【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「(探索者の兄ちゃーん!)」
「……あれ、知り合い?」
ハシュアーがやってきた。どういうことかと思えば、フィアステラに俺たちの宿の場所を聞いてきたらしい。
「(俺、探索者になりてえんだよ!)」
「えー!?」
「(な、姉ちゃんは言葉わかるんだよな? じゃあ繋いでくれよ!)」
「う、うーん……それはいいんだけど、本当に探索者になりたいの?」
「(だってモンスターと戦うのってめっちゃカッコよくね?)」
「えー……お母さんたちと話はしたんだよね?」
「(してない!)」
「じゃあダメかなあ」
「(んでだよ!)」
なんか言い争ってる……というか、一方的に突っかかられてる。探索者の話、まだ諦めてなかったのか。
「アキ……」
「あー、そうだな……ハシュアー」
「(おう!)」
どうしたもんかな。
感情の根源はわかる気がする……けど確信じゃないし、当たっててもなんの意味もない。
「…………怪我したことある?」
「(は? あるに決まってんだろ! 火傷したことあるし、指を鎚で叩いて骨折ったことだってある!)」
「なんて? …………はいはい」
まあその程度だよな。
「腹を貫かれたり耳が溶けたことは?」
「(え……)」
「腕や指、手足が飛んだことは?」
「(無いけど……)」
「多分無いだろ」
「(だ、だったらなんだよ)」
「見ろこの線」
「…………」
何度飛んだか分からん。
指も手も肘も。
股間が飛んだ経験はないけど、太ももを半分まで断ち切られたことはある。断面をつけて回復薬を使うと完璧につながるので、切断そのものは恐れることはない。だけど、うっすらと線が残ることもある。最近でいえば腕に知らん傷が増えていた。ギザギザしていて、おそらくは開放骨折によるものと思われるもの。記憶喪失前の俺が戦った時の傷だろう。
「本当に死と隣り合わせだ。なりたくて探索者になったやつなんか俺は見たことない」
やってみた結果として性分に合っている奴はいるだろうけど、最初から強い希望で──ってのは正常な判断ではあり得ない。俺が変って言っているわけじゃない。大事なのは、その選択が大きな傷を伴うってことだ。経歴や肉体的、精神的に。取り返しのつかない選択と言ってもいい。
一度探索者になった人間を雇う事があるとしたら、ボディーガードやセクター間の行き来の運送、あとは商工会で必要としている部者があればって事になる。
あくまでヒューマンでの話なので、途中でやめて鍛治師に戻るって道も実はあるのかもしれないけど、俺には分からない。
つまり、責任が取れないって事だ。
「(でも俺は違う! そういうんじゃない!)」
「……なんて?」
「自分は違うって」
「うん……そうだな、君は違う」
「(そうだろ!?)」
「君と俺は違うし、他の誰とも違う。比較する事がすでに無意味だ……だけど、親御さんが悲しむ可能性がこの世で最も高い道へ進もうとしている子供に掛けられる言葉は『やめておけ』しかないんだ」
「(お、俺はだから死なねえって!)」
「昨日、酒を一緒に飲んだ──いや、そうだな、一緒にご飯を食べた子でいい。そんな友達が死ぬんだ」
「(い、意味わかんねえよ……)」
「これからもずっと一緒にいるって約束したはずの仲間が無意味に、無惨に、食い散らかされる。灼熱の業火で燃え滓すら残らず大気中に消えていく。はあ……辛い事だ」
「ねえ、それって……」
「俺の話じゃない」
「(はあ? なんだよそれ)」
「だけど、こうしてサラッと言えるくらいにはありふれた出来事だ。君が話している俺だって、次の依頼で死ぬかもしれない。誰も安全なんて保証してくれない。叫んでも助けは来ない。血に塗れて息絶えるだけなんだ」
「(だから俺はそいつらとは……)」
「誰もが、自分は人と違うと思って生きている。本質的には同じことの繰り返しをしているだけなのに、死なないと思って生きている。あの時こうしていれば──その、こうしていればというやつを全て拾わないと生き残ることはできないんだ」
「…………」
三船くんが今も探索者なのは、彼に他の道がなかったからだ。仮に現代だったならば俺は彼と出会うことも、そもそも彼が幼馴染たちと死別することもなかっただろう。
そういうたらればが無い今を、彼は必死に生きている。俺のような死体とは違って懸命に一度きりの人生を走っている。
だけどハシュアーは違う。親がいるし、半ば強制とはいえ働き口だってある。そこから抜け出すことはもしかしたら最終的な幸福に辿り着くための道なのかもしれない。でもそれは、運命の神にしか分からないことだ。決められたレールが窮屈に思えて、若さのままに全てを振り切って突っ走ること。それは決して善では無い。
「ハシュアー、聞いてくれ。お母さんたちとちゃんと話すんだ。自分の心のうちを全部──俺たちみたいな余所者じゃなくてだ。それでも気持ちが変わらなかったなら、もう一度来てくれ」
──トボトボと帰っていく子供の背中を見ていると、寂しい気持ちになる。本当にあんな残酷な話をして良かったのかと。もう少し言い方があったんじゃないかと。
でも、俺は人材派遣業者じゃない。都合のいい言葉だけ並べ立てて、子供を死地に追いやるなんてごめんだ。
探索者になってしまったらそれは自己責任だけど、送る立場になったらまた別。
「良かったよあれで」
「……結局、誤魔化しただけだよ。納得できたんならあんな顔して行かないだろ」
「でもさ、はい良いよって探索者を勧めるとかしなくて安心した。もしそうなってたらどうしようかってちょっと汗かいちゃった」
精神的にドッと疲れた気がしたので、ミツキを撫でながらのんびりすることを決めた。せっかくの秘境なので全部周りたいところだけど、時には癒しも必要だ。
「…………」
ミツキは膝枕で寝てしまった。
赤ん坊みたいに親指を咥えている。
19……まだまだ子供だ。俺が19歳の時はこんなとんでもないところに来るなんて想像すらしていなかった。いや、案外していたのかもしれない。あの頃はもっと漫画とか読んでたからな。
少なくとも、あんな過酷な道のりを生身で行くなんてのは信じられないことだ。
「……いいこいいこ」
本当に偉い。
面と向かって褒めてあげたいけど、そうするととんでもなく調子に乗るのがこの幼馴染なのだ。それで帰りに怪我をされてもケチが付く。こうして寝ている間に褒めてあげるのが吉だ。
……寝てるよな?
「──私は別に孫とかじゃないからね」
「…………」
「ずっと気になってたんだけど──」
「…………」
「おばさんとかエリックさんのことお母さんお父さんって呼んでるけど、そこらへんどうなの?」
「どうなのって?」
「アキは若いふりしてるけど──」
「──ちょっと待て、若いふりじゃなくて実際若いから」
確かに魂は一周してるし経験も積んできたけど、それは魂の話だ。肉体は19歳。感情やら欲求やらを本能的に定めるのは肉体年齢と脳の分泌物、電気信号に他ならない。身体が若い以上は俺は19歳の若者で、決して高齢者ではない。
というか、自分でジジイって言うのはいいけど人に何度も言われると微妙な気持ちになる。心の中のジジイが『俺はまだ若い!』って叫びそうだ。本当に若いのに。
「若かったら子供のこととか好きじゃ無いでしょ」
「それは個人の趣味だから関係ない」
「無理があるよね」
関係ないったら関係ないんだ!
というか寝てたんじゃないのかよ……
「だって撫でるから」
「……」
「なんでちょっと嫌そうな顔すんの?」
「そんな顔はしてないけど、帰りに怪我しないか心配だなって」
「みゃ、脈絡がなさすぎる……まあいつもそっか。結局どうなの? おばさんたちのこと」
「普通にお父さんとお母さんだけど」
それ以外に何かあるのだろうか。エリックの金玉から出てきたものを、お腹を痛めて産んだのが明美だ。それが父さん母さんでなくてなんなのか。確かに最初に自分の状態に気づいた時は、手足の動かない年寄りに赤ちゃんプレイを強要するイカれ女に捕まったと絶望したけど。今は単純に尊敬している。こんな世界で、貧乏しながらでも子供を捨てずによく育てた。
「いや、アキは捨てられても普通に育ったよね」
「流石に野生児の経験はほぼない」
「あるんだ……」
「海外旅行してるとたまにな」
「カイガイリョコウ?」
「まあそれはいいか」
海外の概念すらよく分かってない奴に話してもチンプンカンプンで理解できずに終わりだ。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない