【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
明宏たちが部屋を出た後、黙り込んでいた老人たちが一斉に口を開いた。
「ふん……所詮はその場しのぎの適当。実際にその段階になってみれば手放すことなどできまい」
「左様。探索者など、富と名声を求める以外に生きる糧の無い荒くれもの。自分を大きく見せようと必死だっただけだ」
「しかし、神器が一つ、我らの手元に増えるとするならば……」
「ふむ……」
「なんなんだあの小僧はぁ!」
ブラフだと一笑に付す者。
彼の提案を魅力的に思う者。
大きく何かを言い表すことは無いが、それでも確かに何かを感じている者。
怒りをあらわにする者。
反応は三者三様だが、一つ確かなのは、この地を治める人間たちの姿とは思えないような醜態をさらしていたということ。そして、何らかの意図があってこの場に置き去りにしたのであろうナイフをいつまでも皆の眼がとらえて離さないことだ。
『……』
そんな中で黙っていたのはアルス。
ナイフを視界に収めながら、あごに手を当てていた。
場を収めようともしないのは長としては失格だろうが、今日に限ってはそれも仕方なかった。
時間が過ぎ、自然とその場にいる人の数が減っていく。
最後に残ったのは『牙』と『姫』。
口を開いたのは、ここまで黙していたアルス。
『――不思議な男だった』
「そうですね……」
『アリア、お前はあのミツキという女とずいぶん仲が良くなったと聞いているが』
「はい、とてもいい人です!」
『カガミとは何か話したりしたのか?』
「それが――」
『――何だと?』
アルスは、これまでのドワーフ達と同様の反応を示した。
言葉がわからないというのは、理解できる概念ではなかったからだ。故にニールセンたちは不気味がり、見知らぬ男を排斥しようとした。
彼女も同じだ。アリアに言われたことの意味を咀嚼し、何度か飲み込もうとして、それでも首をひねる。排斥とまではいかないが、信じられないというのが感情の大部分を占めている。
『アリア、言葉がわからないとはどういうことだ』
「さあ……でも、イーヴァ様が降りてきたときは聞こえている様子でした」
『イルファーレ様……』
神の権能をもってすればわかることなのかと『姫』の顔を見つめるが、自分にはできないことを勘案してもしょうがない。いったんは思考を放棄した。
今は、この場に捨て置かれた神器のことが最優先だった。万が一にもなくしてしまえば、それは鍛冶師として火を裏切ったことを意味する。
目の前にいるアリアを通して、神は今もアルスのことを見ている。
だからこそ『イルヴァの牙』はこれまで守られてきたのだ。
『仕方ない――私が持っておこう』
仕方ないなどと言いながら、アルスの手はわずかに震えていた。握ったナイフがわずかに脈動した気がし、それを懐にしまい込むことに躊躇を覚える。
それでも、最高責任者としての矜持でしっかりとしまい込んだ。
「アルス様、彼に神器を渡した神とはどのような神なのでしょうか」
『……牛の神、とか』
「牛の神?」
何言いだしちゃってるのこの人……とアリアは思わず二度見した。
『…………』
アルスは顔を抑えている。
下手なジョークだったという自覚があった。そんな様子にかわいいという感想を抱きながらも、気を使える『姫』はあえてそれには触れない。
「確かに、牛に執着しているという話でしたし……そうなのかもしれませんね」
むしろのっかった。
『……』
恥ずかしさで顔を伏せた『牙』は、そのまま無言で部屋を出ていくことにした。『姫』も当然、それに続く。
立場の近い者同士、意外と二人は仲が良かった。
――巨大な振動が、空洞全体を軋ませた。
兵士たちが二人を囲み、落石にも対応できるようにする。
しばらく続いたそれはしかし、幸いなことに被害を出すことは無かった。
「また……ですか」
『…………』
無意識のうちにつかんでいた槌。
「いったい何がこれを……」
この土地を襲っている謎の振動。
ここ1年、不定期に訪れるそれは住民たちを不安に陥れていた。
アルスは兵士たちに客人たち子を見に行くよう指示を出し、自らも工房へ向かう。
――――――
「地震……?」
「な、なにこれ……」
フィアステラの指示に従い、その場に座り込む。振動が原因で転んで、通路から足を踏み外すなんてことがあったら全てがおじゃんだ。
しばらく待つと、やがて揺れは収まった。しかし、その場にいる誰しもの顔色がすぐれない。ミツキは単純に恐怖から、ドワーフ達は長期的に悩まされている振動がまだ収まっていないことによる不安から。
だが、やんでしまえば何も起こらない。壁も、はるか下の溶岩にも変化は無い。
ただ、不安だけが周囲を包んでいた。
「まあ、地震ぐらいあるだろ」
地震大国NIPPON生まれの彼にとって、地震とは殊更に恐れる類のものではない。備えることは大事だし大地震が起こればそれなりの被害は出るが、この程度であればよくあることだ。
地下、そして火山内部ということで多少の緊張感はあったが、火山ならなおのこと頻発するだろうし、今まで生活が存続している以上は問題ないと計算した。
「アキ……」
しかし、蒼連郷において地震は全くと言っていいほど起こらない。モンスターの活発な活動によるものはあれど、プレートテクトニクスによるものと思われるものは体験したことがなかった。
ミツキが怯えているのはそのためだ。
「く、崩れないよね……」
「大丈夫ですよ、私たちが作りましたから」
「そ、そっか……」
「でも、もっと大きなのが起きたらわかりませんね」
「ひぃぃぃ……」
殊更に怯えさせて楽しんでいる趣味の悪いドワーフは置いといて、アキヒロはミツキの腕を引いて起き上がらせた。
「あまり揶揄わないでやってください」
「ふふ、つい」
綺麗な笑みを見せたフィアステラに呆れたが、逆に横から別の呆れ声が飛んできた。
それはここに来るまで黙り込んでいたヴォルフガング。腕組みをして、納得のいってない顔をありありと見せつける。
「やはり納得ができん。なぜ神器を手放す」
「ほ?」
「大事なものだろう?というか、大事なものでしかないはずだ」
「……」
「信じられんぞ……これは俺だけじゃなくて議員――評議会の面々たちの思いでもあるはだ。もちろんアルス様もな」
「……まあ、信じてもらう必要はないです」
「ああ?」
「結局は目的の情報を得られればそれでいいんですから」
「尚のこと理解できん」
そんな条件を先に提示してしまえば、情報の代わりにナイフをよこせと言われても仕方ない。
それぐらい、小学生だって予測できることだ。人より多少は賢そうなこのヒューマンがそのリスクを認識していないはずがない。
ヴォルフガングは不気味な気持ちに包まれていた。
しかしアキヒロは、その懸念が愚かなものだと切り捨てるように首を振る。
「信仰を侮ってはいけない」
それは今の話題に何の関係があるのかわからないことだった。しかし、ミツキ以外のドワーフ達――ヴォルフガングやフィアステラ以外も含んだ――は一つのことに思い当たる。
口には出さぬまま、彼の次の言葉を待った。
「思うことは信仰になり、願うことは神を生み出す………俺たちみたいな探索者よりもよっぽどすごい力だ」
遠い目。
何を見ているのかはともかく、この場以外のどこかに向いた意識。過去の出来事を思い出しているのだろう語り口には実感がこもっていた。
「あの時の俺は高校生だった。今ほどレベルは高くないし、ダンジョンのことも全く知らなかったけど――神の恐ろしさをしっかりと思い知ったのはあの時が初めてだった」
ブルりと身を震わせると、拳を握る。
「思いを溜め過ぎるな、ということです」
「……よくわからんな」
「おそらく、あなたがたは俺の言葉を聞いてもそれを活かすことはないでしょう」
「聞いてみなけりゃそんなもん分らんだろう」
「いいえ、何度も見てきたので」
「頑固だな」
「俺なんて柔軟性の塊ですよ。むしろねるねるねるねです」
「わけわからん」
鍛冶師達の性質を決めつけるような物言い。ひとくくりにされた上、言ってもわからないと下げられて気分のいい知性体は存在しない。
ややピリついた視線を真正面から見返す男は、逆に押し返すような圧力を放っていた。
「な、なんだよ」
「……いえ、少し言い過ぎました。申し訳ない」
「気持ち悪いやつだな」
「どいひー」
お茶らけた姿。
一気に霧散した緊張。
テンションのおかしい男に、付き合いの長いミツキは微妙な気持ちになっていた。
「なーんか怪しいんだよな……」
「怪しさ以外の何ものでもないですね」
誰から見てもテンションの上下動がぶっ壊れている。コマちゃんがいれば『餅つけ』と杵を手渡していただろう。
しかし、地震の不安もいつの間にか消え失せた。
「さーて、観光しますかね」
「ねー、牛の話しなくてよかったの?」
「ことを急いてはいかんぞ」
「ジジイは引っ込んでて」
「口悪いな俺の幼馴染……」
ウキウキお買い物タイムがやってきた。
フィアステラは目が死んだ。
――さっき謁見して議員たちをあんれだけビビらせた後にとか、こいつ正気か?
