【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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150_正体不明のマント男出現

「──?」

 

 何か様子がおかしい。ハシュアーに関する話はこれ以上無さそうだと切り上げようとしたタイミングで、受付の向こう側が騒がしくなった気がする。

 半分上げた腰を再び椅子に下ろした。喧騒や環境音に紛れて聞き辛いけど、それでも一部は聞き取る事ができた。

 

『──おちたって!?』

 

『信じられ──』

 

『もし────戦争──』

 

 少なくとも、良い話題ではないのは一目瞭然だった。顔と身振り手振りが、焦りを表に全面に押し出している。

 

「…………」

 

 戦争という単語は俺にとって縁の遠い言葉だ。前世でも体験したことはない。さんざん勉強はしても、真にどんなふうに生活が変わり果てるのかを自分の身近に感じたことはなかった。

 こちらの世界で戦争が起きる。

 相手といえば思い浮かぶのは三つだけ。

 西の部族、盗賊の集まり、そしてドワーフだ。

 だけど、ドワーフはそういう奴らじゃない──と信じたい。なので、仮定としては西の部族と盗賊の集まりが当てはまるだろう。

 

『探索者が──』

 

『────わからない。そもそも本当に──待て──』

 

 表でする話ではないと裏に行ってしまった。こうなってはもはや聞くこともできない。不穏に満ちた話だったけど、まだ実生活に絡むとは限らないので気にしすぎは良くないか。

 

 今日のところはお暇しようと出口に向かった時だった。

 

「──ちょっと待てや」

 

 扉前に2人が立ち塞がった。

 ブレンと、その仲間だ。これから仲良く一緒に呑みに行こう、という雰囲気ではない。警戒と敵意を滲ませている。

 

「さっきから俺たちの話聞いてたよな?」

 

「…………」

 

「黙ってすっとぼけようっても無駄だぞ。俺たちもお前のこと見てたからな」

 

「…………」

 

 どうしたものか。

 全く誤解じゃないので、弁解のしようがない。

 

「コソコソして何が楽しいんだ? ああ?」

 

「そのフードくれよ」

 

 2人は扉の前を塞ぐように立っている。穏便に済ませようにも、出るにはこの2人のどかさないといけない。口で説明しようにも、ここまでの努力が無駄になってしまう。こうなったら最後まで隠し通したいのでどうにかならないかな。

 一つ言わせてもらうことがあれば……普通に嫌だろ、男が着た後のフード付き外套もらうのは。何を考えてそんなこと言った? 

 

「とりあえず顔見せろ」

 

「…………」

 

「おい、聞いてんのか」

 

「…………」

 

 顔をガン近づけている。ここまで寄っても、フードの中にいるのが誰かということに気付かない。ブレンは目が悪いのかもしれない。

 

「脱げ! ……こ、こいつ!?」

 

 伸びてきた手をがっしりとブロック。じわじわと上がっていく出力、どうあっても剥がそうというのだろうか。しかし、そんな風に扱ったら破けてしまう。

 この服は普通の店で買ってきた者だ。探索者の使用に耐えるようには作られていない。

 俺とブレンの腕力は未だ全開には程遠いが、それでも通常の布であれば容易く裂けてしまう──はずだった。

 

「……てめえ」

 

「…………」

 

「レベル幾つだ」

 

「…………」

 

 布が千切れずに保っている。それはつまり、この布切れが俺たち探索者の腕力に負けることのない素材であることを意味している。モンスターの毛や皮を用いたモノであれば、確かに理解できた。

 だけど俺がこれを買ったのは本当にただの一般服屋。

 通常の衣類の値段だ。

 

「答えねえつもりか?」

 

「…………」

 

 なんか言ってるけど、服の生地が気になって仕方なかった。だけど鬱陶しいことこの上ない。

 

「おい! ──うおっ!?」

 

 驚きの声が飛ぶ。

 打ちはなったジャブは正確に働いてくれた。

 仰け反った顔。

 距離ができる。

 そしてこれで、フードがこれ以上に引っ張られることはない。探索者になってからというもの、以前の肉体に比べて操作の正確性が劇的に上がっている。針の穴を通すようなストレートですら、容易く繰り出すことができる。

 投擲技術もプロ野球選手さながらで、石をたまに使うのはこれが影響している。

 

「…………」

 

「らぁっ!」

 

 ぶん投げられた机を掴み取って床に置く。

 次はジョッキ、フォーク、樽と続いた。

 それらをキャッチしてテーブルに移すと、腹に据えかねたのかとんでもないことを言い出した。

 

「キャッチすんじゃねえ!」

 

「…………」

 

 その言葉を素直に受け取って実行すると、先ほどの二人組のようになる可能性がある。

 両手を上げた。

 

「ああ!?」

 

 参った、俺の負けだ。この場でそんな風に振る舞えるやつに俺が社会的に勝てるわけがない。

 直接戦闘の話じゃないよ? 

 今フード被ってんだから。

 

「なんのつもりだ? 今更、もうおせえ!」

 

「…………」

 

 両手を合わせ、精一杯手を揉む。

 害意も敵意も無いよ、ただそっちから来たから仕方なくこうしたんだよということを伝える。何もなければ俺は普通に去るだけ、それで世はこともなし。

 どうだ! 無防備な俺目掛けて攻撃なん──

 

「…………」 

 

「お前……!?」

 

 結局のところ、効かない。レベル40代前半の全力は、武器や異能でも使わなければレベル50代には通用しない。拳が得るのは鈍い感触。固いものを殴ったなどとは感じず、頑丈で柔らかくて衝撃を吸収するゴムを殴ったような感覚になる。

 そして殴られた方──俺は、その拳に蚊ほどの痛みを感じない。ただ、触れられたという意識だけがそこにある。

 これが、魔素に寄って変質させられた肉体のチカラ。技量もクソも無い、ただのレベル差で押し潰せる。

 

「ちっ……」

 

 俺も探索者をやってるので嫌というほどその気持ちはわかる。土壇場でレベル差に気付いた時の絶望感、ワームだと思って切りつけたらドラゴンの尻尾だった時を思い出す。

 

『何やってんだー!』

 

「黙ってろ!」

 

 大声を返す間も、視線は俺から離さない。俺というかフードを被った正体不明の男か。

 

「てめえ新入りか」

 

 初心者という意味での探索者ではなく、このセクターにやってきたばかりの、という意味でだろう。

 もちろん違う。

 しかし、教えてやる意味もない。肩をすくめた。

 

 あと、良い加減に解放してほしい。衆目が完全に俺に集中している。せっかく不審者にならないように隅でコソコソしていた意味がなくなってしまった。これからはこの手法使えなくなっちゃうじゃん。

 

「…………」

 

 しかし、レベル差を理解したのか。

 道が開いた。

 

「覚えとけよてめえ」

 

 俺は覚えといても良いけど、そっちは俺の顔すら分かってないのに何をもって因縁付けようとしてんだよ。

 

 

 ──────

 

 

 3人は三船家に集まっていた。

 俺が帰ってきたのは、ぷりぷりと怒りを見せるハシュアーを三船くんが宥めているタイミングだ。

 

「加賀美さん、どこ行ってたんですか?」

 

「俺ぁあれだよ。ちょっと雪で遊んでた」

 

「雪で? なんでですか?」

 

「遊ぶのに理由なんていらないだろ」

 

「…………あ、コマちゃんもきたんだ。いらっしゃい」

 

「わふ」

 

 商工会の職員に止められることはなかった。俺の行動が問題なかったというより、探索者を気にかける余裕がなかったというのが大きいだろう。

 方目さんと葵ちゃんも忙しそうにしていた。

 あの不穏な会話が関係しているのは間違いない。

 

「それで、どうだった?」

 

 分かりきった答えを聞くことのなんと白々しいことか。

 

「(ダメだった)」

 

「ふーん……誰に聞いたんだ?」

 

「(知らない)」

 

「とりあえず話しかけたのか?」

 

「(あいつら話にならねえよ! 最初っからダメって前提で話しかけてきやがって! 俺があいつらの立場ならもう少し考えたりするね! そうだよなあレイトくん!)」

 

 ハシュアーはブレン達とのやり取りで溜まったムカムカが収まらないようだった。よくもそんな状態であいつらと普通にやり取りできたな。

 

「(そんなことしたらイーヴァ様に迷惑がかかんだろ!)」

 

 精神が成熟してるとかじゃなくて狂信者なだけだった。

 

「(俺はアルス様とイーヴァ様に期待されてるんだ! それを破ったら母ちゃん達が悲しむ!)」

 

「それで、どうするの」

 

 シエルはソファーにもたれかかっている。この家は彼女がリラックスするのに十分なだけの安心感を覚える場所らしい。

 

「(…………)」

 

「ハシュアー、僕たちは歓迎するよ」

 

「(……お願い、します)」

 

 結局こうなるのは分かっていた。探索者どもがハシュアーを採用する可能性なんてのは、0に等しい。鍛治師ということを明かさない以上はな。

 

 というわけで、晴れてハシュアーは三船くん達のパーティーに加わった。正式な書類上の加入はまた後日ということで、住む場所の話だ。

 

「……そう、ですね。あの部屋を……整理しようかな」

 

 少し1人にして欲しいと言って、自分の部屋に戻る。残されたのは俺たち3人──だらけたシエル、緊張しているハシュアー、立ってる俺。

 

「わん」

 

 コマちゃんはマフラーのように首元に巻き付いている。肌触りもビロードのようでとても良い。巻いているのを忘れるほどには。コマちゃんが巻き付いているメリットは暖かさと気持ち良さの他にもう一つあり、それは常に顔の近くにいるからハシュアーの翻訳が早いこと。

 

「(うわっ、出たっ!?)」

 

「いる時はいる、いない時はいない、それがコマちゃんだ」

 

「(なんだよそれ……)」

 

 ハシュアーの住む場所はここに決まりそうな感じだけど、実際ここ以外となると商工会の宿舎しかない。

 あんなところはねえ、マトモな人間の住む場所じゃないんですよ! 

 夜遅くまで酒を飲み明かすやつばかり。

 壁の隙間から連れ込んだ女の声も聞こえて来るし、煙臭いし、虫も湧く。

 それでも、必要ならば使わなくちゃならないのが探索者の辛いところだ。野宿でもあんなキツくない。

 

「──片付けたよ」

 

「!」

 

 ハシュアーは飛んでついて行った。シエルも重たい腰を上げて2人の後へ続く。ドンみたいな雰囲気出してんな。

 

 取り残された俺は、コマちゃんに一つ約束をさせた。

 

「守ってくれるな?」

 

「わふ……」

 

 渋々、本当に嫌だけど……みたいな顔と雰囲気を作りながらそれでも受け入れてくれた。

 これだから犬が大好きなんだ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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