【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
『ルルル………グルアアアアアア!!!』
痛みで転がっている間に獲物に逃げられたドラゴンは荒れていた。何度も地団駄を踏み、その度に地面から炎が吹き荒れる。先ほどの火柱のように制御されたものではなく、場所も火の大きさも乱雑な、感情に任せるがままで柱とも呼べないような猛火。
それだけトサカに来ているってことだな。
「……来ないのか?」
俺の予想に反して援軍は来なかった。過去の災害においてはドラゴンの群れがやってきたというのはあまりにも有名だ。だからこそ俺はそこの警戒に意識を割いていた。あの斧使い達がおつまみのように飲み込まれたとしても、俺だけはいつでも逃げ出せるように。
だけどなにも来る気配がない。風の動きや単純な音、地面の振動――なんか振動ばっか気にしてるけど、実際それが濃い情報源なので仕方ない。光、つまり目から入る情報は視線を遮られると途端に情報量が0になる為、こういうときに頼りきりは良くない。
しかし、何が悪いかと言えば俺の頭だ。
今回の情報収集は甘かったと言わざるを得ない。竜の谷についての情報をもっと集めていればこんな手間をかけずに済んだかもしれない。
「でもしょうがねえよなあ……」
「わふんふ」
商工会で金を払って得られる情報は正確性の高いものに限られる。既に取捨選択がされているので初心者が活用する分にははニーズに合致していることが多いけど、レベルが上がってくると集まる情報の絶対数が少ない。つまり、確度の高い情報として扱えないものも増えてくる。
ただでさえ魔素のせいで不安定な要素が多いダンジョンで、情報が少なければそれは正確性も下がるってもんだ。竜の谷は高難度のダンジョンの中では比較的安定した情報を得ることができるとはいえ、それでも強力なドラゴンが統率している危険区域。うちの支部だけで情報を集めるのは厳しいものがあった。
『フシュルルル……』
唐突に立ち留まったドラゴンが先割れしている舌を伸ばしてじっとしている。今の今までブチギレ万博開催!ってぐらい暴れてたのにどういう風の吹き回し――そういえば蛇って舌で匂いを感じ取るんだっけ?
なんでさっきは鼻を鳴らしてたんだ?
『………』
チロチロと動かしていた舌をしまって黒い血溜まりに近付く。そこには先ほど潰された足が残っていた。つまり――俺の目の前で、巨大な口が脚をパクリとくわえ込んだ。
「あの巨体からすればグミひとつ分だな」
巨体を維持する為には相当なカロリーが必要だ。白亜紀、寒冷期が始まると真っ先に餓死したのは巨大恐竜だという。こいつも食って食って食いまくっているに違いない。そうでなきゃあんな骨の山は築かれないしな。
バリボリという短い咀嚼の後、ドラゴンは再び飛び去った。
残されたのは砕けて焦げた骨の集合体と俺たちだけ。俺自身の勘違い、ドラゴン全体でこれを食べているという思い込みを修正し、改めて中を散策する。
「……1匹でこれか」
一体どれだけの獲物を用意すればドラゴンの群れは維持できる?一日あたり何トンだ?
3階建の家くらいでかい怪物で、しかも肉食獣と来た。草じゃなくて肉を用意しなきゃいけないのに、ここらには他のモンスターが生き残る余地なんてあるのだろうか。
あるいは、俺がたまたま出くわさなかっただけでどこかにモンスターがいるのかもしれない。一応そこらへんも留意しておこう。
「ふむふむ」
砕かれている骨は多かったけど、中には傷がつくことなく形状を保っているものもある。魔素が混じった骨は極めて頑丈だ。モンスターによってはそのまま武器に使えるような堅牢さを誇ることもある。そういった強度がある骨はあの激しい戦闘から破壊を免れるに至ったというわけだ。それでも炎熱は浴びているせいでいずれも熱された状態、多くが赤熱している。
「――こいつは」
ひとつ、拾い上げたもの。
全体が薄くピンクに輝き、湾曲して先細りした形。その形状や色味からしてグランドホエールの肋骨に間違いなかった。陸生のクジラ型、20mの巨体で地面を自由に泳ぐモンスター。肋骨だけで1mをゆうに超えている。
大きさで比較できるのはアレだ、シロナガスクジラ。グランドホエールは第二期の初期からいるモンスターで、危険を感じると地面の奥深くに逃げる習性を持っている。討伐するのは至難だ。
そもそもグランドホエールの推奨討伐レベルが55前後でコモンドラゴンを超えているのに、こんな場所に骨があるなんて。
「みんな持ってかねえのかな」
勿体無い。
これは俺がもらってしんぜよう。
ドラゴンの素材と一緒くたに持ち帰るぜ。
俺が生きてたらな。
――――――
「おいおいマジかよ」
足跡を追っていくこと10分、例のパーティーがいる場所に辿り着いた。なんなら俺のテントだった。
途中で半分くらい気付いてたけど、まさか本当に俺の拠点を勝手に使うなんて思わなかった。
あそこには食料やら回復やら色々置いてるので勝手に使われたりしたら俺も態度を変えなきゃいけない。
「――」
「コマちゃん、抑えろ」
だけど、臨戦体勢になるのはまだ早すぎる。彼らは負傷者を抱えていて、遠くまで移動することはできない。血の垂れ具合から見ても早急に治療を施したかったはずだ。そこで綺麗に設営されたテントがあったら使ってしまうだろう。勿論、マナー違反なのは間違い無いけどな。理解はできる。
『――!』
『――?』
中を伺うとやはり物音がする。あの探索者たちがここにいることは間違いなかった。
テント乗っ取りなどしようものなら盗賊とみなして討伐対象になるけど、そうでないのならば穏便に立ち去ってもらおう。回復のための一時利用はともかく、貴重品も置いてあるところに探索者どもを置いておくのはあまりにも不用心だからな。
「わふ」
「早いって……蛮族かお前は。感情だけで決めると碌なことにならないんだよ」
「うるるる……」
「そうだな」
敵であれば滅殺するという、なんとも恐ろしくて頼もしいセリフを聞くことができた。
しかし、命のやり取りをする前にまずは情報収集をしないといけない。コマちゃんの言葉には前提として、彼らが敵であるという思い込みがある。そこを前提としたままでは、聞ける話も聞けない。まずはフラットに話を聞いて、そのうえで判断しよう。
というかコマちゃん……さっきまでは助けないの?とか聞いてたくせしてこのタイミングでなぜ殺意マシマシなんだ。いつもの盗賊どもと違って、あの斧使いは割と真面目に戦ってただろ。
「ぶるるっ」
「うん、怖いからやめようね」
ジャーキーを取られたくらいで人をぶっ殺さないでくれ。食い物の恨みは怖いと言っても限度があるんだ。
「しっ、いくぞ」
「……」
探索者の聴覚であれば気付かれてしまうかもしれないけど、なるべく静かに移動していれば抑えられるはず。先ほども骨の山ではドラゴンや斧使い達に気付かれることなくやり過ごすことができた。
距離を詰めていくと、探索者の声が聞こえる範囲にはなんとかたどり着いた。だけど、かなり距離が近い。ここからは鼻息や衣擦れだけでも存在が露わになる可能性があるから、バレるまで時間の問題だな。
『それにしてもマジで助かったぜ、こんなところにキャンプがよ』
『新しいから、きっとまだどこかにいるだろうね』
男が2人話している。声質からして、荒い話し方をしているのが先ほど斧を振り回していたヤツだろう。もう1人は――知らん。少なくともあの場においては一言も喋っていないはずだ。
もしかしたらこいつがイサミというヤツかもしれない。
光の縄を操ってたやつの正体もいまだに見ていないので、敵対するとなったら警戒は必須だな。
『だが寝袋が一つしかねえのは許せねえな。俺たちが休めねえじゃねえか』
『もしかしたらパーティーを分けているのかもね?それか、1人でやってきたか……』
『けっ……それよりもリサは大丈夫なんだろうな』
『アレを大丈夫って言っていいのかは僕にはちょっと分かんないけど……まあ、出血は無いようにしてある』
『回復薬もたんまりあったからな』
おいいい!ちょっと待て!やっぱり使ってんじゃねーか!ふざけんな!
探索者ってやっぱクソだわ。人様のものを使っておいてなんだあの面構え、全然悪いと思ってねーじゃねーか!緊急事態だから多少は多めに見ようかな〜なんて思ってたけど、あの顔見ると腹立たしいぞオイ!
『勝手に使っちゃったのは悪いけどね。まあ、怪我人がいるから仕方ないか』
『戻ってくる前には出るとするか』
『……リサはもう、戦えないね』
『………ちっ』
『義足を買うしか――』
『うるせえ!今は考えさせんじゃねえ!ただでさえミスったってのによ!』
『………やっぱり3人じゃ限界か』
『いまさらだ!もう遅えんだよ!』
『ぐっ……!』
『くそっ』
何かを倒す音が聞こえた。
なあ、もしかして簡易コンロに八つ当たりしてないよな?食事は人生の中で最も重要なファクターなんだぞ?それを作り出すための調理器具は間接的に俺の肉体を作っているとも言えるわけで……それを倒すということは俺への直接攻撃にも等しい。
……ま、まだ実際に見てないから確定してないよな?
『でも……君と僕の異能があれば倒せるはずだ』
『……それじゃ意味ねえだろ』
『なら、戻ってリサの脚が治るのを待つかい?』
『………』
『フルアーマーが無ければ爆炎は連続で食らえないけど、君の結晶化があれば一度は耐えられるだろ?』
『だからなんだよ』
『今度は僕も隠れずに戦う』
『はあ?お前の武器じゃ無理だから隠れてんだろうが』
『――こんなものが落ちてた』
『………なんだこれ』
『アルブミネス、ヒュドラの幼体から抽出された強力な毒だよ』
うん、それ俺が持ってきたやつだね。くっそ高かったやつ。いざとなったらどうにでもなれの精神で使うつもりだった。流石にそれ持ってくなら本当に本気でマジでアレだから。
使ったもの全部弁償は前提だけどね。
『ヒュドラか……そいつぁいい』
『うん。これならなんとか僕も戦う手口が見つかった気がするよ』
『リサはどうすんだ。置いてけねえぞ、これの持ち主が帰ってきたら何されるか分かんねえ』
『起きるまでは待つしかないね』
『戻ってきたら?』
『……なんとか話し合いで済めばいいけど』
なんというか、呆れるほどに探索者って感じの連中だった。後先考えずに突っ込んで大怪我を負っていることとか、話し合いの前にまずは俺のものを返してくださいとか。
十分なレベルを持っているのかと思ってたけど、実際はまだなのかもしれない。
パーティーレベルで言えば推奨レベルに到達していても個人のレベルとしてはまだ少し――ということはよくあると、方目さんから聞いたことがある。考えてみれば当然の話だけど、基本的に探索者はパーティーを組んで依頼をこなすという都合上、自分たちができる中でなるべく金を稼げるものを選ぶのは言われてみればそうだなと納得できる。俺だって自分のレベルから数個ぐらいなら上のモンスターを選ぶこともあった。
そこで問題になってくるのはソロとパーティーの違い。俺は自分のレベルから数個上だけど、パーティーレベルで換算している場合はそれ以上の開きがあるということも考えられる。
正直、こういったことに関しては個別に判断するしかないので他の探索者のはなしをそのまま真として当てはめるのはあまり良くない。だけど、彼らがパーティーレベル準拠でやっているのなら――
「レベル40前半だったりするのか?」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない