【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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126_社会科見学

 

「やっと出れた!」

 

「説明とか無理だったけど……なんで出してもらえたのかな」

 

 フィアステラが現着した時にはすでに状況が終了していた。ヴォルフガングら3名は拘束、牢へと入れられており、やや遅れた彼女も有無を言わさずだ。

 二人揃ってため息が漏れた。

 

『バカどもが!』

 

 捨て台詞を吐いて去ったのは顔見知り。

 当然の怒りをぶつけられ、返す言葉もなかった。

 

「やっぱり端末ってのは持ってた方がいいのかねえ」

 

「あのさあ……みんな持たないって」

 

「でもよ、遠くにいるやつとすぐに連絡取れるんだろ? すげえじゃねえか」

 

「それで摂理に反してたら世話ないでしょ」

 

「そうだな……」

 

 明弘達がどこに行ったのか二人は知らない。迎えに行こうにも、行ける場所があまりにも多すぎた。

 洞窟内に建てられているのは石造りの建物のみだが、それぞれが鍛治師によって装飾されている。基本的には平屋建てで、都市自体の面積を確保することで人口増加を吸収していた。

 

「どうするよ」

 

「私は案内人だからね、探さなきゃ」

 

「なら俺も着いてかなきゃいかんな」

 

 予想に反して二人はすぐに見つかった。

 鍛治師が4名、やや遠巻きに囲むようにして進んでいく。

 

「……俺の目がおかしくなってなきゃ、あれは姫様だ」

 

「そうね」

 

 イルヴァの牙において最高権力を有するのは『牙』と呼ばれる鍛治師だ。牙がいる限り──正確に言えば、牙が持つ槌が失われない限りはこの都市の守護は失われない。

 しかし、実義的な権力とはまた別の最高権力者もいる。それが『姫』だった。

 彼女に求められた役割とは── 

 

「降ろしてる……よな?」

 

「そうね……イルファーレ様だわ」

 

 神をその身に降ろすこと。

 依代として、鍛治の神の端末として機能すること。

 それがアリアに求められた『姫』という役割なのだ。

 平時から降ろしているわけではないのに、なぜかこのタイミングでアリアが明らかに神を降ろしていた。

 その証拠に、髪色が常の白から赤に変わっている。

 ドロドロと流れる溶岩のような明るい赤。鍛治の神に相応しい色だ。

 隣を歩くミツキも赤色だが、赤は赤でもメタリックだ。篝火を反射しているくらい。

 

「なんかあったのか……!?」

 

「行こう!」

 

 幸い、アリア達がいたのは吹き抜けを一つ挟んだ向こう側の通路。溜まり場──空中廊下の接続時点を一度介せば辿り着ける場所だった。

 

「──学校、私も行ってみたいです!」

 

「全然行けるって! ね、アキ!」

 

「ま、まあ……移民を禁じる法律はないから行けるはずだな」

 

「ホウリチュ」

 

「とにかく、こっち側として拒む理由はないですね」

 

 とんでもないことを言っている。

 姫──信仰対象と同一視に近い見方をされる彼女を連れて行くなど、イルヴァの牙に対して喧嘩を売っているようなものだ。

 

「貴様ぁ! それが目的かぁ!」

 

「いやいや、俺はあくまで提案をしただけですから」

 

「そもそもアリア様がここを出るなど──ハッ」

 

 少しだけ寂しそうな目を、しかしミツキには見せないようにすぐ元に戻した。少しばかり熱が入りすぎていた。

 

「うわあ、すごい! この建物がイルヴァの牙の鍛治──どうしたの姫様」

 

「──あ、いいえ! なんでもありません! そうです、これがイルヴァの牙が誇る大鍛冶場です!」

 

 明宏はジトーッとした視線を向けている。

 

「ぐっ……」

 

「せめて条件付けるとかさ……同じところに無理やり閉じ込められると精神が腐るぞ」

 

「……か、彼女の精神は不変だ」

 

「不変だとしたらもっと恐ろしいでしょう。変わらぬ精神の持ち主が同じ価値観でずっと居座るんですから」

 

「何が悪い。判断が揺るがぬ事こそが最優先だろう」

 

「アリア様はそんなに精神性が悪いのか?」

 

「そんなわけがなかろう!」

 

「それなら、彼女にいかに気持ちよく働いてもらえるかを優先した方がいいんじゃないですかね」

 

「まあ、部外者の意見ですけどね」

 

 ミツキは大鍛冶場の熱気に圧倒されていた。

 今も響く鉄を打つ音。忙しなく行き来する鍛治師。

 保持した坩堝の中には溶けた金属がチャプチャプと揺れている。

 そこには外からやってきた人間を疎ましく思うとかいう感情は無く、ただひたすらに鉄を愛するもの達の熱のみが感じられた。

 

 邪魔すれば同じ鍛治師であっても叩き出される。

 ピリついてすらいるその場所に、二人は入り口からひょこっと顔だけを覗かせた。

 赤と赤。

 同系統の髪色をした2人は姉妹のようにすら見える。

 

「…………ここは邪魔できないかも」

 

「そうですね……私も皆さんの邪魔をするのはちょっと……」

 

 しかし、入り口から生首が顔を出していれば誰だって気になる。しかも1人は敬愛する姫──神も降りている。

 一番近くで仕事をしていた鍛治師が寄ってきた。

 

「アリア様、何をされているのですか」

 

「あ、今ちょっと友達を……えへへ、友達を案内中でして」

 

「ともだ──ヒューマン!?」

 

「彼女はミツキです」

 

「な、何故ヒューマンがここに……」

 

「彼女はアキヒロの付き添いでここに来たのです」

 

「アキヒロとは」

 

「彼の名前です」

 

「…………ヒューマン!」

 

「はい、彼が神器の持ち主です」

 

「神器!」

 

「…………」

 

「そんな話、知らなんだ!」

 

「ダメですよ、ちゃんと話は聞かないと。集会で寝ていたんですね?」

 

「バハッ! そもそも出てねえ!」

 

「もう!」

 

「いやそれにしても神器とは……っ!」

 

 大急ぎで炉の前に戻る。

 火加減と時間によって、金属の変成度合いというのは大きく変わる。数秒目を離しただけで目的の機械的性質とは全く違ったものになってしまうのだ。

 だからこそ鍛治師は火につきっきり、料理など目じゃ無いくらいシビアなタイミングを狙っていかなければならない。

 今はその中で最も簡易な段階。

 下準備、鉄を溶かすだけだった。

 最も余裕がある──ゲーム的に言えば、最も入力の受付フレームが長いタイミングだ。このタイミング以外であれば、仮に神がそこに来ていても反応はしなかっただろう。

 しかし、下準備もおろそかにしていいわけはない。

 取り出したる鉄に何かを振りかけると、ひたすらに叩き始めた。

 

「……もう、これ以上は邪魔できませんね」

 

「うん」

 

「少し、見ていきましょうか」

 

「え? いいの?」

 

「大丈夫ですよ。ただ、声を掛けたりしても怒られるので気を付けてくださいね」

 

 彼らは鍛治をしている。

 とてつもない集中力が必要だ。

 米櫃に入った米粒の一つ一つを数えている途中のような、焦燥感に近いほどの集中を要する細かい作業。そこに声などかけられてみろ。これまで数えた粒数──つまり、鉄を最高の状態に持っていくために行っていたことが全部訳の分からないことになってしまう。

 ミツキはいまいちピンとこないながら、言われたことを守る程度の分別はある。

 アリアのやや後ろに位置どりしながら、槌を振るったり魔石を混ぜ込んだり腕を切り付けて血を垂らしている鍛治師達を見学した。

 

「なんかすごかったぁ」

 

「そうでしょう? 彼らは日夜鍛冶の腕を磨き、鉄と火をこよなく愛する変人なのです」

 

「言うねえ姫様!」

 

「えへっ」

 

「でも、姫様も鍛治師の一族なんだよね?」

 

「まあ、そうですね」

 

「? ──よく分かんないけど、鍛治やってみたいとかないの?」

 

「──」

 

 その質問に、優しい目をする。

 

「そうですね……鍛治、やってみたいですね」

 

「やらないの?」

 

「鍛治で大怪我などして仕舞えば、お役目を果たせなくなりますから」

 

「ふーん……アキ〜」

 

 後ろで控えていた幼馴染が呼ばれる。

 

「なんですか」

 

「何とかならない?」

 

「あのな……俺はドラえもんじゃないから、都合よく物事を変えたりできないんだよ」

 

「?」

 

 その光景を見ているフィアステラ達の心境は複雑だった。拘束された状態から何故ここに至ったのか。

 明宏の異様にお堅い口調からして姫とあそこまで打ち解けるのは厳しい。ミツキがそのように運んだのだろう。どうやって彼らを説き伏せたのか、非常に気になる事だった。

 

「あはは!」

 

「えへへ」

 

 そして本来なら一瞬の謁見で終わって然るべきだ。

 まだアリアは小さく、長時間の神降ろしを行うと疲労が大きい。しかしどうしたことか、アリアは辛そうな表情をしていない。

 ニールセンら付き添いの鍛治師達もおかしな事だと目を細めるが、大丈夫なのであれば口を挟むのもまたおかしな事。

 

「全くあいつは……俺のことを何だと思ってやがるんだ」

 

「態度は、貴様がこれまでにやってきたことの積み重ねでしかない」

 

「……何でもできるやつだなんて振る舞ったことはないですけどね」

 

「知るか」

 

 使えないから帰ってよーし! とお払い箱にされて戻ってきた明宏は、ヴォルガングたちに気付いていた。

 当然話しかけにいく。

 

「解放されたんですね」

 

「随分と楽しそうだな」

 

「ああ……妹が欲しいっつってましたからね」

 

「妹なんざ鬱陶しいだけだろうがい」

 

「ええ? めっちゃ可愛いじゃないですか」

 

「はんっ、少数派だな」

 

「可愛いのに……」

 

 小さい頃は無邪気に『にっ! にっ!』と着いてきて、少し大きくなると『にぃと結婚する!』と言ってくれて、もう少し大きくなると『にぃに嫌い!』となって、中学生になると『…………』となって、高校生になると『お兄ちゃん様、お小遣いちょーだい(はあと)』となる。

 その全てが明宏にとってはパーフェクトでプリチーな可愛さ成分だった。

 やや認知の歪みはあるが、それでも大事な家族。

 妹が可愛くないなどという意見は全て狂人のものなのだ。

 

「ああ、そうじゃない。ここは何なんですか」

 

「……やっとこれが言えるぜ」

 

「え?」

 

 何故かすでにドヤ顔のヴォルフガングは、通路から腕を伸ばした。

 

「ようこそ、ドワーフの楽園へ」

 

「…………なるほど」

 

「……くそっ、やっぱガラにもねえことすると恥ずかしいな」

 

「いえいえ助かります」

 

「おいフィアステラ、お前もなんか──」

 

 恥ずかしさを誤魔化そうとヴォルフガングが振り返ると、フィアステラが蹲っていた。

 

「──っ、────っ」

 

「おい大丈夫か、フィアステラ。フィア……お、お前……」

 

「……っ! ……っ! ようこそドワーフの楽園へって……な、なに……っ!」

 

 笑いすぎて立ち上がれなくなっているだけだった。

 

「お、おまっ……お前が考えとけっつったんだろうが!」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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