【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「うあああああ!」
悲鳴が響き渡った。
悲鳴を出したのは当然、人間だろう。この声質は少なくともモンスターやドラゴンのものではない。
しかし──
「どこだ?」
「わん」
俺たち──少なくとも俺には何も見えなかった。コマちゃんは何かが見えているようだけど、俺がコマちゃんの後ろから同じ方向を見てもドラゴンが立ち止まっている光景しかない。
しかし、注視していたら薄ぼんやりと何かが見え始めた。ドラゴンの足元──足と地面に挟まれるようにしてもがいている人影だ。
「──ひぃっ! ぎっ、ぎああああああ!」
「うおっ」
太ももを踏み潰されている女がいた。歯を食いしばり、涎をダラダラと垂らしながら、巨大なそれへ懸命に拳を叩きつけている。
壮絶な痛みだろう。少なくとも、アレをされてまともに動ける人間はいない。
それにしても、彼女がイサミなのか? 男の名前だと思ってたけど。
「わう?」
「…………」
コマちゃんの言う通り、アレを放置しておくのは心苦しい。予想外の計画範囲外だけど手助けする事にした。
ヴォルフガングによれば、俺の武器と防具なら十分にドラゴンとやりあえるそうだ。何を根拠にしているのかは不明で、神器=無敵の武器と勘違いしての言葉じゃなければいいのだけれども。
「…………」
さて、この世界に来て初めてドラゴンと真剣勝負だ。以前は生き残ったのが不思議なくらいの散々な有り様だった。動きだって目に見えなかったし、やけっぱちで放った一撃も全く意味がなかった。
だが、今の俺は違う。レベルアップ後に全力を測ったことがないという若干の不安要素はあるけど、やれるはずだ。
ナイフの感触を確かめる──というとすごく中学生みたいだけど、真面目なんです。
「──リサ!」
しかし、飛び出す直前にさっきの斧使いが駆け込んできた。
どうやら彼女はイサミじゃなくてリサだったようだ。苦悶に満ちた表情のリサを目にして、斧使いは顔を歪める。疑いようはないけど、仲間のようだ。
「あ──ぐ、ぎいいいい!?」
ドラゴンは上に乗っかってぐりぐりと脚を踏み締めている。痛みを与えるように、苦しませるように。実際のところ、その行動に今考えたような嗜虐の意思が含まれているのかはわからない。
ただ現実として、女は脚を踏み潰され今も痛みで苦しんでいた。
「待ってろ! 今助けてやる!」
『!』
──ヌチャリ。
そんな音がやけに響く。飛び込んできた斧使いの一撃を避けたドラゴンは必然、足を動かした。その下にあるものが解放され、スプラッター映画でしか見ないような光景が広がる。
嘘、ダンジョンだと割と見るわ。
「あああ!」
完全に断裂し、圧壊した太ももの残骸が糸を引く。血と骨が混じったどす黒くて悍ましいモノだ。弾けたそれらがかろうじて残った衣服にこびりつき、血みどろの衣装と化している。痛々しい断面からは今も血が溢れ出し、断たれた下肢は当然微塵も動かない。
「ううあああ……!」
これは正しく、回復薬では治しようのないものだ。
仮にアレを付けて回復薬をかければ確かに傷口は治るだろう。しかし、中間部分が無いので本来よりもだいぶ短いものになってしまう。
そんな脚には何の意味もない。
それならば義足にした方が何倍も良い。
「くそっ! イサミ!」
再び誰かの名前を叫ぶと、動くことすらできずに倒れている女を庇うように立つ。本来はすぐに回復薬をぶっかけるべきなんだろうが、ドラゴンはすぐにでも動き出しそうだった。目を離せば次の瞬間には突っ込んできているだろう。
「──?」
しかし、女の姿が見当たらなくなってしまった。今、目を閉じる前までは確かにそこにいたのに。
「コマちゃん、あの女どこ行った?」
「わふ」
「…………わかんねえ」
「わふっわふっ」
異能によるものらしい。それなら確かに見えなくても仕方がない。屈折率や色をいじって周囲から見えないように変えているのだろう。
問題は誰の異能かということだが。
「任せたぞイサミ!」
撤退、ということだろうか。イサミとやらはこの見えなくなる現象に関与してるようだけど、それ故に戦闘に参加できないというわけだ。
であれば斧使いは殿を務めるということになる。
前線でも戦ってたし殿も務めるしで大活躍だな。
「らあっ!」
まず一撃を浴びせたのは斧使いからだ。横溜めにしっかりと持った斧には結晶が生じて腕までを覆っていった。
急成長する結晶が擦れているのか、パキパキと高めに響く音。効果はいまだ理解できず、実態として効いてるようには見えないそれをまだ使うようだ。
結晶状態を維持して突っ込むと、猛撃というに相応しい勢いで連続攻撃を浴びせる。
弾け砕けて体を傷付けていく結晶と斧。しかし、ドラゴンはそんな時でもジッと斧使いを見下ろしていた。
そしてお返しとでもいうように、振り上げた脚を全力で振り下ろす。
「!」
大きくめり込んだ足。
地面から噴き出すのは火柱。どうやらこのドラゴンは、口からでなくても火を扱うことができるようだ。
激しく音を立てながら一気に蒸発していく雪。しかも火柱とモンスターの身体から熱気がこちらまで届く。近くにいる斧使いも熱さに苦しんでいた。
「ぐぅっ……!」
ドラゴンが脚を引っこ抜いても尚、地面から轟々と音を立てながら火が噴き出し続ける。冗談のような状況だけど紛れもなく現実で、斧使いはその光景を前に立ち尽くしていた。
「──すごいな」
アレはきっと、最強のドラゴンでも何でもない。竜の谷に住まうドラゴンのうちの一頭で、たまたまあの異能を持ち合わせていたのだろう。だけど、火柱の立ち上るこの光景を見ていると、人間が挑めるような相手じゃないという気分にさせられる。
「わふわふ」
「まあそうだけど……」
コマちゃんの言う通り、レベルが上がればこんな光景も当たり前になってくる。おそらくレベル40くらいからはこれに近い規模の攻撃を放つ奴はいたのだろう。だけど、俺が戦ってたのは最大でもレベル30程度のモンスター。
サラマンドラを例に挙げると、強力な燃焼粘液ブレスを放ってはいたものの、広範囲高火力な攻撃というのはなかった。アレがレベルを上げていくと、一帯がマグマになるような攻撃を繰り出したりするのかもしれない。
でも……スキップしちゃったんだからしょうがないじゃん! レベル52になっちゃったんだからしょうがないじゃん!
「俺、マジでアレとやれんのか?」
先日もイルヴァの牙で神様の火に燃やし尽くされそうになったばかりだ。勿論、神様の火が尋常な強度の火であるとは思わない。邪悪なものを焼き尽くすらしいので、邪悪判定を受けるとレベル関係なくぶち殺されるのだろう。
邪教がよお! 人様のことを邪悪呼ばわりしやがって!
「──おおあ!」
おそらく全力なのだろう。
結晶を全身に纏い、もはや人型の結晶と化した状態で立ち回っている。放たれた息吹に突っ込むと結晶は砕けたが、焼死体が一つ増えることはなかった。距離を詰め、ぶん回された尻尾を跳んで回避する。また斧を叩きつけるのかと思えば、予想に反して素手でドラゴンの体に触れた。
「──!」
相当な熱量があるらしく、斧使いの手が焼ける音が耳に届く。その真意がなんなのか、疑問に思う間も無く意味がその場に現れた。
『──ギャッ!?』
皮膚を、鱗を突き破るように結晶がドラゴンの体を突き破って現れた。また別の異能かと思ったが、そうではないドラゴンは多いに苦しみ、悶えている。口からも尻からも、場所を問わずランダムに生えた結晶。
『ギャアアアッ!』
のたうち回ると結晶が弾け、軽い音が鳴る。身体から結晶が生えてくるという事態に、ドラゴンは困惑に包まれつつ痛みでうめきをあげていた。
「──っ!」
そしてその間に、斧使いは斧を回収すると脱兎の如く走り去った。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない