【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「何の用です」
「……まず、以前の失礼な態度に関して謝罪をさせていただきたい」
「好きにしてください」
大学で出会した時とは違い、あくまで敬語。
まずは様子見だった。
「山田日向に対して不躾な視線をぶつけてしまって、申し訳ありませんでした」
「それで?」
「我々はもはや、山田日向に対して拘るつもりはありません」
「そうですか」
「そこは納得していただけたでしょうか?」
「好きにしてほしいと言ったはずですが」
冷たい壁。
レオは親しみを込め、なるべく穏やかに、柔和な表情で話しかけた。多くの人はそれに対して冷たくすることはできないだろう。
しかし、それはあくまで両者がフラットな関係性の時だ。すでに号砲は鳴らされている。大切な身内の周りを嗅ぎ回る奴へ向けて優しさを発揮するのは無意味だった。
「随分嫌われてしまいましたね」
レオが軽く笑う。
だが明宏は、それを観察していた。一挙一動に目を配るだけではなく周囲の人間の動きまで。
それこそ、レオと並んで立っている女のことまで。
レオが視線に対して答える。
「彼女は私の後輩、中村というものです」
「…………」
「ど、どうも!」
ミスズは、明宏のあまりに冷たい視線で挙動不審になりながらも恙なく挨拶をした。
返答は期待せず。
「こんにちは中村さん。私は加賀美明宏と申します」
「へ」
「なにか?」
予想外。
礼を返してくる律儀さに驚き固まる。しかし、ガサツで品性のカケラもない連中ばかりの酒場でアレほど明るかった彼女が固まっている理由。それはやはり、場にいる探索者達の圧によるものだった。
要は、場に飲まれていた。
「あ、えと……」
あの酒場にいたのは高くても二級探索者まで。
一級や、それに近い二級というのはもっと良い店へ通う。
そして、この場にいるのは本物の強者達だった。
しかも、レオの言う通りにクセが強い。
今回の目的である加賀美明宏以外には話しかけていない。しかし、企業や他部署の人間が話しかけている人達? はまず服装からおかしかった。
上裸の男や、それに近い女。トカゲ人間と言ってもおかしくない見た目の3人組。翼が生え、心臓がむき出しの男。角が三本生え、槍を背負っている女。モヒカン。
見た目がおかしければ、会話もおかしい。
内容はごちゃ混ぜで良く聞こえないが、トカゲの尻尾がどうとか、ギリギリがどうとか。
しかし半球状に物理的な圧が発生しているように感じる中で、この2人は極めて一般人に近い見た目と雰囲気を醸し出している。
そうやって安心したところでの冷たさ。
サウナと水風呂を行ったり来たりしているような気分だ。
「申し訳ない、彼女はただの付き添いです。それに……前回の件には関係ありません」
「前置きが随分と長いですね」
フォローしたレオをバッサリと切り捨てる。
「そんなことを話すためだけに来たのではないと私は信じていますが」
どうだ、と促した。
「……少し場所を変えたいのですが、よろしいですか?」
レオは周囲の人目──やや注目されていることを意識していた。そこの要望に否やはないと4人は場所を個室に移し、2対2で向き合う。
まず口を開いたのは、レオだ。
「端的にお聞かせ願いたい」
「なんでしょうか」
「加賀美さん、何故235セクターにいたのですか?」
「何故、とは」
「まず──今回の一件は、これからの安全保障において極めて重大な要素となる可能性が高い。だから、成因と収束要因の両方を追いかける必要があります」
「…………」
「アレが起きたのは霊領のある特殊なセクター……つまり、神が関わっていても何らおかしくはない」
「なるほど」
「そしてあなたは大学に在籍している。それも永井文俊准教授の研究室にだ」
「そうですね」
「彼は霊領研究の第一人者。この時代において、広範に霊領と神の話をするならば彼を抜きにして進めることはできない」
「…………」
「永井文俊、秋川家、山田家。一つだけならば気にする必要はなかったが……あなたは全てに関わりを持っている」
「そういうことですか」
「何故、あそこにいたのですか?」
「探索者が遠出して業務受注することはそこまでおかしいことではありません」
「そういうことを言いたいのではないと……理解はしていますね?」
「理解はしているが、俺があそこにいたのは偶然以外の何者でもないので」
「…………」
一から十まで説明した上で、返ってきたのは当たり障りのない答え。
やはり一度では厳しいか、と舌を噛む。
──レオが連れてきていた後輩が唐突に手を挙げた。
「は、はい! 質問良いですか!?」
「……どうぞ」
「あ、いいんだ……まず、そっちの子は誰でしょうか!?」
「…………」
加賀美明宏の隣に座っているのは、四門美月だ。
知らないけどなんか凄そうな大人の人が2人やってきてビビっている内に、アレよアレよと個室に連れてこられてしまった。内容も全く分からないけど、とりあえず姿勢だけ正して聞いていたら段々眠くなってきた。気分を表すならば『難しい話はやめてほしいにゅう……』といったところか。
今はちょうど、明宏の肩にもたれて目を閉じ始めたところだった。
「彼女は四門美月──四門光輝の娘です」
「ヨ、ヨツカドの……」
これがあのヨツカドコウキの娘……と不躾に顔を見る。あのモヒカンで、パンクな格好をした男とはまるで似ても似つかぬ雰囲気。容姿は──モヒカンをしている人間とどこが似ているかなど、まるで分からない。
「俺は今回、彼女のお守りとしてここに来た」
「え? ど、どういう……」
「幼馴染です」
「!?」
「一級探索者の娘に幼馴染がいることはおかしいですか?」
「い、いえ……すいません」
「……こちらこそ気が立っていた。申し訳ない」
すんなりと謝る。
ミスズとレオでは対応に大きな差があった。
「よく分かんないんですけど……その、私たちもあの件についてはぜんぜん情報がなくてですね……」
「中村さん、それは──」
レオは制止しかけて、留まる。人に取り入るというのは才能が必要だ。愛嬌、話術、容姿、単純な手や足の動き。
それらが揃ってこそ為される。
明確に嫌われてはいない彼女にこそ今は任せるべきだと、レオは直感で判断した。
「情報が無い、それは本当ですか?」
「はい! 探索部には各地から報告が集まるんですけど、235セクターの報告書読んでも全く分かりませんでした!」
「…………」
「──それは事実です」
やや疑っている様子のアキヒロへ向けて、レオは後輩を援護するように是を投げかける。
無論、一つ一つの発言に対して、そもそもの信用がない彼らの言葉がどこまで意味を持つかは明宏次第だ。
「魔素の濃度は普通だし痕跡は何も無いしありそうなダンジョンは潰れているしで、私たちだけだと何にも手掛かりがないんです」
「ふむ」
「例えば、ですけどね! 加賀美さんの住んでる場所がダンジョンになっちゃうことだってあり得るわけで! そんな時にダンジョン化を止められるような技術があれば──!」
「……言いたいことはわかります」
「ですよね! で! で!」
「その上で、私の言えることは変わりません」
明宏はあくまで、同じことを繰り返すだけだった。
しかし今回は、その理由とともに。
「私は確かに……あの時、ダンジョン化の起きた第235セクターにいた」
「はい!」
「そして、ヒナタ──山田日向の家に泊まっていた」
「……えっ」
ミスズは、幼馴染だと言う四門美月の顔を見る。付き合っているような雰囲気だが、もしかして本命では無い? それか、こちらが本命で山田日向が現地妻?
そんな下世話な勘繰りをされていることなど当たり前に理解しているのか、明宏は口元を歪める。
「ともかく、私がダンジョン化に巻き込まれたというのは事実です」
「は、はい……」
「ですが、私はダンジョン化について何もお伝えできることはない。あなた方の元に届いているという報告書以上のことは何もね」
「ん? ……ど、どういうことかよく分かんないんですけど……」
「私は記憶が無いんです」
「「!」」
「ダンジョンに潜っていた筈なんですが、そこで魔力溜まりに突っ込んだようでしてね。数日は寝たきりだったんです」
自嘲気味に肩をすくめると、結論を答えた。
「そういうわけで、私が話したい話したくないに関わらず──あなた方にお伝えできる情報は無いんです」
「そういう……ことですか……」
「申し訳ないですが、お役には立てないでしょう?」
「…………いえ」
一応の否定。
話を聞かせてもらった立場で役に立たなかったなどと口にするのは恥知らずにも程があるのでそう言わざるを得ない。
しかし、実際これでは進展が無い。
報告書にも対象者:記憶喪失につき追加情報無し、としか書けない。
「申し訳ないですけど、一般の探索者ではこんなものですよ」
──────
「くあー……せんぱぁい、どうしますぅ?」
「…………完全に誤算でした、まさか記憶喪失だとは」
「嘘ついてる感じはなかったですもんね……」
「ええ、だからこそ厄介だ」
「厄介はちょっと言い過ぎじゃ無いですか?」
記憶喪失なのは良い。
しかしこれだけの要因が重なって何も関係していないなどと──そんなことがあり得て良いはずがない。
面と向かって話したことにより、レオの中でより強くなったものがある。
──まず間違いなく、あの男が関わっている。
「もどかしい……答えはすぐそこにあるのに、届く手段が無い……!」
レオは右手を腰に、左手は眉間に当てている。あまりのもどかしさで、表情が険しくなっていた。
「…………えい」
しかし、そんな彼の右腕と脇腹の間に腕が差し込まれた。
「──中村さん?」
静かな驚きを発露させるレオ。
自身のそれよりも幾分か。細く柔らかさを保ったそれは、後輩のものだ。彼女以外にはありえないと分かっているが、理由が読めない。
「パーティーにまで来たのにいつまでも苗字呼びなんて、ひどいですよ」
「……?」
「ミスズって呼んでください」
「いえ、私たちはそのような──」
「いいじゃないですか〜! それにほら、目立っちゃいますよ?」
ニヤリと笑う。
確かに今、駄々をこねた美鈴の声が周囲の人間の目を引き寄せていた。
これが狙いか、とレオはしてやられた気分になった。
「ほぉら、呼んでくださいよー」
「ミスズさん……一体何がしたいのですか?」
「やる事は終わったんだし、あとはパーティーを楽しみたいなって!」
「…………これはあくまで仕事なんですよ」
「そんなこと言って、お昼休みが終わった後に室長と仲良く出かけてたじゃ無いですか!」
「み、見られてたのか……」
「くふふ……そんなわけで、楽しんじゃいましょ〜!」
「……仕方ありませんね」
「あ! それ禁止!」
「はい?」
「敬語も禁止! タメ口で!」
「…………分かった」
「!」
案外とあっさり、彼は折れた。ミスズは嬉しそうに身を寄せる。
「だけど、楽しむにしても他の部の奴らや企業の人間も来てる。どうするんだ?」
「もー、羽目を外そうなんて言ってないじゃないですかー。私パーティーなんて参加するの初めてなんで、色々見てみたいなって!」
「となると──小腹が空いたので食べ物を貰いますかね」
「はーい!」
高級食材がふんだんに使われた料理が、セットされた長机に並べられている。小皿に少しずつ取って、会場を回る。
「これって……」
「最新の防具だな、支給品とは──比べ物にならないな」
魔素を浴びせることで異能を付与するという技術。
この防具は、異能の種別を制御できないならば数を揃えれば良いじゃないという前提で作られたシリーズだった。
基本性能があり、そこに異能が付いている。
その中での最上位モデルだ。
「反射って……凄くないですか?」
「上限はあるんだろうけど、確かに相当の価値があるな」
「…………ぴえっ!?」
「ははは」
目ん玉が飛び出るような金額。
企業側が用意した、現行での最高モデルなだけはあった。彼女が数十年かかってようやく払い切れる額だ。
「ふへー、探索者ってやっぱすごいですよね」
「危ない仕事だからな」
小学生並みの感想だが、その通りでしかない。
「私もお金に困ったら探索者になろっかなー」
「おすすめはしない」
「えー?」
「西の部族に捕まったりでもしたら悲惨だぞ」
「……じゃあ先輩に助けてもらおー!」
「どんだけ離れてると思ってんだ」
「先輩は可愛い後輩がどうなっても良いんですか?」
「自分で言うな」
「否定しないんだ」
「…………」
「えへへ」
『…………』
なんでこいつら展示会でイチャイチャしてんだよ。
そんな企業担当者の視線にそそくさと離れる。
次に来たのはペットのエリア。
犬やら猫ではない。
モンスターだ。
比較的温厚なモンスターを調教し、ペットとして展示していた。無論、一般人に飼うことなどできない。
それは単純に金額もそうだし、何かあった時に制圧できない人間には許可が降りないのだ。
──探索者ではない大金持ちには垂涎の的となっており、日々摘発が相次いでいるが。
「う、うわ……可愛い〜!」
「カーバンクル……」
「カーバンクルって言うんですか? 可愛い〜! え、私この子ほしいー!」
お値段は彼女が人生を10周くらいすれば払える額だった。額に緑色の宝石をはめた、二足歩行の猫のようなモンスター。
レオはカーバンクルと呼んだが、表記は新種のモンスターとなっていた。
「どこかで見たことあるんですか?」
「ああ、昔見たことあるな。どこだったっけか」
「…………うわー、きゃわいい〜!」
キュルキュルとした瞳を不思議そうに瞬かせ、首を傾げる。彼女が何を言っているのか聞き取ろうとしているかのような知性を感じさせる姿。
あまりにも愛くるしい姿に、彼女だけでなく他の人間も虜になっていた。
「私がそこから出して可愛がってあげるからねー、待っててね可愛こちゃぁーん!」
特に、ほぼ上裸の女性探索者が熱を上げていた。
檻にへばりつき、相棒に声をかけている。
「ね、いいでしょー」
「あのなあ、仮に飼ったとして世話は?」
「え? そんなのイザベルにやらせりゃ良いじゃん」
「それでイザベルが死んだらどうすんだよ!」
「仕方ないよね」
「はぁ……ペット飼うなら自分で世話やれ!」
「やだー!」
「こ、こいつ……!」
ミスズはカーバンクルを見ながら会話を盗み聞きしていたが、どうやら男の方が割とまともなようだった。
女──ボーンライダーズという高名なパーティーの1人であるマイヤ。そして男はシュウヤ。
どちらも既に40歳代のはずだが、見た目は20歳前半あるいは10歳代のようである。というか、そうでもなければオッパイほぼ丸見えみたいな格好できないだろう。
わずかに嫉妬しつつ、会話の内容的にカーバンクルを購入すること自体は可能な口ぶりに驚いた。
「あれが一級だよ」
「…………いいなあ」
「無い物ねだりしても仕方ないだろ?」
「無い物ねだりしない女の子がいないわけないじゃないですか!」
「そうかな…………そうかも」
レオの脳裏にリフレインされる幾つかの顔ぶれ。
しかし鼻を摘まれて中断。
「どうひた」
「今、別の女の子のこと考えてますよね!」
「なんのほとやは」
その後も企業の出品や、一級探索者達のヘンテコな言動を目にしながらパーティーを楽しんだ。
「──あー! 楽しかった!」
「そうか、そりゃ良かった」
会館を出た2人は、噴水のある広場のベンチに座っていた。街灯から漏れる光、粗悪なメタマテリアルを使用したランタンだ。広場の石畳はほぼ除雪されている。しかしふわふわと漂うボタン雪が次の日の朝、積み重なっていることだろう。
「美味しいものもたくさん食べられたし!」
「もう十分か?」
「…………」
「なら、帰ろ──」
「まだ明日になるには早いですよ?」
「…………」
「ね」
「…………」
「せーんぱいっ」
足を大袈裟に振り上げ、おもちゃの兵士のような足取りでレオの周りをゆっくりと歩く。
静かな動作であるにもかかわらず、飲み込まれたら決して抜け出せない大渦の中心にいるような錯覚を彼に味わわせた。
ぐるぐると回るミスズ。
観念したようにレオは口を開き──
「だめ〜!!」
広場に響き渡る大声で拒絶。
「だめでーす! ここから先は子供は寝る時間でーす!」
「んなっ!? ……わ、私は子供じゃないです!」
「子供でーす! 俺と7つも離れてる女の子は子供でーす!」
「違います! 違います!」
駆け回る2人。
ランタンに照らされた2人の影が踊っていた。
「はぁ……はぁ……絶対帰らせない!」
「…………酒場だ! 酒場に行くぞ!」
「私の家です!」
「酒場だ!」
「うわああああん!」
女1人がしがみついていることなど気にも留めぬ力強さ。やがて、彼女を担ぎ上げて例の酒場へ連れて行くのだった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない