【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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132_歓迎?

「ぜはあ……! ぜはあ……!」

 

「ふう……! ふう……!」

 

 ──誰がこれを直すんだろう。僕が直すんだろうなあ。面倒を見ろってご主人様から言いつけられてるから、家がめちゃくちゃになってたら僕のせいになるんだろうなあ。おかしくない? だって僕はただの犬だよ? スコティッシュテリア。何で僕が人間の面倒を見てやらなきゃいけないのさ。おしめを変えるとかじゃないから受けたけど……帰ってきたら目一杯撫でてもらわないと割に合わないね。あとはジャーキー。

 

「──!」

 

 放たれた右足刀。

 低い身長の人間でも狙える急所、鳩尾を狙ってのものだ。だが、それを無防備に受けるような人間はいない。

 日向は左肘と太ももで挟み込むように受け止め、続け様に右掌底を打ち出す。

 

「しっ!」

 

 5cmだけ顔をずらし、耳のそばを皮一枚で避けた早苗。お返しとでも言うように手首を掴み取り、腕を巻き込んで日向を地面に叩きつけんとしている。

 

「!」

 

 しかし、ヒナタもその黙ってやられるわけがない。耐えようとするのではなく、むしろ力の流れに沿って身体を転回──側中を行っての着地をとった。

 

「まだっ!」

 

 さらなる追撃。

 着地の衝撃で体が固まった瞬間を狙って左足甲を踏み抜いた。

 

「ぐっ……」

 

「うりやあ!」

 

 痛みでタタラを踏んだ日向の股間に向けて前蹴りを放つ。

 

 ──加減わい。

 

 喧嘩にしてはやりすぎ──だからこそ、ヒナタは不良どもの間で頭になっていた。容赦の無さは、こうして培われていたのだ。

 

「──らあっ!」

 

「うっ」

 

 小さな足を膝で弾く。勢いはそのまま横向きに振られると、板間に素足では踏ん張るにも限界があった。

 流れた体、右半身を晒した早苗に向けてシンプルなブローが脇腹目掛けて放たれる。

 完璧に入るコース。

 喰らわせれば内臓へのダメージがスタミナと精神力を削る一撃。

 

「!」

 

「──それはアキヒロ君に教わったのかな?」

 

 右肘と拳がせめぎ合う。

 見上げる姉と見下ろす妹。

 拮抗する状況に、今まで様子を見ていた第三者がようやく口を開いた。

 

「わんっ」

 

「──失礼しました」

 

「…………」

 

 部屋の惨状。

 机やら椅子やらが倒れている。

 先ほど作った耳当ても、最初より散乱している。

 犬は呆れた目でそれを見ていた。

 姉妹喧嘩だろうが夫婦喧嘩だろうが、そもそもは興味がない。人の喧嘩で面白いのは酒場で怒鳴りあって取っ組み合いを始める探索者達だけだ。

 

「ほら、片付けるよ」

 

「ちっ」

 

 家の中で喧嘩が起こると、こうい陰惨な空気に巻き込まれる。アキヒロは家族と喧嘩をしない。強いて言えばコウキと喧嘩をすることがあるが、ミツキや茜に対しては基本的に下手なので喧嘩に発展しないのだ。それでも怒る時というのは本当に相手が悪い時なので、説教になる。

 

「割れてる……」

 

 机がひっくり返った衝撃で落ちた食器が5つのピースに砕けていたので、庭に捨てる。あとで燃やすものが置いてあるスペースだ。

 しかし、片付けは進むが2人の感情はおさまっていない。売り言葉に買い言葉で始めた喧嘩などそんなものだが、時折肘で突いたりしているのでため息をついた。

 

「わふわふわふ……」

 

 ──こんなんじゃ僕の身が持たないよ。もうこうなったら家出してやろうかな。それで酷い目にあえばいいんだ──ダメダメ、そんなことしたらあいつが帰ってきた時に、より酷い目に遭わされる。最悪捨てられるかも……それは無いか。無いよな。無いはず。

 

「わひゅう」

 

 一から十まで見ていないといけないのは非常にストレスの溜まることだ。アキヒロは放任主義なので、コマちゃんがどこに行くにせよ気にしない。出かけるところに出会すとどこに行くのか聞かれるが、それに答えなくても問題ない。

 しかし、この2人は放っておくのが心配だと明宏から仰せつかっている。

 

「ちっ」

 

「…………」

 

 人を見守るということの難しさ。

 生まれた場所でもおこなっていたはずのそれは、距離が近くなるだけでこれほどに変わるのだ。

 

 

 ──────

 

 

「肩身狭ーい……」

 

「親善大使としてきたわけじゃ無いし、仕方ねえよ」

 

「だけど、もうちょっとだけ優しくしてくれてもいいのに……」

 

「めんどくせぇ彼女みてえなこと言うな」

 

「彼女なんだからいいじゃん!」

 

「俺の話じゃなくてね?」

 

 何故砦ではあんなにも歓迎ムードだったのかがわからないくらい、この都市は余所者への目が厳しいように思えた。

 

「こんなもんだろ」

 

「みんな目が怖いんだよねえ……アキはこういうの慣れてるの?」

 

「慣れてる……というか、探索者はもっとしょうもないやつもたくさんいるから」

 

 アキヒロの目には、ドワーフ達の目は歓迎してるとかしてないとかではなくて怯えているようにしか見えなかった。伏し目がちだったり逸らしていたりと、露骨ではないものの、異邦寄りの来訪者に対するそれが透けていた。

 

「砦だと宴も楽しかったけど……なんか怖いなあ」

 

「親父さんにくっついて金持ちパーティ行ったりしてただろ。あれと何が違うんだよ」

 

「金持ちパーティって言い方やめてよ」

 

「やーい金持ち」

 

「んのヤロー!」

 

 怖くても嫌でも宴の時間はやってくる。呼び出した以上は、歓迎(歓迎とは言ってない)することは最低限のもてなし。受けないわけにはいかない。

 

「──楽しそうね?」

 

 呼びにきたのはフィアステラ。

 建物の明かりが全て消され、ほぼ完全な暗闇になった空洞内。松明を手に持って進んでいく。

 

「なんで灯りを消したんですか?」

 

「特別だからね」

 

「特別?」

 

「夜だって火が消えることはないイルヴァの牙で、こんなに暗くなるのは初めてなの。少なくとも私は見たことない」

 

「……私たち?」

 

「そっ、楽しみにしててね?」

 

 集められたのは大鍛冶場の前だった。

 敷かれた茣蓙に座った2人の前に現れたのは、やや硬い顔をした『姫』──ゆらめく炎が、周囲いるドワーフ達の姿を照らし出す。

 この光景を見ると、2人は改めてここが蒼連郷とまるで違う地であるのだということを感じることができた気がした。

 そして口を開く姫。

 

「ほ、本日は蒼連郷より来られたしお二方を歓迎すべく、我々なりのおもてなしをさせていただきます。まずはこちらから──」

 

 やってきたのは、これまた緊張している子供達。

 手には槌を携えている。

 前をまっすぐに見つめ、何かを待っているようだ。

 

「なんだろ……」

 

「さあ」

 

 今からあの槌ボコボコにでもされるのだろうかと訝しむ2人。しかし子供達は2人に近付いてくることはなく、列になると踵を返して大鍛冶場の中に入った。入り口に扉が無いという構造上、子供らがどこにいるかはありありとわかる。中に入った子供らは列から分かれると大鍛冶場の中に設置された金床の前にそれぞれが陣取り、槌を振り上げて何かを待っている。

 

「なんだろ……」

 

「さあ」

 

「……子供達がいるからって頬緩みすぎじゃない?」

 

「ああ」

 

 次にアリアが手を上げると、今度は大人達が中に入っていく。

 

「何するんだろ……」

 

「さあ」

 

「あのさあ……」

 

 会話しろ、とモモをつねる。

 

「いてて……本当にわかんないんだからしょうがないだろ」

 

「せめてもっと──」

 

「静かにしなさい」

 

 アキヒロは一つ、幼馴染についての知見を深めた。こいつは映画館に行くと上映中に内容について語ろうとするタイプの女だ。

 

 2人の前では大人達が大釜に入った熔鉄を汲み取り、子供らのそばへ。熱くたぎった鉄がドワーフの顔を照らし、汗が玉のように浮かんでいるのがありありとわかる。

 

