【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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131_変化していく世界

 

「見ろよこれ、めっちゃきれいじゃね」

 

「あ、ほんとだ……値段は……」

 

 シキルスの提示した額は180万。

 ミツキはむふーと考え込む。

 

「ひゃくはちじゅうまん……一年分の食費は……」

 

「買いだな」

 

「しゃべらないで」

 

「……」

 

 今の聞きました? と同意を求めるようにミツキを指さしたが、残念ながらシキルスは目を逸らした。

 フィアステラも首を横に振っている。

 その場にいる誰もが彼に否定的だった。

 

「なんだよ……」

 

「金遣いは荒いな」

 

「荒くないだろ」

 

「その場で200万ポンと出すのは探索者くらいだ」

 

「必要経費に金を惜しんで死ぬとか馬鹿の所業じゃないですか。無駄遣いってのは仕事帰りに風俗に寄るゲンさんみたいな人のことを言うんですよ」

 

「……風俗ねえ」

 

「風俗は別に否定しませんけどね」

 

「行くのか?」

 

 ──ピシリ。

 

 場の空気が凍り付いたような錯覚を覚えると同時、冷たい風が明宏の頬をなでた。おかしい、この地下空間は常にぬるま湯のような空気が流れているはずなのに

 ギギギとさび付いた首を動かせば、そこには黒い空気をまとったナニカが。

 

「アキ?」

 

「行ってない行ってない!」

 

「アキ?」

 

「まじで行ってない! 神に誓う!」

 

「アキ?」

 

「なんだよ!」

 

「行ったことは?」

 

「^^;」

 

 今世じゃないからセーフ! 

 なあ、そうだろう! 

 

「変態、色情魔、色狂い、女好き、浮気性──」

 

 すれ違うドワーフは、その鬱々とした空気に恐れをなして自然と道を開けた。呟く内容はどう考えても傍らの人間に降り注いでいる。

 夫婦喧嘩は犬も食わないのだ。

 

「なあ、本当に行ってないって」

 

「…………嘘だったら捥いで殺すから」

 

「……」

 

 探索者を殺すのは恐ろしく難しい──特に彼のようなソロ探索者の場合は顕著だが、本当に殺されるんじゃないかという気迫があった。

 

「ちぇっ」

 

 結局ナイフは買えなかった。レイトか自分のかどちらかだけにしろという条件が付いたので、今は自分の武器は後回しだ。

 ナイフマニアのシキルスとは別れ、次は直剣の作り手を探す。またもや勝手に人の家に上がり込むという所業を披露した。

 警察も法律も無いのでやりたい放題である。

 兵士が来ても、あくまで探索者として武器を探しているだけだということでお咎めなし。そんなに気になるならついてこいと、その兵士を引きずり込もうとしたのが有効だったようだ。

 

「普通の剣がない……鍛冶師ってあれだな、やっぱ変な奴しかいないんだな」

 

 彼が想起したのは現代美術家。余人には理解できぬ工程を経て、それを高い金額で売りつけるビジネスマンたちだ。ストーリーありきなので、それだけ見ても良さは理解できない。

 鍛冶師達の武器も一見すると普通に作っているようだが──彼が武器を物色するために家の中に入ると、それはもうとんでもないことをしていることがある。

 

「もうあきらめなよ」

 

「うーん」

 

「そもそもレイトくんに武器を買っていくのは今回の主題じゃないじゃん」

 

「まあそうなんですけどね」

 

「あの子もそんなに色々されると返さなきゃ~って頑張り過ぎちゃうかもよ?」

 

「……その視点は無かった」

 

「はい雑魚~」

 

「真の雑魚がどちらか、貴様の体に刻み付けてしんぜよう……」

 

「も~! 歩きづらい~!」

 

 武器の物色を終えた二人はやがて、とある場所を目指した・

 はるか下から煌々と光を届ける灼熱。

 地上に炎熱地獄を再現したならこうなるだろうという光景。

 

 コポコポと音を立てる溶岩。距離を保っていても熱気が肌を焼くような、過酷な環境。まるで川のように流れて二人の目の前を通り過ぎていく。

 あまりの暑さに、アキヒロを盾にしながらミツキは疑問を口に出した。

 

「モンスターはいないのかな……」

 

「いたら近寄れるわけないだろ」

 

「そうじゃなくて! こう……なんかが溶岩のせいでモンスターになったり!ないの?」

 

「……ある」

 

「ええー!?」

 

「でもほら、それでモンスターがいたら結局近寄るなんて無理だし、イルヴァの牙だって都市として形を保てないだろ」

 

「で、でも聞いたよ!? 町が大きくなっていくとモンスターが増えたりダンジョン化のリスクが増えるんでしょ! こんなにたくさん人がいたらモンスターだって──」

 

「……」

 

「アキ?」

 

「ん……そうだな、ミツキの言うとおりだ」

 

「うん」

 

 溶岩に小石を投げ込むと、ジュオオという音を立てながら砕ける。時間が経てばやがて赤熱し、溶け込んでいく。どれだけの高温なのか。

 生物がこれに触れたらカスも残さず消えるだろう。

 しかし鍛冶師達は真顔でやってくると、手に持ったバケツに溶岩を組んでその場を去る。観光気分の二人とは違って、鍛冶師達はそれを当然のものとして扱っていた。

 

「なにしてるんだろ……」

 

「さあ……フィアステラさん、あれはなんなんですか?」

 

 溶岩を生活の一部として扱っているような光景。

 2人の興味を引くのも無理はない。

 

「秘密です」

 

「えー」

 

 結局、鍛冶師達が溶岩を汲んで持っていく理由はわからずじまいであった。

 

 

 ──────

 

 

「──またかよ」

 

 第32セクターは中心部。

 買い物のために訪れたそこで、ヒナタは顔をしかめる。

 待ちゆく人の多くも、同じように嫌な顔をして通り過ぎるだけ。

 だが、少数でも足を止めてしっかりと耳を傾けている者がいた。

 

「我らがエリュシオン。世界を変えるための力がここにはあります。どうか、数秒だけ足を止めて聞いてはくださいませんか?」

 

「けっ」

 

 唾を吐き捨て、背を向ける。

 

「そこのきれいなお姉さん。あなたはどうですか?」

 

「……」

 

 明らかに自分に向けられた声。

 足を止めたヒナタはしかし、足元を歩くコマちゃんの眼を見た。

 

「──」

 

 ゆっくりと振られる顔。理解していれば、犬にしてはあまりにも人間臭いふるまいだ。しかし、はた目には何も映らない。

 ただ、飼い主がペットを見ただけのことだ。

 ヒナタは足を再び動かし始めた。

 

「アキヒロの言ったとおりですね」

 

「わんっ」

 

「寒くないですか?」

 

「……わふ」

 

 このセクターに越してきたばかりの彼女だが、エリュシオンを名乗る人間たちが頻繁に演説をしている姿を目にしていた。

 住人の中にはその言葉に感化されてついていく人間もいる。それを見て苦々しく思いつつ、出発前のアキヒロに言われたことを思い出してとどめるのだ。

 それは、怪しい人にかかわるんじゃないぞという、普通に聞けば当たり前の言葉だ。しかし、外出するときはコマちゃんと一緒にるように言われていた。

 余りの念の入れようを思い出す。

 しっかりと中身を聞いてみれば、みんなを幸せにするだとか、テクノロジーから脱却して自然に帰るだとか、探索者を廃止するべきだとか、何を言っているのだと鼻で笑うようなことだ。

 だが、それでも集まっている人間がいる。発言しているのがきれいな女だというのが多分に関係しているだろう。

 

 不愉快だった。

 

 悦に入っている顔。演説をしている自分が何よりも高貴で、茶々を入れる人間──抗議する探索者達──などは無価値なんだと言っているように見えた。

 自分が今生きている世界がどうやって維持されているかも知らずに、ふざけたことを宣う。

 まるでカミサマのようだと思った。

 かつては信奉していた、悍ましい存在。

 

 あの恐ろしい出来事。

 まだそこまで月日は経っていないけど、あの日のことは死ぬまで忘れないだろう。

 黒々とした雲、緑色の風を背景に。

 この小さな犬が何をしたか。

 

 もちろん、あの女とあの神様は関係がない。

 それでも嫌なものを感じるのは確かだった。

 

「ただいま~」

 

「あ、おかえり」

 

「……なにしてんの?」

 

「そろそろ雷季になるでしょ? だから耳当て用意しとこうかなって」

 

「持ってるじゃん」

 

「アキヒロ君たちの分だよ~」

 

「…………いや、あいつらも持ってるだろ」

 

「……」

 

 ヒナタの突っ込みは無視。ちくちくと毛糸を編み続ける。

 わざわざ毛糸なんて高いものを買ってきて……と口をへの字に曲げたヒナタは、あるものを見つけた。

 

「お? これ……なんだ、できてるのあんじゃん」

 

「! ──そ、それはダメ!」

 

「いやいや、結構いい出来だろ」

 

 試しに着けてみるとすっぽり。

 防音性の高いモンスターの素材だからか、何かを訴える早苗の声も聞こえない。

 

「──! ──!」

 

 早苗はピョンピョン飛び跳ねて耳当てを取り返そうとするが、身長差から叶わなかった。

 

「これ、いらないならくれよ──っておわっ!?」

 

 影になっていたので見えなかったが、同じような形をした耳当てがいくつも。すべて完成しているにもかかわらず、打ち捨てられたように乱雑に床に落ちている。

 

「……」

 

 いつの間にか動きを止めた早苗。

 ヒナタは、実姉がおかしくなったと戦慄した。

 

「い、一応聞くけど……これ、なに?」

 

「────つ」

 

「え?」

 

「だ、だから…………だって」

 

「聞こえねえよ」

 

「──作ったはいいけど納得いかなかったやつ!」

 

「……」

 

 聞かなかったことにして、買ってきたものをしまい込む。

 

「さーて、今日の夕飯は何にするかな」

 

 手に食材を持つと、料理を頭の中に思い浮かべた。冬だから、食材も限られる。

 ダンジョン産の食材は食べると調子を崩すこともあるので慎重に選ばなければならない。

 人工肉は食べ過ぎると飽きる。

 今あるものの中で、できるだけこらえなければ。

 

「──何か言いなよ」

 

「ひょっ……」

 

「言いたいことがあるんでしょ」

 

「し、知らねえ」

 

「お姉ちゃんの眼を見てそれが言える?」

 

「……」

 

 観念すると、口元をゆがめた。

 

「その……重い」

 

「お、重くないから!」

 

「重い」

 

「そんなことないって!」

 

「いや、重い。一個作ればそれでいいだろ」

 

「っ……ヒ、ヒナタちゃんは男の子に贈り物とかしたことないから知らないんだろうけど! こういうのは良いのをあげたいものなの!」

 

「はああ!? 私だってそんぐら、い…………」

 

「そんぐらい何さ!」

 

「……私は別にいいんだよ! 贈らなくても!」

 

「──ふーん」

 

 舐めた発言に目が吊り上がる早苗。

 

「良いよねヒナタちゃんは、見た目の年齢が近いからさ。なんもしなくてもアキヒロ君と高校で出会えたんだもんね?」

 

「……ああ?」

 

「フリョーやってただけでアキヒロ君が見つけてくれたんだからいいなあ」

 

「──てめえ、あんま舐めたこと言ってんじゃねえぞ」

 

 ヒナタは食材を粉砕して、早苗は編み物を置いて向かい合う。

 身長差からすると有利なのはヒナタだが──

 

「努力もしないでアキヒロ君がいつまでも相手してくれるとは思わないよ」

 

「そうだよなあ、努力しても身長伸ばせないもんなあ」

 

「……いくらヒナタちゃんでも怒るよ」

 

「やんのか?」

 

「くすっ……勝てたこともないくせに吠えるよね」

 

「──ぶっつぶす!」

 

 徒手のままに、両雄激突──! 

 

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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