【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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122_我慢は毒

 

 雪の中に埋められ──もとい、穴の中に隠された三人。

 

「神器で戦う……ううむ……」

 

 ソワソワし出した二人。

 そして美月も。

 彼女は明宏が探索者として活動しているところを見たことがなかった。当然、彼が何をしているのかは気になるが、モンスターは怖い。穴からのっそりと出て行こうとする二人を止めた。

 

「だ、ダメですよ! 穴から出ちゃ!」

 

「……」

 

 大人の無言に息を詰まらせるが、それでも言い募る。

 

「アキが怒ったらすごく怖いんですからね! ええと……お尻ぺんぺんされたりするんですよ! あとは……とにかく凄いことされちゃうんですから!」

 

「…………」

 

「あ、でもアレかも……その、ここから顔を出して見るぐらいなら問題無かったり……?」

 

 妥協案。

 自分も見たかったのだ。

 そうして三人は雪洞から目を覗かせると、潜望鏡のようにあちこちへ首を向ける。

 

「あ、なんか見えた」

 

 雪煙が上がった方向。意識すれば、環境音に紛れて少し激しめの音が彼らの耳に入ってくる。ヴォルフガングとフィアステラは望遠鏡を取り出し、右目に当てた。

 ふむふむと頷く。

 

「あれが探索者の戦い方か……初めて見たな」

 

「私は一応見たことありますけど……一人だとあんな感じなんですね」

 

 ヴォルフガングの目に映っているもの。

 それは8体の巨大な四足歩行生物に囲まれた明宏の姿。

 

『ビーム種か……レベルは確か……』

 

 何かを明宏がつぶやいた次の瞬間、2体の尻尾の先から強烈な光が放たれた。

 

「うおっ」

 

 望遠鏡のレンズを超えて刺激する鮮烈な光は、一時的にヴォルフガングの視力を喪失させた。思わず離したソレをミツキがかっさらう。奥で光ったのが何であるかを確かめる為に。

 

「──!」

 

 見えたのは、二筋のビームが一点に向けて照射されている光景。舞い上がる雪が邪魔して、ビームを何に向けて放っているのかを見ることはできない。だが想像することは容易だった。

 

「ア……」

 

 思わず声が漏れそうになって、手が当てられる。硬くてゴツゴツとした手。フィアステラだった。

 

「しっ」

 

「…………」

 

 コクコクと顔を縦に揺らす。

 素人でも分かることとして、大きな声を出せばモンスターに気づかれて、三人に攻撃が向くかもしれない。そうなれば退避させられた意味は無くなってしまう。

 しかし──

 

「っ……」

 

 ビームが2本、大切な人がいると思しき場所に向けて放たれている。そんな光景を見せられて平静でいられる人間は少ないだろう。

 彼女の心臓は早鐘を打ち、いまにも体が飛び出していきたくなるような焦燥感が襲っていた。ビームが止んだあと、彼の姿が無くなっていたならば彼女はおかしくなってしまうかもしれない。

 後悔が彼女の身を包む。

 何故大人しく自分は家で待っていなかったのかと。

 

 やがてビームがやむと、白く舞い上がった雪の粉がハラハラ落ちていく。

 必死に目を凝らす。

 無事な姿を探して。

 

 ──もぞりと、何かが大きく動いた。

 

 雪煙から飛び出して、モンスターへと雪を纏ったまま突き進む。

 

『っはああ! 無傷だ! 流石俺の鎧!』

 

 テンションが高まっているのか、大声で独りごちている。スノウリザードに言ったところで自慢になんてなりやしないのに。

 

『──!』

 

 雪の中ではよく目立つ黒い鎧、そしてミツキの目には止まらぬ速さで振り抜かれた彼の腕。振り抜いたとわかったのは、いきなりのことに固まっていたモンスターの首がポーンと跳ね飛んだから。

 気持ちのいいくらいに飛んだ後、バスッと雪に着地した頭部。残された身体はグラグラと揺れ、手足をばたつかせるとやがて倒れた。

 資料で読むドラゴンによく似た頭は舌をダランと伸ばし、目から光を失っている。

 

「一瞬で……」

 

「しかも無傷だな、俺の鎧のおかげだ」

 

 1匹だけ死んだとて激しい動揺にはならないようで、モンスターたちは彼を殺すために動き出した。

 3m以上はある巨体にも関わらず、雪の上を滑るように動いて接近する。男はそれを迎え撃つように地面を蹴った。

 弾け飛ぶ雪。

 交錯。

 大きく口を開けて、白く強い息を放っているモンスター。パキパキと空気が凍りついていく。

 モンスターが開けた口へ、水平に持った武器を合わせた。

 

「っ!」

 

 武器はモンスターの身体をスルルと引っ掛かりなく通り抜けたように見えた。少しして、体の背中側と腹側を切り離されたとてもグロテスクな死体が一つ出来上がる。切られても動こうとした結果、自分から死へと向かってしまったようだった。

 

「ヒェッ」

 

「エグいなアイツ……」

 

 残り6匹。

 そのうちの3匹が先ほどと同様に尻尾立てた。

 

『性能はわかったからいいか』

 

 放たれた光は三方から彼を包み込む。持ち物は防具とナイフ、銃だけ。盾を持っていないから、防ぐという手段がそこには存在しない。

 ミツキが想像する限り、探索者というのは盾を持って然るべきだった。体の大きな相手と戦うのだから、攻撃を喰らわない為にそうするのが普通だ。

 ナイフでは防げない。

 あの魔剣でも──

 

 というのやはり素人考えだった。

 

「な、なんか防いでる……」

 

 フィアステラがこぼした通り、明宏はビームを防いでる。三方向から飛んできたと言っても、身体を動かせば射線上から離れることは容易だった。

 ビームを放っている三体のうちの正面一体へダッシュしている。

 

『さすが神器! これくらいは軽いか!』

 

 モンスターはビームを当てることで突進を止めようとしていたが、魔剣をビームに正面から当てて防ぐ。

 ビームが例の半透明な部分に当たると、真っ二つに切り裂かれて明宏の体を避けていく。

 

「あっぢゃあ!」

 

 飛んできたビームが掠り、ヴォルフガングのハゲ頭が焦げた。

 

『!』

 

 一気に跳び込む。またも舞い上がる雪、先ほどから視界が妨害されて仕方がない。

 

「いい加減返せ!」 

 

 ヴォルフガングは望遠鏡を取り返した。そのかわり、小さめの望遠鏡を渡している。

 

『残り5』

 

 止まるつもりは無いのか、動かなくなったモンスターを放置して直走る。今度は不気味な雰囲気を纏っている──というのも、魔剣が黒く光っているような気がした。

 

「うっ……!?」

 

「なにあれ……」

 

 フィアステラとヴォルフガングは鍛治師だからか、敏感にそれを感じ取ったようで顔を顰めている。

 

『喰らえ! ──ちっ』

 

 一息に飛びかかると、振り下ろした刃をすんでのところで躱される。ジャンプをしたせいで落下地点を見切られていた。

 しかし、ここまでくるとどちらが上かっていうのは明らかだった。完全に明宏の独壇場だ。

 

 ──ゴロゴロと変な音がした。

 

『やっべ』

 

 慌てて猛ダッシュをし出した明宏。

 1秒前までいたところを横向きに雪が流れていく。

 平地での雪崩だった。

 

「あわわわ……」

 

『オクタヴィアリザードか……!』

 

 またしても何かを叫ぶ。

 今し方の雪崩と同じ程度の大きさの揺れがミツキ達のいるところまでやってきた。

 二人がいなかったらミツキは恐怖で逃げ出していたかもしれない。それか突っ込んでいたか。

 なんにせよ、モンスターの首が飛んで血が噴き出すたびにミツキは目を瞑っていた。

 

 血は命。

 そして痛み。

 この光景は、ミツキには刺激が強かった。

 明宏とてソレはわかっている。

 だからこそ雪の中に隠したのだ。

 

 それでもミツキは、明宏がやっていることから目を逸らしたくは無かった。彼が血生臭い世界で生きているということをしっかりと感じ取り、ソレでも一緒にいられると自信を持ちたかった。

 

 ──そんな覚悟を最後に打ち砕いたのは、雪の中からゆっくりと現れた巨大なナニカ。

 

「三人とも!」

 

 明宏は望遠の距離からいつのまにか近くへ。

 ビックリする暇もなく、彼は拳を地面に突っ込んだ。

 

「隠れるぞ!」

 

「え」

 

 普通にバレてた。

 またすごい勢いで雪を掘ると、三人はその中に放り込まれた。

 まだまだ掘る。

 奥へ奥へと土中を猛烈な勢いで進んでいく。

 

 外からはドシンドシンと大きな振動音が聞こえてきて、実際に振動も私たちのいる雪洞を包み込んでいる。何か大きなモノが外で動いているようだった。

 

『──ボモオオオオオオ!』

 

 身体がすくむような鳴き声。

 もし、この声の主がここを攻撃したら自分たちなんてミンチとしても残らない。

 ミツキは必死に堪えていた。

 叫び出しそうな狂気が腑の内側から盛り上がって、喉元を過ぎようとしているのだ。

 

「──!」

 

 明宏は動きを止めた。

 しかしそこから雑談に興じるというわけではない。

 彼女らのことなど構わずに、ナイフを構えて天井部分を見上げている。刃を出していないのは、ここで展開したら三人に当たるからだろう。厳しい顔で、しきりに見る方向と体勢を変える。

 

「──行ったか」

 

 数分経つと外の気配は遠かった。

 安堵したような顔でミツキを抱きしめる。

 

「…………」

 

 震えている彼女を気遣ったかのような行動。

 抱きしめ返したミツキはふと顔を見上げた。

 

 甘ったるい雰囲気に砂糖を吐き出しそうなフィアステラ達がいたが、明宏は拳を振り上げる。

 

「ばかちん!」

 

「!?!?!?」

 

 神速のデコピン

 額の細胞がいくつ死んだか。

 極めて威力の抑えられたソレはしかし、確かにミツキの目に涙をうかばせた。

 

「いっ……たああああ!」

 

「痛いよな、うんうん。でもデコピンした俺の心はもっと痛い」

 

「そんなわけないでしょ!」

 

「痛いなあ〜、ちゃんと待っといてって指示出したのに無視された俺の心が痛いなあ〜」

 

「うっ……」

 

 よよよ、と大袈裟な演技をする。しかし、それが振りであると分かっていても強く言えぬのが今のミツキの立場だった。

 

「んで……そっちのとっくに成人済みの二人は何やってるんすか?」

 

「──うおおおお! 怖かったぞ!」

 

「ああん! 暑苦しい!」

 

「仕方ねえだろ! 俺たちだって気になったんだから! 探索者の戦うところ──それも神器所有者がどんな風に戦うかなんて見なきゃ損だろ!」

 

「鍛治バカめ……三人寄れば文殊の知恵って言うはずなのに、赤信号みんなで渡れば怖くないの方になってどうすんだよ」

 

 穴の入り口へ戻ると、雪が崩れて塞がれていた。先ほどの振動が影響しているのは間違いない。

 

「…………」

 

 外にはなんの痕跡も残されていなかった。

 明宏が戦っていたスノウリザードの死体も、進んでくるときに雪を溶かして作った道も。

 

「さっきのめっちゃでかいのってなんだったの?」

 

「……簡単に言うと、今の俺は勝てないやつ」

 

「よく見つからなかったね……」

 

「基本的に温厚だからな。目も耳も悪いらしいし」

 

「…………ごめんなさい、言われたこと守んなくて」

 

「守るとか守らないとかそういうのはいいから、いのちを大事にな」

 

「うん」

 

 なお、本人はいのちをあまり大事にしない模様。

 

「フィアステラさん、道はわかりますか?」

 

「勿論!」

 

 ──2日かけて雪原を進み、川を上り、山道を進み続けた一行。やがて閉ざされた場所に辿り着いた。

 周囲を岩壁に囲まれた空間だが、空だけは開けている。

 山を円柱状に誰かがくり抜いたような、異様に整った場所。周囲では雪が降っているというのに──ここは太陽の光が降り注ぎ、花々が咲き誇っていた。

 

「なんだここ……ダンジョンか?」

 

「失礼な! 聖域ですよ!」

 

「ああん?」

 

「イーヴァ様が祝福を授けた場所です! だからこうして年中穏やかな場所として保たれているのです!」

 

「ああ……霊領の事ね」

 

「霊領ではありません! 聖域です!」

 

「聖域……そんな場所に異教徒の俺が立ち入るってのは果たして許されることなのかね」

 

「異教徒?」

 

「何を思って聖域なんて名付けたのやら……」

 

 心底から理解できないと首を振る。

 リザードの一件から、フィアステラとヴォルフガングへの扱いが割と雑になっていた。

 

「さて、いよいよですよ」

 

 しかしフィアステラはあえて明るく振る舞う。

 指差した先にあるのは、例のワープポイントだった。

 要は、聖域とかなんとかっていうのはあの秘匿された場所と全く同じだということだった。

 

「──じゃあ、行くとするかね」

 

 ヴォルフガングの言葉を皮切りに暖かな空間の中へ入る。

 まるで、エアバリアか何かでもあるような切り替わりだった。境目を跨ぐと途端に暖かい。もはや死に体になっていたミツキも思わずホッと息を吐いた。

 

 

「はぁっ……」

 

 ガクガクと震える膝。

 寒さ、永遠に思う道のり、ときおり襲撃してくるモンスター。相当な無理をしていた。

 それも、この暖かな空間に入って気が抜けたことでもう続かない。

 

「──ほら」

 

 そんな彼女を見かねて身体を背負い上げる。

 

「よく頑張ったな」

 

「もうむりぃ」

 

 溶け切った声で弱音を吐く。

 鍛治師は腰に手を当てた。

 

「嬢ちゃんはもう限界なようだが……朗報だ、ここを潜ればいよいよ目的地だからな」

 

「!」

 

 準備を整えると、またもや魔法陣がその場に現れた。その中心にミツキを背負ったまま立つ明宏。

 

「始めてくれ」

 

「始めるも何も、勝手に……お、来たな」

 

「──」

 

 二人はアッサリと聖域から次の場所へ移った。

 その後、残された鍛治師達はため息をつく。

 

「なんて説明すりゃ良いのかねえ」

 

「ありのままを説明するしかないでしょ」

 

「そりゃあそうだけどなあ……お前から説明してくれよ」

 

「こういうのは男の人がやるべきだと思うんだけど」

 

「生憎と俺は男女平等主義でね──と言いたいところだが、そうするしかないな」

 

「頼んだからね」

 

「……」

 

 トントンと頭を軽く叩きながら、ヴォルフガングは捻じ曲がった空間に飲み込まれた。

 

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