【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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156_うわあ!綺麗な結晶!

 雪が舞い落ちる外に長くいたくないのか、2人は肩を軽くはらうと俺のテントの中に入っていく。これで、俺とコマちゃん意外にもで外に出ているヤツはいなくなった。おそらくあの女探索者が目覚めるまでは中に引き篭もるつもりだろう。

 

「わう……」

 

 俺たちだってなんの意味もなく外にいるのは当然嫌だ。できるなら暖かくて勝手にご飯が出てきてミツキ達がいる空間でのんびりと過ごしていたい。だけど、今はこの不届きものどもをさっさと叩き出そう。

 

『──!』

 

 敢えて音を出しながらテントに近づくと、中で慌てて動く音が聞こえてきた。お前ら男同士で変なことすんなよ? 俺のテントなんだから。ちなみに男と女でもダメだ、臭くなる。

 

『誰だ!?』

 

「俺のセリフだ」

 

『──』

 

 バサリと布を掻き分けて現れたのは斧使い。気まずそうな顔でもしてるのかと思ったら、笑みを浮かべている。

 

「いやあ悪いなあ! まさか人のテントがこんなところにあるなんて思わなくて使っちまったんだ、悪いな! ところで──」

 

「謝罪はいらない。金を出せ」

 

「…………」

 

 一言だけで真顔に戻った。

 快活な発言はあくまで懐柔の下調べでしかない。捲し立てて主導権を握ろうとしたな。そうは問屋が卸さねえぞ、俺の為にもさっさと出て行ってもらう。

 

「人様の回復薬を使ったり、ビーフジャーキーを食べたり……流石に見逃してやれないな」

 

「ちっ…………おいおい、その程度でカッカすんなよ。こちとらドラゴンと戦って大変だったんだぜ? 火に焼かれたり足が潰されたり」

 

「いいか、お前の話は聞いてない。払うか払わないかそれだけだ」

 

「……」

 

 交渉はしない。

 譲歩もしない。

 弱いところを見せたが最後、骨の髄までしゃぶりつくされるだろう。それこそ、ここにいるのが三船くんだったらそうなっていた可能性は高い。あの子は優しくて甘いから、いきなり人に強く出ることは難しい。

 そういうのを狙ってたわけだなコイツは。

 

「その犬、名前は?」

 

「コマちゃん」

 

「コマちゃん! そうか、可愛らしい名前だな。なんでこんなところに連れてきたんだ?」

 

「払うのか払わないのか、さっさと決められないのか? それとも……払う気がないか」

 

「急ぐなって! 今取りに行かせるからよ」

 

 そう言って、視線をこちらから外さずにテントを叩く。

 

「おーい! 聞いてたな? 取りに行ってきてくれ!」

 

 それに返すように中からもテントが叩かれた。どうやら、俺が途中まで聞いていたということには全く気付いていないようだな。それならそれでもいいが、回復薬なんかとは比べ物にならない高級品を盗ませるわけにはいかない。流通量だって多くないんだ、使うか使わないかはともかく、この場で手放すなんてのはありえない。

 

「アルブミネスも返せ」

 

「……聞いてやがったか」

 

「気付かない方が悪い。そもそも盗人がそんな顔をするもんじゃないぞ」

 

 苦々しく顔を歪め、言い訳がましく言葉を並べ立て始めた。

 

「なあ、聞いてたならわかんだろ? おれたちゃドラゴンを倒さなきゃならねえんだよ。そんであの毒がありゃあ、これ以上怪我なく終えられるかもしれねえ。お前だって、自分が金が欲しいからっつってそのせいで人が死んだら気分悪くなるんじゃねえのか?」

 

「悪くなるさ」

 

「そうだろ?」

 

「それが俺のせいならな」

 

 この件に関して俺の落ち度はひとつもない。意味不明な罪悪感を煽られても出てくるのはため息くらいのものだ。詫びの品物も謝罪の言葉も、俺から出ることは一切ない。ただ、返却を求めるだけ。

 

「ドラゴンは諦めろ。身の程をわきまえた行動をしないと身を滅ぼすことになるぞ。今日、無理に挑めば彼女のように脚を失うだけでは済まないかもしれない。そうなる前に撤退して、ちゃんと次に備えるんだ。武器も防具もレベルも──」

 

 言葉は打ち切り。横に飛んで、隼の如く突っ込んできた光の縄を避ける。直前まで音でも視覚的にも認識することはできなかったけど、コマちゃんが鼻先で突いて教えてくれた。

 ドラゴンはアレに脚を掴まれて飛ぶことができなくなっていた。そして俺はあのドラゴンよりも膂力が上だなんて傲るつもりは毛頭ない。捉えられたら行動を制限されるという前提で動かなきゃいけないな。

 

「何様だてめえは」

 

「ここのテントの持ち主だけど……穏便に話し合いで済ませるんじゃなかったのか?」

 

 斧使いはその役回りが示す通り斧を握っている。先程までは無手で、一応はジェスチャーなども組み合わせて剽軽な役柄を演じていたというのに、今は戦闘態勢に入ってしまった。話し合いは終わりだろう。

 

「どうでも良いことをぺちゃくちゃ喋りやがって……てめえなんざに言われる筋合いはねえんだよ」

 

 周りには燃え盛る炎も強烈な光源もないのにも関わらず、光の縄の発射源は全く特定できなかった。もう1人の話し声の主が隠密系の異能を獲得しているのは間違いないと見ていいな。

 

「話聞いてたか? どうでもなんてよくない。お前達が諦めない理由は、俺の毒を使えばドラゴンを倒せそうだからだろ? 前提から間違ってんだよ、どんな時だって自分達の力だけでやる覚悟ってもんを持て。そして俺のものを返せ」

