【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
『──商売を始めるのでもなければ気にはしない』
逆に言うと、ハシュアーが商売を始めるとなれば話が変わってくるらしい。どういう理由か、検討がつかない。
『我々はこれまで、鍛治師として信頼を形作ってきた。イーヴァ様の名を汚すことがないように、契約という名の律を守ってな。あなたもそこは感じてくれていたのではないか?』
確かに、ヴォルフガングや他も含めて俺が出会った鍛治師から騙されたことはない。最近になって鍛治師がただの酔っ払いなのではという疑惑も浮かび出したとはいえ、それはプライベートの話だ。
『ヒューマンの中にも鍛治師を営もうというものはいたが、彼らは基本的に嘘つきだった。我らの成果物を掠め取ろうとしたり、探索者を騙して金だけ取ろうとしたりな。だから、我々は商工会と一つの約束をしている』
「……そういうことか」
『鍛治師を営めるのはイルヴァの牙に属する者、あるいはその傘下に入った者のみだ。そして、鍛冶を行うことができるのも我々が指定した場所でのみ』
長年気になっていたこと。
武器を販売している企業はあるのに、何故、肝心の鍛治師達が街に住んでいないのかということだ。こんな世界だぞ。街中でトンテンカンという音が聞こえてきてもおかしくないじゃないかと思っていた。
一つの謎が解けた。
『その顔、ヒューマンの鍛治師がいないことを不思議に思っていたんだろう? 単純な話さ。信頼に足るものがいなかったというだけのことだよ』
「……一人はいた、そうじゃないか?」
『ふむ……だが例外だ。あの人以外は皆、探索者崩れやロクデナシばかり。試しに入れてやろうと思える者すらいなかった』
やっぱりそうだ。
俺たちが泊まったのって……
『あそこはあの人の家だ』
「だと思った〜、だって大きさがおかしいもんね」
『流石に気付くか』
「そりゃあ気付きますとも!」
鼻高々。
かわいい。
きっと、その人の正体について詮索はしない方がいいのだろう。
『丁寧に家を使ってくれたようでありがたいよ』
「散々言われましたから! 人の家は汚して帰るなって」
『ふむ、良い親御さんだな』
「親? …………まあ、はい!」
最初は酷かった。
家政婦が綺麗にしてくれるからって掃除したことなかったんだよな。学校にも掃除の時間とか存在しないから、マジで一生、掃除を自分でするという概念に出会わなかった可能性がある。ミナさんもいい所の出だから同じ感じだし、コウキさんは普通にチンピラだから掃除とかしたら負けみたいな根性してる。
よくないですよ!
『──仮にハシュアーが自分や身内のために作るのであれば気にしない。それは自然な営みだ。だが、商売の道を辿るのであれば鍛治師の名を背負うことになるのを忘れるな』
やや語気を強めた。
それだけ、形作ってきたものが重く肩にのしかかっている立場なのは間違いない。
「全部仮定の話ですけどね」
そんな盛り下がるようなことを言うな。
『ところで──』
ジロリと向けられた視線。本当にしょうがないやつだ、という呆れを多分に感じた。な、何でそんないきなり!
『はあ……トラブルメイカーというやつだな』
「それ、禁句」
『言われ慣れてるんだろう? つまりそういうことじゃないか』
「ぐぬぬぬ……」
俺はそんなんじゃないのに……もっと知的で、トレンディーで、クールなのに!
『呆れたやつだ』
「慣れるしかないんですけど……慣れる前に時間が来ちゃいましたね」
『気にしないさ、きっとこれからもまた会うことになる』
「そうなんですか?」
『ああ、彼がこの調子ならきっと』
荷造りは、思いの外に早く終わった。ヴォルフガングが謎のバックパックにポイポイと詰めてしまったからだ。
「どこに入ったんだ…………やっぱり四次元ポケットなのか?」
「ああん?」
「これ、いつも見てるんですけど明らかに容量を超えた荷物入れてますよね。なんなら露店まるごと」
「…………」
「教えてくださいよ〜」
「教えるも何もねえ。ただ、イーヴァ様の加護で内部が拡張されてるだけだ」
「何でもありじゃねえか!」
「神様だぞ」
「んなわけあ──いやそうか、神様だもんな」
神秘のベールが剥がれたかと思ったら、本物の神秘で覆われていた。何を言っているかわからないと思うが、ガチモンの神様だった。
というかそれって神器なんじゃ……
「加護を得ただけじゃあ神器にはならねえよ」
「わけわかんねえ」
どういう法則でこの世界が紡がれているのか、俺にはいまいち理解が効かない時がある。わけわからん時はとりあえず「そういうこともある」で流してあとで噛み締めることにしてるけど、分からないことの方が多い。
価値観ががが。
そういう時に思うんだ。やっぱりこの世界は、俺の知っているものとは違う論理で紡がれているんだなって。
「──あれっ! じゃあヴォルフガングさんが荷物もって行ってくれるんですか!?」
「おう」
「やったー!」
しかも、帰りはかなり楽な道にしてくれるらしい。
「最初からそこの道にしてほしかったよ!」
さもありなんという感じの反応。
本当に死にそうだったからな、あの時のミツキは。たった一週間前の出来事とはいえ全く忘れていない。
「本当に足痛かったんだから! 回復薬使っても筋肉痛ひどいし!」
「へっ、あそこでへこたれてたら入らせるつもりはなかったぜ」
「え゛え゛ー!」
「ちゃんと歩き切ったからな」
「まあそうですけどお……仮にも来客なんだからもうちょっと手心を……」
「バカ言うんじゃねえ! アルス様の話聞いてなかったのか!」
「ひいい! ごめんなさいい!」
荷を作り終えると、再びアルスに呼び出された。当然その場には老人達や姫様もいる。お別れの挨拶()ってやつだな。
「…………」
相変わらず目の敵にされている。
『これまで──』
「待ってください」
『…………なんだ』
「先の件、どういうことかの説明がまだです。それを聞かずして帰らせるわけにはいかない」
どうやら、お別れ会ではなく裁判所に迷い込んでしまったらしい。それも仕方ないか。何せ、神聖な儀式の途中であんなことがあったんだから。
他人事みたいに言ってるけど、ガッツリ燃えたので被害者だぞ俺は。
「さあ説明してみせろ、カガミアキヒロ」
「説明ですか」
『…………はぁ』
疲れた表情から察するに相当揉めたのだろう。
「神の炎で焼かれたということは、やはり邪な思いを持ってこの地を訪れたということに他ならない──そうだろう?」
「まあそうですね」
「──!」
ウワッと。
四方から浴びせられた罵詈雑言。
気持ちのいい旅の最後にこれとは。
思わず口元が綻ぶ。
「焼肉が食べたいからなんて動機が邪じゃないわけないじゃないですか」
「ふざけているのか!」
「ふざけている? どうやら、他者の情熱に対する理解が足りないようですね」
「いいや、理解できる! 焼肉だなどと……そんなふざけた理由でこの地を訪れるなんてのは見え透いた餌以外の何でもないだろう! 神器は本物だが、我々の居城の位置を解き明かすというのが貴様の任務だ!」
「任務? 私はあくまで個人としてここに来ている。身元調査だって行っているだろうに」
「都合よく神器の保有者が現れるなどと、我々がそんな甘い考えで立ち回っていると思ったか! アルス様や姫様がお優しいからと舐めているな!」
「都合が良いも悪いもないでしょう。ただ保有者がそこにいるかいないかというだけの話です。それに我々と言っても、そこまで考えているのはあなただけかもしれませんよ?」
こんな露骨な舌戦があるだろうか。上品さのかけらも無い直接的な探り合い。お互いが互いの主張を述べるばかりで、論拠は自分自身しか無い。俺のことが信用できないのに俺の言葉を求めるなんて、無意味だろうに。
──だからこそ、彼らが信用できることの証左でもある。嘘や逃げなど必要ないくらいに彼らは実直で直情的だった。
「トボけおって……貴様、ていこ──」
『『黙れ/黙りなさい』』
「っ……」
重なる声。
いつのまにか姫様も来ていた。一喝された議員は唇を噛みながらもそれに従う。
威厳──子供に対してそれを感じるということの奇妙さ。今の感覚を正確に表現するのは難しいけど、とにかく威厳を感じた。
『熱くなりすぎだ』
「…………申し訳、ございません」
彼が何を言おうとしたのか、この場で詮索するのはやめておくことにした。ただ、間違いなく、彼は言ってはいけないことを口にしようとしたのだ。
──いや、違うな。
今の止め方は……俺が知ってはいけないことを言おうとした……?
『最後までこんな場所で恥ずかしい限りだ』
「お気になさらず」
『……懐が広いのは確かに美点だが、あなたのそれは少々広すぎやしないだろうか』
「──何事も、慣れが大事ということなので」
『? …………よくわからないが、家族が苦労しないか?』
「はっはっは! どうかな?」
『やれやれ…………』
まあ、俺はおまけだ。おじさん達の苦言をぶつけるためのサンドバッグでしか無い。ここで一発噴火させとか無いと後が怖いし、正直これでいいと思う。何言われても、俺の中で真実は覆らないので。
──彼女にとって本当に大事なのは同胞だ。
『さて、ハシュアー』
「(は、はいっ!)」
『きっと、お前には苦難の道が待っているだろう。脅すわけではないが、専門家である彼が言ったのだからそれは間違いない。イーヴァ様の加護を得られない地でお前は、我々の誰もが通ったことのない道を進まなければならないのだ』
「…………」
『辛くて泣きたくなる日が来るかもしれない。帰りたくなる日が来るかもしれない。何せ全く違う土地だ。違う常識の中で苦労するだろう』
「(俺は大丈夫です!)」
『そうか……そうだな、きっとやってくれると信じてるぞ。何せ、あの二人の元に生まれたのだから』
「!」
『だが──それでも、本当にどうしようもなくなったら私たちのことを思い出せ。お前が心の底から祈ったなら、私達はすぐに駆けつけるからな』
「(アルス様……)」
『両親とイーヴァ様に胸を張っていられる男であれよ、ハシュアー』
「(はい!)」
『カガミ殿も、神格の加護を得られることを祈っている────そしてハシュアーをよろしく』
「ウッス」
こうして、一週間という短期間ではあったが俺たちの『イルヴァの牙』への滞在期間はようやく終わった。
隊列を構成する人員は一人増えている。
ハシュアーは鍛治師の訓練でトンカンしたり走り回ったり鉱石を運んだりしていたのでミツキみたいに運動不足というわけではないけど、緊張も手伝ってか体力の消耗が激しかった。
それでも行きよりは楽な道という言葉に偽りは無く、余裕の出たミツキが先輩面をし始めた。
「あ、そこ転ばないように気をつけてね」
「あ、モンスターの声だ」
「あ、靴紐解けそうだよ」
「あ、崖だから気をつけてね」
「あ」
「あ」
「あ」
途中から『こいつうざいな……』みたいな顔されてたけど、テンション上がってるせいで全然気にしてなかった。100%善意ではあるので、なかなか無碍にもできない。
「はぁ……」
休憩の座り込み。
そりゃあ、ため息だって漏れるだろうな。
年上の女の子にあんだけ言われれば。
「あ、もしかして疲れてる?」
その「あ」ってやつやめろ。
ハシュアーがノイローゼになるわ。
「脚は大丈夫?」
「(大丈夫)」
頷いた通り、体力の消耗はあっても怪我とかは見られない。庇っているような動きもしていない。
「(外は……明るいよね)」
「え? ……確かにそうだね。地下は灯りはあっても基本暗闇だったからね」
「(……第32セクターって──というか、ソーレンキョーってどんなところなの?)」
「どんなって、普通だよ。32セクターに関しては真ん中にお店とかが集まってて、少し空いて外側に家があるの」
「?」
「ほら、魔素の影響があるじゃん。だから建物をあんまり一纏めにしちゃいけないんだよね。家は隣同士とかで密集させないでねって感じで、間隔をあけて建てるんだよ」
「(よくわかんないけど、なんか大変そうだね)」
「まあね〜」
二人とも喋る余裕はあった。
モンスターも出てこないし、崖上から岩が落ちてきたりもしない。雪は深いけど、例の如くヴォルフガングが溶かしながら進んでくれるので問題なく進むことができる。本当に、最初からこの道で良かったよ。
「別に俺が設定したわけでもねえんだ。いつまでも文句言ってんじゃねえ」
順調すぎるほど順調に道のりは過ぎ去り、グリムス砦もあっさりと通過した。
──そこからは一瞬だ。行きはあれほど長く感じられた道も、一度通った後は意外なほどに思ったよりも短く感じる。
「ぐへー……ようやく戻ってきたあ」
それでも、流石に道のりの長さ自体は誤魔化せない。
洞窟に戻ってきたミツキを支えると、もったりともたれかかってきた。
「つかれちゃー」
「(あー……なっが)」
ハシュアーは初めての道だ。流石に子供の体力ということもあって、疲労で足が震えている。それでも、弱音を一切吐かずに着いてきたので想定以上の根性を感じることができた。男だな。
「頑張ったな、ハシュアー」
「(な、なんでピンピンしてんだ……!)」
「あと少しで着くぜ、今日はこの洞窟で寝るけどな」
最初のワープポイント──崖道側の方で一夜を明かしたのち、ようやっと住処に戻ってきた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない