【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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152_女々しさ

 

「確認をしておこうか」

 

 一応の設営を終えたところで、切り株に腰を下ろす。

 持ってきた荷物は既にテントの中。改めて今回の仕事内容と進め方についてのおさらいだ。

 時折、人間との考え方や根本的な種族としての違いがとんでもない間違いをする時があるからな。擦り合わせをしないとやることに齟齬が出る。

 

 例を挙げると、生きている間じゃないとそのモンスターから採取できないエキスがあるので首根っこを押さえていろと指示を出したら、噛みついた瞬間に本能スイッチが発動したのか噛み殺してしまった。

 またあるときは、特殊なモンスターだから動いたらダメだと言っているのに、モンスターの炎で焼けたモンスター自身の肉の匂いに釣られて動いてしまったこともあった。

 比較的簡単な依頼ならそれでも良い。俺たちの余剰の中でバカをしたりふざける分には、むしろ気楽にいられるという点でメリットですらある。だけど今回のような、俺たちの戦闘力的に限界に近い相手でそれをやると普通に死ぬ。

 真面目にね、真面目に。

 

「コマちゃん、俺たちの今回の目標は?」

 

「わふ」

 

「そうドラゴンだ、わかってるな。じゃあここはどこだ?」

 

「わんっ」

 

「バカにしてないって。でも正解、164セクターの廃墟だ。25年前にドラゴンの群れに襲われて大惨事が起こったのは歴史で習うよな」

 

「わふ」

 

「俺たちのレベルはそれぞれ52と50──お前は本当にどこでレベルを上げたんだ」

 

「…………」

 

 おおかた俺と別れてる間にレベル上げに勤しんでいたのだろう。勝手にダンジョンに入って勝手に戻ってくるペットなんて、俺以外に誰か飼ってるのかね。普通に考えたらいないけど──この世界、科学技術意外なら割となんでもありだからな。

 

「俺たちはここを拠点にドラゴンの活動範囲を見極めて、1匹だけを狩場に誘き寄せる」

 

「わん」

 

「もちろん狩場もこれから見つけるぞ」

 

「…………ばふ、ばふばふ」

 

「だから言ってんだろ。最長で一ヶ月くらいかかるかもって」

 

 慎重にならざるを得ない。

 何せ俺たちは、ドラゴンと致命的に相性が悪い部分が一つある。

 ──空を飛ぶことができないのだ。

 あるいは翔けることか。

 探索者というのは、基本的には異能を獲得することができる。もちろんタダではない。絶対絶命の危機に瀕したり、レベルが一気に上がったり、あるいはレベルが上がらなくなってそれでも魔素を吸収し続けた時に起こりやすい。

 

 そんなシチュエーションに至るというのはどういうことかというと、自殺同然のような環境に身を投げ打っているということだ。必然、異能が覚醒する前に死ぬことがほとんど。絶体絶命の危機は、滅多に翻らないからこそ絶体絶命と呼ばれるのだ。

 それでも乗り越えた人間達の持つ力、異能とは彼らの死にたくないという思いから紡がれるもの。

 

 だからアリサは、実はすごいやつってわけ。俺みたいななんちゃって探索者と違って、ちゃんと探索者としてキャリアアップしている。俺はレベルだけ上がってその間に一個も異能を手に入れられていない劣等生なのだ。

 何よりも大事なのは生への渇望。

 生きたいと願うことこそが彼らの道を拓く。

 死への恐怖が欠如していなければ俺にも芽はあっただろうな。

 

「まずはこのセクターを探索するところからだ──そんな顔すんなって、いつもとやることは一緒だよ。ただひたすら歩いて、モンスターがそこに至って痕跡を探すんだ」

 

 もしも複数の痕跡があれば、そこは周期的にドラゴンがやってきている場所の可能性がある。つまり、チャンスがあるってことだ。勿論、複数のドラゴンがやってきているということも考えられる。分からずに突っ込むのが最悪なので、ひとまずは観察観察観察だ。

 

「竜の谷はもう少し西に進んだところにあるはずだけど、最初はこのセクターだからな?」

 

「わんっ」

 

「よし、それじゃあ解散っ!」

 

「わんっ!」

 

 まずはセクター内周辺部からの探索。乱雑に破壊された家、残された遺骸や食器、武器。戦った人間も少なからずいたということがわかる。武具を身につけた亡骸がいくつも。

 

「…………」

 

 わかる。

 その無念が手に取るようにありありと伝わってくるから。

 死ぬ瞬間まで武器を手放さなかったのであろう探索者の骸骨が、うつ伏せでそこにあった。その背後では子供だろうか、小さな身体を半ばから絶たれた状態で倒れている。

 彼らを回収することはできない。そんな労力を割くのはドラゴンどもが気まぐれにこの地を去ってからか、一級探索者に滅ぼされてからの話だ。

 だけど、手を合わせるくらいなら許されるだろう。

 突然やってくる災害に対して人間が抗う術などない。そういう意味では、ドラゴンの群れというのは嵐や地震のような自然災害に匹敵する。それに巻き込まれて儚く命を散らしたのであれば、それは成仏だってできないかもしれない。

 せめて、良い来世を。

 

「…………」

 

 想像せずにはいられない。仮に実家や32セクターがこうしてドラゴンに襲われたらどうなるかということを。

 

「父さん以外は……」

 

 ドラゴンが人里を襲うのがどんなタイミングか、全く解明は進んでいない。そもそも研究者が少なすぎる。この世界は真面目に研究者として生きていくにはあまりにも障害が多い。まず文献に触れるために金が必要だ。そしてそれらを頭に叩き込むための下地として大学まで行く必要がある。俺は下地がそもそもあるのであまり関係無いけど、前提となる世界に対しての理解が浅いのだ。

 薬学が最も分かりやすい。

 回復薬に全てを頼っているせいで、そこの分野を突き詰める意味がなくなっている。一番長生きしている人間でも70歳くらい。

 それ以上の世代は途中で死んでいる。

 

「俺がもっと頭が良かったらなあ」

 

 空には珍しく晴れ間が見えている。冬の終わりが近づいているということだ。ここからどんどんと雪の降る頻度が減り、1週間の快晴を経て雷が空を覆う。

 

「アリサももうすぐ大学生か」

 

 雷を見て思うようなことじゃないかもしれないけど、あのアリサがここまできたのは素直に嬉しかった。それと同時に、俺が人間の一個体としてもっと頭脳が洗練されていればと思ってしまう。

 

 仮にレオナルドダヴィンチのような天才であれば──薬学も工学も医学もまるっと覚えた状態でこの世界に来ていれば、将来に繋げることができたかもしれない。だけど、俺はしがないサラリーマンでしかなかった。

 知識層ではなかった俺は他者を多少煽ることはできても、真の知性を証明することはできない。老人ができるのは、知識ではなくて知恵によって相手を納得させたような雰囲気にすることだけだ。

 アリサやミツキに勉強を教えられたのは、義務教育でやったこと以上の事はなかったからという、それだけのことに過ぎない。

 

「なんにせよ、終わったらお疲れ様でした会を開かなきゃな」

 

 可愛い子には褒美をあげよ。

 旅をするのは自分だけで十分だ。

 可愛い子には強く育ってほしい。それは正しい感情だと思う。

 だけどこの世界は、生きているだけで旅をしているようなものだ。あまりに好きなようにやらせていると取り返しのつかないことになる。

 人類全体で見ても、一個人で考えても同じ結論になるだろう。

 

「おっと」

 

 少し意識が逸れた瞬間、見上げていた遠くの晴れ間に影が見えた。ラッキーだ。

 顔はこちらを向いていなかった。俺に見えるということはドラゴンにも見えるということ。すぐさま物陰に隠れたけど、これでノコノコと歩いていたら目立って仕方なかった。

 実際、見られたらどうなるかというのは分からない。ドラゴンの知能によっては、見たところで即座に戦闘体制に入るだけの可能性もあるし、群れに戻って報告される可能性もある。前者も厄介だけど、後者だったら本当にまずい。押し寄せたドラゴンに圧殺されておしまいだ。

 

「……赤いな」

 

 ドラゴンらしいと言えばいいのか。

 赤みを帯びた身体をしている。細かい部分までは見えないけど、とにかく遠くからでも目立つほど赤い肉体だ。

 レベルはいかほどだろうか。

 

「まずは一体目……」

 

 しばらく観察してみてもひたすら空を飛んでいる。隠れながら進むと、市街の中心部にたどり着いた。たどり着いたっつっても、誰もいやしない。

 当たり前だな。

 この地域一体は雪が薄い。南に進んだから多少は天候も落ち着いているという事だろう。うっすらと積もった雪のなかにはやはり廃墟がある。ここはどう足掻いてもセクターの中。

 人の営みの痕跡が至る所にあった。

 そして、逃れ得ぬ厄災によって破壊し尽くされていた。

 跡形もなく、受け継いだものを後に伝えることを禁止されていた。

 

「っ……」

 

 どうしても、拭えないものがある。

 失くしたものと重なって。

 俺の世界もかつては広がり、『世界』を覆っていた。

 それなのに俺は今、ひとりぼっちでこんなところにいる。

 

 ──俺はどこにいるんだ? 

 

 ここは未来なのか? 

 それとも別の良く似た世界なのか? 

 この寒々しい光景は、俺たちが頑張って作り上げた社会が辿り着いてしまったものなのか? 

 

 ああ……

 

『  』

 お前達に会いたい。

 また顔が見たい。

 声が聞きたい。

 叶わぬ夢とはわかっていても。

 ミツキ達に尽くすと決めた今でも。

 

「──なんてな」

 

 そうやって気分を沈ませるのは負のループでしかない。今集中するべきはドラゴンだ。

 だから、ジジイは黙ってなさい。

 俺の人生はもう終わってるんだから、若い肉体の足を引っ張るな。

 

 といっても俺は俺なので分離する事はできない。こういうナーバスな心も、正常な人間として持っていなければならないものだ。

 

「コマちゃんを吸いてえ」

 

 ダンジョン探索中にこんなことを考えるのはアホの極みだけど、お日様の香りのするあの物体をとてつもなく吸いたい。

 吸わせろ。

 

『いつもそうですよね! 男の人って犬のことなんだと思ってるんですか!』

 

「犬だけど」

 

『返しおもんな』

 

 吸いたい時にすぐそばに来てくれる都合のいい存在って、いると思うんです。

 だってしょうがないじゃん? 

 吸いたいんだから。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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