「うわあつそー」

 

「そうだな……めちゃ熱そう」

 

「ねえねえ、これ見てるのって私たちが最初なのかな?」

 

「たぶんな」

 

 短く回答しながら、アキヒロは瞑目した。

 自分たちはこの場に唯2人のヒューマンである。そして今まさにもてなされている客人。1000人以上はいるようにも見えるドワーフ達の中で、彼らだけが客人として目立つ場所に座らされている。そこで、催事の準備中にこんなにペチャクチャと喋っていたら、それはもう悪目立ちする。

 凛と背筋を伸ばして笑顔を称えるのが自分たちのするべき正しい振る舞いなのではないかとアキヒロは考えていた。

 

「あ、見て! 姫様がなんか手あげてる!」

 

 アリアの合図と共に、熔鉄が子供達の前に用意されていた直方体の金型に注がれた。

 少し待つと、固まった鉄が型から取り外されて金床に配置される。大人1人、子供1人、鉄が一つ。

 最後にもう一つ、アリアが手を挙げた。

 

「うわあ……!」

 

 規則正しく振られる槌。

 闇に潜んでいたのか、篝火が着くのと同時に姿が浮かび上がった奏者達が楽器を鳴らす。

 つまりこれは、宴のbgmだった。

 

「すごいね!」

 

 親善大使などという大仰な肩書を持ってこの場に来たわけではない。

 あくまで私的な用事でやってきたアキヒロと、それにフンとしてくっついてきたミツキがたまたま、この国を訪れたことのある世にも稀なヒューマンになってしまっただけだ。

 一般ヒューマンがそうであるように、ドワーフもまた一人の人間として探索者を見た時に良い人であると判断する事は少ない。

 そんな中でやってきた2人がヒューマンとして悪評を広めてしまえば、二度と門戸は開かれないだろう。

 

 ──自分の昼間の振る舞いは忘れて、そんなことを考えていた。

 

「ねえ面白いね! アキの音楽とも違うけど!」

 

 まあ、始まったし良いか! 

 

「……そうだな!」

 

 ポコポコと鳴る太鼓の音に混ざってリズミカルに響くのは、子供達が金属を叩く音。ものによって音色が違うのは彼らが編み出した技か。

 

「溶けた鉄で音楽か……」

 

 汗を垂らしながら鉄を叩く。

 果たしてどれくらい続けられるのだろうか。

 

「なんていう音楽なんだろうね」

 

「──ブンガですよ」

 

「ブンガ?」

 

「火の喜び、という意味なの」

 

「ほえー……フィアステラさんも出来るんですか?」

 

「できますよ」

 

 フィアステラはミツキの隣に陣取っている。案内役として最後まで役目をこなすということだ。

 そんな彼女は両手を膝の上で軽く弾ませる。

 

「ミツキちゃん達の音楽とは違うけど、気に入ってくださったようで嬉しいな」

 

「はい! なんか可愛らしいですね!」

 

「うふふ。そういえば先ほどの話──カガミさんも音楽を嗜まれるのですか?」

 

「アキはアニソンっていう変な音楽が好きなんです!」

 

「へー、私も聞いてみたいですね」

 

「ギターがあれば……でも今回は持ってきてないんだった」

 

「じゃあ今度、機会があれば聞かせてね?」

 

 なんで俺を抜きに約束を取り付けてんだこいつら……という視線に気付いたのか。フィアステラはアキヒロに向き直る。

 

「改めて歓迎いたします。神器の所有者、加賀美明宏さま」

 

「ありがたく」

 

「昼間とは逆ですね、お二人」

 

 おかしそうに笑う。

 

「TPOというものがありますから」

 

「てぃーぴーおー……」

 

「正直なところを言うと、ここまでしっかりとした歓迎を受けるとは全く思ってもいませんでした。だから、嬉しいです」

 

 それは失礼ではあるが、街を歩いてみた人間からすれば出るべくして出た感想だった。むしろ、あの扱いで全力歓迎をしてもらえるなどと思うのは余りにも楽観的過ぎる。

 

「……これは、私も正直なところを話すんですけどね」

 

「はい」

 

「みんな、お酒が飲みたいだけなんです」

 

「…………そっかあ」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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