【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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105_インフラ

 

「け、結構買いましたね……」

 

「あんまり来ないからこういう時にね」

 

「お金とか大丈夫なんですか?」

 

「うん、大丈夫。お父さんからお小遣い貰ってるから」

 

「へ、へー……」

 

 生活のスケールが違う、レイトはそう思った。彼女は自分のような孤児とは違う世界の中で生きているのだと、今のやりとりが何かを分断したような気がした。

 

「ミツキ、お前はそろそろ自分でバイトとかどうなんだ? 大学もそろそろ一年過ぎるぞ」

 

「アキと一緒ならってお父さんが……」

 

「厳しっ」

 

 そんな小金稼ぎのために明宏が貴重な時間を使うわけがない。つまり、実質的にバイトは不可能だった。危ない思いをさせたく無いという親心は感じられるが、束縛の強さも同時に見えてくるような約束。

 

「今度、俺から直談判してみるか」

 

 完全とまではいかないまでも、家族では無い人間が家族内のことに口を出す。当の本人たちからしてみれば本来は鬱陶しいことこの上ないはずのことだろう。しかし、ミツキは嬉しそうに頷いた、

 

「お願い!」

 

「差し当たっては広瀬さんのバイト先をあたるか」

 

「えっ?」

 

「コウキさんが嫌だって言ってるのは、要は一人で働くことだろ? 誰かが一緒にいるなら多分許してくれるだろ」

 

「風香……」

 

「まあ、場合によってはそれは諦める」

 

「どういうこと?」

 

「友達と一緒にバイトって、ものによっては友情に亀裂入るから」

 

「そうなの!?」

 

 レイトもバイトをしようとしたことはあるが、歳と背格好のせいでさせてもらうことはできなかった。今となってはバイトよりもよほど稼ぎのいい仕事をしているのでわざわざそちらへ戻ることはないが、それはそれとして普通の人生を送っていたらと夢想しないわけではない。 

 

「……シエルちゃんはバイトしたことある?」

 

「無い」

 

「だよね」

 

「……文句あるの」

 

「無いよ」

 

「自分だって無いくせに」

 

「そうだn──あれ、どっかで話したっけ」

 

「…………うん」

 

「──うわっ!?」

 

 突然に大きな爆発音が巻き起こった。降雪の悪視界の中では爆煙の位置を見ることはできなかったが、なんとなくの方向は掴める。

 レイトは咄嗟に明宏の顔を見た。

 

「なんだろうな」

 

 特になんでも無い顔をしている。爆発程度で何かを感じるような感性は失ってしまったらしい。

 

「ば、ばくはつだよお! アキ! にげよう!」

 

 逆にミツキはすでに逃走体制に入っている。一級探索者の娘として生まれたにしてはあまりにも見事な逃げ腰。こちらの方が正常な反応なので、レイトとしては金持ちとしての一面よりもこの一面を見せて欲しい次第だった。

 

「……そうだな、危ないから離れよう」

 

 一行はそそくさとその場を離れた。

 ──つもりだった。

 

「うわ! くちゃい!」

 

「うんこの香りだ」

 

「なあにもう! やだもう!」

 

 街中に漂ういいかほり。

 それはまさに、おうんちの香り。

 本来は地面の下にあるトンネルの中を通っているはずの成分。冷たい冬の空気であればそこまで広がるはずもないものが、爆裂した地面の裂け目から広がっていた。

 閉鎖された地下故に地上よりも暖かいのだろう。ホカホカと湯気が匂いと一緒に上がってくる。

 まさかの爆発2箇所目。

 

「こ、こっちはやめません……?」

 

「うん、やめよう」

 

「アキィ!」

 

 鼻をつまみながら訴える3人。刺激臭で涙目になっているだけでなく、吐き気も催しているようだ。そんな中で一人だけ、涼しい顔をしたままの明宏。

 順路はこっちだしな……と腕組みをしている。

 

「いゆぅ〜……」

 

 意味不明な言葉を吐きながら離れるシエル。口がモニモニと何か言いたげだが、臭くてどうしようもないのか最終的にレイトの背中に顔を埋めた。

 

「ヒ、ヒエルひゃん!?」

 

「…………すうう」

 

 自分だけずるいぞ! と文句を言いたい気持ちよりも、恥ずかしいやら嬉しいやらの気持ちの方が優っていた。そんなレイトの目の前で明宏は地面に空いた穴へ近寄り、覗き込んだ。見下ろした明宏目の前には、色とりどりの蠢く透明な物体がある。

 ブヨブヨとした見た目、滑ったような光沢、それらは壁を伝って地表へと這い出ようとしていた。近づいてくると臭気は一層増し、透明なブヨブヨの表面から放たれた茶色の気体に触れたものが腐食していく。

 

「かかみしゃん!?」

 

「……スライムが出てこようとしている」

 

「アキ! 服が臭くなっひゃうから早くこっひきへ!」

 

「レイト……はなれよう……」

 

『くっせえ!』

 

『やべえぞ! スライムが出てくる!』

 

「こういう場面に立ち会うことがなかったのは幸運なのか。それとも不運なのか……?」

 

「アァキィ!」

 

 何してんだこのグズ! と言い出しそうな声色に、ようやく離れる。

 すぐに、下水道の掃除屋ことスライムが出てきた。じゅわわと広がる腐食、このままでは建物や人間がやられるだろう。

 放置すれば、の話だが。

 

「気をちゅけへね!」

 

 荷物をミツキに返し、二人と一緒に宿に戻るように言いふくめてから一人でその場にとどまる。これ以上外に出てこないよう、そこら辺に落ちていた木材──巻き込まれた建物の一部──を拾い上げてスライムを突き落としながら待つことしばし。

 

『押せ押せ!』

 

『らあっ!』

 

『ぶっつぶれろ!』

 

 やってきたのは、スライム駆除業務を背負った探索者3人組。1級がやってくるわけはないので2級以下なのは間違いない。口から火炎を放つ男がメインでスライムを押しやっている。残りの二人はハンマー女と槍の男。スライムを倒すとその場に魔石のみ残して溶けていく。

 スライム自体、そこまでの危険度を誇るモンスターではない。誰かを襲ったり、食べようとしたりという意識を感じる行動は基本的にせず、ただ、目の前へ進んでいく。

 厄介なのは体表から発される溶解性の気体だが、火炎によって距離を保ったまま安全に対処しているところから見て、彼らは相応に慣れているようだった。

 

「──よっす!」

 

「初めまして」

 

「やっぱ探索者だよな!? な!?」

 

「?」

 

「こいつらがさ、一般人が何してんだなんて言ってるから」

 

「探索者ですよ」

 

「ほらー! な!? バカお前らマジ、モノ考えてから言えや!」

 

「俺はああいうの実際に見るのは初めてなんですけど、アレで良いんですかね?」

 

「ん? まあな」

 

 今も地下目掛けて火炎を放ち続けている。上がってこようとするスライムを全て焼き尽くそうとしているようだ。

 

「おーい! 一旦ストップ!」

 

「使い過ぎるときついですか」

 

「そりゃな」

 

 異能による火炎。単純な火力増加に繋がるし、日常生活や野営時など広範な場面において役立つ能力だがメリットばかりではない。

 使い過ぎにより内部発火を起こして深刻なダメージを負うことや、気絶、嘔吐、欠損など探索者自身の体に牙を向くこともある。故に、異能に頼り切った戦闘ができるのはレベル40くらいまでと言われている。

 40という数字の根拠は見つからなかった(明宏調べ)。

 

「驚いたぜ、まさか先客がいるとは思わなかったからな。臭いだろ?」

 

「一応慣れてます」

 

「お? 同業……ってわけじゃないよな?」

 

『──ーい!』

 

「っと! そうだそうだ、次の場所行くんだわ! 離れ玉はぶち込んどいたから!」

 

 明宏も話していた探索者は、大慌てで火炎を放っていた男の元へ駆け戻り次の場所とやらへ。

 

 

 ──────

 

 

「すごかったねえ」

 

「複数箇所でってのはなかなか聞かないですね」

 

 蒼連郷には下水道が備わっている。

 管の径は2mほどで人が中に入り込むことは容易だが、そんなことをするのは余程の愚か者だけだ。下水道にも当然、モンスターはいるのだから。

 下水道ということで、不快害虫やネズミなどは多少いるのだろう。それこそわざわざ探せば見つからないわけもない。しかし、下水道にいるモンスターは一種に限定される。

 それは、下水がモンスター化したスライムだ。

 トイレ、風呂などから流れてきた汚物にも魔素は含まれる。それが下水──ヘドロなどを励起させるのではという説がスライム発生の研究における現在の主流だ。

 

「永井さんはあの時何してたんですか?」

 

「私は3人と酒場で話していたんだけどね。本部の敷地内で爆発が起きたものだから驚いたよ」

 

「それはまた……でも、本部のそばなら対応は早そうですね」

 

「うん、すぐにその場で受注した探索者たちが突っ込んで行ったよ。後から工事員もね」

 

