【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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112_経験則

 

「それでラウンジでひと暴れしてきたってわけか」

 

「やりようはありますから」

 

「けっ、俺よかお前のがよっぽど血の気があるぜ。やっぱり」

 

「それほどでも」

 

「褒めてねえよ」

 

 明宏も腕や顔に軽い打撲を負っていたが、それでも所持品は奪われていない。3対1にしては極めて軽微な被害だった。

 

「やっぱり複数人パーティーは良いですね、連携が取れる」

 

「なんで相手を褒めてんだよ」

 

「羨ましいなって」

 

「その割にケガ少ねえけど」

 

「それとこれとは別というか」

 

「……はあ」

 

 深いため息、喧嘩っ早いとは言わないが血の気が多い。普段はそれを抑えているのだろうけれども、機会があれば表に出てくる。本当にこいつはジジイなのかと思いたくなるような気質だ。

 

「人のナイフをジロジロ見て後ろを陣取るような連中でしたからね」

 

「お前から殴りかかったって聞いたんだけど」

 

「語弊がありますね。肩を強く握られて痛かったので思わず反撃しただけですよ」

 

「当たり屋かよ」

 

「俺にとってこのナイフは相棒ですから」

 

 にべもないとはこのことかという、コウキの言葉などまるで受け付ける気がない態度に閉口する。しかし、ミツキはそんな態度にも怯まない。

 

「ばか! なんで怪我するようなことするの!」

 

「今言った通りだけど」

 

「そんなこと聞いてないでしょ!」

 

「まあ、はい」

 

 怒りをあらわにしたミツキの、その怒りの根源が何かを理解しながらもツラっとした顔を続ける。

 

「そういう無駄な喧嘩するくらいならごめんなさいして早く戻ってきて!」

 

「んなこと言われても……ごめんなさいなんてしたら速攻舐められてボコられるぞ」

 

「よく分かんないけど暴力はダメ!」

 

「よく分かんないかあ」

 

「ほら、みんな見てるよ!」

 

「みんな見てるのはお前が大声出してるからだなあ」

 

 暴力というか腕力というか、そこら辺に関する感覚はミツキよりも明宏の方が探索者としてマトモだ。舐められたら搾取されるのが当たり前であり、会社勤めなどのような緩やかな搾取よりも遥かに直接的にぶんどられる。そのため探索者は体面というものを大事にするのだ。

 

「私だってこんなこと言いたかないけどさあ」

 

「言わなくて良いよ」

 

「そうじゃないでしょっ!」

 

 父親に探索者として高みに登った四門光輝がいるが、それはそれとしてミツキは彼のモヒカンを受け継いだりはしていないし、彼ように見た目からチンピラ感に溢れてもいない。小物感だけ受け継いでいる。

 探索者のイロハなど興味ないし、これからも学ぶつもりはないだろう。

 

「わかったから、俺が悪かったから……」

 

「ふん、ざこがあ!」

 

 どこで覚えたんだそれと言いたくなるような貧弱な悪口。彼女の父親も微妙な顔をしている。

 

「ホラ、ココスワッテ!」

 

「なぜカタコト……」

 

「膝に手乗せて!」

 

「はい」

 

「背筋伸ばして!」

 

「これは……」

 

 本当の意味で行儀のいい姿勢を取らされた明宏。周囲の乗客はくすくすと笑いながら、微笑ましそうにその様子を見ている。

 暫くそのまま、ミツキのお説教を聞かされた。

 

「──結構降りたな」

 

 第18セクター。

 家に帰る路線上の停車駅。

 第1セクターとは違って市街地中心部に駅がある。むしろ、中心から外れている第1セクターが例外なだけだったりする。

 基本的にはセクターに近い位置に駅が設置されているのだ。

 

「さっきよりも寒くなってません?」

 

「ここの方が標高が上だからな」

 

 一応暖房はあるが気休めだ。延々と雪を降らす雲は昼間か夜かもわからないほどに太陽の光を妨害している。そのせいで一層の冷え込みが列車の中に入り込み、レイトも足元から上がってくる冷えにウンザリして席上に足を乗っけている。

 乗せているだけだと寒いままなので靴を脱ぎ、明宏の太ももにペタリとつけている。

 

「……本当に良いんですか?」

 

「寒いんだろ?」

 

「まあ、はい」

 

 最初は靴の中で冷えていた足も、被さった毛布と明宏の体温で割と温まった。むしろ今は上半身の方が寒いくらいだった。それでも、足先さえ暖かければ全身が冷え込むことはないのでウトウトしている。

 ワームの襲撃など無かったかのように穏やかな時間が流れていた。

 

 そして、同じように寝ているシエルと足元の温かな感触に、つい気が緩んだ。

 

「…………ふへ」

 

「ん? なに?」

 

「あ、ご、ごめんなさい……」

 

「えっ……謝んなくても良いけど……」

 

「…………」

 

 レイトの内心を占めるのは、恐怖だった。

 

 今、自分は何を考えた? 

 こんな日々が続けば良いな、なんてそんな事を考えたのか? あの日のことを忘れてしまったのか? 

 死を背負う覚悟を問われて頷いたのは自分のはずなのに、1年も経たずしてこんなに腑抜けたのか? 

 彼女達のことを忘れてしまうのか? 

 

 途端に冷たくなる臓腑。

 足先の熱も感じ取れなくなったような、そんな──

 

「寒そうだな」

 

「──」

 

 バサリと被せられたのは明宏が着ていた上着。人肌の温もりに加え、彼の匂いがした。やかましい匂いだ。

 

「まだ寒いか?」

 

「…………少しだけ」

 

「そか……でもまあ、あんまり暖かすぎると逆に眠れなくなるからな。それもあれば熱も籠るだろうし、大丈夫だ」

 

「……」

 

「おやすみ」

 

 

 ──────

 

 

「──エリュシオン?」

 

 暗くなった車内。

 運転士は探索者では無いので列車は夜は動かない。

 駅に止まって、そこで朝を待つ。

 騒がしいのはラウンジくらいのもので、そこでは酒をまだ呑んでいるやつらがいるのだ。中に入らなければ聞こえない程度の音には抑えられているが、逆に言えば中は割とやかましい。

 

 明宏に付き合ってもらおうと思っていたのに、レイト達のそばを離れるつもりはないと断られてしまったコウキ。朝までの時間潰しをしようとやってきたそこで、アツシ達に再会した。レンは酔っているようでアツシにベタベタとくっついているが、慣れたものなのかいなしている。

 

 邪魔しては悪いとコウキは別の席を選ぼうとしたが逆に──こんな時じゃないと話せない! 俺はコウキさんと飲むんだ! と酔っ払いが引く熱量でレンを説得して3人同席となった。

 

「…………」

 

 なぜ俺がジト目で見られにゃならんのだ、と若干の不満を抱きつつもファンを無碍にはできないのであくまで内心に留める。それに、時間を潰すという目的には合致している。

 適当な雑談をしていればすぐに朝だろうとアツシと話をすることにした。

 

「くぅ……くぅ……」

 

「なんなんだ? エリュシオンってのは」

 

 生い立ち、レベル、武器、倒してきたモンスター達などを楽しそうに語るアツシ。コウキも適度に相槌を打ち、時折モンスターや武器などについて豆知識程度の話をしたりしていたのだが、その中でアツシが切り出したのだ。

 最近、巷で噂になっているがどう思うか、と。

 

「え、知らないんですか!?」

 

「知らん」

 

「アレですよ! 道端で演説をしている、フードを被った吟遊詩人達!」

 

「そりゃあ詩人はいるだろうがよ……」

 

「探索者憎しでアンチ活動をしてるっぽいやつらです」

 

「…………ああ、なんか知り合いから聞いた気がするわ」

 

「あんな奴らをのさばらせておくなんて、商工会は何考えてるんですかね」

 

「ぶっつぶしゃいいじゃねえか」

 

「人間ですから……あ、いやどうなんだろう」

 

「探索者がそんなことやってんのか?」

 

「多分そうだと思います。異能持ちなんで」

 

 何もないところから水を出したり、雷を降らせたり、水を酒に変えたり。不思議な異能を持つ人間達で構成されていた。しかも、探索者や商工会を敵視するような言動が見受けられる。出会した探索者たちの中で噂となり、酒場で話が広まっている真っ只中だ。

 

「雷を降らせる? 発生させるんじゃなくてか?」

 

「本当に見たことないんですね……」

 

「だから無いっつってんだろ」

 

 コウキはすでに引退した探索者だ。基本的には散歩したり、家で寝転がっていたりする。金がたんまりあるから働く必要も無い。見た目の年齢は明宏と大差ない無職のおっさんだ。

 何が言いたいかというと、その強さに翳りがなくとも、用事が無いのに商工会を訪れることはない。

 探索者達が何を言って〜とか、彼の知ったことではないのだ。

 

「大抵は綺麗な子が喋ってて、その後ろに用心棒がいるんですよ」

 

「ふーん」

 

 コウキは記憶の浮きを手繰り寄せるが、奥深くに沈んだ錘に引っかかったものは釣り上がらない。やはりその集団に出会していないのだと確信を深めた。

 しかし、彼の知る一級探索者どもは細々としたことに興味の無い──持つことができない憐れなアホばっかりだ。正気を失くし、人のモヒカンを見れば馬鹿笑いを上げるやつら。詩人がどうとかは自分の名前でも上がっていなければ興味の対象にもならないし、仮に見たとしても記憶に残らないだろう。

 

「まあ、あいつらは当てにならんか……」

 

「あいつらって?」

 

「一級どもだよ」

 

「ふおお……!」

 

「んだよ」

 

「ど、どんな人たちなんですか?!」

 

「ああ……まあ、イカれポンチが9割だな。残りの1割は目が死んでる」

 

「グレイブブレイザーとかはどんな感じなんですか……?」

 

「死にたがりだな」

 

「平面定理は?」

 

「あいつとは二度とやらん」

 

「ワームスレイヤーは?」

 

「ただの変態」

 

「自分のことは?」

 

「唯一まとも」

 

「…………」

 

「マジマジ。だって、一級の中で一般人と結婚して続いてるの俺だけだし」

 

「そうなんですか!?」

 

「ああ、パンピーと一緒に暮らすようになるとだんだん狂ってくんだよ」

 

「狂ってく……?」

 

「俺たちは……俺も含めていつまでも人間のつもりなんだ。力が強いってわかってても制御してれば無害だし、異能だって使わなきゃ他の誰にも分からねえ」

 

「そうっすね」

 

「でもよ、普通のやつと一緒に住むとボロが出る。夜眠るのはそいつだけだし、冬だって別に寒くねえ。そうすると、自分が人間じゃねえような気分になるんだ」

 

「へー」

 

「きちいぜ正直」

 

 コウキは、苦々しげに顔を顰めた。

 

「あの感覚は…………身体がどれだけ強くても耐えられねえんだ」

 

「人間じゃなくなるって、なんかカッコ良さげですけどねえ」

 

「……そんなのは最初の一瞬だけだ」

 

「俺は耐えますぜ!」

 

「へっ、やってみろよ。少なくとも俺は耐えられなかったけどな」

 

 弱み。

 強い探索者であるほど、他者にソレを曝け出すのは難しくなる。彼らを一級たらしめる意地が意思の発露を邪魔するのだ。

 鬱々と内部に溜まる圧迫感。

 そうして、強さの代償に彼らは狂っていく。

 会話はできているが、どこか通じていない。

 それが彼ら。

 パーティーで生き残っている一級は割と通じるが、基本的には自分以外全滅しても生き残ってきた奴らの寄せ集めなのだ。

 

「…………あれ? 耐えられなかったなら、なんで普通に話してるんすか? ──まさかこうしてる瞬間にも狂ってるんすか!? ぱねぇ!」

 

「んなわけねえだろ」

 

「え? じゃあどういうことっすか?」

 

「…………まあ、あれだ。キッカケがあったんだよ」

 

「キッカケ? なんすか?」

 

「…………」

 

 その質問は受け付けずにボーッと前を見つめる。

 聞かれたくないことだとなんとなーく理解したアツシは話題を戻した。

 

「そうそうエリュシオンですけど」

 

「ああ、そんな話だったか」

 

「エリュシオンに入るとレベルを上げたり変なことしなくても異能を使えるようになるって言ってましたよ」

 

「あ? ……んなわけあるか、アホ臭え」

 

 理論としてでなく感覚の話ではあるが、コウキはそれを切り捨てた。

 

「だいたい、そいつらが探索者だと思うってお前が言ったんじゃねえか」

 

「でも、あの女は──」

 

「俺が言ってるんだからねえんだよ」

 

「そうっすね! ──あれ、レン?」

 

 潰れたレンを介抱するためにラウンジを去ったアツシ。

 1人になったコウキは、はっきり回転している脳神経で言語野に指示を出した。

 

「何もせずに異能を使えるようになるだと…………バカが……」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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