【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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110_列車行

「うーん……はっ!?」

 

「おはよ」

 

「あ、うん…………なんだったっけ」

 

「は?」

 

 レイトは目覚めた。寝起きのボケた頭で覚えているのは夢の内容だけ。明宏と一緒に野犬の群れを食い尽くし、頭につけたのは借りたヘッドホン、悲しくてシエルと一緒にシャツを買いに行ったこと──そして、寒さで身を縮める。あまりにも夢の中と違いすぎた。

 

「寝惚けないで」

 

「うえ?」

 

「あと、退いて」

 

「……うわあ! ご、ごめん!」

 

 自身の頭が乗っているものの正体に気づいた瞬間、慌てて頭を上げる。生暖かい視線が周囲から集中しているということも関係していただろう。後頭部が触れていたのは細身だが確かに柔らかい肉感──前にも触れたものだ。

 FUTOMOMO

 彼が頭を横たえていたものの正体だった。

 

「普通に枕かと思ってたんだ! いい匂いだし柔らかかったしちょうどいい高さだったから! ほんとごめん!」

 

「…………いい」

 

「ちょ、待って! 言い訳させてください!」

 

「な、なにが? ……落ち着いて」

 

「いや、その!」

 

「落ち着いて」

 

「…………そうもいかないよ!」

 

 心なしか赤い顔、いきなりの接近、やや狭められた眉は何かを堪えているように見えないことも無い。

 レイトは狼狽えた。狼狽えたし、やらかしたと思ってパニックに陥った。

 ──いまだに彼女の心がよく分からない。そんな顔をするなら膝枕なんかしなければいいのに。床に放置されてても文句は言えないし言わない。だから、もう良いなどと言わないでほしい。不貞腐れてしまっては対話もできない。

 

「三船くん、餅つけ」

 

「で、でも……ん? ……加賀美さん?」

 

「なんですか」

 

「揺れてる……」

 

「ゆらゆら〜」

 

 ライトの言葉に同調するように腕をくらげのように動かす明宏。レイトは自分が何かを確実に忘れていると、窓の外を何気なく見て──広がっていた白に思い出す。

 シエルのもこもことした格好、起きただけで腹が痛くなりそうな冷えた空気、巨大なワーム、そして……光! 

 

「あの、その、光のなんか、よくわかんないけどなんか!」

 

「うんうん、そうだな」

 

「え、なんだったんですかあれ!?」

 

「あれはコウキさんの異能」

 

「異能!? でも、あ〜んなに大きなモンスターが飛んでたんですよ!?」

 

「うん、だって元一級だし」

 

「一級って……すごい……」

 

 少なくとも自分が一生頑張ってもあんな威力の攻撃を出すことはできない。自分が今乗っているのと同じくらいの巨体がまるまる空中をかっ飛んでいったというのは、彼の価値観からしては考えられないことだった。

 

「疲れてたのか? 気絶しちまったのは」

 

「あの……凄すぎて気が遠くなっちゃいました」

 

「ははっ! だろうと思った」

 

「へへ…………はぁ」

 

「──なあ三船くん、あんなのは目指してなれるもんじゃ無い」

 

「え」

 

 唐突に、レイトの内心を見透かしたかのように明宏は語り始めた。

 

「いつのまにかなってるんだよ、ああいう奴らは」

 

「…………」

 

「やりたいこと、なりたいものを目指して進み続けたら、いつのまにかあんなところまで行っちまったんだ」

 

「…………」

 

「どうでもいいことに気を取られてちゃダメだぜ」

 

 明宏は含蓄の深い顔でそれを言っていたが、レイトはやや白けた気分というか、あんたに言われても……という気持ちでそれを聞いていた。

 

「ゔぉい! 人を指してどうでもいいことってなんだ!」

 

「あー! ひっついてくんな!」

 

 それにしても……と、先ほどの異能を思い返すだに少年の心は震えるようだった。

 憧れるなと言われても、あんな事を見せられてワクワクしないわけはない。その前に見ていたレンやアツシの異能も十分に感動の対象だったのに、最後のに全部持っていかれた。

 

「異能かあ……」

 

「レイト、お前はどんな異能が欲しいんだ?」

 

 コウキは明宏を押し退けると、純粋な疑問を投げかけた。

 

「欲しい異能…………っ」

 

 当然の話ではあるが、人が欲しがるものは自分に足りないものだ。その足りないものを戻せる異能なんて、思いつくことはできなかったを

 

「──な、なんか強そうなのがいいです!」

 

 結局、当たり感触のないフワフワとしたことを述べるにとどまった。それを受けてコウキは呑気に天井を見上げる。

 

「強そうなのねえ……まあ、強いっつったら肉体系の異能はシンプルに強いやな」

 

「そうなんですね」

 

「単純なレベルよりもスケールの大きな力が出せるからな。例えば腕がドラゴンの腕になったり」

 

「……それって、戻るんですか?」

 

「戻せるやつと戻せない奴がいる」

 

「ひえぇ……」

 

 戻せないならいらないと右腕を見て気付く。そういえば自分には腕が無かったんだということに。その代わりについているのは、明宏がくれた新たな腕。

 馴染んでしまったせいで、もはや自分でも半ば忘れかけていた。最初の頃は寝る時にやや鬱陶しさを感じることもあった駆動音、今では何も音がしないような気がしている。それでも確かに、接続部をいじるとカポッと外れた。

 

「やっぱり義手か」

 

「わかるんですか?」

 

「音がな」

 

「……僕には分からないです」

 

「駆け出しの探索者と耳が一緒なわけねえだろ」

 

 単純な視力、聴力だけの話でもレベルが上がるほど違う段階に到達する。より微細な変化を感じ、異なる要素を見つけ出すのに向いた身体へ変化していくのだ。

 両者のレベル差は約80。コウキの言う通り、何から何までが違う。

 

「それにしても、レベル10て……才能はねえな」

 

「…………」

 

「お前ら2人とも、もっとダンジョンに行った方がいいぞ」

 

「はい……」

 

「俺がお前らくらいの時はもっとガムシャラにやってたもんだ」

 

「…………」

 

 年上からの説教じみた自慢に黙り込むしかない。レイトはこういった圧力にとても弱かった。

 

「お父さん、やめて」

 

「え?」

 

 そこに割り込んでくるのはミツキ、見るに見かねていた。父親がお門違いな説教を幼馴染の弟子たちに垂れ流しているのはとても耐えられないというわけだ。

 目の前でお説教被せお説教が始まり、気まずくなったレイトは再びシエルの隣へ舞い戻った。先ほどのこともありシエルに対しても若干の気まずさはあるが、親娘喧嘩? の場にいるよりはずっとマシだ。

 

「戻ってきた」

 

「う、うん……」

 

「腕見せて」

 

「え? はい」

 

 左腕を見せる。

 

「違う」

 

「こっち? 腕って言っても義手だよ?」

 

「いいから」

 

「わかった」

 

 義手を差し出すと、ペタペタと触る。

 

「あったかい、機械なのに」

 

「え? …………確かに、あったかいね。前はそんなこと無かったんだけど……」

 

 当初はひんやりとした感触だったと自身の記憶の中にある義手は確かに、熱を持っていた。あの時は夏で、今は冬。温度を一定に保つ能力でもあるのだろうかとボーッと考えるレイトの前で、シエルは義手の表皮をグィィと引っ張った。

 

「いてっ」

 

「…………?」

 

 軽い痛みに声を上げるレイトを不思議そうな顔で見ると、今度はつねる。

 

「いたた! シエルちゃん、やめてよ!」

 

「…………」

 

 無言。

 そのまま手のひらをくすぐる。

 

「なに、どうしたのシエルちゃん? ちょっと怖いんだけど……」

 

「変なの」

 

「──!」

 

 大ショック。

 そんな事を言われる筋合いはない(n回目)。

 レイトは、自分とシエルでどちらが変かと言えば確実にシエルに軍配が上がると確信していた。義手を取り上げると装着し直す。

 

「なんなんだよもう……」

 

「繋がってないのに痛いんだ」

 

「………………!」

 

 確かに。

 シエルに渡したのは外した義手だ。装着している間は神経が繋がっているから色々感じとれるのも理解できた。しかし、外した状態でそれを感じ取るというのは普通のことなのかといきなり疑問が舞い込む。

 

「そういう機能もあるんだろ」

 

「そうなんですか?」

 

「分かんね、俺も仔細詳らかに調べたわけじゃねえからな」

 

「しそうつまぶき」

 

「まぁ〜気になるなら今度店に聞きに行くか?」

 

「あ、お願いします」

 

「帰ったら割とすぐに鍛治師のズングリーズがやってくるから、その後になっちゃうけど」

 

「大丈夫です! ……ズングリーズってなんですか?」

 

「ずんぐりむっくりどもの事」

 

「…………あ」

 

 レイトはここで気付いた。

 明宏がどれくらい鍛治師達についていくのかは分からないけど、今のうちに自分たちができる事を考えておかないといけない。

 日向達に稽古をつけてもらってばかりでは自発的な成長は見込めない。やはりここはダンジョンに行くのが一番だろうか。しかし第100セクターはもう懲り懲りだ。少なくとも冬季に行く気は起きない。

 そうなれば別のダンジョンというものを想定しないといけないが、レイトがまず思い付いたのはアンダーだった。

 彼にとっては血に呪われた、忌々しい場所。

 

「──レイト、とりあえずあの女に相談しよう」

 

「方目さんのこと?」

 

「そう」

 

「うーん……」

 

 普段の姿はともかく、明宏に絡んでくる時の姿は大抵酷いものなのでそこはかとない不安があった。しかしシエルの言うことが間違っていたことは基本的にない。

 シエル自身も明宏に対しては辛辣に当たることが多いが、本当に明宏にだけなのでレイトを酷い目に遭わせることはない。

 

 ──レイトの周りの知り合いは、大抵明宏に辛辣だった。評価はしているが、それはそれとしてということだろうか。

 

「帰ったらね」

 

「うん……」

 

 すでに列車に揺られて数時間経っている。シエルは眠くなってきたのか、フードを深く被ると目を閉じた。先ほどまで膝枕をしてもらっていた身として、何かしなければという義務感がレイトの中に生まれる。

 

「横になる?」

 

「ん」

 

 明宏と永井が席を開けて備え付けのラウンジへ行っているためスペースには余裕がある。シエルはヘッドホンをつけてモゾモゾと身体を横にすると、程なくして小さな寝息を立て始めた。

 

「疲れてたんだね」

 

 寝返りなどでシエルの身体がシートから落ちないようにさりげなく支えながら、眼前の2人を見た。

 

「だからさ、いつも言ってるよね。人前でいちいちカッコつけんのダサいって」

 

「…………」

 

「もう引退したんだから、大人しくなりなよ」

 

「引退っつっても活動はできるし……」

 

「は? 意味わかんない」

 

 口喧嘩というにはあまりにも一方的で、人が寝るにはややうるさい。父親が娘に勝る通りなど無いのだが、シエルがヘッドホンをつけた理由は明らかだった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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