【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「へっほうのんふぁへー」
「お前の半分くらいしか呑めてないけどな、俺は」
酔いで足元のおぼつかないミツキに肩を貸して歩く。彼女に限らず、そこら中に顔を赤くしたドワーフがほっつき歩いている。
そして酔いは、人の内心を露わにする。
「──おい」
「はい」
「人のシマで好き勝手してやがんなてめえ」
「いや、そんなことは……」
「何が目的で来やがった? ああ?」
「はは……」
「バカなやつだ、お前1人で何ができる」
「…………」
「イーヴァ様の加護がある限りイルヴァの牙は安泰だ!」
「それは……そうですか」
「そうだよ! だから無駄だ!」
「……俺は、そうは思いませんけどね」
よせばいいのにアキヒロはわざわざそれに反論した。そもそもこのドワーフは自分が何を言っているかもわかっていない。そんな相手に何を言ったところで意味など無いというのに。
「んだよ!」
「たとえ1人だとしても……きっと未来があるんです」
「未来だあ?」
「あるのかなあ……」
「……はあ?」
「もう通り過ぎたものをいつまでも見るなんて、年寄りのやることじゃないよなあ……でも、諦められないんだからしょうがないよな……だってせっかく────だから……」
「なんだって!? なんか言ったか!?」
「酒がうんめえ」
「……そんな酒、お前には飲む資格ねえ!」
「あっ」
明宏が持っていたコップが奪われ、中身が飲み干される。
「ぶはあっ! こんな良い酒、外の人間に飲ませるにゃあ高尚すぎる! ワームの小便でも飲んでろ!」
「──はは、確かに飲んだことねえな」
「失せろ!」
「そうしますか」
気付けば幼馴染は寝息を立てている。今日はもう呑まないだろう。彼も飲む気分ではなくなっていた。
それよりも、ドワーフたちを観察しながらゆっくりと進んでいく。
ドワーフの生活水準は、一見するとアキヒロらヒューマンよりも下だ。テレビや端末などがない。情報社会に足を踏み入れれば置いていかれるのは間違いなくドワーフだ。
彼の見立てでは、科学技術が仮に第一期の終末期と同水準になった世界ではドワーフたちの居場所はなかった。
しかし、この歪に破壊された世界では──
「神様の加護ってなあ、凄いな」
文明を進めるほどに魔素がモンスターやダンジョンを顕現させる。何処かより現れる緑色の風が歴史を、技術を洗い流す。地殻変動が世界の形を変える。
彼の思うような世界にいたるためには、この三つの障壁を乗り越える必要があった。
『お前1人で何ができる』
心に深く突き刺さった。
それは、常にあえて無視している言葉であるがゆえに。
社会とは1人では作ることはできない。
彼がどれだけ牛が大事だと叫んでも、社会がそれを永遠に認めないならばそれは狂言であり、受け入れられることはない。
そもそも1人では家を作ることすらできない。掘立小屋ですら建てるのは難しいし、そんなところで牛を真面目に育てるのは無理だ。だから彼は、社会の中にいる必要がある。
「ん…………」
それだけではない。
人は孤独に耐えられない。
長い期間黙していたならば言語を使うことはおぼつかなくなる。ゆえに集まり、街を作る。
同じ文化を持つ人間達で馴れ合う。
それこそが社会性の動物である彼らの在り方だ。
だが、この世界はそれを否定する。
──集まるならばダンジョンとなれ。
──研究を続けるならばモンスターに堕ちろ。
──信じるならば神を生み出そう。
──苦しむならば変容を与えよう。
──戦うならば怪物へ成り果てろ。
人類が最も得意とする『技術と知識の継承』。
アキヒロが強く望むもの。
それらは悉く検閲され、異世界と呼ぶに相応しいモノに邪魔されそうになっている。それでも、やはり人類の継承力は強い。
なんとか文明を繋いでるのがその証拠だ。
物資はたんまりある。
モンスターからの防衛戦力も基本的には足りている。
幾多の犠牲を過ぎ去って、ダンジョンを作らないためのノウハウもある程度はある。
しかし同時に、大きな犠牲というのがネックだった。
国家基盤として完成している蒼連郷において、求められているのは緩やかな平和。人命を軽視しての発展をしようものなら大きな反発が生まれるだろう。
その風潮の主要因は、モンスターとダンジョンという2つが概ねを占めている。
身近な脅威。
探索者という職業が存在する理由でもある。
──飜るに、ここはなんだ?
モンスターはいない。
これほどの人がいてもダンジョン化しない。
地下ゆえに気候も落ち着いている。
独特な音楽が発展し、謎の技術を用いてワープを任意の場所で発生させることができる。
わずか2日だが、グリムス砦と合わせて結論は出ていた。
「──神を引っ張ってこいってことですか」
「流石にわかりますか」
案内人、フィアステラ。
鍛治師、ヴォルフガング。
両名がいた。
酔いの浅そうな二人は、手に櫛を持っている。
串に刺さったのは、この地にありふれた食材であるワームの肉。やや苦みがあるのが特徴の、酒によく合う食材だ。うなぎの肝をマイルドにしたような苦味はクセになる。
穏やかな笑みだった。
「……残酷過ぎません?」
「ですがあなた達は、このままでは気付くことがないでしょう?」
「そうですね……正直否定できない」
なんて皮肉だろうか。
彼の望む世界を手に入れるためには、彼が知らぬ世界の象徴である神様の加護とやらを受けないといけないらしい。
「お気に召しませんか?」
正反対だ。
まるで、彼が望んでいた展開とは逆。
鍛治師が道具に異能を付与するチカラ。その源泉こそが彼の求めるものなのではと夢想していた。
彼らが本拠地まで招くのも、その秘法を教えるには外部では無理だからだと。
「だけどカガミさん……人の力だけで出来ることには限界があるんです。どれだけレベルが上がっても、関係ないんですよ」
「…………」
「イーヴァ様を信仰するのは無理でしょう。ドワーフとヒューマンでは価値観があまりにも違いすぎるので……ですが、霊領をめぐればあなたが望む神様もいるはずです」
──────
「すぅ……ん…………」
酒臭い息を吐きながら寝るミツキをベッドに置いて、アキヒロは外に出た。
真っ暗な中で、未だに宴の周辺だけが明かりで満ちている。全員が潰れるまで飲むのだろう。フィアステラ達も彼との会話を終えると再び酒を飲みに行った。
最早、主賓である二人など置いてけぼりで祭りは開かれている。気分ではなくなったアキヒロが離脱したところで何の問題も無い。
『姫』には既に離脱することの話はしていた。
「遠い……」
宴を見下ろすアキヒロの拳は強く握られている。握られた銃、また一つの神器だ。
神から与えられた武具は、彼が神と出くわしたことを意味している。
「神の加護だって?」
神器を与えられたことが既に恩寵を得ていると考えることもできる。しかしそれは彼の望む形では無い。
モノなど、どうでも良い。
「先生、貴方は知っていたんですか? …………そんなわけないよな」
彼の知る限り、最も霊領について把握している人間。だが、神とこれほどまでに近い種族が存在するなど想像できるわけもない。
──神。
その言葉は、とても重い。
全知にして全能。
形而上の存在という意味での神であるならば、出会したら気だって狂うだろう。
そしてもう一つ。
「いただきますを奪った奴らだぞ……」
冗談ではない。
感謝の気持ち──根本には自然への感謝がある筈なのに、それを奪い去った神の加護など碌なモノじゃない。
ドワーフたちの信仰心が本物なのは認めよう。
イーヴァ、イルファーレという神が善良で、ドワーフたちとの結びつきが有効であることも認める。
しかし、神に個性があるならば。
蒼連郷の神とやらが人に対して善良であるという保証はない。
「そもそも俺じゃ無理だろ……」
加えて彼は、霊領に入ると謎のダメージを追うという悪仕様の人間だ。何だかよくわからないけれども神様とは相性が悪そうという酷い体質なので、正直なところ参っていた。
「どうすっか」
『どうするのだ?』
「……どうしましょうね」
足音があったので当然に気付いていた。しかし『牙』が単身でこの場にやってくるとは全く想像の外であり、オウム返しをオウム返しする形になってしまった。
小さき為政者。
アルスという名のドワーフとが、二人きりの場にやってきた。
『宴の時は顔も合わせられずにすまなかったな』
「気にしておりませんよ」
『──少々露骨だったか?』
「露骨……そうですね、ハッキリと言葉にされなくても分かるくらいには違いましたから」
苦笑。
フィアステラは道程の最初からヒントを与えていた。ただ彼が気付かなかっただけの事で、答えは割と早い段階に提示されていたのだ。グリムス砦で気付いていれば、それこそココに来る必要も無かったやもしれない。
『それで……どう思う?』
「どう、とは」
『この地を、外の目で見てどう感じた?』
「…………太陽が無いのは寂しいですね」
『……ふっ、確かにそうだな』
「いやいや、笑い事じゃ無いですから。太陽を浴びないと必要な栄養素を得られないですし」
『そうなのか?』
「ええ、病気になることもありますよ?」
『……どんな病気だ』
「骨が脆くなったり──」
『頑丈だな』
「脚がO型に曲がったり──」
『真っ直ぐだな』
「身長が伸びなかったり──」
『これはドワーフの特徴だ。身長のことを言うのはやめてもらおうか』
「そういうつもりは無いです」
『…………特に問題はなさそうだな』
「これも加護なんですかねえ」
『イーヴァ様は火の神でもある。天に浮かぶ火の代わりになるのは当然だ』
「……ずる」
素直に認めざるを得ない。
イーヴァは偉大な神だ。
様々な恩恵を種族全体にもたらしているのだから。
『私はお前たちのところの神に詳しくは無いが、どのようなのがいるのだ?』
「不明ですね」
『……私たちは明かしているのだから、そこは教えてくれても良いのでは?』
「ああ、そうじゃないんですよ」
蒼連郷において神に関する研究とは危険と隣り合わせで
あり、名前や姿、その在り方すらつかめていない。進んでいるのはあくまで霊領に関する研究だ。
また、高レベルの探索者達からの情報として、神を目にしたら気が触れると言われている。
そして超自然的な存在がゆえに、人と交流を持っているような神は見たことがない。
『──』
そんな話を偉い人にしていると、アキヒロは気付く。やけに静かだ。先ほどは相槌を打ったり、合間に話を挟んだりしていたのに、寝てしまったのだろうか。チラリと視線を向けてみれば、顔が引き攣っていた。
「どうされました?」
『……蒼連郷は恐ろしいところだな』
「はい?」
『神を研究しようとするとは……勉強になった──が、やはり恐ろしい。我々には無い発想だ』
「あ、そういう……」
確かに彼女からしてみればそうだろう。敬愛する神の正体を暴き、掌中に収めようとするなどというのは冒涜に等しい。
そして、それは神に対してというのもそうだし、単純に他者に対する態度では無かった。
信頼度に拘らず、誰かを完全に要素分解して分類するなどというのは。相手を一つの生命としてではなくただの研究材料としてしか見ていない証拠だ。
「鍛治師のトップであるならば、そういった事情はご存知だったのでは?」
『…………初めて会った時から思っていたが、フィアステラの言った通り堅苦しいな』
「礼儀を欠かさぬというのは大前提の話です」
『昼間は好き勝手していたようだが?』
「例外もあるということで」
『……まあいいか、私は牙になってから浅いからな。蒼連郷を訪れることがあっても、細かいところまで観察したりする余裕が無いんだ』
「なるほど」
目の前のドワーフは確かに見た目こそ若い。
しかしレベルの高い人間は年老いるのが遅いという特徴があり、コウキという前例もいる。その例の一つかと考えていたのだ。
──ちなみにおいくつで?
とは聞かなかった。
『一週間ほどはいるんだろう?』
「……そうさせていただきます」
一ヶ月くらいは余裕を見ている。帰った頃には年が明けて雷季になってしまうだろうが、相手が一週間と言ってきたのだから一週間泊まればいいだろう。
『鍛治師の正体見たり、で帰ってしまわれると我々としても拍子抜けだからな』
「そうですね」
『…………皆から厳しい目が向いているのは許してくれ』
「いえ、何となしには理解していますから」
彼女が最高指導者だというのなら、彼女がいいと言えばいいのだろう。ただ、指導者が必ずしも民衆の感情をコントロールできるとは限らない。
『人が入ってくるということに、我々は免疫がなさすぎる。100年もそうしていたのだから仕方ないとしても、いつまでもそれでは致命的な事になってしまうだろう』
「アルス様は変えたいのですね」
『──まだ間に合う。閉じこもり、安寧の中で生き続けるだけではきっと……いつかダメになる。ヴォルフガングがあなたと出会ったのは、きっとお導きがあったからだ』
「…………」
『これもまた聞きたいことなんだが──』
「ストップ」
『……』
「私は探索者です。たまたまというか何というか……結果的には国の代表のような形でここを訪れてしまっていますが、政治に詳しいわけではありません」
『…………ふふ』
「……」
『情熱だけでここまでやってくるくらいだ。何を見ているか気になるのがおかしいと思うか?』
「19の若造に見えているものなんて、女と酒とタバコぐらいです」
『…………存外、渋るな』
「口を出すということは、発言に対して責任を持つ必要があるということです。私はこの国の行く末に責任なんて持てません」
『本当は何歳だ』
「19です」
『…………探索者は誤魔化しが効くからな。顔を見てもわからん』
「本当に19ですよ」
ジロジロと顔から足までを見て首を傾げる。お互いがお互いを見た目よりも年上なのではと疑う失礼な空間になっていた。
『しかし、なんだな。やはり探索者にしてはマトモだ』
「喜んで良いのかどうか悩ましいですね」
『……これを』
「おお、しっかりと返してもらえた」
『試したのか』
「ただの確認です」
『……我々はイーヴァ様の庇護下にある。そんな我々が盗みなど働いては、神の名を汚すことになってしまう』
神の名の下に、悪事を働くことを許容しない信仰集団。善行をよしとするのでは無く、悪事をよしとしない。似ているようで違うそれは、しかし確かに善なるもの達でしかあり得ないことだった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない