【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「想像を絶する苦痛が待ち受けているかもしれないんだぞ……?」
『そうだろうか』
「そうだ! 彼はおそらく苦労という言葉では生優しいような苦労を背負う事になる」
『──そう酷い事にはならないさ』
「外の世界の怖さを知らないからそんな無責任な事が言えるんだ……」
『知っているとも。私は牙として地上に何度も──』
「いいや、体験してないぞ。なにせキミが訪れたのは牙──権力者として身分と安全が担保された立場としてだ。キミ以外の鍛治師──ヴォルフガング達も、鍛治師という身分に保証された立場で訪れているーーだが彼は違う!」
人差し指の先。
揺れる瞳を抑える少年のなんと心細そうな顔か。どれだけ口では強く言おうが、決意など容易く揺らいでしまう。人はそういう生き物だ。
「何も無い! 彼を護るものは何も無いんだぞ! 親も、友達も、知り合いも、誰もいない場所へ一人で放り出すなんて正気か!?」
無性に腹が立った。
子供の意見をそのまま鵜呑みにするなど、大人のすることでは無い。噛み砕いて、舌で味わって、鼻で匂いを嗅いで、彼の求めるものが何かということをきちんと分析するべきだ。
『何故怒る』
「──分からないのか!? ハシュアーには確実な死が待っているんだぞ! イーヴァとかいう神の加護なんて届かない場所で彼は、誰にも見てもらえずに死ぬ!」
本当の家族がいて、帰るべき家がある。人生の中でこれ以上に幸せなことなどない。
真の幸せを投げ捨てる事になんの価値があるのか。
理解できない。
理解できないんだ。
『そんなことはない』
「分からず屋め……!」
恥ずかしげもなく言わせてもらう。
俺は頭に血が昇っていた。
取り戻す必要の無い完全な人生を彼らは生きている。だが、それを認識することはできない。教えたとてそこに納得は無い。
ただ、一人の終わった人間が勝手に怒っているだけの話でしか無い。老人が、若い輝きを見て嫉妬しているだけだ。
醜い。
これほどに醜い生き様を見せる老人が他にいるだろうか。
「(…………お願いします!)」
「……っ」
──何も分からなくても、分かるものがあった。
「(確かに外は怖いとこなのかもしれねえけど……でも……俺、行きたいんだ!)」
「なんで…………」
どうしてここまで心が揺さぶられるのか分からない。出会って間もない少年だ。会話だって成立していない。それに俺は断る気満々だった。
それがなんでこんな心を掻き乱されなきゃいけないんだ。おかしいだろ。
「──アキ?」
「っ……ミツキ」
ああ、なんて事だ。こんな姿を彼女に見られてしまうなんて。
「ど、どうしたの?」
「なんでもない」
「…………そっか」
「……姫様には見せてきたのか?」
「あ、うん! 連れてきた!」
「なんでだよ」
「だってせっかく凄いところにいるんだから、なるべくなら一緒にいた方がいいじゃん!」
「……まあ、そうだな」
やってきた『姫』はなんとなく俺のことを見ている気がした。少しだけジメついた空気の中で、先ほどの話を続ける。
「(お願いだ! 俺を連れてってくれ!)」
「え──ど、どういうこと?」
概ねを話すと、ミツキは憤った。
「ちょっと! 勝手に決めないでくださいよ!」
『頼む。このままでは我々は閉ざされた地下で永劫引きこもる種族になってしまう』
「だから! 私たちも暇じゃないんですって!」
『……お願いだ』
「そういうのは自分たちでやるべきなんです! それに、もう二人も面倒見てる子がいるんだから、これ以上はだめです!」
『──そうなのか?』
「そうです! 癖が強い子達で、大変なんだから!」
『やはり……そうなのだな』
「はい!? なんの話です!?」
ミツキはなんというか、凄く真面目に怒っていた。俗っぽい怒り方ではあるけど、それでもハシュアーを連れて帰るのは変なんじゃないかと。
『彼は子供のために怒れるのだな』
「あぁ〜……」
『こういう言い方は良くないとわかっているが、ハシュアーを助けると思ってお願いできないだろうか』
「…………」
何故、彼が危険な目に遭うことがわかっていながらそこへ向かわせるのか。俺には理解できなかった。
「アキのせいだね?」
「…………は?」
「見抜かれてるじゃん」
「なにが──」
「子供好きなこと」
だからどうした。俺が子供を好きだからといって子供に対して無条件に優しい人間だとでも思っているのか。
流石にそんな無制限の愛情を振り撒くような人間ではない。
「……ハシュアーくん、いい?」
「(なに?)」
「探索者って凄く大変だよ。腕だってなくなっちゃうし、仲間もみんな死んじゃうし、記憶だって無くすかもしれない」
「(それはもう聞いた)」
「私だって実際に体験したことないからどれぐらい辛いのか分からないけど、それでもすっごく苦しいんだろうなってことは分かるよ…………ハシュアー君は、痛いのが怖くないの?」
「(怖くねえ! ……ってわけじゃないけどさ、いつも思うんだよ。ここの上にはお空が広がっていて、みんな自由に生活してるんだろ? それって、すっげえいいなあって!)」
「空が?」
「(いつだって太陽の下で、神様の加護なんてなくてもみんな生きてて……俺もやりてえんだ! だから、外に行きてえんだよ!)」
「…………そんないいところじゃないよ」
「(やってみなきゃわかんねえだろ! だって、そこのにいちゃ──カガミさんだってここに来たんだ! 本来ならドワーフ以外はここに入れないのに! ならさ! 俺だってやってみたいって思ったんだ! そうしたら今行くしかねえだろ!)」
「……アキ、私には説得無理かも」
笑って、ポジティブな諦観を顔に浮かべるミツキ。
そうだ。
伝わってくる。
彼の熱が。
感情の熱が。
想いが。
殻を打ち破りたいという、青くて若い足掻きが見える。
「(おねがいだ! カガミさん!)」
「──真の勇気ってやつか」
その場に腰を下ろした。
俺の言葉は彼を打ち破るには足りない。
ミツキでも足りない。
出会ったばかりの少年に論破されてしまった。
……これこそが、人生の道を見つけた人間の強さなのか。俺みたいに過去に囚われている人間とは違う、本当の強さ。
「…………」
顔を上げると、ハシュアーはそこにいた。
まだ子供…………子供なのか大人なのか、みんなちっせえからわかんねえけど、とにかく身体は小さい。それなのに、俺がこれまでに見たどんな人間よりも魂を震わす何かを持っていた。
一体なんなのか。
異世界の人間が持つ何かなのか。
鍛治師という種族が稀に持つ特性なのか。
精神に干渉するスキルが存在する以上、それに類するものの可能性はある。
だけど、それでも良かった。
とても心地のいい震えだったから。
「俺の負けだ」
「!」
「来たければ来い」
「(っしゃああああ!)」
うるさく走り回るハシュアーは、結局母親にぶん殴られて沈んだ。こんな急遽だから、色々と支度をする必要があるらしい。
「──アキが押されるなんて珍しいね」
「いいよなあ……若さって」
「やっぱりおじいさんじゃん」
こうなると、俺みたいな人間についてきて後悔しないかということが心配だ。ぶっちゃけ、俺は同レベル帯の中で圧倒的に経験値が足りない。俺が怠けていたとかではなく、いきなりレベルが上がったもんだから本来詰むべき経験が一切詰めてない。
なので、レベル50相当の振る舞いを求められると相応に困る。
「そういうのはもっと早く気にすることじゃない? レイト君とかシエルちゃんとかさ」
「シエルはともかく、三船君は放っとけないからな」
「甘いよね〜」
顔が良いというのはそれだけで有利だ。同情を誘えるし、聞き込みも楽になる。褒められることも多いので精神的な余裕というものが確保できる。
それに、目の保養になる。
「それだけ聞くと、本当に危ないやつだよねアキって」
「…………」
「でも……だからこそレイト君もそばにいるっていうか、それでこそって感じだよね」
『──ふふ』
何故か、アルスがそばに腰を下ろした。
鎚を地面に置いて俺のことを見つめる瞳には、確かな喜色が見て取れる。
『感謝を』
「……私はどうやら子供に言葉で勝つことすら出来ないようですね」
『いい加減、その堅苦しい口調もやめたらどうだ。先ほどは素が漏れていたぞ』
「…………はあ」
『確かにドワーフは少しだけ閉鎖的だし、少しだけ排他的だ。だが……ここにいる面々はその中では割と外を見ている方じゃないか?』
「なんでそんなピンポイントで集まるんだよ……」
アルスもハシュアーもみんな嬉しそうだけど、ミツキは若干渋い顔をしている。
そりゃそうだよな。
だって、本題は戻ってからってことになっちゃったんだから。
コマちゃんになんて言うんだ?
お土産持って帰ってきたぞー(人間)って?
「私は面倒見ないからね」
「犬猫じゃねえだろ」
どうすんだよこれ。
人間持ち帰ることになっちゃったよ。
さっきも言ったけど、アルスが関わったのは人間の中では上澄にあたる。商工会なんぞに勤めているのは、素行がよくて顔も良いやつらだ。そんな奴らと関わりを持っても、この世界の真の部分は見えない。
「大丈夫かな……」
ミツキの言葉は俺の言葉でもある。
学校の勉強についていけないから、あるいは金が無いから。次々と子供達はドロップアウトしていく。当然の話だ。まともな税金制度もないこの世界で、学校を維持するのは相当な負担になる。通わせるのだって、通学代やら服代やら。
親がまずギブアップ──そうして子供が稼ぎ口を探すハメになるわけだ。身近なバイトやパート、足で通える範囲で何かないかと探す。
しかし見つからない。同じような奴らで溢れてるからな。
すると次に探すのは知り合いの伝手。遠くに住んでいる親戚や友達の親……きっと、なんとかして頼み込むはずだ。だけど、その知り合いにも余裕があるとは限らない。門前払いされたって話もよく聞く。
ダメだとなれば肉体労働。危険な下水の管理や郊外の道路整備をあたる。これにも定員があって、体力や能力のあるやつはここでなんとか引っ掛かればって話だ。しかも空きがある時しか募集も無い。スライムやモンスターに襲われて人員が減った時が狙い目だと聞いた。
そして風俗や水商売。
建物の中には居られるけど一般的な尊厳は無い。ヤクザものたちの下っ端になるということでもある。
俺は行ったことないな、マジで。
そして最後は探索者か盗賊、乞食のどれかから選ばなければならない。尊厳どころか命が無い。雑なフローだけど間違いじゃないはずだ。探索者から盗賊になるルートも最近は増えてると聞いた。ヤクザどもの護衛として雇われるとかもな。盗賊は俺の敵なので見つけ次第──だ。
風俗と探索者が上下を取り合ってはいるけど、辛うじて探索者の方が下。風俗に入るにはある程度風体が良く無いといけないし、何より死なない職業だからな。女の子は風俗に行くか探索者に行くかでめっちゃ悩むらしい。
アリサが探索者を選んでくれて良かったと、いつも思っている。
というわけで、俺はそんな階層の一番下と一番上に同時にいる。そんな立場から見た時に探索者ってのは──人格が終わっている奴らばかりだ。ギャンブルと酒が大好きで自制心が無く、言葉遣いは汚い。
子供はそうでもないけど、朱に交われば赤くなるという諺が示す通り、周りにいる大人たちの影響ですぐに染まってしまう。
──やっぱ探索者ってクソだな!
『確かに全ては見えていないかもしれないが……私だって探索者がダメな奴らだということくらいはわかっている。ブレイクやベネディアスをもっと酷くしたようなものだろう?』
「そうだな」
『だけど……あなたは違うだろう?』
「今だけかもしれない」
『ふふふ、嘘が下手だな』
「…………」
『私たちが無条件で、神器を持っているからという理由だけで部外者を招くと思ったか?』
「思った」
『そ、そうか……だが、実際はそうじゃない。ヴォルフガングの人物評や、商工会に掛け合ってあなたの情報を集めたりしたのだ』
「…………は?」
『勿論、あなたや親族に塁が及ばないように配慮はしている。敵対したいなんて思ってないからな』
「牙が調べてたら誰だって怪しむだろ」
この世界における俺個人の情報なんて大したものじゃないので、そこは気にしない。だけど、家族やヒナタ達に迷惑をかけるべきではない。
『協力者の力を借りているから、そうはならない』
「協力者?」
『いるのさ、そういうのが』
それなら何の問題も無い。むしろ調べること自体は至極真っ当というか、していなかったら組織として落第点だ。
「ミツキは?」
『彼女に関してはあなたよりも調べるのが楽だった。なにせ元一級探索者の娘だ。そこら中に情報が出回っている』
「──うそお!?」
目ん玉をひん剥いて驚くのも無理はないけど、当然のことでもある。誘拐されそうになったのだって父親がアレなことが原因だ。
『とにかく、受けてもらえて嬉しいよ』
「本当に何が嬉しいんだか……自分のことでもないのに……」
『自分のことじゃ無くても、我らの仲間が新たな道を切り開くことができるのならそれは喜ばしいだろう?』
俺は自分がやらなきゃ満足できないから、そこはあまり共感できない。誰かがいつかやってくれるから満足なんて、そんなわけない。
「そもそも、勝手に決めていいのか?」
『……まあ反発はあるだろうが、そこは何とかしよう』
「ええ……」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない