【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「イサミッ! 聞こえねえのか!」
「コマちゃんは超近接型だ。支援メインの探索者が戦えるような相手じゃ無い」
「あんな犬っころに負けるわけねえだろうが!」
「そう思うよなあ……そういうとこ厄介だよなあ」
もう明らかに、斧使いの狼狽は露骨なものになっていた。戦闘時の感覚で、レベル差があることは共通の認識としてお互いの中に存在している。殺したいわけじゃないからナイフのまんまだけど、魔剣を抜いたらそれこそ一瞬でカタが付く。攻防の時間すら無く、首筋へ振り抜いておしまいだ。
「…………っ」
ドラゴンのような巨大なモンスターは、巨体からは信じられないくらい素早い動きをするというのはあるけど動きそのものは大振りだ。身体の動かし方もそこまで異常なことは無い。ゾーンに入ってるくらい動きが良いか有効な異能があればレベル差が相当にあってもワンチャン生き残れる。俺は生き残った。
だけど探索者相手だと本当に勝ちの目はない。悪辣になぶり殺しにされるだけだ。女は犯して奴隷、男は殺して身ぐるみを剥がれる。
冗談です。奴隷なんて連れ歩いてたら途端に商工会に嗅ぎつけられて懸賞金を掛けられます。負けたら最後は殺されておしまいなだけです。
「今なら、毒を返して賠償金を払うだけで許してやるぞ」
「ふざけんな!」
「ふぅ……」
根気強くいこう。
「そもそも、ここからどうやって俺に勝つ気なんだ?」
お得意の結晶は大体分かったからもう喰らってはやれない。レベル差を貫通して肉体を破壊できるような異能と真っ向からやり合う気はない。これ以上あの異能を行使するようなら、まずは武器か腕から破壊させてもらうことになる。
「教えてやると思ってんのか! てめえに出来ることはさっさとそこを退くことだけだ!」
「う、ううん……」
言いたかないけど探索者って根拠のない自信に満ちた奴が多すぎる。出会ったばかりの空気感からしてアリサも多分こういう類の探索者だった。
三船くんとシエルに出会うまではまともな奴ほとんど知らなかったし、あの2人が癒しすぎる。シエルはちょっとトゲ強いけど、それを差し引いても全然プラスだ。
まあ、うちのアリサが一番なんですけどね!!!
「どけっ!」
「だから払うもん払えば通すって」
感情に任せて力を振るえば、確かに世間は要求を通さざるを得ないだろう。格上の探索者には勝てなくても、それ以外の雑魚狩りにはなんら問題がないのだから。
それが実際に自分に対して起きるかどうかは置いておいて、彼らの振る舞いを見て、彼らの力を知る一般人からしてみれば恐怖の対象になって然るべきだ。
でもおいちゃんは知ってるよ、探索者がいなかったらこの世界は維持できないって。科学技術どころか街や人の集合を維持することすらまともにはいかないって。
歴史のお勉強ちゃんとやったから。
「──ああっ!」
振り抜かれた己が鼻先を掠め、飛び散った結晶のかけらがピシピシと左耳へ当たる。お互いに彼我の差は読み切れたというのに、往生際がものすごく悪い。
「良い加減にしろ」
「ぶっ……!」
鼻っ面へ拳を叩き込んだ。もちろん調整込みで。今のも100%の力でやってたら顔面が半分くらいの厚みになっていただろう。リアルでギャグ漫画的な顔面になるのはただのグロ画像だからな。
「うあ」
斧使いの鼻から赤いものがドロリと溢れ出す。初級や研修生程度ならこれで完全に萎え萎えモードになるし、三級以上でも戦意をある程度は削ることができる。なんで三級にもなって人の背中を狙う奴がいるんですかねえ……
「これ以上やるならお前の鼻が二度と使い物にならないようにしないといけない」
「ぐ、ぐぞっ……!」
「あとさ、お前なんかどうでもいいんだわ。別に可愛くないしイケメンでもないし、なんなら大人だし、責任は自分で取れよって感じでしかないし……」
なんでこんなことをわざわざ言ってやらなきゃならないんだ。観光でこんなところに来るわけないだろうが。
竜の谷にやってきた探索者がやることなんて一つしかない。
「俺はドラゴン倒しに来たんだよ」
まぁそれは主目的の一つで実際はもう一つ目的があるんだけど、わざわざ教えてやる必要もないわな。言っても分からんだろうし。
「……お仲間はどこだ」
「は?」
「残りもいるんだろうが! どこから見てやがるんだ!」
「何言ってんだ?」
この期に及んで何を言うかと思えば、またどうでも良いことを気にし始めた。面接でもこういうことが多過ぎて本当に溜まったもんじゃねえ。
「どこのセクターから来たんだ! 言え!」
「言わねえよ」
これ、俺じゃなかったら既に殺されてるの分かってんだろうか。分かってないんだろうなあ……自分だけは死なないってみんな思ってるからな。
ガチの盗賊じゃ無くて良かったね。
「畜生……ハメられた……!」
「はぁ……」
──────
「──いいいでででで! は、離せ!」
「イサミ!」
「タ、タツオ……あででで!」
先ほどの男が、走るコマちゃんに足を咥えて引きずられてきた。何を騒いでるのかというとふくらはぎに牙が食い込んでいる。そりゃ痛えでしょ。
「お前……犬になんか負けてんじゃねえよ!」
「そっちこそやられてるじゃん……」
「俺は仕方ねえだろ! この詐欺師のレベルが高かっんだよ!」
「! …………やっぱりそうだったんだね」
何かを察したらしい縄使いは、俺のことを指差した。
「この犬、本当はモンスターだ! 今は小さくなってるけど離れた途端に大きくなって襲われた!」
「わふ」
いやいやそんな……こんなに可愛いワンちゃんがそんなこと……ねえ?
「モンスターを使ってるんだそいつは!」
確かにモンスター級の存在ではあるけど、モンスターではない。この子は俺の家族でペットのスコティッシュテリアだ。そんな風に言われる筋合いは無いぞ!
「てめえ、どういうつもりだ! モンスターを連れて歩くなんて!」
「どういうつもりって……ペットの散歩みたいな感じっしょ」
コマちゃんが来たければ来るし、来たいと思わなければ来ない。だから俺は基本的にコマちゃんを頭数に入れて計画は練らない。最初は来るって言ってても、ダンジョンの詳細について教えると途端にイヤッ! てなる事もあるからな。簡単なダンジョンだよ〜→下水道、の時がそうだった。リード付けても全然来ないから諦めたね。
「ペットなわけあるか! モンスターなんだろ!」
「だからモンスターじゃないって、変身すればモンスターなら一級探索者とか軒並みモンスターじゃねえか」
「あいつらはモンスターだろ」
「…………」
例としてあまりにも不適切なものを出してしまった。勢いで喋ると失敗する良い例だ。取り戻さなきゃ……!
「一級じゃなくても、身体の一部が変わっちゃった探索者なんかいるだろ。そいつらのこともいちいちモンスター呼ばわりしてんのか?」
「普通の探索者は関係無い! そいつは犬がモンスター化しているんじゃないか!」
「本当にモンスターならお前はすでに食い殺されてるんだけど、そこんところどう思う?」
「──おまえが操ってるんだな!」
「そういうのいいから」
「…………」
難しい話は一切してない。使ったものにかかった代金と、盗もうとした毒──はコマちゃんが取り返したから良いとして……どっかに設けてるであろう拠点にある回復薬を詫びとして渡せば許してやるって言ってるだけだ。
「しょ、商工会にそのモンスターのことを言うぞ!」
「それ言ったら殺されると思わないのか?」
「──こ、殺すのか?」
「おまえらも盗賊は殺すだろ?」
「と、盗賊と一緒にすんじゃねえよ!」
一緒っていうか盗賊そのものなんだけど、本当に自覚ないな。なんなら攻撃まで仕掛けてきてるので生かす理由の方が少ないという。
「────は、払う!」
「お?」
「お金と使った回復薬は返す! だから──」
「最初からそうすりゃ良いんだよ」
やっとこさ話がまとまった。長引かせた分は上乗せして請求するけど、なんとか穏便に済んでよかったよ。
「イサミ! 何言ってやがんだてめえ! 勝手に決めんな!」
「…………もうどう考えてもひっくり返しようがないから言ってんだろ!」
「ふざけんな! あれは俺たち全員の金だぞ!」
「だから言ってるんだろ……!」
「あーちょいちょいちょい、そこの斧使い。おまえは話に入ってこなくて良いから寝てろ」
邪魔なやつはイサミとやらの異能で縛らせてからちょっと遠いところに転がしておいた。普通にうるさいし、頭が悪すぎるやつとは会話ができない。
「さて──おまえが暫定的にパーティーのリーダーだとして話を進めるぞ」
「…………」
隙を見て殺しに来ないとも限らないので、既に武器は抜いてある。色々終わって気が抜けたっていうタイミングが一番危ないんだから。
「まず、使った回復薬の数から」
ここからはちゃんとした交渉の時間だ。
ちなみに譲歩は無い。
こいつらが俺に対して提示できるものを見せてもらおう。もちろん現物でな。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない