【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
『──大丈夫らしい』
何故伝聞系なのか。
『というわけで一つ作っておいた』
早い!
仕事がとんでもなく早いよ、この人たち……なんで俺如きの鎧を強化するのにあんなに時間が掛かったんだよ。
1日で仕上げられるだろ。
『ほら』
──像は通りなどに置いてある像と瓜二つだ。違うのはそのサイズ。ミニチュアで持ち運びにも困らない。
「うわー! ありがとうございます!」
『大事にしてくれ』
「絶対大事にします!」
流石に貰い物を粗末に扱ったらバチが当たるからな。これは家まで気をつけて運ばないと。
「金属製なんだ! しかも軽い!」
『石だと壊れやすいからな』
「うお〜」
テンションが上がったのか、頭上に持ち上げてクルクルと回る。それだけに飽き足らず、元気よく飛び出して行った。姫様に見せてくるそうだ。
「ありがとうございます、わざわざ拵えていただいて」
『あの程度なんでもない』
「なるほど、職人ですね」
やや得意げな笑みをしているところを見るに、彼女もやはり鍛治師としてのプライドがあるのだ。あんなメタリックな像を作るのにどれだけの労力が必要なのかは分からないけど、少なくとも俺には不可能だ。それをこんな短時間──1日もかからずに仕上げてしまうのだから、やはり彼らは凄まじい。
『ハシュアーと話をしたと聞いた』
ミツキが戻ってくるまでの時間潰しとして応接室で待つこととなった。グロウルートという根っこのお茶をもらったらそんな話が飛んでくる。
「知り合いだったんですね」
『この都市での話はすぐ広まるからな』
ムラ社会みたいだな。
実際、物理的に閉鎖されてるのでムラ社会以上にムラになりやすいような立地ではある。それなのに何故こんなにもマトモなのか。
鍛治に狂ってはいるけどそれ以外は至って普通。多少排他的なのはどこのコミュニティでもあり得る範囲でしかない。
「あの子は、普段から探索者になりたいと?」
『いいや』
「私がここに来てからということですか」
『ああ』
「……」
『責任を感じる必要は無い。外からの人間ということで刺激を受けてしまったのだろう』
そう言われても、子供の道を狂わせるようなことに繋がっているのなら反省するべきだ。
『あなたから見て、あの子は探索者になれるだろうか』
「わかりません。なにせドワーフが探索者をやっているのは目にしたことがありませんから」
『それでも……何かわかることはあるんじゃないか?』
理解不能だ。
そして無意味。
「あなたは彼を探索者にしたいのですか?」
彼女が問いかけたことはつまり、ハシュアーに資質があるならば外に出してもいいと言っているようなものだ。
『……それは少し違う』
「であるならば、考えるべきは彼がいかにして鍛治師として大成するかということなのでは?」
『意外だ』
「何がですか?」
『破天荒と言っていい生き方をしているあなたが、少年が探索者になる事を否定するなど』
「破天荒……確かに表面的にはそう見えるかもしれませんが、俺なりにある程度の道筋を予想した上で選んでいますから」
『ではハシュアーの道筋はどうだ?』
「……アルス様、あなたが用意してあげればいい」
『私は探索者のことはよく分からない』
「であれば、なおのことプロの意見として聞いていただきたい」
『…………』
「何故、そこまで?」
俺の話を聞かずとも、それくらい理解できるだろう。なにせ『牙』とはドワーフたちの酋長だ。渉外だってやるだろう。探索者たちの細かいことはわからずとも、どんな仕事をしているか知らないなどとは言わせない。
それ以前に鍛治師は探索者と密接に関係しているのだから、彼女でなくとも知っているのが当然だ。
『……』
「……!」
取り出したるは、彼女が常に携帯している鎚。
静かに、丁重に、優しく机の上に置かれた。
複雑そうな顔で何故。
『私は……役目を負っている』
それは間違いない。『牙』と『姫』という、明らかに何かありそうな名前を背負っている彼女らが責任を負っていないわけはない。
しかし、今のは──何か違うような。
『確かに私はこの鎚を持っていることにより、この地において通常のドワーフよりも大きな権力をかざすことはできる。やろうと思えば命令も出せる。だが、この地を好き勝手に離れることはできない。あなたのように、自分の国を飛び出して好きな場所へなんてことは絶対に…………あなたのことが正直羨ましい』
「……だからハシュアーにはせめて、と?」
『そういう事なのかもしれない』
「…………」
何も言うことができなかった。
社会的責任というものを彼女はきちんと理解している。鍛治への情熱とドワーフたちの未来を絶やさぬために、責任を果たす事を決めている。だからこそ、やりたい事をできない苦しみを背負って今に至っていた。
──だからどうした、と叫ぶ俺がいる。
当たり前のことだ。社会人が果たすべき三つの義務。
教育、勤労、納税。生きているのならば、その程度はこなしてみせろ。そんな事を冷たい目で言い放つ俺がいたり
一方で、そんな古い法律にいつまでも縛られていてはいけないと宥める俺もいる。もはや無くなった国の、誰も覚えていないルールに縛られてなんの意味がある。
『カガミ殿?』
「ああいえ」
『…………やはり……ダメなのだろうか』
何故そこでしょんぼりするのでしょうか(白目)。そんな顔されたら、俺が悪者みたいじゃないですか。
「危険だから勧められないという話をしているだけです」
実際に探索者になった時のことを考えると、色々な問題がある。まずは体格。体の大きさはそれだけで有利不利につながる要素だ。彼らは身長が低いので、ヒューマンと比較して一歩ごとに獲得する移動距離と腕の長さが短くなる。腕力に関しては普段から鍛治をしている分だけ有利だろうが、それ以外がどうにも。
『しかしハシュアーは武器が作れる。その分だけ有利じゃないだろうか』
「……初期段階で強い武器を使う、か」
意外とアリな気はする。
彼が探索者になる中で最も問題になるのが何かといえば、低レベル時にぶち殺されることだ。レベルが上がれば移動速度は上がるし、攻撃方法だって増えるから腕の長さなんてあまり関係ない。
──何を真面目に考えてるんだ俺は。
『なあ、彼にも種火はあるだろう?』
「とっかかりってことですかね」
『そうだ』
「…………」
『……なあ』
「──いかんいかん!」
『!?』
「先んじて封じさせてもらうぞ! 無理だ! そういうのは国家プロジェクトとしてそちらさんで好きにやってくれ!」
無理です! 無理! やだ! 絶対無理!
俺は焼肉を追求するのだけで人生の時間足りてないくらいなんだよ! 余った部分から捻出しているのが三船くん、コマちゃん、家族のための時間。
そこにさらに一つ要素が増えるともうわけわからん。
俺の頭がおかしくなって全裸で方目さんに突撃するかもしれない。忙しいと本当に自分が何を口走ってるのか、今何をしているのかわからなくなってくるからな。
現実を判断するためのリソースすら削がれる。あれは本当に酷かった。
「というかちょっと待ってください。本当にハシュアーを応援してるんですか?」
『…………』
「それは──虚しいですよ」
代償行為にすらならない。
仮に彼が活躍しているのを見ても、自分は何をしているのかと唇を噛む結果になるだけだ。差がわかったせいでより辛くなる。
「俺は自分が正しいなどとは言いません。ですが、彼のことを考えるくらいならば自分が一歩を踏み出そうとしてください」
『だがハシュアーならきっと……』
「ハシュアーとかどうでもいいので、アルス様はどうなんですか」
何故俺は、よその組織のトップに偉そうに講釈を垂れているんだ……組織運営についての事じゃないからいいか。
『私はもう……動けるような立場じゃない』
「だとしても、子供に押し付けるなんてことはダメです」
彼女自身の若さは理解する。まだ、身のうちに宿した炎があるのだろう。彼女には彼女なりの思いがあって、『牙』という立場でなければやりたい事もあったのだろう。でもそれを、判断のつかない子供の勢いに乗せて発散しようとするのは碌な事にならない。
羨ましいから別の人にはせめて──という事に関して、彼女はそこまで極端なことを言っているわけじゃない。だけど、やるならばせめて自分で責任を取れる範囲でやってくれ。
いきなりやってきて、まだ交流も少なく本当に信用できるかどうか分からないガキに任せるべきじゃない。
『そうだな……その通りだ』
「──そうでしょう?」
深くため息を吐きそうになった。きっと彼女は疲れているんだろう。
『あの子自身にしっかりと決めさせるべきだ』
「はい。…………ん? …………いや、うんそうだな」
そうそう!
お母さん達にボコボコに論破されてくるからさ!
そうすればあんたら納得するでしょ!
ご家庭の問題には基本的に踏み込まない! フブキやらヒナタやらソフィアやら三船くんの話は別だからノーカン!
さて、美味しい根っこのお茶をいただきながらゆっくりと待ちますか!
「──この子はそういう炉の元に生まれたのかもしれないねえ」
何故ベストを尽くしてしまったのか。
ご母堂を引き連れて現れたかと思ったら、申し訳なさそうにそんなことを口走った。そういう炉ってなんですか? 星ですか? なんで論破されてるんですか?
「この子は前からそうでね……外に行きたい、別の世界を見たい、新しい事がしたいって言ってたんだ」
「えーと……?」
「良い機会なのかもしれないね……」
背筋を垂れ流れていく冷たいもの。何故遠い目をしているのか、何故申し訳なさそうな顔をしているのか。点と点が線でつながりそうなので思考を断ち切った。
『カガミ殿』
「はひい」
『どうだろうか』
「──理解はできません」
どういう価値観で彼らが社会を作ってるのか、まるで分からなくなってしまった。
『できないか?』
「包み隠さず言ってしまうと、ドワーフはもう少し閉鎖的で排他的で外を忌避する種族だと思ってました」
『……あながち間違ってはいない』
「そうですよね!?」
そうだ、俺の観察眼がそこまで狂っていたとは思えない。アルスの言葉もそれを補強している。ならば何故──と彼女の顔を見て気付いた。
彼女は笑んでいた。
小さくではあったけど、確かに勝ち誇るように。
『だが……どうやら、ハシュアーへの理解度では私の方が優っていたようだな』
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない