【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
幾何学模様が緑に輝く空間。
「ここは……ボスでもいそうだな」
「そんなのいねえよ、ダンジョンじゃねえんだから」
明宏は自分の今いる場所が元の32セクターからどれだけ離れた場所なのか、時間と進んできた方向から算出しようと何回か考えた。しかし、それをやろうとするたびに頭痛がするので流石にやめた。
やめてよ! と一生懸命抗議されているようだった。
「ここまで来るのも長かったからな、一旦座ろう」
一行は、辿り着いた大広間で一度ここで休憩を取る事にした。ミツキは座り込んで明宏に体重を預けている。
「もうつかれちゃ〜……」
「はいはい」
一般人がいきなり通常の数倍以上の時間を活動すれば、疲れるのは当然というものだ。しかし、フィアステラが厳しい言葉を放つ。
「この程度で根を上げていると、この先が辛いですよ」
「えー!」
「帰りますか?」
「帰らないぃ……」
「そ、即答……よく分からない人ですね…………ああいや、わかりやすい人でしたか」
疲れはしたが引き下がるつもりは毛頭ない。ミツキはコレがあくまで一時の休憩でしかないのだと親指を立てた。
「こうするのが一番回復しますから!」
「横になるのはあまり推奨しませんが……」
「それは普通の話でしょ! 私はこうするのが一番回復できるんです!」
「……まあ、寝なければ問題はないでしょう。本日はキャンプ地まで行く予定ですから、そこまで寝落ちするなんてことがないようにしてください」
「はーい?」
何もない空間というわけではない。例のイーヴァという神の像が四方に置かれており、クアドラプルデカパイアタックを繰り出している。
「圧が……」
ミツキは像に囲まれて落ち着けないようだ。
「まあ、霊領だからな」
かくいう明宏も余裕綽々の顔をしながら気を張ってはいた。なにせ霊領だ。鍛治師達に何らかの恩恵をもたらしているであろう神の領地。まさか32セクターの地下にこんな場所があるとは夢にも思わなかったし、いつ全身から血を噴き出してもいいように構えていた。
しかし、とある事に気がつく。
「あれ?」
「──なあに?」
明宏は、ミツキの顔を見た。
何でもない顔をしているので、ほっぺを軽く引っ張る。
「ふぁひふんふぉー」
「頭おかしくなったりしないか?」
「ふぁひひっへんほ」
「鼻血とか」
「もー、バカなんじゃないの? さっきから何言ってんの?」
彼が知る限り、霊領に足を踏み入れた人間は全員が正気を失ったり出血したりしている。もちろん彼自身も含めて。
それがどうしたことだ。
彼女は何も無いではないか。
「お前……何なん?」
「はあー!?」
「いや、本当におかしい」
スカルチノフの如く寝転んでいる幼馴染は、前日黒だったのとは対照的に白だ。洞窟の仄暗い灯りをきっちりと反射して目立たせている。
そんな彼女を、明宏は人生で初めて心の底からおかしなやつだと思った。
「──何がおかしいんですか?」
そこに突っ込んだのはフィアステラだった。彼が何を訝しんでいるのか、それが逆にわからないらしい。
「いやあ、俺は趣味で霊領の研究に関わったりもしているんですけどね。霊領に初めて踏み入った人間ってのは大抵、精神状態に異常をきたすものなんですよ」
「……そうなんですか?」
ヴォルフガングに疑問を横流しする。
「いやあ、俺は聞いたことないな」
「私も無いですね」
2人の反応を見て、腕を組む。
「厳密には霊領じゃないってことか?」
「そうなのかもしれませんね。霊領に関しては一般的な知識程度しかありませんが、少なくともここを訪れた人間にそんな邪悪な症状は出ませんよ」
「……そうですか」
半ば納得したが、下から圧力が迫り上がってくる。そこに込められた根源は恨み。
誰の恨みか。
「私のことを変なやつみたいに言ったのはどう償ってくれるんでしょうねえ……!」
「ああ、誤解だよ」
「誤解な訳ないでしょ!」
「そんな喚いても何も変わらないぞ」
「こんにゃろお!」
「…………元気そうだな。2人とも、もう大丈夫そうなので行きましょうか!」
「うそうそ! うそだよーん! あーもう足いたたあ〜」
「しょうがねえな……もう少し継続だそうです」
昼飯を食べ終えるまでの間、ミツキの貧弱な足を回復させる試みがなされた。
「──ふっかーつ!」
「あら、元気ですね」
「もう行けます! どこにでも!」
「では行ってもらいましょうか」
「え?」
──────
「ここに立てばいいんですか?」
「はい」
「あの、何ですかコレ」
困惑の面持ちで広間の中心に立たされたミツキ。フィアステラは炭で何かを地面に描いていく。
直線の集合体。ミツキを囲うように形をなしていくそれを見て、明宏の脳裏に浮かんだ言葉がそのまま放たれた。
「……魔法陣?」
六芒星が特徴的な模様、いわゆる魔法陣を刻んだフィアステラはその言葉を聞いて驚きを大きく露わにした。
「ど、どういうことですかヴォルガング!」
「わからんっ! 俺は何も教えとらんぞ!」
「ではどこかで学んだということですか……? それこそ信じられない……には載ってないはずでしょう?」
「不可思議……!」
いきなり慌て出すと、明宏達に聞かれぬようにヒソヒソと隅っこで話し始める。2人は置いてけぼりだが、明らかに狼狽している鍛治師達を見て早くしろとは言えない。
「私、いつまでここにいればいいのかな……」
「案内してもらってるんだから贅沢言っちゃダメだぞ」
「贅沢では無いよ……」
長時間待つ事になるかと覚悟したミツキだが、少し話せばカタが付いたのかフィアステラは何事もなかったかのように魔法陣作りを再開した。
彼女が魔法陣を描いている間、雑談タイムに入った。
「まさかコレを書かないと入っちゃダメ的なやつ?」
「どういうこと?」
「儀式として、ここの中で洗礼を受けないとここから先に進んじゃダメってことがあったりして」
「???」
「そういえばヴォルフガングさん、今はコレ何やろうとしてるんですか?」
「んお? ……なんじゃ、やはり知らんのか」
「何をです」
「んんっ!」
胸を撫で下ろした鍛治師は仰々しく姿勢を正すと、とある方向を指差した。
「今より我々は、イルヴァの牙に向かう」
「なんですかそれ」
「無論、我々鍛治師の拠点じゃよ」
「……聞いた事ないですね」
「そりゃあないじゃろ。表の奴らではごく一部しか知らん」
「そんなの俺たちに教えていいんですか?」
「神器ってのはそれだけ重要なんじゃよ! 何でここの連中はそれが全く解っとらんのだ! 国ぐるみで保護するべきじゃろ……」
「俺のナイフ、奪ったりしない?」
「気持ちは分かるがな……そんなことしたらイルファーレ様に叱られちまう」
「おお……純粋な信仰だ」
明宏は眼前の鍛治師の表情から、それが紛れもない信仰心であることを理解した。秋川家もそこそこ信仰心は強かったが、どちらかと言えばあれはフーリガンとかそういう類だ。山で生まれただけの犬──コマちゃんに対してのあの好感度はバグっているとしか言いようがない。
しかしヴォルフガングの表情から滲み出るのは感謝と敬意だった。
「──よし、できた」
すぐに描き終えた模様。
ミツキは何が始まるのか期待と不安に包まれた。
「な、何が起きるんです?」
「まずは砦に行かなくちゃならんからな、ワープ──ブリンクじゃよ」
「へ? ブリッ……あれっ、な、なんか視界が……ぐにゃぐにゃしてきたよおおおん……」
突如として捻じ曲がった空間、渦巻きの中へ吸い込まれるようにしてミツキの体が丸ごと消え失せた。残されたのは鍛治師2人と、戦慄した表情で今しがたミツキの消えた場所を見つめる明宏。
ゆっくりと開いた口が、彼の粟立った言葉を届ける。
「おいおい、人為的なブリンクだと……!?」
それは、少なくとも彼の調べた限りではあり得ないことだった。ブリンクはそもそも発生方法も、原理すらも、まともに解明されていない。解明していないものを操ることは不可能だ。それが科学であり、人類の現在における立ち位置のはず。
だというのに、この魔法陣の中心に立っているだけでミツキは確かにブリンクに巻き込まれた。
それはつまり、魔法陣にブリンクポイントを作り出す力があるという事を意味している。
「どうだ? 凄いだろう?」
「凄いとかじゃない! そういう次元じゃないだろ!」
そもそも、魔法陣とはなんだ。
「なんでコレがこうなるんだ!」
彼からしてみれば、ただなんとなくかっこいいだけの模様だ。そこにはなんの力も──電磁気力、重力、弱い力、強い力のいずれも働かない。
あくまで平面的に描かれた模様でしかなく、宗教的な儀式を経る上で意味を持つことはあるものの、それ以上のことはない、はず。
「な、なんっ……なんだこれは!」
それは異世界にやってきて、モンスターや魔素という存在を初めて知った時に匹敵する程の衝撃だった。ミツキが1人でどっかにブリンクしたという事を忘れるほどに。
魔法陣を指差して憤慨する。
「技術レベルが違いすぎるだろうが!」
「技術ってかなあ……そんなこと言ったら列車とかあんなの俺らには作れんぞ」
「あれは根本的に蒼連郷の人間の痕跡じゃねえ! 過去から受け継いでいるだけで、ゼロからとなりゃあ1000年単位で時間がかかる、そういう代物だ! だけど……なんだよこれ!」
「まあな、コレがなきゃ秘匿の難易度は段違いだったのは間違いねえ」
「…………んぬあ! 気になるけど後だ後! 次おれ!」
魔法陣の中心に立つと、少ししてぐにゃぐにゃ曲がる視界。あっという間に辿り着いたのは別の広間。
「──うわああああん! 不安だったよおおお! なんで全然来ないのおおおお!」
到着した途端、1人だけ訳もわからず先行させられていたミツキが泣き出した。明宏は短く頭を撫でてあやすと、自分が今やってきた場所にへばりついて観察した。
しかしそこには何も無い。
あくまで先ほどと同じく石製の床や壁の溝から緑の蛍光が発されているだけだった。
「──問題無いですね」
程なくして鍛治師2名もブリンクを行い、こちら側へやってきた。もうこうなると、ここがどこかというのは明宏にはさっぱりわからない。
もう少し観察していたかった気持ちはあったが、ヴォルフガングが早々に出発する予兆を見せたので後ろに着く。
「フィアステラ頼むぞ」
「はい」
この空間は外に近いようで、広間から繋がる通路は少し歩けば光が奥から漏れているのが分かった。段々と近づいてきた出口を潜ると──
「うひょおおおお!?」
崖だ。勢いよく突っ走っていたら間違いなく落ちていた。人が歩くことができるだけの幅を有した地面は壁に沿って存在しているが、手すりも何も安全策が無い。
ミツキはキュッと、何とは言わないが力が入る。
無意識に求めた手が彷徨い、彼の手を握った。
「そうだな、落ちたら危ないからちゃんと握るんだぞ」
「うん」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない