【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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153_ドラゴンvs探索者

 

「わふ」

 

「うんにゃ、あそこにいるやつをどうしようか考えてる」

 

「…………」

 

 空を飛んでいる。

 それだけで俺たちは手出しができなくなる。仮に良い感じのドラゴンを見つけて誘き出しても、空から別のやつに飛んでこられてはかなり厳しい。しかも、哨戒をしているのであればさらに増えることだって考えられる。

 そんな未来が予測できる状況で戦闘に入るのは愚策だ。

 

「わふ……」

 

「人間は空を飛べないって知らないのお?」

 

「わんっ」

 

「アイツ?」

 

「わう」

 

「ああ……」

 

 コマちゃんはコウキさんのことを光ってるやつと呼ぶ。それが指し示すのは名前の光輝では無くて、異能の光輝。確かにコウキさんがあの異能を解放すると色々光り輝く。拳とか空気とか。

 レベルが上がっていくと異能や変異を起こすという通例に漏れず、コウキさんも多くの異能を持っている。探索者を辞めた今となっては無用の長物に等しいそれらを駆使して戦っていたわけだ。

 その中の一つに、空を駆けることのできる異能がある。

 ずるい。

 

「でもそこはなんとかするしかないだろ。コッチで」

 

「……ばふっ」

 

「それの何が悪い」

 

 空を飛んでいる相手──例えば鳥であればドラゴンと同じように空を飛んでいるけど、地面に降りてきたところを狙って撃つのが普通だ。飛んでいる時に撃ったら弾や矢がどこかにすっ飛んでいって、誰かに当たってしまうかもしれない。

 相手が大きくなっても同じ事だ。

 まずは地面に降りさせる。

 周囲にひとけはないので手法は問わない。罠でも爆弾でも銃でも、なんでも良いから空から引き摺り下ろす。

 

「がうっ!」

 

「そんな準備に時間かけたら冬が終わってタイミング逃しちゃうだろうが!」

 

「わふ……わふわふ」

 

 本当にこの犬は風情ってもんがわかってない。50レベルに到達したらドラゴンへ挑戦する。それが探索者の普通ってものなんだよ。効率ばっか追い求めてなんになるっていうんだ、俺たちは機械でもなければモンスター憎しで戦っているわけでもないんだぞ。

 

「それは良いんだけどさ。戦うのに良い場所は見つかったか?」

 

「わふ」

 

 コマちゃんでもこの広さを一瞬で探索するというのは無理なようだ。空のやつがいなければ全力で走り回ってという手が取れるのに、歯がゆい。

 

「お?」

 

 赤いやつが、ゆっくりと下に降りていく。俺たちの方に向かってくる気配はないので別の何かを見つけたのかもしれない。

 この変化を見逃すわけにはいかない。

 

「──こりゃあ、凄いな」

 

 降りて行った場所に向かうと、そこにあったのは大量の骨。広く抉られたすり鉢状の土地の下部が埋め尽くされている。その有り様から見るにドラゴンの餌食になった生物達のものだろう。大小さまざまで、ドラゴンの捕食量を物語っている。

 先ほど降りて行ったドラゴンは骨の上を歩き回ると、首をもたげてあたりを見渡した。俺たちも見つかりそうになり、慌てて窪地の外側に身を伏せる。

 骨を踏み砕きながらゆっくりと進むドラゴンは何かが気になるのか、しきりに首を左右に振ってい視線を巡らせていた。

 

「なんでこんなところに降りたんだ?」

 

「わふ」

 

「なに?」

 

 コマちゃん曰く、血の匂いに混じって人間の匂いがあるらしい。人間の匂いと言っても死体の匂いではなく生きた人間の匂い。つまり、俺たち? 

 

「わふ」

 

 俺たち以外の誰か、探索者がこの場にいる。そいつらがなんでこんな明らかに危険なゴミ捨て場に来てしまったのかは定かではない。竜の谷までやってくる以上はレベル50に到達しているはずなので、戦闘能力には問題ないという前提がある。それでも、仮にここで戦うとしたら足場の悪さはかなりのものだ。

 俺よりも堅実にレベルを積み重ねているであろう探索者がどう動くのか、とても興味がある。タダ乗りで申し訳ないけど見させてもらおう。

 幸いなことに俺たちはすり鉢地形の上に陣取っている。

 白い布もかぶっているので、何が起こっても顔を伏せるだけで隠れることが可能だった。

 

 先頭の起こりを見極めるために全神経を研ぎ澄ませて観察を続けると、いつまでもウロウロとしているドラゴンが立ち止まった。

 その瞬間だった。

 肌のざわつき。

 骨が音を立てて吹き飛び、中から何かが飛び出す。

 

『!』

 

 1人の斧使いだった。

 直前までは全く気配や音を感じ取ることができなかった。俺は多少距離が離れているから仕方ないかもしれないけど、ドラゴンも同じように驚愕で固まっている。

 

「──っはあ!」

 

 斧使いは飛び出した勢いのまま宙を舞い、斧を振り下ろした。

 

『……!』

 

「かてえなあ!」

 

 頭蓋をかち割るような振り下ろし。

 激突した部分から緑色の結晶が弾け、周囲の骨を砕く。

 ハラハラと降り落ちていた雪を吹き飛ばす衝撃の後、ドラゴンは意に介さぬとでも言うように頭を振り上げた。

 

「うおっ!?」

 

 斧使いは吹き飛ばされ、空中で体勢をすぐさま直した。しかし、続くドラゴンの行動を目にして驚愕が顔に刻まれる。

 口元から溢れ出す赤い光。

 それはドラゴンの代名詞。

 炎の息吹が斧使いに向けて放たれた。

 

「──!」

 

 放射状に広がりながら迫る炎。空中で移動する異能を有していない探索者には回避行動を選択することは不可能だ。あっけなく炎の中に飲み込まれ、姿が覆い隠された。

 

「まだまだあ!」

 

「おっ」

 

 予想通りと言ってはなんだけど、それで終わるほど短命ではなかった。煤を上げながら炎を掻き分け出てくると、今度は斧に緑の結晶が纏わりついている。随分とトゲトゲしてますね……? 

 

「おら、よっ!」

 

 火炎を吹き終えた直後、半開きの口目掛けて横薙ぎに振るわれた斧は、激突と同時に砕けた結晶が軽い破裂音を鳴らしながら撒き散らされる。

 聞いたことのないエンチャントだけど、世の中にはオンリーワンのエンチャントも多いのでそこは気にしても仕方ないだろう。

 

『グルル……』

 

 牙はともかく、結晶は口の中を傷つけたようだ。赤く染まっていく歯を見せつけながら唸り声を聞かせる。

 それにしてもあの斧使いは1人なのか? 遠距離攻撃を浴びせる奴も見当たらないし、タンクらしき奴もいない。

 1人でやっているやつの動きを見られるのだとしたら非常に助かるけど、珍しいな。

 

「ほら、来いよ! まだまだできるんだろ!?」

 

『…………』

 

 斧使いは挑発するように斧を振り上げる。さながらバイキングの威嚇の儀式のように見える。しかし、動きに釣られることなく背中に力を込めたドラゴンは大きく翼をはためかせると地面から足裏を持ち上げた。

 

「──今だ!」

 

 大きな合図。

 斧の結晶が一際大きな音を立てて弾けると、骨の中から一条の光が飛んできた。

 

『グルアア!?』

 

 今まさに地面を離れた脚にまとわりついた光は、ロープのように骨の中にまで伸びている。飛び立とうと羽ばたくドラゴンは光に気が付くと、そのまま持ち上げるために羽ばたきを強めた。

 

「すっげ」

 

「わふ」

 

 ピンと伸び切った光は千切れることなくドラゴンをその場にとどめ、絶大に威力を発揮している。しかしこれで、斧使いを含めてこの場には2人以上の探索者がいることが確定した。ドラゴンと相対していた斧使いに、あんな芸当を仕込む隙はなかった。

 

「逃さねえ……!」

 

 当の斧使いは、その間に、空中でこれ以上先へ進めず静止状態になっているドラゴンの背に飛び乗り、狙いを定めた。

 

『──ガアアアアアアッ!』

 

 振り払えぬ光に苛立ち、背中に載った矮小な存在に苛立ち、怒りを口から迸らせる。

 

「──ここっ!」

 

 安定しない足場の上で振り上げた斧は重力と腕力の合わせ技で加速した。刃が向かうのは翼の付け根、翼膜と胴体の接続部だ。

 

「ん…………目、潰れてるなアイツ」

 

「わふ」

 

 墜落したドラゴンを良く見ると左目が常に閉じられている。高い回復力を持つモンスター、あるいは探索者でも重要な臓器の完全な修復は厳しい。取れただけなら割と元通りになるが、失くしたものは帰ってこないのだ。

 過去に探索者と戦っているということか。

 

 なんにせよ、戦う前からハンデありの戦いというわけだ。ラッキーと言えばいいのか。

 両目がついている個体と違うよりはよほど楽だろう。

 

『…………!』

 

 火を噴きながら立ち上がった。

 口に続き、翼の付け根からも出血がある。全体の体積から考えると軽微な傷と言って差し支えないものの、傷の位置的に口内炎や冬の乾燥した空気で切れた口の端ぐらいの不快さはあると思われる。

 

「あっぶねええ……!」

 

 斧使いは、先ほどとは違い炎から距離を取っている。

 どんなことにもカラクリがある。一回きりの防護対策や、時間が経たないと再使用できないアイテムというのがある。指や首についた装飾品はおそらく、俺がアリサにあげたような類の物品だ。

 しかし、光を操っていたと思しき張本人の姿が見えない。かなり慎重だ。

 

『カロロロロ……』

 

 攻撃回数にしてみればたったの二回だけど、ドラゴンを怒らせるには十分すぎる攻防だったようだ。地面を前脚でかき、爪にあたった骨が容易く砕けていく。あの巨体だ、体重だってゾウですら比較にならないに違いない。

 

「っし! これで逃げねえな!」

 

 柄をパシパシと叩き、肩に担ぐ。

 お見合いの形となった両者は距離を保ったまま静止していたが、しばらくしてドラゴンがアクションを起こした。

 

「くるぞ!」

 

 

 ──────

 

 

 ──斧使いは一対一という状況を駆使し、ドラゴンの攻撃を上手くいなしていた。振り抜かれる尻尾に斧を叩きつけてカウンターとし、炎を吐いている間は距離をとる。最初の一撃を除いて炎を喰らっていないことも含めて、立ち回りが上手いという評価に落ち着きそうだった。

 

 武器の性能がイマイチなのか大した手傷は負わせていないのだ。避けるだけなら猿でも──勿論、ドラゴンの動きも常人であれば2秒くらいで血霞となる速度なので遅いとは言えないけど、避けるのは誰だってできる。

 目的が倒すことなのであれば致命傷を負わせなければならないというのに、何故いつまでもあの武器でしか攻撃しないのか。

 口腔の出血はすでに見られない。翼の付け根は傷ついたままだが、ジリ貧なのでは? 

 

「──はあっ!」

 

 弾けた結晶が鱗を傷つけていく。雪なんて完全に溶けて消えたし、巨体があれだけ動き回ったので足元の骨も散々に砕かれている。裸足であれば尖ったカケラが皮膚を貫いてしまうだろう。

 怪我が増えていくのは斧使いの方。

 依然として仲間は姿を見せずに隠れている。こうなったら戦闘が終わる前に見つけてやると目を凝らしたけど、正直何もわからない。

 ふん……俺に見つからないでいられるとは中々の手練のようだな。

 

『────!』

 

 ドラゴンが唐突に立ち止まった。

 

「おらっ、こっち向け!」

 

『シルルル……』

 

 ヤカラのような言葉遣いの斧使いなど胃に介さず、ある一点を見つめる。そこには何もいない。

 

『ゴォォアアアアアア!!!』

 

 幻覚でも見ているのか、咆哮を上げると突進を開始する。

 

「──やべえっ! 逃げろイサミ!」

 

 斧使いは慌てて誰かの名前を叫び、ドラゴンの前に立ちはだかった。

 

「ぐうおああああ!?」

 

 斧を横に構えて防御体勢を取るも全く勢いは止まらず、凄まじい音を立てながら地面を流されていく。危険行動としか言えない無謀な行為だが、それは本人だって分かっていたはずだ。

 

「あがっ!」

 

 そして予想通り弾き飛ばされて、空中をかっ飛んでいく。最早ドラゴンを止める者はおらず、直線に突き進んでいく。骨の窪地を超えて外側に行こうというので、俺たちもその後に続いた。

 

「わふ」

 

「え? いや、むしろ助けたら揉め事になるから」

 

「わふ?」

 

「子供は別でしょ」

 

 助けなくていいのかという問いには明確にノーだ。契約で結ばれた他人の業務に首を突っ込むというのは、よほどのことがない限りはありえない。

 今は成人男性が1人吹っ飛ばされてドラゴンがそのままどこかに走り出しただけなので、俺的にはスルーだ。本音を言うと、あれで死んだとしてもしょうがないと思う。

 なにせ大人が自分の意思で始めたことだからな。

 

 

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