理解できないものを見るときは、大抵小ばかにしているものだ。
それはフィアステラに限らず、幼馴染も同じく。
「……」
二人はしかめっ面で男のことを指さす。
無言でも、心は通じていた。
こいつマジ……ねえ?
しかしそんなことにはまったく気づかず市街地へ足を踏み入れる。
市街地とはつまり、大鍛冶場や他の部分とは異なり、個別の鍛冶場兼住宅が密集している。
ここで武器を売っている鍛冶師などいない。そもそも、ここで金属製品を販売するなどという命知らずはいない。
万が一そんなことをすれば、途端に群がられてボロンチョに貶されるだろう。
しかし、どの家も扉が開いている。
奥からは槌を打ち付ける音がひっきりなし。
アキヒロはとある家に勝手に入り込んで、姿をのぞき込んだ。
「三船くんはこういうの好きかな……」
「んだてめえ!?」
ちょうど作っているのは三叉槍。
面白い武器だが、あの少年がこれを掴んでたくましく戦っている場面を想像することができなかった。
「お邪魔しました~」
「!?」
鍛冶師の家を次々と訪れ、驚かせては出ていく。
物色はしないのが救いだろうか。
これでツボを割り始めたらいよいよだった。
「うーん、中々良いのないなあ……というか、みんな直剣とかあんまり作らないのね」
「……」
「ちょっと癖のある武器作ってるのは何なんだ」
「……」
「ねえ、フィアステラアさん」
「……」
めぐらせた首を彼女に向けると、詰め寄る。
「何か知ってるんでしょおおん……痛いんだが」
「……」
幼馴染の目は、口ほどにものを言っていた。
「あー……教えていただけると……」
これくらい?と少しずつ確認しながら距離を取り、ようやく視線が和らいだのは5mくらい離れてから。
詰め寄る前の4倍くらい離れている。
「遠くない?」
さすがにもう少し……と近づきなおし、改めて問う。
「なんでです?」
「――ナイフとか直剣みたいな武器って、シンプル過ぎません?」
「……?」
上を見上げる。
すんごく上を。
暗闇の中にある天井、その奥にある空へ届かんばかりに首を反らし、目を瞑る。
「んん~?」
ちょっと何言ってるかわからない状態だった。
「いやほら、ナイフとか直剣って私たちは見習いの時に散々作るんですよ」
「はい」
「さすがに飽きるというか……違うものが作りたいというか……」
「はあ」
「あ、でもナイフばっか作ってる変人とかいますよ」
「まじ?直剣は?」
「直剣……私は知らないですね」
「一応ナイフの人教えて?」
興味津々で体を寄せる。
ミツキにガンガンと尻を蹴られてもお構いなしだった。
「――うおっカガミだ」
ナイフばっかり作っている変人はずばり、シキルスだった。
稀雨のシキルス――一応は議員でもある彼の工房にはぎっしりとナイフが置かれている。
展覧会ぐらい置いてあるのでより取り見取りだが、当の本人はフィアステラを睨んだ。
「なんで俺様の工房へ来やがった?」
「彼が」
「……笑いに来たか?」
とんでもないと首を振る。
「ナイフ、欲しいなって」
「嫌味か?」
「俺、まともな武器ってあれしか持ってないんですよね」
アキヒロも探索者になって初期のころは多くの武器をもって試したが、根本的に長物を持つのが気に食わなくてナイフと空気銃に落ち着いた。
おかげで魔剣になるまでは泥仕合の様相を呈することが多く、中々に厳しかった。
今、レベルが50の大台に乗ったおかげで下位のモンスターであれば素手で粉砕することが可能だが、同レベル以上に対してはやはり武器が必要だ。
槍やメイスなどの武器は有用だが、彼にとってはロマン武器の域を出ない。使えないだけとも言う。
膂力に任せて振り回すことは術理ではない。
それに、レベルに追いついてない武器を無理やり使うとすぐに壊れるのも欠点だ。このままでは馬鹿にしていた一億円の銃を買う羽目になりかねない・
「あれとは別に武器を育てたいなって」
「……」
「ほら、これとか今使ってるやつに形が近いし――」
「だめだ」
「え」
「神器に近いやつは許さん!」
「なんでー!」
「なんでもだ!」
結局、深層鋼製のナイフを買おうとして頭をひっぱたかれた。
「1000万なんて許すわけないでしょ!」
「とほほ……」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない