【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
1500字ってやっぱ読み辛いですよね!
通りの喧騒、事務所の物音。
石造りの堅牢な壁は素材としては音を容易くは通さない。しかし隙間があれば必然、やいのやいのと雑音が入り込んでくる。この部屋も当然、丁寧に作られてはいるが
「──」
そんな音がまるで聞こえていないかのような表情、半開きの口は呼吸すら忘れ方のように静止していた。しかしいつまでもそんな風にいるわけもない。モンスターに精神汚染をされたわけじゃないし、今は業務時間中──やることが多々あるのだ。
フリーズから戻り、意味にある音を発する。
「これは本当なのですか?」
「ええ、確認しました」
「何故私に確認も取らずにそんな事をしたのかについては後で報告書を出してもらうとして──」
「……」
「偶然とは思えませんね」
「ええ」
何をそんなに重々しく頷いているのか。公務員──多くの異常事象に触れる商工会の調査室長が口にするには重い言葉。手に取ったカップに入っているコーヒーを静かに口に含むと、飲み下す。
やや濃い目。
かつては存在すら知らなかった上等な飲み物を、今では仕事をしながら飲んでいる。そのことすらが必然なのかと、これまでの苦労を思い出しながら顔を顰める。
「……特に、目立つところは、無い、ですね」
ペラペラと書類をめくる。書き込まれた内容はあくまで一般的なこと。
生まれたセクター。
年齢。
性別。
出身校。
家族構成。
個人情報保護は特に無い。
聞いたらみんな答えるし、商工会を疑う者などいない。
大学に通いながら探索者というのはあまり聞かないが、そこまで詰めるべきところでは無いだろう。
──本来ならば。
「神学研究の第一人者である永井文俊の学徒、そして山田家とも親交が深い。つい先日も大学にて次女を連れているところと出会しました」
「…………まさか、この男が?」
「何のために? そもそもそれなら彼女たちが気付くでしょう」
あまりにも作為的すぎる。一周回って逆に何も無いんじゃ無いかとすら思えてくるような経歴。無視はできないが、レオ本人がマークするのは無理だった。
「私の顔は知られてしまいましたから。それに……案の定というべきか、永井教授も予想通りの態度──いえ、あれは予想以上の拒否反応でしたね」
「今後は直接やりとりすることはできそうなの?」
「厳しいです」
「…………」
「加賀美氏には初対面で必要以上の警戒心を与えてしまいました。完全に私のミスです」
「時間をかければあるいは……たらればですね」
逆に白く見えるほどの場面。しかし、世の中というのは疑わしいやつはその通りにやってるし、疑わしくない人は基本的に関係ない。この二人の中においては加賀美明宏が何らかの鍵を握っていることは半ば確信のものとなっていた。しかし、それは状況証拠ありき。明確な証拠が無いため、強権的にやることは──
「ですが、奇遇なことに」
「?」
「会館で開かれるパーティーに彼が来るようです」
「…………何故です?」
手鞠は額を揉む。
疲れのせいで聞き間違えたのかと勘違いするほどに、意味が分からなかった。こちらのやる事を見通しておちょくっているのでは……と、異能の存在を勘ぐる。
「どうやら、四門光輝(ヨツカドコウキ)が付き添いで指名しているようです」
「四門光輝……」
一代で成り上がった生粋の強者。すでに引退してはいるがレベルは簡単に下がるものでは無い。光輝の名を冠する異能を用いる事で有名な探索者──何故、そんな彼が加賀美明宏を同道させるのか。
「そういえば……彼は山田日向のことを妹などと言っていましたね」
「狂人の類ですか?」
「何故そんなことを言ったのか、皆目見当が……」
「……」
「本題から逸れました。とにかく、そこのパーティーにて何とか話を進展させたい」
「厳しいのでは?」
「はい、ですが目はゼロでは無い」
「……そもそも参加できるのですか?」
「そこはほら、調査室という名前の面目躍如ですよ」
「…………任せます」
室長室を出ると、レオの元へすぐさま部下が寄ってくる。割と絡んでくることが多い、嫌いではないタイプの後輩だった。
名を中村美鈴(ナカムラミスズ)という。
「パーティー出るんですかあ?」
「盗み聞きとは感心しないですね」
「男一人でパーティー参加って、大丈夫なんです?」
「高名な探索者と商工会の結びつきのためのパーティーですし……そもそも、きちんと手続きを通して参加するのでアナタの気にしているようなことにはなりません」
「えぇー?」
「出たいのですか?」
「だってすっごいお金持ちがいっぱいいるんですよね? そりゃ見てみたいですよ」
「クセの強い方が多いので、幻滅して終わりです」
「えー! わたしもいきたーい!」
「そもそも現調があるでしょう」
現場調査。
調査室の職員の仕事は、各地から集まってきた報告を色分けするところから始まる。
黒、赤、黄、緑。
基本的には被害状況や被害予想に応じた緊急度で分けられる。
黒が最も緊急か高く、緑が最も低い。
職員のレベルや階級に応じて振り分けられ、上位であるほど緊急度の高い事案に向かうことになる。
そのため、商工会の職員は基本的にレベルで部署分けされることはないが、探索部はレベルが高いほど階級が上がる傾向にある。
「前倒しで終わらせればいけますよねー?」
「……そこまでする意味がどこに?」
「意味って──そんなの先輩と一緒に行きたいからですよ!」
分かってるでしょ? とウィンクを見せる。その様子にレオは微笑むと、少しだけ考えた。
その間も渡された書類に目を通す。
「──分かりました、では申請は2人で」
「やったあ!」
「きちんとそれまでに自分の業務は終わらせてくださいね」
「はーい!」
デスクに戻ると、探索部の部長補が彼に手招きをした。
一息つく暇も無いが、優秀な人間などそんなものだ。
部長補の部屋には部長はおらず、補佐である大井平次(オオイヘイジ)しかいない。
「はい」
「高峰、例のダンジョン化の件ってどうなってる」
「明確な進展はありませんが、不確定な情報でもよろしければ」
「……一応聞こうかな」
今のところの知り得た新しいコトを伝える。
部長補は腕組みをしながら、うんうんと頷いてその話を聞いた。
聞き終えて一言。
「九条は知ってるんだよな?」
「先に報告はしてあります」
「そうか……ああ、もういいや」
「失礼します」
追い払われ、自分の席に戻る。
時刻は午後の3時。
机のに置かれた新しい書類。一番上にある書類が何かを見て、すぐに内容を確認する。
発見された異常に関する報告だ。
「…………」
普通の報告。
魔素濃度計の異常。
タイトルを見ただけで緑だと判断し、内容を見てその判断に間違いがないことを確認。
色分けを行った。
「…………」
作業を進め、いくつか溜まったら割り振りの棚に入れる。その間は無言。
黙々と進める彼の前に、一つのコップが置かれる。
「ん……」
「終わりましょうよ」
「──ああ、もうこんな時間ですか」
レオが部長補に報告をしてから、いつのまにか時間が過ぎていた。外も真っ暗。元から雲に包まれて暗かったから気付かなかったのかもしれない。
「お夕飯いきません?」
「はは、そうしますか」
「はいはい! 先輩が最近行ってるっていうお店がいいでーす!」
「この時間帯だと混んでますよ? それに……まあ、とにかくあまりおすすめは……」
「それでも、どんなところ行ってるのかなって知りたくてえ〜……1人だとちょっと怖いんですけど、先輩が一緒なら行けます!」
「……ひと目見て無理ってなったら出ますよ?」
「大丈夫です!」
──────
「…………」
「やっぱりやめません?」
「…………い、行けますっ!」
「ここで無理しても何も……」
「いくぞぉ!」
「……はぁ…………」
前回とは違う位置が割れた窓ガラス。
立て付けの悪くなった扉。
呼び鈴の音はほぼ無い。
中に足を踏み入れていたミスズは、入ってすぐのところで固まっている。そんな彼女の肩に手を置いたレオの耳を貫くのは、酒焼けした男たちのドラ声。
『──なんだ! 別嬪さんが来たと思ったら、またレオだ!』
『取っ替え引っ替えだなあ、ガハハ!』
『あの時の子の方が胸はあったなあ! ケツも!』
『もう新しい女なんて……商工会の職員は違うねえ!』
『俺たちゃ寂しくアッチに行くしかねえな! ──ぷはあっ!』
下品。
ガサツ。
年齢や性別は関係なく、この場にいる人間は大別された。
つまり──2人と、それ以外。
固まってしまったミスズ。
『おい固まっちゃってんぞ!』
『かわいそうになあ、こんな子連れてきてよお! ガハハハ!』
ガシャガシャと鎧を鳴らしながら煽る男。レオとは顔馴染みだが、こうして顔を合わせるたびに煽り合う仲だ。
「……中村さん、席につきますか?」
「あ、はい!」
意外と威勢のいい返事で、サッと席を取る。
そこは先ほど煽りを入れてきた男の近くにあるカウンター席だ。
「ここで大丈夫ですか? バルガーは口が臭いことで有名ですが……」
『──おい! そんな噂ねえよ!』
ショックで思考がおかしくなってしまったのかと心配して、場所を変えないかと暗に尋ねる。
しかし、ミスズは明るく笑った。
「大丈夫です!」
「ならいいのですが……」
そして、食事と飲み物を店主のマックスに注文した2人。第一セクターとは思えないボロさ。場末感すら感じるような店の雰囲気にミスズが耐えられるのかとハラハラしていたレオ。
そんな予想とは裏腹に──
「いぇーい!」
『いぇーい!』
「バルガーさんもっと飲んでよ〜!」
『ええ!? ……んも〜仕方ねえなあ!』
お酒を注いだミスズ。
バルガーは機嫌良くそれを飲み干す。
『美味い!』
木ジョッキをダン、と叩きつけた。
「すごーい!」
『わはははは!』
親和性。
明るく、盛り上げ上手なところがある彼女はこの場所にとてもよく馴染んでいた。
レオも同じようなところはあるが、ことこういったことに関しては自分すら凌ぐと舌を巻く。
「…………」
醤酒を飲む。
磯の香りが鼻を抜け、独特な潮の味が舌を撫でた後……アルコールの熱さが一気にやってくる。
味を伴えるために入れられたハーブが中和してやっと飲める。
所謂、キツイ酒だ。
「せんぱーい! 先輩も飲みましょうよ!」
「…………ふふ」
ひと所に集まった探索者たちと後輩が手を振る。酒の飲み比べをしようと誘っているのだ。手を振りかえし、今も酒が入っているショットグラスを見せる。
「あー! 逃げたー!」
『逃げたー! お前の負けだ! バハハハハ!』
「バルガーさん何その笑い声〜!」
『ええ!? だめえ!?』
「可愛いからオッケー!」
『──おい可愛いってよ!』
『調子のんじゃねえぞバルガー! 俺と勝負しろや!』
『かかってこいや! ……見てろよお前ら!』
すでにそこそこ飲んでいる飲兵衛どもの勝負など、どちらが勝ったところで何の証明にもならない。しかし、場が盛り上がればそれでいい。
『マーックス!』
『あいよ』
新しい樽を丸ごと二つ準備。
それぞれがジョッキを構え、ミスズが音頭をとった。
「スタート〜!」
『!』
神速。
人間とは思えぬ手捌きで樽に備え付けられた蛇口を開けた。
「頑張れ2人ともー!」
応援の声をかけた後、ミスズはレオの元へ。
「先輩っ! めっちゃ楽しいですね! ここ!」
「私の予想はあまり当てにならないようですね」
「もー、そんなこと言っちゃって!」
「でも──楽しそうでよかった」
「っ……や、やだなあ! 先輩! もう!」
バシバシと先輩の肩を叩く後輩。
無礼講では無いが、相手は若干顔が赤くなっている年下の子だ。レオに行動を咎める気持ちはない。
自分を慕って着いてきてくれる子に若干軽く扱われるのは、意外と嬉しいものだ。
「室長めぇ……私より先にここに案内されるなんて……ずるい!」
キッ、と睨む彼女に両手をあげる。
降参の構えだ。
「あはは」
「誤魔化してますね!」
「勘弁してください……」
「むぅー……あっ! みんなが呼んでる!」
頬を剥れさせたかと思えば、嬉しそうに振り返るミスズ。レオは、穏やかに促した。
「どうぞ、皆さんが──」
『うぉい! お行儀よくやってんじゃねえぞぉ!』
首に腕を回したのは、先ほどの若者を潰したバルガー。
「バルガー、臭いですよ」
『敬語なんて使ったことなかったじゃねえかよ、ええ? おい。後輩の前では良い先輩を演じてるってのか?』
「はは……」
『おお、怖い怖い目線だけなら一級だな! でもお前だけのんびり見物なんてさせねえぞ!?』
「ちょ、ちょっと……いてっ」
羽交い締めのまま中心に連れて行かれ、ドン突かれる。
『てめえら! レオが飛び入り参加だ!』
『うおおおおおお!!』
場の熱は最高潮。
もはや逃げることなどできない。
逃げようなどという腑抜けだと見られたら、これからの扱いがどうなることやら。
「…………はぁ」
『やるよな!? レオ!』
「──当然だ、かかってこい」
ネクタイを緩め、上着を投げる。
その方向には美鈴が。
「うわっ……とっ……と……」
「預かっていてください、大事な一張羅です」
「あ、はい!」
『──ぶち殺してやらあああ!!』
ガラスをビリビリと揺らす声。
見ていた全男が半ギレだった。
イケすかないこいつを絶対に潰す。
全体の意思が一致していた。
民主主義って素晴らしい!
『俺がやる!』
『俺がやるよ!』
『ちげえわい! 俺だ!』
『──まどろっこしい! 全員や!』
マックスはため息を吐いた。
『……酒持ってくるから、お前らも手伝え』
『っしゃあ!』
その様子に、やや冷や汗をかきながらミスズはレオの元へ寄る。
「も、もしかしてまずい感じですか……?」
「……特に問題はないでしょう。ですが、もし襲われるようなことがあったらマックスへ助けを求めてください」
「いや、そうじゃなくて──」
「はい?」
「先輩、明日も仕事ですよね……?」
「…………あはは! そんなこと気にしなくて大丈夫ですよ!」
今更そんなことを考えるのは遅すぎる。
そんな心配をするなら最初から巻き込まなければ良いのだ。それに、ここにきた以上は酒を飲むことになる。
多いか少ないかでしかない。
「まあ、こうなってしまった以上は私も楽しみますよ」
「……よ、よーし! 私も楽しみますよ!」
どこまでも元気な後輩に元気をを分けられた気分になったレオは、さらに袖もまくる。
「よし、じゃあ勝負ですね」
「はい!」
──────
『うぃ〜……』
『おろろろろ』
『うう……』
『ああ……』
死地と化した酒場の床に転がっているのはゾンビか。
『あ゛……』
否、酔い潰れた探索者達だ。
うーだのあーだのと、呻くばかり。
そんな中で、スーツを着た男が足音を立てる。
『相変わらずつええなあ』
「まあな、作りが違うんだ」
『けっ、2人分はちゃんと払えよ?』
「当たり前だ」
『……その子、良い子だな』
レオの背中でスヤスヤと眠るミスズを指して言う。
「俺の後輩だからな」
『へっ、オオカミにでもなるか?』
「いいや」
『かわいそうに』
「ぬかせ」
懐から出した金貨を放り投げる。
「釣りはいらねえ」
『毎度〜』
後輩を背負って酒場をゆっくりと出ていく。
やや顔は赤いが、それでも足取りはしっかりしていた。
後輩を酒場で酔い潰したなどと、醜聞以外の何者でもない。探索者達は朝までここで寝明かすだろうが、そこに商工会の人間が混じっているのはよくない。
正しい選択だった。
だが、男の顔は暗い。
「良い街だ」
街灯が照らす道。
雪がシンシンと降る中、身を凍えさせぬように後輩にかけた上着。
街並みをじっくりと見ながら、ずり落ちていく彼女を背負い直す。
「良い人たちだ」
人の明るさ。
街の明るさ。
文化。
「良い国だ」
それはまさに、人々が必死に作り上げた誇り。
先人の弛まぬ努力と、現代の人間達が持つ意思。
ここまでのものを築くのはどれだけ大変だろう。
「ああ──」
だが。
彼らがどれだけ頑張ろうとも。
「無くなるのが、本当に残念だ…………」
男はポツリと呟くと、夜闇に溶けるように帰り道を進んでいった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない