でるように上がってきた毛むくじゃらの細長い物を明宏は軽く撫でる。長くてウネウネしているモノはピクリと反応したが、甘えるようにそのまま揺れ動いた。

 

「ヒロさん……」

 

 ちゃんと帰らせると言ったな、あれは嘘だ。

 裏切られた立場のアリサはしかし、そんなことどうでも良かった。幼馴染の立場に甘えて液状に溶かされているスライム女と、いきなりやってきて自分よりも付き合いが長いとか言い出したクソ女よりも──今この場においては自分の方が大事なんだと、そう示してくれればそれでよかった。

 

「……アリサ」

 

「ん……」

 

 子供達を愛おしげに見ていた視線を外し、少女へと向き直る。その視線は先ほどと同じ性質を含みつつ、それでも確かに違う視線だった。

 見上げる少女は、どうしたら良いのかと無言のまま。

 リードされるばかりで、どうすれば良いのかなんてまるでわからない。

 しかし、それこそが正解だった。

 少女の無垢な視線と素直な欲求こそ、全ての男が求めるもの。

 

「ふへ」

 

 抱きしめられ、胸板に頭を押し付ける。

 異常に発達したアリサの嗅覚をくすぐる香り。そして音。力強く、ブレのない心音は聞いているだけで眠りを誘うような性質だった。それでも、眠くなどはならない。

 むしろ、ここからが始まりの時間なのだから。

 

「……」

 

「あっ……」

 

 シエル達が背後で寝息を立てている。

 そんな状況であるにもかかわらず、明宏は少女の頬に手を添えた。

 

 

 ──────

 

 

「ん……?」

 

 レイトが起きると、キュピンキュピンと外で鳥がビームを放っている音が鳴っていた。

 朝だなあ、と思いながら──寝起きの頭でぼんやりと認識する。自分が寝ているのは二段ベッドの下。見えるのはシエルが寝ているベッドの底板。

 そして、暖房などは無いので寒さに呻きながら起きるのが常だ。あの苦しさだけはいつも慣れない。

 それなのに、慣れないはずの辛さがこなかった。

 横を見るとシエルがしがみついている。ああ、そりゃあ寒くないわけだ。

 ──シエルが横にいる!? 

 

「ほわぁっ……!?」

 

「んん……」

 

 びっくり仰天! 朝のお目覚めニュース! なんと、レイトとシエルは同衾してしまった! あーあ! 第一期の世界では4000年の歴史を持つ国家の昔の偉い人が書いた本に七年男女不同席不共食とか書いてあるのになあ! 

 あの国だったら立派な倫理違反でマッハ突きされていただろうなあ! これはちょっと許されやせんよねえ!? 

 

「…………あ」

 

 なんでこんな事になっているのか、レイトは一瞬のパニックを乗り越えて思考を巡らせた。その結果として、お風呂に入った後の記憶が曖昧である事に気づいた。確か、風呂を入った後に廊下で崩れていたシエルを抱っこしてソファーまで来た。

 来て…………? 

 

「帰ってないよ僕たち……」

 

 レイトは完全に思い出した。

 家に帰るつもりはちゃんとあった。

 ご飯を食べたら、すぐに帰るつもりだった。

 だけど実際に食べ終えると眠気の凄まじい事凄まじい事。これはいかんとお風呂で目を覚まさせて欲しいと明宏に頼んで、湯船に浸かったらさっき何考えていたかを完全に忘れた。忘れたままシエルと一緒にソファーで寝た。

 そういう事だった。

 

「毛布……」

 

 枕もある。

 明宏が準備してくれたのだろうと理解した。

 

「…………良い匂い……」

 

『ふんふんふーん……!』

 

 台所から、楽しそうに料理をしている鼻声が聞こえてきた。関根アリサ、明宏の大事な人の一人──という程度の認識だが、昨日邪魔してしまったのはちゃんと分かっていた。久しぶりに会える二人の間に挟まってしまったのだ。

 のそのそと毛布から這い出ると、台所へ向かう。

 

「ふーんふんふん、月の光の〜……あ」

 

「あの……昨日はすいませんでした」

 

「いーよー」

 

「えっ」

 

 思いの外、軽い。

 機嫌悪くあしらわれるかと思ったのに、機嫌も全く悪くない。

 首を傾げながら、邪推をするものでもないと頭を下げた。

 

「朝ごはん、食べてくよね?」

 

「あ……いいんですか?」

 

「うん」

 

「じゃあ……はい」

 

 そういうことになった。

 シエルは、今も毛布の中でグズっている。起きた時はレイトにしがみついていたので、代わりに毛布をそばに。

 何かを抱きしめていた方が良く眠れる子なのだ。

 

 では、明宏はどこへ行ったのか。

 流石に寝室を見に行く勇気はなかったが、その答えはすぐに分かった。窓から何気なく外を見た時に、動いている人影があったのだ。

 

「…………!?」

 

 何をしているのかというと、大きな岩を持ち上げていた。腕を突っ込んで持ち上げたまま、スクワットをしている。しかも、足がついているのも地面ではない。

 岩の上で、大きな岩を持ち上げながらスクワットという訳のわからないことをしているのだ。

 

「…………」

 

『ふぅ〜……すぅ〜……』

 

 どれだけの回数をこなしたのかは分からないが、上半身は裸で湯気が立っていた。そして乗っている岩には彼の体から流れ落ちた汗が滴り、凍り付いていく。

 窓に張り付いて見ているレイトには気付いていたのだろう。スクワットを終えると、手を挙げて笑顔を見せる。

 

「あ……」

 

 程なくして家の中に戻ってきた明宏を出迎えると、モワッと熱気がやってきた。

 

「お、おはようございます」

 

「良い汗流したわ!」

 

 シャワー浴びてくる! と元気に風呂へ向かった明宏。確かにシャワー浴びないと家の中がとんでもないことになりそうだった。その間に、さっきの光景を確かめに庭へ向かう。

 

「岩……これ……」

 

 こんな物を持ち上げていたのか、と驚愕する。少なくとも、今のレイトに持ち上げられるようなシロモノじゃないというのは明らかな事実だった。

 あんなことをやっていたのか、とレイトは初めて見た姿に放心気味である。筋トレ筋トレと事あるごとに言っているが、実際にやっているのを見ると現実感が無かった。

 

「うん? ……そうだな、あんな感じでやってる」

 

「ほええ」

 

 朝ごはんのタイミングでそのことを聞いてみた。

 それに対して返せるのは感嘆の声だけだったが、明宏は勝手に話し出した。

 

「昔はもっと普通な感じでやってたんだけど……レベルが上がると自重じゃお話にならないからあんな感じにするしかないんだよね」

 

「ふぉうなんふぇふふぇ」

 

「出力下げれば自重でもできるけど……モンスターとやるんだからわざわざレベル下げる必要もないだろ? あ、レベルってあれね、筋トレの強度の方ね」

 

「ほむほむ」

 

 育ち盛りのレイトとシエルの腹にスイスイと収まっていく朝ごはん。明宏の一人語りには生返事で、どんどんと食を進めていった。

 

ーーだって、美味しいんだもん!

 

 

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