【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
『──イーヴァ様』
アルスは手を合わせていた。
敬虔で真摯に。
縋るように、心から思うように。
アルスだけじゃない。
ヴォルフガングも、レイフィニアのブレイクも、フィアステラも、ハシュアーも。
炎に向かって。
「あれって……」
「……そうだな」
「…………あれが、本物の祈りなんだね」
炎と鍛治を司る神への祈りは、いただきますと全く同じ形だった。鎚を手に持たずの無手で。
唐突に集められて、後ろで見ているようにと言われた。
大きく燃やされた炎と、その前に集まるドワーフ達。
少し離れたところから見る俺たちのことなど気にならないらしい。何かを呟きながら一心に祈りを捧げていた。
「…………」
「いただきます……か……」
俺が教えたのは生命に対する感謝。
彼らのそれは神への畏怖だろうか。
あるいは各々が何かを願っているのか。
ともかく、込められているものの重さは感じ取れた。
「炎が……!」
何せ、彼らが祈り呟くほどに炎は勢いを増していくのだから。
「なにこれ……!?」
囂々と大きく燃え盛っていく。
大空間を上り、横も広がって煮込んでいく。
「おいおい、大丈夫か?」
あまりに大きくなるものだから、ミツキと顔を見合わせた。そんな俺たちの目の前で炎はさらに激しく燃え盛り、やがてドワーフ達を飲み込んだ。
「──え゛っ」
「ひ、ひめさま!?」
マジか。
というか飲み込まれたぞ。
熱気がここまでやってくるのに、いったい何を考えているんだ。考えるというか、既に燃えてるけど。
「ちょっ、ちょっ、ど、どうするの!?」
「……とにかく突っ込む!」
俺なら炎で燃え尽きたりはしないはずだ(希望的観測)。レイスの鎧は高い耐性を持っているし、短時間なら素の状態でも耐えられる。一人でも救出するぞ!
「──どぅあぁっち! 無理!」
「だ、大丈夫!?」
とんでもなく熱いぞ! 普通の炎じゃない!
レイスの鎧を無視して一瞬で熱気が肌にやってくる! 近付いただけでダメだってわかった! これ、入ったら死ぬぞ!
「あっつあっつ!」
「ちょっと髪こげてるよ?」
「……うおっ!?」
炎の色からして、そこまで高い温度を有しているわけじゃない。それなのに何でこんなに熱いんだ。
「何やってるの?」
「フィアステラさん!」
「何でそんな慌ててるの? 何か落とした?」
「だ、だってみんなが炎の中に!」
「? …………ああ、そっか」
「何がですか?!」
「これは私たちの浄火の儀式でね、あの中に入ることで邪悪なものを燃やしてるの。やらないと良くないことが起きたりするから、定期的にやってるんだよ」
「いやいや! 邪悪なものじゃなくてみんなが燃えちゃいますから! 早く辞めさせなきゃ!」
「あははっ! まあいいから見ててよ」
「いやー!」
絶叫するミツキの目の前でフィアステラが炎の中に足を踏み入れた。途端に服が燃え、皮膚から水分が失われて水脹れが──とはならず、普通に歩いている。
信じられない光景だ。
掲げられた手の中で今も炎が踊っているのに。
「ど、どどどうなってるんですか!?」
「だから言ってるじゃん、燃えないんだって」
「いやいや! アキ火傷しそうになってましたよ!」
「え? 邪悪なもの以外は燃えないはずなんだけど……」
「…………」
何だお前ら、そんな目で見るんじゃねえ。俺が邪悪だって言いたいのか?
ちげえだろ! 神様の加護で燃えてないだけだろ!
「あ、そっか」
「確かに、そういうことなのかしら……」
そうじゃなかったらヤバいだろ。
俺が排除されるべき邪悪ってことになっちまう。
ミツキは恐る恐ると炎に手を近づけていく。火傷しないかとハラハラさせられる光景。しかし、やがて不思議そうな顔をする。
「熱くないかも……」
「え?」
なんと、そのまま手を炎の中に突っ込んだ。すぐさま引き戻させようと近寄ったら、やはり熱気が押し寄せてくる。どうなってんだこれ!?
「ミツキ!」
「あ、なんか大丈夫かも〜」
ミツキはそのまま、先ほどのフィアステラのように飲み込まれた。大丈夫なわけあるかあ!
──肉の焼ける音が響く。
「ぐぅぅぅっ!」
「うわぁ!」
右腕が焼け爛れたが、取り敢えず無視してミツキを引っ張り出した。全身が炎の中から見え──なんと、本当に無傷だった。
無理に引っ張ったせいでミツキは転んでしまったが、取り敢えずめっちゃ腕が痛い。
すぐに回復薬をぶっかけた。
「何してんの! 大丈夫だって言ったじゃん!」
「馬鹿野郎! それで大丈夫じゃなかったらどうするつもりだったんだよ!」
あまりにも無鉄砲すぎる。もうハシュアーのこと、叱れないねえ。
「熱くないんだから大丈夫に決まってるじゃん! っていうか、怪我したのは私じゃなくてアキでしょ!」
「あのなあ……」
俺は探索者だから火傷しようが何だろうが回復薬で治せばいい。だけどミツキは痛みに慣れていない。全身火傷なんて負ったら、ショックで心臓麻痺してもおかしくないし、肺を火傷したら回復薬も届かない。治せる力を持っていても、作用できなければ治らないのだ。アリサみたいなヒーリングファクターでもない限り、あんなことはするべきじゃない。
特に霊領では。
「うわー! 大丈夫ですかー!」
何故か姫様がやってきた。
大慌ても良いところだ。
「ごめんなさい! なんか腕燃えてませんでしたか!」
「燃えてましたね。でももう治ったんで大丈夫です」
「良かったあ……いや、本当に予想外で……こんなことがあるなんて──」
「これまでに他の人が燃えたことは?」
「ありませんよ! あるわけないじゃないですか!」
名誉の初炎上をいただいてしまったらしい。
こうなると、いよいよ悪い予感が湧き上がってくる。
「……アキって、邪悪なの?」
「そう見える?」
「…………場合によっては」
フィアステラの話が正しければ、あの炎は邪悪なものを焼き滅ぼす力がある。先ほど、ミツキは何でもないように炎の中に入っていったし、出てきても怪我は負ってなかった。服も同様にだ。
一方で俺は熱を感じたし、確かに燃えた。つまりは俺が邪悪な存在ということが期せずして証明された形になる。
「──まあ、うん」
取り敢えず牢屋に入れられた。
牙は止めようとしてくれたけど、議員達の圧力から逃れることはできなかった。幸いなことに、牢屋に入れられたのは俺だけだ。
一週間に2回も牢屋に入れられるとは思わなかった。
「お前また入ってんのか……」
ヴォルフガングも呆れ顔だ。だけど俺だって好きで入ったわけじゃないので反論させていただきたい。
「おかしいでしょ、あれに触れても何ともないって」
「おかしいもんか。イーヴァ様の加護がついてんだぞ」
「ミツキは? 別にあいつはドワーフとかじゃないでしょう?」
「イーヴァ様が加護を授けて下さったんだろ」
「いやいや、俺は?」
ミツキはもらって俺だけもらえないってヤバいだろ、差別が。神様差別? いや、差別される側だから違うか……
兎も角、酷い目にあった上にまた牢屋にぶち込まれてあまりにも可哀想すぎる。もうすぐ帰るのに……早く説得してくれ、あの頑固ジジイ達。俺のことを目の敵にしてるぞ。
「何なんだろうな、お前」
「加賀美明宏ですけど」
「モンスターだったりしねえか?」
「見ろよ! この身体を! どこからどう見ても人間だろ!」
「ドッペルゲンガーとか……」
「そこまでして俺をモンスターにしたいのか」
泣いた。
あんなに鍛治師としてお世話になったのに、こんなことで二人の間に致命的な亀裂が──
「まあ冗談は置いておくとしても、なんでおまえさんが燃えたのかっちゅうことは気になる」
そんなこと考えたところでわかるわけもない。神様に無条件初手攻撃喰らう俺の体質が悪さをしたんだろう。
結局、ミツキが迎えに来るまでそのままだった。姫様が何とかしてくれたらしい。さすが姫様だ。
「腕大丈夫?」
「うん」
「なんか後味悪いね……明日には帰るってのに」
「いや? そうでもない」
思った通りにはいかなかったし、やや業腹な部分もある。だけど人生はこんなもんだ。寄り道や回り道を疎んでいては、結局のところ辿り着けないものがある。
子供を無闇に俺の道筋に立たせたいとは思ってないけど、向こうからここまで突っ込んでくるのなら遠慮なく組み込ませてもらう。
思い浮かんだのは三船くん。
あの子のために武器を買っていくことは結局できなかったけど、その面から考えるとハシュアーは良い人材かもしれない。なにせ鍛治の天才だそうじゃないか。むこうで鍛治が出来るのかは知らないけど、もしも出来るのであれば色々と頼める。
「そう簡単に話が進むかなあ……」
「既に簡単じゃないんだから、たまには楽させてくれ」
「うーん……一応アルスさんにも聞いてみようよ」
「──いつの間に名前で?」
「普通に」
「そうか」
ミツキも成長してるんだよな……胸以外は。
「はあっ!」
「いてっ、なんだよ」
チョップされた。
「絶対変なこと考えたでしょ」
「それで考えてなかったらどうすんの?」
「そういう時は大抵考えてるから」
こりゃあ一本取られた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない