【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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117_グリムス砦

 

「うう……?」

 

「おはようミツキ」

 

「あよ……」

 

 目覚めると、体全体がガチガチに強張っていた。ミツキの寝起きの脳みそは一瞬で状況を思い出す。自分が今何をしているのか、どこにいるのか。

 あちらへ飛べば、次はこちら。目を離せば視界を飛び越えて誰も予想がつかぬ場所を目指して突き進む幼馴染。

 このままでは置いていかれる。

 そんな焦燥感が胸のうちを満たしていた。

 だから、自分も変わらないといけないと思った。

 大学をサボるのは良くないことだけど、彼女の幼馴染はサボるなんてもんじゃ済まないくらい頻繁に休んでいる。それでも問題無く単位を取得しているのは懇意にしている先生の力だ。

 

「良い天気だ」

 

 風が強く吹いている音が聞こえてくる。

 

「朝飯を食ったら出発だな」

 

 穏やかにそう言い放った明宏の顔は何もブレない。風や雪程度には負けぬと言っていた。

 

「脚、痛いか?」

 

 朝ごはんを食べながらミツキへ尋ねるのは、この場で最も足手纏いになっている彼女がこれ以上の足手纏いになるかを確かめるためだ。素直に頷いたミツキだが、衣擦れや足の裏などは既に問題ない。寝る前の時点で回復薬を吹きかけていた。

 しかし、かけたのはピンポイントに負傷部分だけだったので筋肉痛は治っていない。起きた瞬間から彼女の全身──主に下半身を疼痛が襲っていた。

 

「痛い」

 

「へっ」

 

「回復薬使ってよ」

 

「ダメです、大怪我した時のために残します。筋肉痛で一々回復薬なんか使ってたらすぐ無くなるからな」

 

「うー……」

 

「着いてくるって決めたなら最後までやり通せ」

 

「このドラゴン! ワーム!」

 

「なんとでも言え」

 

 先日よりもさらに強くなった風。

 吹雪で一歩先も見えない。普通の人間ならば行軍を諦めるだろうが、生憎彼らは普通の人間ではない。鍛治師二名、探索者一名、髪の毛の色が変わる人間一名だ。

 

「私だけ……格下すぎる……!」

 

「それは差別だな」

 

 道のりは結局のところ、環境が多少酷くなっただけで前日と変わらない。歩き続けると風雪は和らぎ、やがて一時的な晴天へと変じた。

 

「全然嬉しくない……」

 

 空などどうでも良い。

 風などどうでも良い。

 ただ、脚が痛い。

 その一心を堪えながら、泣きそうになりながら──なんなら時折、片目の端に雫を溜めながら着いていく。

 一般人にはあまりにも過酷な道のり。レイトやシエルでもブー垂れながら進むだろう。しかし、希望の艀というものは突然に現れる。

 フィアステラが振り返り、ミツキに笑顔を向けた。

 

「ほら、あそこ見てください」

 

「……?」

 

 そこには何もない。

 何もないが、確かに何かが視界を邪魔していた。まだ遠く、しっかりと視力の範囲内に収める事ができないためかと思ったミツキの予想に反して、近付いてもよくわからない。

 透明な何かが確かにゆらめいて、そこにあるということだけは分かる状態だった。

 

「なんです? これ」

 

「これは『遠ざける輝き』と名付けられた壁です」

 

「ヘェ〜……触っても大丈夫なんですか?」

 

「不用意に触れると敵対者と見做されるのでやめた方がよろしいですよ」

 

「やめます!」

 

「そうですね、それが良いでしょう」

 

 しかし、触ったのをやめたからと言って何が起こるわけでもない。

 

「…………あの、これはなんなんですか?」

 

「簡単に言えば、砦を守る壁ですね」

 

「砦? この先にあるんですか?」

 

「あります」

 

「……どうやって行くんですか?」

 

 壁は崖道を塞ぐように存在しているので、迂回しようにも他の道が無い。そんな彼女の疑問に答えるように取り出したのは一つの符。何かが刻まれている。

 

「それは……?」

 

「ふふ」

 

 微笑と共に『遠ざける輝き』に符が押し付けられた。すると、先ほどまで4人の前を覆っていたベールが掻き消える。

 

「──うわああああ!?」 

 

 ミツキは叫び声を上げた。

 

 そこにあったのは、コレまで景色と全く異なるもの。正真正銘、人工の壁に囲まれた街がそこにあった。4人が今いるのは開かれた落とし戸の前。鉄製の下部が見える。人の手で作り、ここに嵌め込むのは相当な労力を要するのが分かる大きさ。

 

「な、な、な、なあああ!!?」

 

「がっはっは! 驚いてんな!」

 

「ま、街がありますよお!? なんですかこれえ!?」

 

「がーっはっはっは! ようこそ、グリムス砦へ!」

 

 ミツキの声に反応したのか、ガヤガヤと人が集まってくる。後ずさったミツキは、人々の姿を見た。

 

「みんな小さい……」

 

「お前らがでかいだけだ!」

 

 彼らの背丈は、普段ミツキの周りにいる人間に比べて随分と低かった。それこそヴォルガングやフィアステラと同じくらい──ミツキの尺度で言えば子供と言って良い高さ。

 

『──?』

 

『──!?』

 

 口々に何かを話して、ミツキ達を興味深げに見つめる。不安を含んだ感情が視線に含まれていることを感じ取ったミツキは、口元に手を添えた。

 

「こんにちはー!!」

 

『!!』

 

「私は四門美月って言いまーす!」

 

 大声にビックリして隠れた住人達へ、ミツキは尚も続ける。

 

「いきなり邪魔してすみませーん! こっちのは加賀美明宏! 私はコイツの付き添いで来ましたー!」

 

『…………』

 

「よろしくお願いしまーす!! ……ふぅ」

 

 疲れた身体をおしてそんなことをしたためか、フラリとよろめく。慌てて肩を支えると、ドヤ顔で応えた。

 

「たまにはやるでしょ」

 

「……そうだな」

 

 しかし明宏は、彼女を褒めるための準備が整った顔をしていない。むしろ、極めて難しい顔をしていた。

 彼の内心を占めるのは、戦慄一色。

 

「光学迷彩……」

 

 フィアステラ達に着いてきて、この短期間でここまで頻繁に心を揺さぶられるなどとは微塵も想像していなかった。養殖に関する情報を手に入れた時、どんな心持ちになるかというイメージトレーニングが精々だった。

 

 そして戦慄が過ぎれば期待に変わる。本当に彼らは、自分の求めるものを持っているかもしれない。

 科学技術を飛び越えた、大規模かつ有効な力。

 走り出してしまいそうな浮ついた気持ちを抑え、フィアステラ達に続いて街の中へ。

 

「なんつーか……めちゃくちゃ見られるな」

 

「全くの部外者がこの砦に入るのは初めてですから」

 

 老いも若いも、等しく明宏達を注視している。

 目の珍しいのだろう。下から上まで舐め回すように、あらゆる方向から視線が降り注ぐ。

 ホモ=サピエンスの子孫である彼らとは明らかに骨格が違う人類達の集団──さながら異世界に迷い込んだような、妙な心地だった。

 

「…………ははっ」

 

 おかしなことを考えた自分に、思わず笑いが漏れる。この世界の全てが『そう』なのだから、身長が低いくらいなんだ。

 

「アキ?」

 

「いいや、なんでもないさ」

 

 そうしてやってきたのは、とある建物。街──彼らが言うところのグリムス砦──の中心部にあるモノだ。他の建物よりも堅牢に作られたように見えるそれは、看板を掲げていた。

 

「イルヴァの牙 グリムス砦出張所……へー、そういう名前なんだ」

 

「……は!? 読めるのか!?」

 

 ミツキがなんでも無いように読み上げた文字をしかし、明宏は全く読む事ができなかった。語学の天才ならば文字列から推測するなどということも可能だと前世で聞いたことはあったが、生憎と彼は前世も今世も語学に通じているわけでは無い。

 

「え?」

 

 しかし、ミツキは明弘の驚きが逆におかしいという反応だ。看板──焼き刻まれた黒文字を指差す。

 

「普通に書いてあるじゃんそこに。ほら、イルヴァの牙 グリムス砦出張所って」

 

「何を言っているんだ……!?」

 

 彼の目からは、アラビア文字くらい訳わからない文字列としか認識できなかった。アラビア文字に関してはアッサラームアライクムぐらいは読めるが、そもそもコレはアラビア文字では無い。

 

「……ですよね?」

 

「ふむ、その通りじゃな」

 

「ほら、おじいちゃんもそうだって」

 

 近寄ってきていた謎の老人にミツキが尋ねると、その通りに書いてあるという事が改めて分かる。

 

「……誰!?」

 

「ワシはここの纏め役をしておる」

 

「じゃあ本当に誰!?」

 

「デスターという」

 

「──デスター? ……なんか破壊とか好きそうですね」

 

「何言っとんじゃ!?」

 

「星とか壊したことあります?」

 

「何の話じゃよ!?」

 

「まあいっか」

 

 明宏は棚上げを行った。

 俺が読めないだけなら問題はねえ! ミツキに全て読ませりゃ良いんだ! というわけだ。

 

「えーと……デスターさんは村長さんで良いんですかね」

 

「まあそんなようなもんじゃよ。正確には砦長と呼ばれておるがな…………ところで」

 

「なんです?」

 

「長旅ご苦労じゃったの、特にそちらのお嬢さん」

 

 優しい瞳でミツキを見つめると、何かを差し出した。

 

「食べなさい。疲れた身体にはよく効くじゃろう」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「中に入って座りなさい。お前達も」

 

 4人は中に招かれた。

 すると、そこには普段利用しているのと大差ないような景色が広がっていた。

 違うのは家具類の大きさ。子供用というとあれだが、彼ら鍛治師の体に合わせて作られているようで明宏は愚かミツキが座るにも小さい。

 

「……座るって、小さくてちょっと厳しいかもです」

 

「ほお、ならば作るか」

 

「へ?」

 

「──」

 

「きゃっ!?」

 

 デスターは、どこから持ってきたのか木材を目にも止まらぬ速さで加工し始めた。

 

「これが鍛治師か……」

 

 ものの数分も経てば2人分の椅子が完成した。それも雑な作りではなくて身体に合わせて肘置きすら調整されている上、表の看板にあった模様も付いている。ハンマーと長い杖がクロスした模様だ。

 

「まあ、ざっとこんなもんじゃろ」

 

「すっごお」

 

「こんな児戯で喜んでくれるなら、いくらでも見せちゃるぞ」

 

「ううん、大丈夫! でもありがとうデスターさ──」

 

 丁寧にクッションまで着いているので、座るとふわりと2人のケツを包む。天上に召されそうな座り心地に明宏はニヤケたが、隣でデスターと話していたミツキは糸が切れたようにカクンと落ちた。

 

「あれ、ミツキ?」

 

「………………」

 

「……コイツ寝てる!?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 腕をだらりと垂らし、首が傾いている。

 完全に脱力していた。

 こんなタイミングで寝るのは聞いてないとミツキの顔を起こす。

 

「ミツ──ぶふっ」

 

 白目を剥いている。

 意識が消し飛んでいるのは明らかだった。

 

「どうやら、ミツキちゃんは相当疲れていたようじゃの」

 

「…………」

 

 明宏は立ち上がる。

 

「部外者である私を街に入れる判断。そしてこのようなものまで作っていただき、歓待に感謝いたします」

 

「大袈裟じゃなあ」

 

「改めて、加賀美明宏と申します」

 

「……ワシはグリムスのデスターと名乗っておる。宜しくの」

 

「おそらく短い滞在だとは思いますが、お世話になります」

 

「な、何じゃよ……さっきまでと違って堅苦しいのお……」

 

「コレでも一応、礼は大事にする方です」

 

「ほーん……」

 

「こちら、お土産です」

 

 ナイフを見せる。

 

『『『『『『『『『『!!!!!』』』』』』』』』』

 

 無数の視線が、鋭く隼のような気配を漂わせた。

 それをあえて無視。振り向くことはせずにデスターの前に置く。

 

「…………」

 

「これが……神──」

 

 同じ反応だったのでいい加減慣れた明宏は、帰ってきた反応を緩やかに流していく。しかし、先と違うのはその人数。

 

『私にも見せて!』

 

『/'@! fIA&!』

 

『どこだ! 神器はどこだあ!』

 

『多すぎんだろコレ! お前らでてけ! この国から! 俺だけが見れれば良いんだヨ!』

 

『caggghg!!』

 

『刀身が見たいわ! そのナイフの裸を見せてちょうだい!』

 

『おい、何だこの防具!』

 

『nImyjt!』

 

「ぶるおあああああ!?」

 

 人波に流されて、鍛治場にたどり着く。

 子供達が一生懸命に鍛治の練習をしているタイミングだった。

 

『!?』

 

 いきなり流されてきて地面に倒れ伏した大きな人。びっくりして先生役の鍛治師達の後ろに隠れた。

 

「いてて……あら、子供達は更にちんまいのぉ〜」

 

 酷い目にあったと立ち上がった視界に映る子供達の姿に表情を綻ばせる。

 

「みんな、はじめまして〜」

 

 しゃがみ込んで目線を合わせ、目元をへにゃりと崩す。それでいてしっかりとは目を合わせないようにする。ややズレた眉間あたりを見るようにすると、害のある存在ではないと理解したのか無邪気な笑顔を見せた。

 

『m#&@#g)〜』

 

「え」

 

『_k)hT(_Ib)!』

 

「あの、ちょ……」

 

『j&j&!』

 

「…………ミツキー! 翻訳してくれー!」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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