 

「なんで俺たちが返さなきゃいけねえんだ? ただ落ちてたものを使っただけなのによ」

 

「まあ、そうなるよな」

 

 もう1人はコマちゃんに任せれば良い。隠れないと立ち回れない奴の敵ではないだろう。そもそもコマちゃんからは隠れられていないようだし、なんの心配もいらない。

 

「最後に聞いておきたいんだけど、本当に戦うのか?」

 

「ああ?」

 

「ここで激しくやりあえばドラゴンが場所を感知する。そうすれば逃げ場がなくなるかもしれないぞ」

 

 支部から遠く離れた、崩壊した街。人間のいた痕跡も最早遠く、広大な土地の中で他の探索者に会える可能性もかなり低い。俺がコイツらと遭遇したのも偶然に偶然が重なってのことだ。一日違えば行き違いになっていただろう。

 

「結晶化の異能だって、ドラゴンには大した有効打になっていなかった。本当に攻撃手段がアレだけなら挑むのはまだ早いだろ」

 

「……マジで痛い目見なきゃわかんねえらしいな」

 

 異能を持っていない俺が言うのは違和感あるけど、先程の攻防を見ていた身としては最後の一撃以外が大した効果をもたらしていなかったのは単なる事実でしかない。

 

「痛いかどうかは──そうだな、確かめてみよう」

 

「…………!」

 

 握りの部分から結晶が広がっていく。笑みにすら見えるような獣じみた表情、一度だけ背後を気にするようなそぶりを見せた後、烈々とした気を纏って突っ込んできた。

 

 

 ──────

 

 

「砕けろっ!」

 

 結晶が弾け、肉体に当たる感触。それ自体に強い痛みはない。ピリピリとした、ガラス質の細かい針に触れた時のことを思い出した。疼きに近い痛みだ。

 ──次の瞬間、成長した結晶が筋肉から皮膚を突き破って飛び出した。

 

「っ……!」

 

 先程、ドラゴンの肉体でも同じことが起こっていた。あの時はもっと時間がかかって、多くの攻撃を浴びた後に結晶が肉体を突き破っていたように思う。

 

「いってえ……」

 

 想像よりも早くに喰らったため、予想外の痛みで身体がこわばった。だけど、痛みそのものは予想以上じゃない。体を突き破ってくるということで尿路結石クラスを覚悟していただけに、そこはスカされた気分だ。

 

「な、なんだそりゃ……!?」

 

「はい?」

 

「そんなちっせえわけねえだろ!」

 

「?」

 

「──! ────!」

 

 もっとデカいだの、首を突き破るだの、訳のわからないことをギャーギャーと喚き散らしている。よく分からないので首を傾げていたら、思い当たる節があった。確かにドラゴンの身体から発生した際はもっと大きかったし、数も多かった。

 対して俺の身体から生えた結晶は、腕から生えたこれ一つのみ。目や心臓、股間から生えなかったことは本当にホッとしている。だけどアイツからしてみれば、たまったもんじゃねえ! ということだな。

 

「なんか対策しやがったかてめえ!」

 

「被害妄想だな」

 

「まさかここにくる前から俺たちのこと調べてやがったのか!?」

 

「いや……アルミホイルは巻かなくていいぞ」

 

 多分だけど、身体から結晶が生えるにはなんらかの条件があるんだな。時間か、体積か、問題はその条件をコイツ自身も分からずに使ってるってことだ。

 ひとつ確かなのは、結晶が生えてる部分は動き辛くなるってことだ。物理的な筋肉の断裂が主な要因だな。これを治さないで続ければ、そのうち動けなくなって嬲り殺しにされるのは確定的だ。最初に脚から出なくて良かった。

 

「……関係ねえ!」

 

 考えるのが面倒くさくなったのか、全身に結晶を纏った。先程、炎の息吹を耐え切った強力な鎧だ。しかし、弱点はわかっている。

 左腕は力が上手く入らない。いつもは左手だけど今回は右手に掴んだ銃から空気弾を四発。胴、股間、額、斧を握っている右腕目掛けて放った。

 

「うぐっ!?」

 

 パキパキと儚い音を散らしながら崩れ落ちる結晶。地面に落ちて溜まる前に微細の粒子となって風に流れていく。身に纏っているのはモンスター素材の鎧のみとなった。

 

 正直、めちゃくちゃ汎用性が高くて羨ましい。攻撃にも防御にも使えて様々なシチュエーションで使ってきたのだろうということが容易に想像できる。

 ドラゴンの息吹に耐えるだけの耐熱強度を持つ結晶鎧、俺の銃弾も貫通には至らなかった。一度限りの神装甲というのが正しいだろうか。

 

「イサミ! …………何してんだアイツは!」

 

 呼びかけに応える声は無い。

 ぶっちゃけ、コマちゃんは俺よりも近接寄りの性能をしている。不思議な力も使えるけど、戦闘の時は自前の牙爪のみを用いて器用に戦ってくれる。ヘイトを買うのもお手のもの。

 ──お前本当に最高だな! 

 

『──うぐあっ!?』

 

 やや遠くから聞こえてきた叫び声。コマちゃんはあんな声出さないので間違いなくイサミくんだろう。あのよく分からん光の縄でコマちゃんを捕まえることができればそれは一気に形成が傾くだろうけど、実際のところ捕まえるなんてのは無理だ。

 あと、コマちゃんデカいから力で勝つのも無理だ。さっきはスコティッシュテリアの姿で現れたから分からなかっただろうけどな。

 

「くそっ……」

 

「八方塞がりか?」

 

 詰み、に近かった。

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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