「スライムは?」

 

「わんさか」

 

 彼らスライムが下水をきれいにすることにより街の清潔は保たれている。しかしスライムは汚物を食べて下水を綺麗にしてくれる際に体が大きくなる。食べたら成長するというのは生物的に見ても自然なプロセスであり、だからこそ問題だった。

 

 発生するスライムは一体では無い。あちこちで生じた極小のうんこスライムがうんこを食べて育ち、巨大化したうんこスライム達はやがて下水道の中をみっちみちにする。その過程でネズミやら不快害虫やらを食べるのは良いのだが、下水道の中がスライムとスライムの発したガスで満たされていくのだ。

 

 つまり、うんこスライム詰まりを起こしてしまう。

 タチの悪いことに、それを感知するのは結構難しい。下水道にスライムが詰まってるならトイレとか流れなくなるじゃん! と思うかもしれないけどスライムはうんこや汚水を吸収して下流に綺麗な水だけを流していくのだ。

 つまり、普段通りにトイレやらを使用できる。

 しかし実態として下水道はスライムみちみちなのだ。

 

「うんこを浴びなくてよかったですね」

 

「生態調査で我々は慣れているからそこまでだけど、市民からしてみればとんでもないからね」

 

「ミツキも半泣きでしたよ、おニューの服が〜って」

 

「ふふ、何事もなくてよかった。ミツキちゃんに怪我させたなんて知ったら、彼がどんな顔をするやら」

 

「その場合殴られるのは俺でしょうけどね」

 

「そこはほら、幼馴染である君に譲るのが筋だろ?」

 

「譲るて……」

 

「それにしても、同時多発の爆発とはね」

 

 下水道内にて行き場のなくなったガスはやがて、どこかの隙間へと圧縮され始める。スライムどもは自分の出したガス──人間で言うところの排泄物──は吸収しないからだ。そして圧縮に圧縮を重ねるとどうなるか。ガスの圧力がスライムの耐圧性能を超える時がやってくる。

 途端に、スライムの肉体を巻き込んでの大爆発。直上や周囲の下水道を吹き飛ばして開放されると言うわけだ。

 近くにいた個体は爆散して跡形もないが、奥に少し進めばスライム達はまだまだたくさんいますよお! 

 

 暖かな太陽の光を求めて──というわけではないが、圧力の低い場所へ押し出されていく。

 それで実際に街へ出てこようものなら、それはもう酷いことになる。だから近辺にいる探索者はその場面に出くわすと基本的にはスライムをなんとかしようとする。レベルが低過ぎるとガスで死ぬので無理だが、明宏はそこらへん問題ないので探索者の端くれとして街の公衆衛生の維持に協力していた。

 

「俺、実はスライムが街中に溢れるの見るの初めてなんですよ」

 

「そうなのかい?」

 

「はい、父は100回ぐらい遭遇してるんですけど俺は全然」

 

「それは──逆にすごいね」

 

「自慢の父ですから」

 

「ははは! 加賀美くんの父君か!」

 

 和気藹々と盛り上がる二人だが、周囲の目は優しくない。なぜって、この二人はうんこ臭いのだ。

 モンスターの調査などで散々っぱら慣れている両名からすればこの程度はなんでもないが、店主は顔を顰めた。肩を怒らせ、ズンチャズンちゃと近づいてくる。

 

「うぉい!」

 

「?」

 

「臭えんだよ!」

 

 小学生くらいシンプルな罵倒だが、この場にいる二人以外の気持ちが完全にその一言に込められていた。

 

「臭いですか?」

 

「うーん……あんまりだね」

 

「ですよね」

 

 二人はエコーチェンバー現象によって、あまりわからないという顔をしている。しかし、だからといってわざわざ店主の言うことに反抗するほど反骨心に溢れた年頃ではない。

 

「どうすりゃええんすか」

 

「風呂入れってことだよ!」

 

「お金かかるじゃん」

 

「探索者が金の心配してんじゃねえ!」

 

「俺はしてないけど、この人は一般人ですから」

 

 一般人()代表として手を挙げる永井。霊領を解き明かした男の自信は伊達ではなかった。

 

「まあまあ、私も貧乏ではない。大人しくお風呂に入れば収めてくれるのだろう?」

 

「だからそう言ってんだろうが!」

 

 店主は、臭すぎてイライラし始めた。

 

「やれやれ、入りますか」

 

「うむ」

 

 うんこ臭いだけのくせにやたらと仰々しい物言いをする二人。去ってもしばらく臭いは消えなかった。

 

「…………なんなんだアイツら」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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