【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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108_深雪を泳ぐ影

 

 楽しいひとときは終わり、家に帰る時がやってきた。今世で初めて訪れた大都会だったけど、良いものだ。どれだけ誤魔化そうとも、たかだか100年程度では追いつくことのできない彼我の差というものを教えてくれる。

 きっと大天才どもがいたのだろうが、俺の世界だってそうだ。何百人、何千人もの大天才が少しずつ繋げ、俺の代に至るまでを作り上げた。

 

 そんな時代から引き継いだ、この世界で最も重要なモノ。

 俺たちは列車を待っていた。

 各々の予定を考えると、このタイミングで乗らなかったら次にやってくるのは3日後で、流石に遅すぎる。

 今日がベストなタイミングだ。

 

 出発前の窓から見える白亜の城。

 丘陵部となっている駅からは遠景を望むこともできる。白く染まった街──視界の右端では雪煙が高く巻き上がり、ダンジョンがそこにあることを教えてくれる。

 

「途中最悪だったけど……結構楽しかったね!」

 

「はい! また来たいです!」

 

「俺ぁ肩凝ったぜ……」

 

「あはは……でも、お土産たくさんですね」

 

「そりゃあ近所へのお裾分けしなきゃだからな」

 

「ほえー」

 

「レイト……お前もそのうちこうなるんだからな」

 

「さ、流石に一級は無理ですよ!」

 

「甘えてんじゃねえ!」

 

「ひぇぇ……><」

 

 ここは出発地点、さまざまに向かう列車が集まっている。俺の見慣れたものと違い放射状なのがポイントだ。試行錯誤してるんだなあ。

 

「おまえはなに黄昏れてんだよ」

 

「いやあ……ちょっと緊張してるんですよ」

 

「ああ?」

 

「君が緊張とは、明日はドラゴンでも降るのかな?」

 

「侮辱罪であなた方を訴えます、覚悟の準備をしておいてください」

 

 俺だってたまにはナーバスな気分にくらいなるわ。

 

「加賀美さんの手……よく見たら震えてる」

 

「あ、ほんとだ! めずらしー! 初めて見たかもー!」

 

「だっさ」

 

「おまえが緊張て……緊張て……がははははは!」

 

「はっはっは、年相応だねえ…………え、なんで緊張してんの?」

 

 宇宙飛行士は初めて宇宙に飛び立つ時、ロケットの中でシートベルトを締めた状態で心臓は平時と同じなのか? 

 本気の夢を叶えられるかもしれない時に素知らぬ顔をしている奴なんていない。これは期待も込めての、魂からのバイブレーションだ。

 

「明々後日、ちょっと鍛治師に着いていくんですよ」

 

「──ええ!?」

 

「牛肉について何か手がかりがあるかもしれないってんで」

 

「ちょちょっと!」

 

「……なんですか」

 

「なんですかって……ええ!?」

 

 一番食いつきが良かったのはミツキだった。

 まあ、予想はしてた。

 

「なんでそういうのをこのタイミングで言うの!?」

 

「聞かれたからとしか言いようがないかな」

 

「〜〜! ……はぁぁ、この人ほんとう……」

 

「心配すんなって! そんな無茶苦茶なところに行くわけじゃないから! 鍛治師がいる場所だからな、危険なダンジョンってわけじゃないと思う!」

 

「そんなこと気にして……なくはないけど! そうじゃない!」

 

「え?」

 

「え、じゃないでしょ!? 出発する数日前に私に言うの、おかしいよね! ねえ、おかしくないの!? お父さん!」

 

「お、おおおれ!?」

 

「おかしいよね!!」

 

「……おかしいな!」

 

 なに同調してんだ。

 

「アキ!」

 

「はいっ!?」

 

 ビビった。

 矛先があっち行ってこっち戻ってきた。

 

「危険じゃないんだね!?」

 

「そのはず」

 

「鍛治師がいても危なくないってことは、普通の人が行っても大丈夫なんだね!?」

 

「た、たぶん?」

 

「──おい待て、ミツキおまえ」

 

 え、なに? コウキさんなに? 

 なんなのその顔。

 何を勘付いたの? 

 

「──私も着いていくから!」

 

 同時、蒸気を吹き鳴らす音があたりに響いた。

 

『出発しまーす!』

 

「……え?」

 

「だから、私も着いていく!」

 

「いや……一応言っておくと危ないかもしれないんだけど」

 

「さっき言ったよね! 一般人でも行けるって!」

 

「言ったけど……それはちょっと話が違うぐっ」

 

 コウキさんが突っ込んできて、押し除けられた。

 

「そうだぞミツキ! 何考えてんだおまえ! お母さんも怒るぞ!?」

 

「お父さんは関係ないから」

 

「か、関係ないわけないだろ! だって俺はお前のお父さんだぞ!?」

 

「お父さんだって昔はお母さんに無茶させてたんでしょ?」

 

「いや、それは別の話で……今はおまえの話だろ!」

 

「ウザイ」

 

「う…………」

 

 俺を見るな、自分で始めたんだから自分で収めろ。前も言ったはずだよな? あんまり過干渉してると仲が拗れるぞってな。

 

「私もう、19だよ? 子供がいる子もいるし、働いてる子だっているんだから……いつまでも子供扱いしないでくんない?」

 

 基本的には就業年齢の制限とか無い。雇う側がどうするかだ。普通の会社にも、飲み屋にも、風俗にも若い子はいるし、探索者も然り。

 ミツキの主張は、この世界ではある意味当然と言えるだろう。

 

「…………」

 

 一級探索者とは思えぬ消沈ぶり。

 人の親になるってのはそういうことだ。どれだけ権力や財力、暴力を手にしても、本当に大切なものを前にしては心だけが意味を持つ。

 

「──なに関係ないみたいな顔してんの?」

 

「はい?」

 

「私、着いてくからね?」

 

「う゛う゛ー……」

 

「置いてかれたら勝手に着いてくからね」

 

「あ゛あ゛〜……」

 

 だめだ、俺にはコイツを止めることはできない。

 初手から着いてこようとするとは思わなかったけど、そもそも来るなら来いぐらいの気持ちだった。これ以上止める気も起きない。

 

「わかった、一緒に行こう」

 

「──うん!」

 

「でも、出発前にあの四人に話を聞いて危なそうだったらちょっと考えるぞ? いいな?」

 

「わかった!」

 

「じゃあ、この話終わりな?」

 

「ん!」

 

 さて、あとは雪景色を見ながら帰りますか。

 すでに散々見てるけど、やはり列車から見る雪というのは普段と一味違う。

 

「わぁぁ〜……見て見てシエルちゃん、一緒に走ってるよあのモンスター」

 

「……きも」

 

 ボートに付き従って泳ぐイルカのように、ワームが群れになって列車と並走していた。

 ボッ、という音が鳴ると雪に穴を開けて長い身体を飛び出させ、また潜る。三相の交流のように次から次へと繰り出される動きは、サーカスで調教されているかのような流麗さだった。

 白い身体は雪に紛れ、激しい動きにも関わらず目を離せばすぐにでも見失ってしまいそうになる。しかも、最初は結構離れたところにいたのに近付いてきているような。

 

「ありゃりゃ、狩りだねあの動き」

 

「雪のせいでモンスター除けがうまく機能してねえな」

 

 列車と設置された鉄道は、何もせずにいればモンスターに荒らされて粉砕されてしまう。乗客はほとんどが一般人であり、自衛手段はない。当然、車掌にもそんな力はないので用いられるのがモンスター除けだ。基本的にはドラゴンの尿や体液を用いるのだが、この低温では成分が空気中に発散されないのかもしれない。

 

『……嘘、やめてよ』

 

『あ、あんなのどうすりゃ……』

 

 乗客たちの間でざわざわと不安が広がっていく。

 お客たまー! 

 お客たま達の中に、探索者の方はいらっしゃいませんか!? 

 ってなるのかもしれない。

 

「え、なんだろう……どうしたのかな」

 

 三船君は状況がよくわかってないようだった。

 

「列車を襲うって」

 

「え!? ……ダメじゃん!?」

 

「そう」

 

「どうすんの!?」

 

 勢いよくこちらに顔を向けた。

 どうするっつっても……

 

「別に業務を受注したわけでもねえしなあ」

 

「そうそう、他の探索者がなんとかするでしょ」

 

 コウキさんと俺は同意見だった。

 みんなを救ったヒーローとしてもてはやされたい願望とかは特に無いので、別のやつがやればいい。

 

『俺がやる!』

 

 ほら。

 20歳代前半だろう二人が出ていった。

 

「いいねえ、やる気があって。それに引き換えうちの義息子は……」

 

「自分でやれよ。異能使えばいいだろ」

 

「あんな雑魚に使うわけねえだろうが」

 

「知らん」

 

 人に言うなら自分からってのは常識だよな。

 

『んしょっと……」

 

『──あっくん! チャージするよ!』

 

『おう!』

 

 二人組は窓から身を乗り出して車体の上に乗った。どうやら、チャージ? とかいう作業を行うらしい。異能かしらね。

 

『あそこだ! 先頭を狙え!』

 

 石油ヒーターを点火させる時のような、連続の燃焼音が聞こえる。オーソドックスな火炎系の異能かと思ったけどよく分からない。そもそも俺は人間の異能を見る機会が少ない。見る時は基本的に敵だから初見殺しが怖くて、異能を使われる前にスパンチョってしてるんだよね。

 あー見てえー…………見よう。

 

「どしたの?」

 

「見てくるわ」

 

「上?」

 

「うん」

 

 ちょっと田んぼの様子見てくる!!!! 

 

「おいしょっと」

 

「──?」

 

「あんた誰だ!?」

 

 片割れが右手を構えている。

 ソフトボール大の蒼炎がそこにあった。

 これがチャージだろうか。

 

「おい! 危ないからくんな!」

 

「えっと、えっと……」

 

「──あっ、レン! 今だ!」

 

「うわわわあっ!」

 

 なんだか情けない声を上げながら放たれた炎は、ワームへと飛んでいった。しかし声の割には恐ろしい威力のようで、雪とワームに接触したら一気に広がって爆炎を上げた。

 

「ちょっとお!」

 

「おまえが気散らすから危うく変なところに飛ばすとこだぞ!」

 

「ああ、すみませんね。なかなか異能を見る機会が無いもんで珍しくて」

 

「はぁ? おまえ探索者だろ?」

 

「それはそうなんですけどね……あ、ほら! また来てますよ!」

 

 先頭を倒されてもまだまだやる気は継続のようで、巻き上がった雪煙をかき分けてワーム達が押し寄せてくる。

 

「レン!」

 

「わかってる!」

 

 今度は左手を構えた。

 

「──おお」

 

 手のひらに集積する炎。大気中から小さな火の塊が滲み出ると寄り集まっていく。面白い炎の出し方だな。こういうのって自分の手の表面からボワッと出るもんだと思ってた。

 この音だったんだな。

 

「もう一度先頭!」

 

「うん!」

 

 炎が大きくなっていく。大きさは結局ソフトボール大で打ち止めのようだけど、炎がさらに集まると色がだんだんと変化していく。だけど、炎が集まっても温度は変わらないはず……異能は不思議の塊だ。

 

「はぁっ!」

 

「いけっ!」

 

 今度は集中が乱れなかったおかげか、さっきよりも大きな炎が飛び出した。

 

「──よしっ!」

 

「レン!」

 

「うん! いぇーい!」

 

 可愛い。

 

「…………なんでずっと見てんだよ!」

 

「さっき説明した通りですよ」

 

「それは知ってるよ! そうじゃなくて、じっと見られると気が散るって言ってんだろ!」

 

「お構いなく」

 

「話が通じねえ……!」

 

 頭を抱えて悶え出した。もしかしたら低温と高温の連続曝露で血管がキュッとなってるのかもしれない。いかんぞヒートショックは。

 

「──あっくん、なんか変な音? 声? が……」

 

「…………本当だ……」

 

 確かに何かうめきのような声が、列車のけたたましい走行音に紛れて聞こえた。

 

「──ハッ! まさか下にワームが!?」

 

 急いで下を覗き込む。

 そこには見慣れた金髪がたなびいていた。

 

「あああ……」

 

「三船君!? なにしてんだ!」

 

 窓から三船くんが落ちそうになっている。いっそいで引き上げると、真っ青な顔で言い訳をし始めた。

 

「ぼ、僕も見ようと思ったんですけど……紐が窓に引っかかって……」

 

「う、ううん」

 

 ドジが過ぎる。

 赤ちゃんに紐を近づけちゃいけないとはよく言うけど、三船くんも紐禁止令を出さなきゃいけないのかもしれない。

 

「なんだコイツら……」

 

『だいじょーぶー!?』

 

 心配そうなミツキの声が下から聞こえてきた。

 

「回収した! ていうかコウキさんが助けろよ!」

 

『おまえの弟子だろ』

 

「そういう問題じゃねえ! ったく……」

 

 子供に優しくしろよ……ミツキ以外には本当雑だな、クソモヒカン。

 

「あっくん!」

 

「ああ!」

 

 あっくんは背負っていた弓を構えた。

 呼びやすくていいな、あっくん! 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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