【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「(おはようございます!)」
「おはよう姫様!あれ、今日は髪色赤くないんだね」
「(ま、まあ朝なので……)」
「へー……じゃあお昼ごろになったら変わるとか?」
「(きょ、今日はちょっと変わらないかもしれないです……)」
「あ、そうなんだ」
幸いなことに、姫様の居城は大きい。
――が、ヒューマンサイズというわけではなくて、もっと高天井でそれこそ王族がいてもおかしくなさそうだ。最初にお目通りした場所とはまた違うけど、同じ建造物の中を進んでいる。
居城内は全体がカーペット敷きの、廊下の内壁には金の装飾がポツポツとされている。
さすがにスケールは違うけど、イギリス王室のウィンザー城はこんな感じの雰囲気だったな。
……ここで一人で朝飯を食べるのはなんぼなんでも落ち着かないだろう。
「(ここは会議室で……こっちはトイレで……)」
「姫様、いつもここでご飯食べてるの?」
「(あ、いえ。いつもはお家で食べてるんですけど……お二人と一緒にご飯を食べるならここって言われたので……)」
……これは……気まずい……!
朝食の話をしているのはわかるんだが、いかんせん何を言っているかを聞き取ることが全くできない。
また昨日のモードになってくれないかなあ……というか、何だったのあれは。おれが言葉を聞き取ることができるようになったってことは永続的に話すことが可能になったかと思ったんだけど、もしかして朝になってリセットが入った?
「カガミさん、もしかして……」
「お察しの通りサッパリです」
「姫様はまだ幼いですけど――――であれば聞き取れるってのはどういうことなのかしら」
「はい?」
「あ、いやなんでも」
「――誰か言葉を教えてくれないかなあ」
「言葉を教える……ですか?」
「語学堪能な人、誰か知りません?」
少なくとも蒼連郷にはいない。
語学の教師を一度たりとも見たことがない。
「語学……とはなんですか?」
やっぱりか。
まあ期待はしてなかったからしょうがない。
たどり着いたのは、大仰な建物の中では比較的小ぶりな部屋。
それでも天井は少なくとも俺の家より高い。空調の効率とか考え始めたら絶対こんな大きさにはできないけど、これも神様のおかげってか。席に着くと次々と食事が運ばれてくる。
――まだ来る。
――まだ来る!?
やめて!勿体ない!
俺もさすがにこんな量は食べ尽くせないから!
満漢全席スタイルはダメだって!
しかし権力者が自分の金を使ってやっていることに文句を言えるわけもない。
そもそも姫様が自分でやっているんじゃなくて、家臣たちがやっているんだろうしな。
あんな小さな子供がこういうのを自分で一から考えて、なんてのは現実的じゃない。
「これ、全部朝食?」
「(食べたいときは彼女に頼めば切り分けてくれるので、そうしていただけると)」
「はーい」
ミツキは金持ちの子なのでこういうのも慣れている。俺も経験したことがないわけじゃないけど、シンプルに勿体ない精神がね……
でもあれかな、店とは違うから残した分はちゃんとほかの人が食べてくれるのかな。
「(食べましょうか)」
「うん!あ、そのお肉食べたいかも」
朝食を終えると今度は真面目な話だ。
誰に話をするかというのはフィアステラが示してくれた。
「なんか、牙って言われるとちょっと怖いね……!」
そう。
俺たちは『牙』に会いに行くこととなっていた。
こういうのは本来初日に会いに行くべきなんだろうが、姫様との散歩で予定が崩れたのかもしれない。
……どういう手合いにせよ、ここからはミツキの出る幕は無い。待っててもらっても全然構わないと伝えた。
「そしたら、私が何のためにここまで来たかわからないじゃん!勝手に話進めるでしょ!」
信用がなかった。
仕方ない、過去の積み重ねだからなこういうのは。
というわけで、俺・ミツキ・フィアステラ・ヴォルフガング・姫さま・ニールセンで向かっている。
……なんで姫様がついてきているのかというと、意思決定にはかかわる必要があるかららしい。
「(ミツキさんは……その……カガミさんと……?)」
「えへへ……」
「(うわあ……!いいなあ……!)」
「でも姫さまはアキみたいな男に引っかかっちゃだめだよ?」
「(どうしてですか?)」
「あのね――」
「(……ええ!?)」
絶対変なことを吹き込んだ。その証拠に、姫さまが俺を見る目が確実に変わってる。
信じられないものを見るような眼をしてやがる。
言葉がわからないから訂正もできないし――
「か、カガミさん……」
「はい?」
「今の話……本当なんですか?」
「何の話ですか?」
フィアステラも二人の話に混ざって聞いてきたようだ。
「あ、そっか……3人とお付き合いしているという話です」
「お゛っ!?」
「カガミさん……?」
そ、それかあああああ!
「まじかよアキヒロ。お前そんなことしてたのか」
「ち、ちが……」
「違うのか?」
「ちが……わないです……」
「やば……」
やめて……俺をそんな目で見ないで……
違うの。
三股するつもりなんて全然なかったの。
なんなら一股もするつもりなかったの。
「何言ってんだこいつ」
現実が俺を圧殺しにきている。
これもカルマってやつか。
「なんで三人なんだ?」
「え……」
「二人でも四人でもなくて三人。なんか理由とかあるのか?」
「……」
ねえよ!
あるわけねえだろ!
俺が聴きたいわ!
しかもなんだよその質問!
もっとまともな質問あるだろ!
しかもフィアステラも乗っかってきて、答えるのを今か今かと待ちわびている。
何だよ三人な理由って……
「成り行きです」
「ミツキがまず一人目だろ?残りの二人はどんな奴なんだ」
俺、この質問に答えなきゃいけないの?仮に知ったところで会いに行くわけでもないだろうに。
「黙秘します」
「んだよつまんねえやつだな」
「つまるもつまらないもないですから。少なくとも他人に聞かせるような話じゃありません」
「んなこたねえだろ。酒の肴にはなる」
ヴォルフガングは朝っぱらから酒が器に入っている。
あの三人比べたらマシだけど、この人も結構な酒好きだ。
「それにしても三人も女をなあ……」
「なんすか」
目線が俺の股間へ。
やめろ、男に見られてもなんも嬉しくない。
「さぞかしご立派なんだろうなあ」
「やめません?朝っぱらから下の話をするのは」
「何言ってんだ。ここに朝も夜もねえ、いつでも好きなことをするんだ」
「そうはいっても俺たちは朝ですから……ヴォルフガングさんもそうでしょ?」
「さあな」
下世話な朝飯を終え、いよいよ『牙』との謁見だ。
服装はそのまま。
政治家とこれで会うのか……スーツとかの方がよかったな。
とはいえ俺がここに来ることができたのは「神器を持っている探索者」という肩書があってこそだ。ただの加賀美明宏ではとても興味の対象にはなりえなかっただろう。
――握ったナイフの感触を確かめると、確かに脈動を感じ取ることができる。やはりこいつには意思があるのだろうか。
神器。
正直な話、彼らがこのナイフを神器と呼んでいる理由はよくわかっていない。ヴォルフガング達はこれを見て神器神器と喜んでいるが、俺が神さまに会ってたら殺すでしょ。
俺は神さまを殺した記憶なんかないし、神さまに「これを授けます」なんてことを言われた記憶もない。夢枕に誰かが立っていたこともない。
何をもって彼らがこれを神器と判断しているのかも非常に気になる。そこが明かされるのだろうか。
――緊張するな。
「……」
ミツキもここにきては黙り込んでしまった。
朝飯後で眠くなっているわけではないのは、がちがちの目つきを見ればわかる。
フィアステラが先頭につき、姫様がその後ろ、俺は三番目だ。
いったいどんな奴らが待っているのかね。
――――――
待つ側、大勢でいる側というのは大抵が舐めている。
身内で固められているし、相手が自分より上だと想定して待つことは不毛でしかないからだ。
だからこそ、彼らは緊張していた。
「そろそろ来る予定だな」
「神器……果たして本当に持っているのだろうな」
「それはワシらで確認しとる」
「はんっ、酒飲みの言葉がどこまで信用できるかな」
「レイフィニアの名に賭けよう」
世にも稀な、神器の所有者。
個人で神器を所有するというのは、それだけで偉業である。
『イルヴァの牙』において、とある神器を持つ者は『牙』のみ。
他の者は持たない。
それは掟であり、プライドだった。
『――――』
長机の上座に腰掛けるドワーフ。
名をアルスと言う。
光を意味する名を持った彼女が神器を得たのは16歳の時。
先代の牙が亡くなったことで、選定の儀が行われた。
彼の鍛冶場に置き去りにされ、動かすことのできなくなった槌。
彼女が掴めばスルリと。
それこそが彼女の始まり。
故に、待ち焦がれていた。
自らと同じく神器を所有する人間。
急いていた。
只人でありながら、神という上位存在とかかわりを持った者の姿を見ることを。
しかし、表には出さない。
視線だけは強く鋭く、前を向いている・
その視線を追えば、彼女の席と相対するように備え付けられている扉がある。
「アルス様があそこまで厳しい顔を……」
「何か感じるものがあるのやもしれぬな」
「あるいは気に入らないか」
巨大で荘厳。
実用性を無視して作られたそれは、初代の牙が作り上げたものだ。
重く、ドワーフが片方の扉を4人ずつで押し開ける必要がある。
普段は壁に新しく付けられている小さな扉を使用しているが、重大な事項に関して話す際は正式な扉を使用することとなっている。
『!』
その扉が開いていく。
やってきたものの姿をさらけ出していく。
お互いに。
「……」
『……』
まだ距離がある。
扉が開いただけで、実際のところは部屋に踏み込んですらいない。案内役として指名されたフィアステラと『姫』の後ろにいる。
しかし、彼の視線は彼女まで届いていた。
『――っ』
ゾクリと、彼女の背筋を何かが貫いた。
そして、完全に扉が開き切り、鍛冶師たちが待つその場へと一行が足を踏み入れる段階が来た。
フィアステラが『姫』に先を促す。
『姫』は一礼すると入場した。
「ごきげんよう、アルス様」
『ああ』
それだけでよかった。
決して、アリアを蔑ろにするわけではない。
アリアも後続の邪魔になるわけにはいかないと脇に寄る。
主役ではなかった。
フィアステラは続けてヴォルフガングを促した。
神器の所有者を見つけたと報告を出したのは彼だ。
そして、彼の言葉に偽りはなかった。
――まだ何も話していないにもかかわらず、彼女は確信していた。
ヴォルフガングが跪く。
「彼を連れてまいりました」
『ご苦労』
またも短い返事。
しかし、ヴォルフガングは何かを思ったような素振りすら見せない。すぐさま立ち上がリ、邪魔にならない位置にはけた。
そしてようやく、フィアステラが彼に合図を出す。
「――」
男は、少しだけためらうようなしぐさを見せた。
それは本当に微妙な表情の変化であり、注視していたアルスにしかわからないほどのものだった。
しかし彼はすぐに視線を前に戻す。
すなわち、『牙』たる彼女へだ。
「お入りください」
いよいよ、面と向かう時が来た。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない