【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「────こんにちは」
角から現れ、口を開くか開かないかのうちに体を痙攣させると、何でもないような顔でアキヒロに挨拶をするアリア。しかし、挨拶をされた側である彼はドン引きだ。テンカンか何かなのではと思うのも無理はない。
「カガミ様?」
「……お身体は大丈夫ですか?」
返事すらせず、まず聞くのは体調。目の前で倒れられたら流石に忍びない。もしも身体が悪いならば担いででも絵に返すつもりだった。
この場には他の人間はいない。そんな場所で二人きりで出会っている時に姫様が倒れたとあってはいらぬ嫌疑をかけられても免れる術がない。
「はい、このとおり! 大丈夫です!」
「……そうですか、それはよかった」
可愛らしく、なにも無いチカラコブを見せつける姿は幼馴染とよく似ていた。
「カガミ様はここで一体何をされていたのですか?」
ここは通路の途中だが、上り通路だ。泊まっている宿は遥か下、ミツキの体力では到底着いてこれないので置いてきた。
ミツキのあの様子ならば、一人で置いていっても隔意を向けられることはないだろうという信用もあった。むしろ問題なのは彼の方だが、人と出会わないので奇跡的に会話で困ることがなかった。
だからこそ、『姫』がここにいるのはおかしかった。
こんな人のいない場所に、要人が一人で来るなど。
「──尾けていたな?」
「…………」
「ああ、お気になさらず。どちらかといえば私の行動の方が怪しいのは自覚しているので」
しかし、アキヒロにはまるでわからない。
『姫』と自分の関係性は薄い。事務的なやり取りを交わしはしたものの、ミツキとのそれのように個人的な交友につながる可能性を匂わすようなものはなかった。
『姫』とのつながりを持つということに対しては興味があるが、彼女個人にはさほど感じるものはなかったからだ。それよりはむしろ、ハシュアーの方が魅力的に映った。
それは置いといて、彼女がここにいるのはやはりおかしい。
まずは自分の目的を話した。
「私が何しにきたかというと、見たかったんですよ。この空洞の最上部に何があるのかを」
これ見よがしにある通路だ。関係者以外立入り禁止の看板もないので、来たとしても誰に責められることがあろう。しかし、そんな場所に人がいないということは逆に露骨ですらある。
「もしもこの先に進んではダメだというなら引き返しますが」
「……そうですか」
しかし、アリアはすぐに結論を出すことはしなかった。唸りながら悩み、時折何かを呟く。
最終的には奇声を発しながら天を見上げた。
「ににににに……わかりました! では私も一緒に行きます!」
「ダメでしょ」
「何故ですか!?」
「だって姫様なんですから」
一人で出歩いているのだって褒められた事ではないというのに、何故着いてくるのか。せめて着いてくるのであれば、誰か護衛なり付き添いなりが一緒にいるべきだ。
「そ、そんなこと言ったってしょうがないじゃないですか! 歩いてるな〜って着いてきてこんなところまで来るとは思わなかったんですから!」
「誰か呼べないんですか?」
「呼ぶって言ってもここまで距離が空いてるので……せいぜいアルス様ぐらいしか……」
呆れるような事を言い出した。要人が二人揃ったところで、まとめて撃破される可能性が増えただけだ。そもそも何故彼女を呼ぶのか。
「すぐ来られるのはたぶん彼女くらいです」
「はあ」
「……か、考え方を変えましょう! バレなければいいんです!」
それでいいのか、お姫様。
「いいんです! だって私、偉いので!」
「危ないなあ……すごく危ない」
息巻いて先へ進んでいく姫。仕方なしにアキヒロも着いて行った。しかし案の定というべきか、途中でガス欠を起こして座り込む。休憩をこまめに取りながら進んでいくと、かなり広い場所に出た。そこは祭壇のようになっており、例の巨乳像が置かれている。
32セクターで最初に利用したところでは周囲に像が置かれていたので、似て非なる施設のようにも思える。
「ここは?」
「わた──イーヴァ様の力を利用してワープを行うための祭壇です」
「ワタイーヴァ様という御柱もいらっしゃるんですね」
「い、言い間違いです! 揶揄わないでください!」
しかしここがワープ──ブリンクポイントだとするならば、つながる先はどこだろうか。アキヒロはちっぽけな頭を働かせて状況を推測する。これほどに重要な位置にあるポイントが、雑多な場所に繋がるはずがない。相当な広さを持つポイントが受け口としてあるのではと考え、その先としてまず考えつくのは──
「第一セクター」
「へ?」
「これは第一セクターにつながっていますか?」
直訳感満載の質問は否定され、驚くべき答えが返ってきた。
「このワープポイントはこの地においてメインビーコンとして機能しているんです」
「?」
「メインビーコンというのは、任意のタイミングで魔素の収斂と解放を行えるんです! そのおかげで、座標さえわかれば好きな方向へ向けて道をつなげることができます!」
「うーん……」
「つまり、蒼連郷にある全てのワープポイントにつながっているということです」
「──な、なんだって!?」
脳髄が痺れるような答えだった。その言葉に嘘がなければ、ドワーフはいつでも好きなところに行くことができるということになる。
列車など比にならない。
公共交通機関として配備することができたなら、物流が完全に革命を起こすことは間違いない。
食肉や鮮魚の速やかな配送及び、移動手段としての活用。
脳内に浮かぶのは青い狸型ロボットの持つピンク色の扉。それに近しいことをファンタジックに実現する手立てがここにあった。
「イルヴァの牙とその飛地でのみ使えるらしいです!」
「そうなんですね……」
そうそう都合良く使えるものでもないようだ。神様のお力ありきという事であれば、蒼連郷全土でそれを維持することは難しいだろうし、仮にこの地を征服したとして、イーヴァが協力をするとも思えない。
そもそも神様という存在が蒼連郷においては縁遠い存在なので、彼らのようにいかないというのもあるだろう。
しかし、それほど大事な場所なのであればこのような場所にあるというのも理解できた。そしてドワーフたちが神出鬼没な理由もこれ──と、そこまで考えて脳が一時停止を起こす。
「それなら……俺たちが歩いてくる意味はなかったんじゃないか?」
「…………」
「何であんな道のりを歩く意味があったんだ?」
アリアに聞いているようで独り言──脳内のつぶやきが漏れただけだった。顎に手をやって考える。その目に映るのは足元の幾何学タイル。場所が場所だからか、色彩豊かに作られている。
そして天井はまだ遥か上。
一体何を求めてこれだけの空洞を作ったのか。
何故、自分たちは歩かされてミツキはズタボロになったのか。
「──どーおもいます?」
「……どうかな」
それは蠱惑的にすら映る笑みだった。どこまでも大人びたもの。本当に子供なのかと思わされるような、人生で一度も見たことがないような性質り
しかし、すぐに深呼吸を一度して気持ちを落ち着かせる。
答えは一つには定まらないが、大抵のことは予想の範囲内に収まる。目の前にモノがある以上はそこに答えがあるのだ。
「俺たちを試した……のかな? 神様の土地に来る以上は、それなりの試練を乗り越えてもらう的な……」
「そうかもですね!」
「適当すぎる……」
「でも、カガミさんはヨユーで乗り越えたんですよね?」
「いや、まあ……試練ってほどの難易度じゃなかったから……探索者にとってはむしろ楽な方でしたね」
「そうなのですか……」
むむむ、と両人差し指をこめかみに当てる。
何故か額を伝う冷たい汁。
心の中で誰かにごめんと謝った。
「……と、ところで!」
「はい」
「お腹が空いたのでご飯にいたしましょう!」
ワープポイントを後にして、二人は道を下っていた。流石に下り道は貧弱な姫でも余裕で降りることができる。
そんな折、姫はアキヒロを昼食に誘った。しかし、この地はドワーフの目で満ちている。世論的にもそんな軽々しく誘うモノじゃないだろうと苦言を呈したが、姫は指を立てて反論した。
何ならちょっと怒っている。
「軽々しくないですよ! ミツキさんも言ってたんですから! 人をご飯に誘うのは勇気のいることだって!」
「ミツキはビビリだからともかく、その理屈でいくと姫様は肝っ玉が座っているようですね」
「…………そんなことないですよ」
しょげた女子を宥める方法はあまりない。大人しく誘われの身になり、食事に同行する。どこで食べるかと言われればアリア's paleceだ。
彼女が特権階級であることは間違いがないので受け入れつつも、すれ違う議員は嫌な顔をするのを忘れない。
彼らはナイフを見せると目を輝かせ、懐にしまうと嫌な顔に戻るので、高速で切り替えることでオモチャの出来上がりだ。
「議員の方達で遊ぶのはやめて差し上げてください……」
そんな事を言われても、バグったような人間の挙動を見せつけられると楽しくなるのもまた人間というモノだ。それに、議員に限らず他のドワーフたちも似たようで違う反応を見せてくれる。鬼のように泣く赤ちゃんもこの光景を見れば笑顔になる事間違いなし。
昼飯の場には、彼女の親もいた。
「お初にお目にかかります。ファビエラと申します」
ファビエラは歳もまだ若いだろうに少し疲れたような顔の女性だった。アリアが気まずそうにしているところを見るに、何か事情があるようだ。
「ご丁寧にありがとうございます。加賀美明宏と申します」
「姫様が何か粗相をしていませんでしょうか」
「……とんでもございません、よくしていただいております」
「そうですか……それは良かった」
違和感。
母親が他人の前で娘のことを姫様と呼ぶなど通常はあり得ない。しかも茶化した言い方ではなく、言い慣れたような。
「…………」
二人の関係が良くないことは容易に想像がついた。さりとてそこに首を突っ込むのは余計な事だ。よその家庭はよそで解決してもらう必要がある。部外者の余計な言葉は事態を悪化させるのだから。
法律がないので無理やり解決することもできるが、そこまで入れ込んではいない。
味気ない昼飯を食すハメになったのはいただけなかった。
「……ごめんなさい」
「お気になさらず」
昼食を終えて解散。
去り際にも母親はその場にいた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない