【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
ハシュアーはめげずに探し続け、探索者たちもその心意気に応えるように拒否をし続けた。
なんとなく最初から分かってたことではある。レベルの高いパーティーはそのレベルの高さ故に低レベル探索者と組むことはしない。それはディーンが言っていたように足手纏いでしかないからだ。
そしてレベルの低いパーティーはレベル云々ではない理由から断る。レベルの低いパーティーがどんなメンバーで形成されているかというと、基本的には探索者になる前からの知り合いだ。つまり、ハシュアーを入れるということは身内だけのコミュニティにいきなり誰かが入って来るということになる。そりゃあ断られるというものだ。
そして、他にも理由はあると思われる。近くにいた三船くんやハシュアー本人は全く気づいていないようだったけど、最初に入ろうとした大地の守護者のパーティーがニヤニヤと笑っていた。
最初に断る流れを作ったのは彼らだ。大声でハシュアーの事をガキだと広めたせいで、その後のパーティーにアイツを入れるという選択肢は無くなった。ハシュアーを入れるってことはつまり、大地の守護者の奴らに笑われる事を意味する。
何よりもメンツを大事にする探索者はそんな事、許せないだろう。実力があればそんな笑いすらも腕力でねじ伏せられるけど、レベル40代のメンバーで構成されたパーティーに力でってのはあまり得策じゃない。
流れってのは厄介だな。
「……」
シエルはそれを理解していたと見える。
不快そうにブレンたちのことを睨んでいた。もちろんコッソリとな。三船くんの背中から、本人たちに見られないように中指を立てていた。
俺もアレやられてるのかも知らん。
「(っかー! どいつもこいつもダメだこりゃ!)」
でもねえ、メンタルが強いんだこいつがまた。
全然心折れねえの。
才能しか感じないわ。
メンタル強すぎてアリサみたいな変異とかしなさそう。
「(あーもういいわ! 帰る!)」
「おー、ちびすけが逃げ帰んぞ〜」
「(いつか絶対に追い越す! これはもうマジで! 火の誓い立ててやっからな!)」
「よく分かんねえけど頑張れ」
メンタルは強いけど希望は潰えたので撤退が決まった。去り際、ハシュアーはもう一度探索者を記憶に刻むように強く睨みつける。全く自分を意に介さずに談笑している愚か者どもへ、今に見てろよと視線だけで分からせるように。
俺は帰るかって?
帰らないよ。
だって、本人がいなくなった後でハシュアーどんな風に言われてるのか気になるし。そういう印象ってこれまで気にしたことなかったけど、三船くんが予想以上に人気だった。ハシュアーももしかしたらそういう印象で今後の活動のしやすさも変わるかもしれない。
念のためにな?
「…………」
「…………」
だけど酒場にいるのにまだ何も注文してないし、そのせいで若干カタメさんとアオイちゃんの俺を見る目が厳しい気がする。金を払ってない奴はお客さんじゃないってことだろうか。その通りです本当にごめんなさい。
「……!」
声を出すと周りに気付かれるかもしれないので、指先でちょいちょいと呼ぶ。そのタイミングで何かあったのか、アオイちゃんとカタメさんが裏に引っ込んだ。代わりにやってきたのは基本的に貧乏ゆすりしてるおじさん。
「なんだい」
「…………」
酒樽を指さした。
伝わるっしょ。
「声くらい出せんのか?」
「…………」
伝われ!
このかっこいい雰囲気で全部伝われ!
「礼儀もなってないな」
「…………」
「ふむ……」
まずい! 心象がすごい勢いで低下しているのが声色からわかる! でも今更やめて『じゃーん! アキヒロでしたー!』なんて言っても全然面白くない! 宴会芸でも無いのに滑りたくねえよ!
……いや、こういうキャラで貫き通すんだ!
「何でここに来た?」
「…………」
ただ、ひたすらに酒を指差す。俺にできるのはそれだけだ。でも嫌な注目のしかたされてるから指が若干震えてる気がする。
「ふん、酒狂いか」
「…………」
とりあえずビールを飲むことができた。人間って酒が飲めれば何でもいいんだなあ。麦じゃねえもん明らかに。本当はトンスルですって言われても信じちゃうかも。
でもこれで、ここに居座る口実ができた。あとはチビチビ呑むための骨せんべいでも頼むか。
「……初めてにしちゃ分かってんな」
「…………」
耳をすませばそこら中から声が聞こえて来る。もうコマちゃんは用済みだけど、外套から出したら俺だってバレちゃうからな。
「何回だと思う?」
「3回」
「あー……じゃあ俺は4回」
「私は2回」
「アンダーかね」
「そこは間違いねえやな」
悪趣味──そして間違いなく至高の娯楽だ。手元に何もなくてもできる。
意地の悪い顔でハシュアーを賭けの対象にする探索者たち。そこに対して特段悪い気はしない。命のやり取りで精神を削った探索者たちにとっての精神安定でもある。実害が出るわけでも無い。
これで賭けに勝つためにわざとなんて事があるようならアレですけどね、ええ。
「ワフ」
黙っとりんしゃい! 盗賊には容赦しないって決めてるでしょ!
「──ねえディーン。あの子、けっこう根性あったね」
「ああ」
「レベル上がったら入れるの?」
「入れない」
「ロール?」
「そうだな、お前がいてくれれば十分だ」
「ディーン……」
「ディーン?」
「あらら、羨ましいですねー」
「いや今のはそういうのじゃないだろ……じゅ、純粋に役割の話として……」
「まあまあ、お酒呑む?」
可哀想……
アイツ、いっつも選択肢ミスってる気がする。前から選ぶのが下手くそな奴だ、顔がいいからカバーできてるけど、風俗沼に落とされそうになってたからな。
そのまま男娼ルートに行くところだった。
「の、呑まない!」
「ふふ、またまた〜」
「はーい注ぎますよ〜」
「くっ……!」
酒場なんてのはクソみたいな雑談を延々と繰り返す場所であり、重要な話をする場所では無い。探索者たちが駄弁って、喧嘩して、酒飲んで寝る場所だ。宵越しの金を持たぬ者の方が多い探索者にとっては当たり前のこと。俺とは決して相いれぬ価値観によって人生を全うしようとしている彼らのことを馬鹿にするつもりはない。ただ、シンプルに馬鹿なだけだ。
それは分かってるんだけど、聞こえて来るのは本当に関係のない話ばかり。ハシュアーの話をしていたのは一瞬だけで、すぐに話題は別のことに切り替わった。
東の方でキマイラが見つかっただの、アンダーのどこそこが崩壊していたから近付くのはやめておこうだの、逆に制圧依頼を受けようだの。ハシュアーとは関係なく探索者達の情報を聞く時間になってしまった。
「──レベル52か」
グラスを傾けると、舌を滑った液体が喉を潤していく。
「どんなインチキしたんだろうね」
見えたのは、確かパーティーレベル30くらいの探索者だ。男女2人ずつでテーブルを占有している彼らの指す人間が誰か、明らかだった。
レベルの情報はあっという間に広がる。誰が今、勢いがあるのかということを示すために商工会も殊更に隠したりしない。
「決まってんだろ、一級に引っ張ってもらったんだよ」
「まあねー」
彼らの邪推は無理もない。最近まで同じレベルだった探索者がいきなり20以上もレベルを上げるなど、通常はありえない。
あの一件以降、俺に対する探索者達の目というのは懐疑的なものを含んでいる。魔素溜まりに突っ込んだなどと説明しても、俺も仔細を覚えているわけではないから自信がない。
事情を知っていると思しき連中は揃いも揃ってだんまり。俺なりにその事について色々と想像したりしたけど、これだ! という結論までは辿り着く事ができない。
「本人は覚えてないなんて言ってるけどさあ、絶対隠してるよね」
「まあなあ」
こんな風に言われるのもやむなしだ。とはいえ、俺の話をしているのもごく一部だけ。情報なんてのは極論、同じメンバー内においては一度消費されれば要らないものに変わる。
「…………気に入らねえ」
ただ、負の感情は別だ。
消費される事なく時間が経つとドンドン増幅されていく。口に出すと脳が刺激される。
この前までは格下だったやつにポンと追い抜かされるってのは確かに気に入らないだろう。特に、目標がなく探索者としてレベルや倒したモンスターを糧にプライドとしている奴にとっては。
──別にそれがダメってわけじゃないけどな。
ブレンは聞こえて来る加賀美明宏の話にイラついているようだった。困ったねこりゃ。いよいよこの場で顔出しできねえ。
「まあほら、私たちには私たちのペースがあるからさ」
「んなこたわかってる。そういう問題じゃねえんだよ」
「あんな奴、自分の力でレベル上げたわけでもないんだからそのうち調子に乗ってやらかすって」
「…………けっ、胸糞悪い」
叩きつけた木ジョッキがテーブルを揺らした。食器が音を立て、一瞬当たりが静まり返る。緊張感に満ちた空気が、音を立てるのを躊躇わせ──あ、酒無くなった。
「…………」
「……ほらよ」
ツマミはジャーキー。コマちゃんがジャーキーにしろってうるさいから仕方ない。酒にジャーキーとか当たり前すぎておもんないけど、犬にはそういうの──噛むな噛むな! 俺が悪かったから!
「何モゾモゾしてんだ」
「…………」
コマちゃんはイタチみたいな姿に変わって俺の体に巻き付いている。そのおかげで不自然な膨らみは少ないけど、動いたせいでおじさん職員に怪しまれてしまったよ。
「……人間なんだよな?」
「…………」
おい、モンスターじゃないかって疑われてるんですけど? どうすんだよこれ。
とりあえず黙って頷くしかねえ。
「モンスターが意思疎通できるわけねえか……」
んな事はない。
「──!」
「──!?」
受け取ったおかわりをカウンターに置き、チラと視線を向けたらちょうど喧嘩が始まるところだった。
騒がしさの一点集中。睨み合った女同士が腰の武器に手をかけている。よほど好き合っている2人って事だな。
「落ち着いて呑むじゃねえか」
「…………」
脳みそのリソースはあそこに割くべきなのだろうか。喧嘩は基本的にくだらないことで起こる。本当に大事な事で起きるのは喧嘩ではなくて離別だ。
──抜かれた剣が閃いた。
「やったな、てめえ……」
「…………くたばれ」
喧嘩を超えて殺し合いに発展する場合はまた別か。
明らかにエンチャントが施された武器同士。両方とも火を剣身から迸らせる。
既にテーブルが一つ、真っ二つに叩き割られて炎を上げていた。
「──はっ!」
「!」
十字にかち合う両者の一撃。
探索者の反応は二分された。
怯えて端っこによるか、面白そうに2人を見ているか。
処分を受けるのは2人とそのパーティーなので、高みの見物だ。もちろん、全力を出して戦えばこの建物は崩壊するだろうけど。
「や、やめなさい! それ以上やるならライセンスは剥奪ですよ!」
方目さんがカウンター越しに警告を放った。
「知るかよ……!」
「はぁっ!」
鍔迫り合いから距離を取り、殺気を放つ。
しかし、止める者もいる。
「やめろ馬鹿! 何やってんだって!」
「おい! ふざけんな!」
2人をそれぞれ止めるのはパーティーメンバーだろう。そうしなければ自分たちにも被害が及ぶので必死だ。相手ではなく、身内らしき方を羽交締めにしている。それを振り解こうと必死な両者。
本当に殺し合いを興じるつもりだったようだ。
結局、仲間にボコボコにされて気絶した。
追放だなありゃ。
「──追って沙汰を伝えます」
「くそがっ!」
そりゃあもう怒り心頭だ。1日でもパーティーからの追放が早ければこうはならなかっただろうに。探索者は突発的に訳わからんことをしたりもするから予測は難しいけどな。
「……おい」
「…………」
「お前、あの妙な連中の仲間じゃないだろうな」
「…………」
妙な連中って誰だ。
俺がいない間になんかあったのか。
──あの演説してた奴らか?
「もしもそうなら、事情を聞かせてもらうぞ」
「…………」
首を横に振るしかない。
「お前さん、そもそも探索者なのか?」
「…………」
ドッグタグを見せた。
探索者にとってのIDカードみたいなもんだ。逆に言えば、探索者でもなければこいつをつける意味はないからな。
「ふん……」
流石に納得してもらえたようだ。
しかし受付嬢に近づくなと警告を受けた。
なんで?
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない