【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
少年についていくと、やがて緑色のリボンがくくりつけられた空間に辿り着いた。気配など周囲には感じられないが、きっと何かがある。確信にも似た予感はやはり裏切られることなく的中した。
「これは……」
メタリックグリーンに輝く存在。アキヒロはそれを初めて見たが、確かにその存在を知っていた。先ほど目にした黄金とは違い、所々剥き出しになってはいるが量自体は比較する必要もなく少ない。
「ミスリルか!」
教科書にも載っているような新世代の鉱石。非常に高い強度を持つこれは、彼の鎧にも用いられていた。触るとひんやりとした表面が振動し始める。
「!」
パッと手を離したアキヒロを見て笑う少年。
先ほどまでの怯えた表情はどこへやら、楽しそうに肩を揺らしている。しかし、肝心のアキヒロは目を細めて全神経を周囲に集中させている。子供の心は女と同じく、1秒経てば移ろいゆく水物。ここに遭難者がいる可能性もある。
慎重に岩の隙間などを見るが、誰もいない。背後から覗き込む少年の息がくすぐったい。
「#p? (いた?)」
「……ここに、本当に遭難した子がいるのか?」
「Gaw#j#Ig! qfxyAIa)dAegy(GeT!? (だからいないって! ミスリルゲッコー探してるんでしょ!?)」
腕を振って懸命に何かを訴える少年の姿は、なにか焦っているように思える。今まで笑っていたのに、途端に狼狽したような表情を見せる。もしかしたら長い時間ここにいて気が触れかけているのかもしれない。
速やかな離脱が頭をよぎり、そんな彼の額を何かが這う感触が襲う。
「──うぶるあああ!」
気持ち悪さに頭を高速で振ると何かが弾き飛ばされた。ぺちゃんと少年の体に着地したそれは、緑に輝く身体を持っていた。そこら中にあるミスリルと全くの同色。4本の足も、胴体と同じ程度の長さを持つ尾も、塗りたくられたようにメタリックグリーンだ。
円ではみ出しそうな目をパチクリとさせ、伸びた舌で眼球を舐める。
体長20cmほどで、少年が伸ばした腕を張って移動していく。
「……ミスリルゲッコー!」
「!」
いかにも! と人差し指を突きつけた少年は、満足げだ。
「もしかして、ここに連れてきたのはそのためか?」
「──」
ドヤ顔で頷くと、手のひらに乗ったゲッコーを差し出す。
「あ、どうも」
恐る恐ると指の上に乗せた。
ヤモリに限らず、いわゆるトカゲは警戒心が強く人には懐かない。このように人と触れ合うような種類を見るのは初めてだった。
「こいつ、持って帰れるのか? ……って、意外といるんだな」
先ほどはあまり注視していなかったが、じっとミスリルにくっついて動かないのが何匹かいた。そのどれもが、アキヒロに見られても逃げようとしない。よくそんなので自然界で生きていけるな、と突っ込みたくなるような体たらくだった。
「d.a&w/D! (さ、帰ろうぜ!)」
今度指差すのは、先ほど入ってきた方向。
リボンを通り過ぎると、アキヒロに先を促す。
よくわからないが、今度こそ帰りたいという意思を見せた子供を伴って入口へ向かう。
アンダーなどと違って坑道というのは特徴のある見た目をした場所が多い。コマちゃん達のように鼻がなくとも道を覚えるのは容易かった。マッピングのワーキングメモリーに関して、常人と探索者では比較にならないほどの開きがあるのだ。
「──あっ! 戻ってきた! ……なんか子供がいる」
「ハシュアーか」
入り口ではヴォルフガングとミツキが待っていた。中に入る時はなかった椅子に座っているあたり、ヴォルフガングが拵えたのだろう。ふんぞりかえるミツキの顔にゲッコーを近付けると、椅子ごと後ろにすっ転んだ。
「な、なななにすんだー!」
「随分と偉そうだな」
「待つのが疲れただけです〜、偉そうなわけじゃありません〜」
ミスリルゲッコーを指の上で踊らせながら例の鍛治師の元へ戻る。溶岩の使い方を知るためのお使い。なんだかんだで違う場所に行く口実になったので、悪い気はしなかった
「ええと、不純物を減らすために必要なんだって」
「不純物?」
「強靭鉱石系? だと、不純物が多く混じっているからそれを取り除きながら鉄とかと混ぜないとクズ鉄になっちゃうって」
「強靭鉱石?」
「ミスリルとかのことらしいよ」
「……オリハルコンとかもってことか」
先ほどの少年──ハシュアーはイサクという少年と合流して、アキヒロの周りをうろついている。困惑する男に、ヒソヒソと耳打ちが。
「なんかね、探索者に興味があるみたい」
「現実を教えてやれ」
探索者とは底辺の職である。彼らドワーフに職業という概念があるのかはともかくとして、人間社会においてはならないほうがいい職業なのは間違いなかった。いくら商工会上層部や企業との結びつきがあっても、世間からの目は誤魔化せない。
「えー……なんか可哀想じゃない?」
確かに少年二人の目の輝きは憧れに満ちていた。モンスターと戦う探索者という情報だけを知った純粋な子供ならばこんな目をするだろう。だが、その実情を知っている彼からしてみれば安寧な場所にいることの何と幸せなことか。鍛治師という素晴らしい職業に就けるのに、血迷うほうが可哀想だ。
「一方通行ならできるんだからアキから教えてあげてよ」
「……しゃあねえな」
──────
「──!」
「──!?」
「──!」
「────!!」
肩を怒らせて、目を吊り上げて、腕を振り上げて。
レベル52の探索者へ抗議する。
これもまた無垢ゆえだろう。
蒼連郷にいる一般人は探索者相手にこんな真正面から抗議をするなんてことはない。
目を合わせないように。
肩がぶつからないように。
ヒソヒソと話をしながら避けていくのだ。
時にはこれと同じ光景だってあるが、その理由はまるで比較にならない。
「お、俺たちをつれてけー……! 俺たちも探索者になりたいぞこのやろー……! そんな嘘、信じねえぞー……! って、言ってる」
ミツキの翻訳が正しければ、この少年たちは探索者になりたいとのことだった。
「おいおい、何とかしてくださいよヴォルフガングさん」
「俺はこいつらの親でも何でもねえ」
「隣人を愛せよ」
「アホか」
呆れてものも言えないとはこのことだ。実情を知らない故の無茶苦茶な物言い。
しかし同時に、なんとも微笑ましい気持ちにさせられる。ミツキの知る幼馴染はこういう時期がなかった。周囲は元気な子で溢れていたが、彼自身は活気漲っていても騒ぐということをしなかった。
もしも彼がこう出会ったならと思って、同時に思い至る。そうだったならば、周囲のガキンチョと一緒になってミツキをイジメていたかもしれない。
「なしなし」
「?」
ついには鍋の蓋とオタマを持って威嚇し出した二人組を、カカア達がゲンコツでふんじめて引きずっていった。お礼を添えて。
「よかったら夕飯でも食べてきな」
まだ夕飯には早い。ドワーフ式のジョークだろうかと迷う二人にヴォルフガングが教えた。
「うちでゆっくりしていきなって事だよ」
「……おお、なるほど」
「大層心配してたからな」
そう言われても、アキヒロがしたことと言えばヤモリを探したことだけ。ヤモリが見つかったのだってハシュアーのおかげだ。
ハシュアーがイサクとの遊びで負けて、坑道からメレーと呼ばれる様々な鉱石の混ざった宝石を持って帰ってくることになったというのは理解した。しかし、危険なところはあんまりないしリボンで彩られているしでピンとこないという部分もある。
「バカお前、坑道は一歩間違えりゃ迷うんだぞ」
複雑に入り組んだ坑道の道は、鍛治に特化した種族であるドワーフといえど容易に覚えられるものではない。しかしその難点を、生まれた時からイルヴァの牙に棲むことで解決している。
流石に子供では難しいからこそ、こういうことが頻繁に起こる。
「確かに……ダンジョンと比べても小刻みに曲がり道がありましたね」
「そうだろ? だからおとなしく誘われとけ」
流石に夜までじっくりと家にいるというのは時間がアレなので、少しだけお邪魔することに。しかし一つ問題が。
「は、入れないなこりゃ……」
家が小さい。顔すら入らないとかそういうアホな話ではないが、扉の寸法が横幅50cmほどという細さだ。電車の座席のように間違った規格をもとに作っていたわけではなく、彼らの標準がこれなのだ。
「なあに、これくらい」
しかしすぐに改造されていく。
家など所詮は物。
彼らにとっては児戯に等しいのか、以前も見たような光景が繰り返され、あっという間にヒューマンも住めるような規格の家に変わった。
「すっごお……」
「ふふん! これくらい鍛治師なら当たり前だよ!」
「おうよ!」
夫婦というのはどこかしらが似ている。
朗らかな笑顔で迎え入れた男女は、これくらい朝飯前だと肩に木槌を担いだ。頼もしい姿、扉の両脇で仁王のように立っていなければもう少し圧も少ないだろう。
「──!」
ハシュアーが武器を見せてとねだるのでナイフを見せると、むしろ両親の方がそれに強く反応して魅入った。やれやれという顔で自分の親を指差すと、何かを言った。
しかしアキヒロにはその意味がわからずに首を傾げるので、もどかしく髪をかきむしる。
「うまくいかんなあ」
「@(gjd#Gw!」
「今のは何となく分かった」
「ajGa_gAa!」
言った後にやばいという顔をしていると案の定、母親が出張ってきた。ナイフを一旦置いて。
「#gjmpmg!」
耳を引っ張られて涙目。
「恩人になんてことを言うんだいあんたは! 謝りな!」
「As(jd#! As(jd#!」
しかし、何を言われたかもわからない。悪く言われた気にもなっていないし、謝られた気にもなっていない。
ニュートラルだ。
「何言われたかよくわかんないんで、大丈夫です」
「そういう問題じゃないんだよ!」
母親に叱られている間、父親にハシュアーの作ったナイフを見せてもらった。
小さく歪で、とても使えるものには思えない。しかしそれを父親が軽く振るうと火花が弾ける。
「うおっ」
「あの子は鍛造の方はそこまでだけどエンチャントに関しては天才でね。いずれは当代一の鍛治師になるはずだ」
誇らし気だった。
彼らの価値観の中で最高の栄誉である、鍛治師として頂点に立つということ。それを自分の息子が成し遂げるかもしれないというのがよほど楽しみなようだ。
──受け取ったナイフを軽く振るう。
火花が軌跡をなぞって円弧状にはじける。空に溶け消ゆ瞬間、さらにナイフを振るった。
はじけた火花に触れると確かに熱い。
実践的なエンチャントではないが、そもそもこれを狙って付与しているのが信じられないことだ。
「これをワームの尻に突っ込んだりして遊んでるからなあいつは……」
「ちょっ、先に言ってくださいよそういうのは」
知らずに刃先に触れてしまっていた。虫の尻に突っ込んだナイフを誰が触りたいというのだろう。
アキヒロはハシュアーの家を出て、ふと気になったことがあった。
「ミツキ」
「ん?」
「ちょっと行ってくるわ」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない