【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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107_雷光の狼

 

「──ここね」

 

 退勤後、手鞠が訪れたのは昼間の爆発事故現場。

 ランタンが多めに設置され、人が誤って落下しないようにしてある。昼間は見に来ることができなかった為、調査室の室長として第1セクターの出来事くらいは自分で見ておこうとやってきたのだ。

 

「複数で同時に爆発…………下水道部は何やってんだよもう……」

 

 こうならないように、探索者へ依頼するための費用は持っているはずだ。管理怠慢のツケが調査室にやってくるのは極めて不快な気分だったが、室長クラスの中では最年少の手鞠が何かを言って聞く耳を持つわけもない。

 

「…………ここからじゃ何も見えないか」

 

 上から覗き込んで見えるのは暗闇。ランタン程度の明かりでは夜闇を照らすのが精一杯で、下水道の中まで見通す事はできない。

 

「着替えてきて良かった」

 

 こういうこともあろうかと作業着を着ていた。中には探索者時代の鎧も装着している。スライム程度に負ける事はないだろう。

 

「──よっと」

 

 数mを落下、汚水に触れないように着地する。

 昼間は相当な臭いがここから外に出ていたわけだが、彼女が入っている今はそこまでの匂いは無い。強い臭いは基本的にはスライムの発するガスだからだ。それさえなければ汚物自体はスライムが浄化する為、汚物そのものの臭いはこんなもの。

 

「ふんふん、なるほどしっかりやってくれたみたいね」

 

 持ってきていたライトで下水道を照らすと、スライムの燃え滓が残っていた。ここら辺のスライムは一掃してくれたようだ。それに離れ玉──スライムが寄ってこないようにする成分が入ったアイテムも撒かれている。

 

「とくに変なところは……下水道だけ」

 

 爆裂しているのだから、当然下水管そのものに異常がある。これを補修するのは職人たちなので彼女がそこまで気にする必要はないが、約35か所という驚異的な数は看過できるものではなかった。

 

「やっぱこっちだよね〜」

 

 中に篭って書類をなんてのは彼女の性分にはあっていなかった。それが似合っているのはレオ、彼女はこうして現場で手と足を動かすほうが好きなのだ。

 機嫌良さげにライトで照らしながら少し奥に進むと、妙なものを見つけた。

 

「これ……なに?」

 

 拾い上げたのは小さな木片だった。

 

「何か刻まれてる…………っ!?」

 

 木片をライトに照らしてしげしげと観察し始めた瞬間、確かに奥の方で物音が聞こえた。カィンと下水管を動く反響音。ネズミやゴキブリでは出せない音量、スライムの挙動では発生しえない音質。

 

「スライム……いや、違う……!」

 

 構えたのは、雷光剣と名付けられた片刃の片手剣。

 手鞠が引退前に使っていた、彼女の異能を吸収して雷撃を放つ武器だ。レベル40手前の探索者が持つに相応しいそれを握りしめ、異能を解放する。

 

「誰だ!」

 

 弾ける雷光は途切れ途切れに下水道内を照らし出すが、彼女が聞きつけた足音の主が現れる事はない。ジリジリと進んでいくと曲がり角に至り、その向こう側にいるのではと警戒を強めた。

 

「出てこい!」

 

『──』

 

「あ……待てっ!」

 

 隠す気は無くなったのか、角の向こう側で足音が鳴らされる。明らかな逃亡の気配、手鞠は木片をポケットに突っ込むと追いかけ始めた。

 

 下水道は複雑に入り組んでいるが、狭まったり何かが障害物として設置されていたりはしない。あくまで管が地中に埋め込まれているだけだ。

 小さなスライムや、屠られたばかりのスライムの破片があることに加え、雷光に照らされて足跡が見える。多少距離は空いていても見逃す事はない。

 

「──はあっ!」

 

 五度目。

 剣の振るわれた軌道に沿うように放たれた雷撃が足音の方へと伸びていくが、途中でかき消される。続いてパラパラと砕けた何かが手毬の顔に当たる。その程度で怯むわけはない。

 しかし、無駄に攻撃を仕掛けるのはスタミナの消費につながる。5回も繰り返せば低威力の攻撃では届く前にかき消される事は彼女にも理解できた。武器をしまうと、ライトを手にとっての追走に切り替える。

 

「速い……!」

 

 明らかに一般の人間が出せる速度では無い。少なくとも、彼女が振り払われそうな程度には彼我の速度はギリギリのところで拮抗していた。それも、息がやや切れるほどに全力を出している彼女と違って相手には余裕がありそうな様子。

 いまだ姿を見ることすら叶わぬ何者かは、間違いなく探索者だった。

 

「止まれ!」

 

 止まれと言って止まるわけもない。果たして彼女がこのまま追い続けるのは正解なのか。そもそも本来は警務部に丸投げの案件だが、ここで捕まえなければ金輪際こいつを捉える機会は無い。手鞠はそんな気がしてならなかった。

 なにせ、探索者が下水道の爆発ポイントにたまたま居合わせたなんてことあるはずがないのだから。

 何故逃げるのかとか、何か知っているのかとか、そこらへんの理由をまるっと全部吐かせてやるという気概があった。

 

「……っ!?」

 

 そんな彼女へ飛んできた何か。ライトに照らされたことで辛うじて顔を避けさせることができた。鋭く尖った何かが頬を掠め、軽い熱が迸る。全力状態の彼女を傷つけたという事は、相応の威力を持っているという事を意味している。

 そして、避けなければ顔を貫かれていたのは間違いなかった。

 

「…………」

 

 手鞠は意識を引き締めた。

 脅威度は未知数。

 手鞠は殺す気がなくとも相手には手鞠を殺す気がある。

 それでも逃げるのは、あまり大事にしたくないからだろう。

 手鞠も増援を呼びたいところだが、簡易的なダンジョンと言ってもいいここには魔素がかなりの濃度で存在する為か、端末は使用できなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 しかも久しぶりの激しい運動。速度云々の前に、体力が持つかすら怪しかった。すでに息が上がり始めており、対して相手の足音に乱れは聞かれない。

 

「っ…………」

 

 このままでは逃げられる。

 そう予感した手鞠は賭けに出た。

 雷光剣を取り出し、再び異能を纏う。

 

「──はぁ!」

 

 下水道の中であっても冬の乾燥した空気、即座に衣服や髪が逆立ちうねる。

 彼女の異能は、単に雷撃を放つというだけものではない。体力の消耗も増加する代わりに身体能力の増強をもたらすこともできた。先ほどは持久力で負けるはずがないとたかを括っていたが、ここにきてはもはや出し惜しみもしていられない。

 

「逃さない!」

 

「!」

 

 これまでとは段違いの速さ。

 いまだ距離は離されているが、グングンと詰めていく。逃走者も焦りを見せ、加速する。

 しかし、それでも両者の距離は縮まるばかり。

 

「見えた!」

 

 手鞠の視界に入ってきたのは灰色のローブを被った何者か。背中を向けていることに加えてフードまで被っている為、その容姿や特徴を捉える事はできないが、少なくとも彼女より身長が高いのは間違いなかった。

 

「待て……コラ!」

 

 もはや追い付くのは時間の問題、それも分単位の話だ。逃げることなどできぬぞと声を荒げる。

 当然、手鞠にも余裕は無い。

 すでに体力を消耗した状態での雷光形態。白く光る体に張り付く水滴は足元の水などではなくて汗だ。

 

「──」

 

 放たれた槍のようなすり抜ける。

 ギン、と強く睨みつけた背中。

 剣を握る左手に力を込めると、より一層溢れる稲妻を雷光剣に注ぎ込んだ。

 

「はああああ!」

 

 斜めに、下水道の直径と重なるように放たれた一撃。自然雷の速さである秒速100キロ超えなどというトンデモ速度には達していないが、銃弾の速さはゆうに超えている。下水道を丸ごと消し飛ばす威力を保ちながら不審者の背に迫った。

 

『っ……!』

 

 自分よりもレベルとしては上だろうという目算のもと、手加減なし、殺すつもりで放った雷撃はその背に直撃し──

 

「うわぁっ!」

 

 雷撃が四方へ散った。手鞠を頭をぶつけてすっころびかける。危うく足元の汚水に背中から飛び込むところで剣を下に突き立てて耐え、頭を振る。

 顔を上げ、何が起きたのかを確かめるとそこには壁。先ほどまではなかった筈、見えていた姿もどこへやら。

 

「な、何が……」

 

 雷撃によって吹き飛んだ上部からは空が見えている。割れ目から入り込んだ月の光が、彼女の視界に奇妙なものを照らし出した。

 

「──木?」

 

 最後の一撃を防いだのは、彼女の言葉通りの木だった。

 下水道を突き破って生えたそれは、高さにして数m。今生えてきたにしては大きすぎるが、どこからどう見ても木で、触った感触も木だった。

 

「なにこれ……」

 

『──なんだ今の!?』

 

「あ、やっべ」

 

 地上から聞こえる声。

 どうやら、ちょうど道路のところでぶち破ってしまったらしい。被害のことは手鞠も考えていたが、それよりは不審者を捕まえる方が優先だった。

 失敗した今、この場にいるのは悪手と言っていい。裂け目から出れば、これをやったのは自分ですと教えるようなものだ。木に関しては手鞠とは関係がないが、そんなこと誰も信じてくれないだろう。

 急いで来た道を引き返した。

 

『──本部に集まってくれ。あと、他の職員も呼び出すように』

 

 部長へ端末により報告した後、帰ってきたのは本部への招集指示。すでに若干疲れた声だが、彼も集まるようだ。

 

 

 ──────

 

 

「ふへえ……」

 

 昼間の業務、追いかけっこ、異能による消費、そして招集。レベルがあるからなんとかなっているが、疲労が溜まるものは溜まる。特に異能による消費が激しい。

 異能者のデメリットはこれだ。どれだけレベルが上がっても、追随できるだけの出力で異能を操ると疲労が目に見えて現れる。

 

「もう動けないよお……」

 

 会議を終えて資料を片付けている彼女は虚空を睨む。こんな時にこそ役立つであろう副室長は、どこをほっつき歩いているのだ。

 

「──どーせマックスさんのところでお酒飲んでるんでしょうよ!」

 

 他の副室長はみんな出てきているというのに、端末も繋がらない。たまに電源を切ってこちらの呼び出しに答えないことがあるので、その可能性大。こうなったら、明日は普段の恨みも込めてみんなの前で説教してやろう。なにせ自分は室長──大ポカをやらかした部下を叱るのは当然のことだ。

 

 ──そう思っていた時期が、彼女にもありました。

 

「大丈夫?」

 

『悪いな、仕事にゃ行けそうにないわ──ゴホッ』

 

「あ、そ、そう……」

 

 次の日、家を出る前の時点で端末に連絡があった。しおらしい態度で病弱アピール乙──などと言えるわけもなく、心配になって声音が弱まる。

 

『……昨日の呼び出し、なんかあったのか?』

 

「無い! 寝てろ!」

 

『お、おう……ゲェホッ! グホン! ゴホッ!』

 

「もう良いから! じゃあね!」

 

『え、ちょ──』

 

 通話を終わらせる、意識を切り替える。仕事は仕事としてやらなければならない。

 

「……わざわざ来たのかよ」

 

 退勤後、テマリはレオの家までやってきた。扉をノックすると動く気配、さらにノックするとボヤキが扉を貫通して耳まで届く。

 三度目のノックでようやく扉が開いた。

 

「ほら、奥行って!」

 

「行けー!」

 

「──なんでミスズまで来てるんだ?」

 

 ミスズとテマリ、二人でやってきた。テマリは最初一人で来ようとしていたのだが、挙動をめざとく見つけたミスズが付いてきたのだ。

 

「へー、ここが先輩の家なんですね!」

 

「ほらほら、体調良くないんだから──っと……マジで悪いんじゃん」

 

 開けた扉にもたれるようにしていたレオが体勢を崩しかけた。そこを二人で支え、家の奥へと押し込んでいく。これで男女が逆であればとんでもないことだった。

 

「ぐっ……」

 

「ちょっと、本当に大丈夫?」

 

 肩を借りるレオは、顔を顰める。レベル的にはテマリよりも上のはずの彼がこんなに苦しむとはなんなのか。そもそも、レベル40を超えた探索者が病気にかかるなど聞いたことがない。

 未知の病気かと、テマリは脳裏によぎった不安を振り払ってレオをベッドに寝かせる。

 

「何したの?」

 

「…………」

 

「誤魔化してる内は帰らないからね」

 

「……はぁ」

 

「ため息つくな」

 

「しゃあねえな…………実は──」

 

 ミスズとテマリは並んでベッドに腰掛け、レオの言い分を聞いた。

 

「ばーか!」

 

「バカですか! バカなんじゃないですか! バカ!」

 

「頭に響くからやめろ……」

 

「──何考えてんのよ!」

 

 寝ているレオ目掛けて放たれる口撃。何がそんなにバカなのか、それは彼がやらかしたことにあった。

 

「外周で装備もなしにモンスターと戦ったって……死ぬ気!?」

 

「子供がいたんだから、仕方ねえだろ……あとうるせえ……」

 

「まったくもう、どこやられたの」

 

「傷は治ってるよ……異能の使いすぎで脳みそやられただけだ……」

 

「治ってないじゃん」

 

 弱々しくうめくレオに呆れ顔の二人は、仕方ないなと散らかった室内を片付けていく。

 

「──あ! レオさんの下着!」

 

「何やってんのあんたは……」

 

「こっちは二人の……昔の写真?」

 

「……うん、そうだね」

 

「へー…………」

 

「…………ふっ」

 

「!」

 

「ちょ、部屋が乱れるでしょ!」

 

 片付けて……? 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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