【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
5人が集まった。
安宿では無いが高級な宿でも無い。全員のお財布事情を勘案したランクだ。金だけを考えると、明宏がぶっちぎりで高ランクの宿に泊まることになってしまうので当然の配慮。
光輝は高級宿が大好きなので別だが──そもそも明宏は高級感を求めてはいないし、高級宿に期待もしていない。ウォシュレットトイレを用意していなければ全て雑魚、というスタイルだった。
なお、この世界にはウォシュレットトイレなど存在しない。
どんな宿も、一階は酒場になっている。
大袈裟な話だが、酒さえあれば人は集まるのだ。泊まると泊まらずとに関係なく、人が出入りしている。
この宿に関して言えば、泊まっている人間が食べる為の優先エリアはある。
それぐらいのサービスランクだった。
光輝を除いた5人はその酒場に集まり、メインで永井と明宏が話している。
話題は当然、今日の出来事だ。
パーティー、そして本部凸。二人のうちではじめに語り出したのは永井。探索部の部長と話していた結果について。
「そんなあっさり?」
「うん、途中でやってきた子が耳打ちをしたと思ったらあっさりとね」
結局、永井が職員──柳葉部長と話していたのは20分そこらだけだった。
「ほぉ〜……俺も一応パーティでそこの話はしたんですけどね」
「そうなのかい」
「どうやら俺が来ることを把握していたようでして……二人組でしたよ」
「ふむ」
「一人は例の高峰で、もう一人は後輩でした」
「なんだか……よくわからないね」
「まあ、多少はわかります」
「ほ?」
「まず、指揮系統と情報伝達がうまく機能していませんね」
「ふむ」
仮に上下間でやりたい事とやるべき事がお互いにハッキリと伝わっているのなら、明宏と永井でこのような対応にはならない。わざわざパーティーの場にまで追いかけて来なくても、繋がりのある永井に伝えておしまいなのだから。
それに、方針が永井に示したように定まっていたのだとすれば──これまでの永井へのアプローチはなんだったのかとなる。
「俺がした話では、日向と早苗ちゃんへの干渉はやめるということでしたが……永井さんの場合は協力拒否を是としたという事ですよね?」
「そうだね」
「あまりにも手のひらを返すのが早すぎる」
「ふぉうなんふぁよねえ」
しかし、永井は働いたことがない。教授として勤務はしているが、企業やら商工会から給料を得たことはない為、上司部下という関係に馴染みが薄かった。
あと、興味が無い。
霊領への干渉を止めるというのであればそこに反対する意味もない。むしろ賛成だ。
明宏の話を片耳で聞きながら、もう片耳では詩人の鳴らす弦楽器の音を聞いている。しかも、並んでいる人工肉串を摘んでいるので実質、明宏が一人語りをしているような状況。
「手のひらを返した……もう、霊領に興味がなくなったのか? ……それがあるとすれば先延ばし、だな」
「うんうん」
現状解決できない事案である事を認め、完全に諦め、将来に投げる。他の仕事を進めるためにそうしたという可能性も十分に考えられた。
「永井さんが生きているうちにやるのが一番なのに……まさか、後釜が現れると考えているのか?」
永井が商工会に協力する意思がないことは明らかなのだが、三顧の礼という言葉もある(明宏の中には)。根気強く依頼を続ければ話が続く可能性だってあるかもしれないと考えていた。
日向に手を出すのは許さないが、永井が協力すると踏み切ったのならば自身も多少は何かしらすることだって考えていた。あの後輩とやらはオツムが少々──しかし悪いやつとは思えなかった。素直なやつは基本的に信用できるのだ。
それがこうなるとは。
「三船くんはどう思う」
「へ? ふぁの……ふぉ、ふぉいひぃでふ!」
口いっぱいにかきこんでいたレイトは、全く話を聞いていなかった。見たことのない場所、見たことのない地面、見たことのない食事。テンションぶち上げ三途丸だった。このまま天国にだっていってしまうだろう。
生の海鮮を醤につけるという日本人らしい食べ方。
内陸──というよりも沿岸部以外においては生の魚介を食べる風習なんてものはない。
つまり、美味しかった。
「そっか……もっと食べな」
「ふぁい!」
最近、レイトは以前よりも食べるようになった。明宏と比べればまだまだだが、それでも遠慮は見られない。
可愛くて、撫でようと手を──はらわれた。白い肌、細い指、しかしタコがある。ばっちいものを弾き飛ばしたのは、レイトの横を占領する少女だ。
「…………」
「…………」
目を細め、触るなと威嚇している。まるでチワワのような恐ろしさに身体の震えが止まらなくなり、動悸と眩暈が始まった。このままでは死んでしまう。
怖いよー>_<
「──浮気?」
「違います」
何故子供を撫でようとしただけで浮気となるのか、誰か解説してほしいと明宏は切に願った。
首元に突き立てられたフォーク。物理的に彼を傷つけることは実質的に不可能だが、これは警告だ。お父さんに言いつけるぞと、幼馴染なりのわかりやすい脅しをしている。
弁明の余地は十分にあるが、この娘っ子はアホだしその父親である光輝もアホ。まずは一発ぶん殴られるに違いない。レベルが大幅に上がった今でも、あのモヒカンに殴られるのは普通に痛い。
「そのフォークはご飯を食べるためのものだ。人に向けるのは行儀が悪いぞ」
それはそれとして、カトラリーの類は人に向けて使うものではない。スパイや人肉食でも無い限り、そんな場面がやって来ることも未来永劫無い。
「話逸らさないでね?」
「ミツキ、話なら後で…………お?」
弦のみだった音の中に、管の音が混じり始めた。どうやらあの詩人は一人ではなかったようだ。お仲間と集まって酒場を照らし始めたのはケルト風の音楽。聞き慣れぬがどこか聞き慣れているという、矛盾を感じる旋律が明宏の耳を包む。
「最近流行ってるやつだね」
「へー?」
ミツキは心当たりがあるようだった。
「なんかね、西の部族から音楽を習った人たちがいるんだって」
「誰かから聞いたのか」
「大学の友達」
友達の少ない(可哀想ポイント1)明宏と違って、ミツキは音楽などについて話せる子がいるのだ。
「友達か」
「そう!」
若干怖がられている(可哀想ポイント2)明宏と可愛がられるタイプの美月は対照的であり、両者はある意味バランスが取れた関係性。しかし、大学に通いながら探索者をする異常者ということが初手で知れ渡っている。よく分からない故の凄みみたいなものを感じていた高校生までと、明確に自我を持って彼に接する大学──大人とでは捉え方がちがう。
つまりは、ミツキの方が人気だという逆転現象が起きていた。
「ふふん」
ミツキは殊更にそのことで明宏をイジる。高校生まで彼の後ろに隠れていた反動だろう。入学した日にはこんな人たちが話しかけてくれたとか、いっぱい可愛いと言ってもらったとか、勧誘もあったとか、そんな事を楽しそうに話していた。
今年の初めの話だ。
「広瀬さんか?」
「風香は……アキのせいで変な音楽練習し始めたよ!」
「変な音楽って言うのやめてね?」
明宏が好む現代音楽の流れと、その遥か過去──クラシック音楽の遥か前、民族音楽の系譜からやり直しのこの世界の音楽とでは比較にならないほど大きな差がある。
価値観的な話をすれば、少なくとも両者は決して相入れない。
現代音楽は根本的に時間潰し。大量消費を前提とした価値付けが行われており、音楽単品で成立する軽さを持っている。
しかし彼らの音楽は楽器こそ受け継いでいるが体系は消滅した。楽譜、消滅。音楽家、CD、その他音源、地殻の下へ。覚えていた第一期の人間も当時は音楽など触れる余裕もなく、今に至っては流石に土の下。
故に、やろうと思えば彼は音楽に革新を起こせる。もっと音楽に興味があれば盛んに広めるようなこともあっただろうが、現時点では優先度は低い。時折、ダンジョンにギターを持ち込んで掻き鳴らす程度だ。
彼は文化と科学にこそ革命を求めているが、自分の能力に限界があることは良く分かっている。有限の時間の中で、音楽がどうとか話を持ち込んでやるほど暇ではなかった。
「加賀美さん、楽器とかできるんですか?」
「まあな」
「焼肉の歌ですか?」
「いや、好きな曲」
「?」
楽しいから、好きだから歌う。
ストレス発散になるから大声を出す。
根本的に考えた方が違う。
彼ら──明宏以外──が作って奏でるのは大前提として願いであり、祈りであり、生命への賞賛だ。
カラオケ(もどき)で流れるのも、明宏が聞けば頭を抱えるような柔らかな音楽。少なくともそういう場で聞くにはあまりにも牧歌的だった。
「どんなのなんですか?」
「いや、ギター持ってきてないから……」
「…………」
「あそこから奪ってこいと!?」
レイトが指差したのは例の一団。無言でワガママを通そうとする事に少々の微笑ましさを感じつつも、驚きが勝る。他人に迷惑をかけるような事を彼が積極的に薦めているのが信じられなかった。
「聞きたいです」
「いや、聞きたいっつったって弾いてるでしょうよ……ケルティックなあれこれを……」
「…………」
「おおお!? ほ、ほら、帰ったらあれだから! アレ!」
見る間に溜まる雫。
あまりの情緒不安定さに大慌てでフォローを行う。周囲からの視線というのも痛い。見目麗しい少女をいじめているように見えていた。
ヒソヒソと聞こえて来る声は、明らかに彼を苛んでいる。
──なして!? なしてこんな泣きそうなの!? 男の子は泣いちゃダメなんだよ!?
内なる明宏がパニックになっている最中。ミツキが立ち上がり、レイトの手元からヒョイと何かを取り上げる。取り上げたものをじっくりと見て、匂いを嗅いで、ポツリと。
「──お酒飲んでるじゃん」
「へっ!?」
「私が飲みまーす」
「酒!?」
明宏が再びレイトの顔を見ると、頬どころか耳を超えて首まで赤い。白い肌もこうなっては形無しだ。隣にいるシエルもゆらゆらと頭を揺らし、空な瞳で何処かを見ている。
「酔ってるのか!」
「ギター……」
「え?」
「ギター、ほしい……」
「欲しいのか」
「…………みんなに届かないかな……」
「それは……」
思いをつなげる。
記憶を、価値を、自分という存在を残す。
そのために人々は歌う。
例えダンジョンに飲み込まれたとしても、何も残らなかったとしても、誰かの記憶に歌が残る。
そうして紡がれていく鎮魂歌。
それこそが歌の価値だった。
──明宏が、真の意味では理解することのできないものだった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない