【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「──」
「おーい」
「──」
「…………」
金の話になったらまた交渉とか持ち出してきたので黒炎を纏わせて脅しをかけようとしたら、虚な目になって震え出した。黒炎にトラウマでもあるのかと思ったけど、その視線の先──あの瞬間、確実に背後に何かを見ている目だった。
だけど背後にいるのはコマちゃんだけで、しかも狛犬じゃなくてスコティッシュモード。
狛犬モードならなんかやらかしてもおかしくないけど、スコティッシュモードで何かをやっているのは見たことがない。戦闘能力も大したことないし、この状態だと何もできない無力なワンコロペットだ。
何を見たのかは気になるところだけど、やる事はやらせてもらう。
「は──」
「?」
「払います……全部……」
自然と土下座の体勢になり、震える声を紡ぎ出した。こちらが何かを言わずとも受け入れモードになってくれるのならそれはとてもありがたい。
「おう、そうか」
何を見たか知らんけど良い心がけだ。
「お……お願いします……助けてください……」
「なんだなんだ、おまえらが俺のことを殺そうとしたからっつっていきなりは殺さねえよ。なるべく良い地獄に行きたいからな」
「…………」
ジョークを交えつつ場の空気を和ませようという試みだったんだけど、全然通らなかった。1人は怯え切った人間だし、もう1匹は野糞してる最中だし、雰囲気がダメだよね。全員の方向性がバラバラだ。
ともあれ補填が効く事は確定した。アホな理由でドラゴン討伐を諦めることにならなくて本当に良かったよ。
「ちくしょうが……!」
斧使いは未だに悪態をついていた。一周回って好きになりそうだよ。ここまで根性があるなら、そりゃあドラゴン討伐にだって来られるだろうな。だけどそれは今じゃない。俺の邪魔をした以上は帰ってもらう。
「イサミ! てめ────お前、どうした?」
「…………なんでもないんだ……なんでも……」
「──おい! イサミに何しやがった! もしひでぇことしたってんならぜってえ許さねえぞ! ──クソッ、イサミ! 解け!」
「ダメだ……タツオ、ダメなんだよ……」
「ッ……良い加減に──」
「やめろ!」
結晶を全身に纏い始めた斧使いを諌める一声。焦燥と恐怖の入り混ざったそれがイサミという異能者から放たれていた。そして、声と同時にもう一つ放たれたもの。
彼が使う異能である光の縄だ。
それもこれまでのように一本ではない。二本三本と、斧使いが何もできぬように紡がれていく。一本でさえドラゴンを押し留めていた強靭なるそれが、仲間を繋ぎ止めるために、仲間の身体へ次々と絡み付いていった。
「な、なにしやがっ…………お前、異能が……!?」
「もう、やめてくれ……!」
雁字搦めにされていく斧使いは、それに対して怒りよりも驚きの感情が勝っているようだった。人差し指を向けようとして、縄のせいで腕がつっかえることに気が付くと顔で必死に表現する。
「これ、一本しか使えないんじゃねえのか!?」
「…………なんだよ、これ……」
イサミはうなだれ、異能がいくつも使えるという超絶の強化にも喜ぶことなく膝を落とした。俯いたまま、消沈した声が絞り出される。
「タツオ……お願いだから静かにしててくれ……僕は──っ……僕は、こんなところで死にたくないんだ……」
「…………ちっ」
頭がおかしくなりそうなんだ……! という雰囲気を醸し出したイサミのおかげで、斧使いは俺が何を言わずとも静かになってくれた。その後は粛々と取引通りに──向こうは命を、俺は物資を手に入れた。女は最後の方に目覚めて様子を窺っていたようだったので脅しだけ入れて、全員を解放した。
ようやく俺の拠点に静寂が訪れたな。幸いなことに、先ほどのドラゴンが聞きつけるほどには巨大な音じゃなかったようで空から焼き尽くされるなんてことにはならなかった。
だけど──
「ずっるぅ〜……ずるいぃ……俺も異能欲しい〜……」
もうなんか、情けないやら遣る瀬無いやらで辛い。俺だって全ての敵をマウスクリック一回で粉砕できる異能とか欲しいんだ。でも全然発現しないから1人でもやっていけるように全神経を集中して戦ってるんだぞ。それこそ盗賊と多対一で戦う時なんか、自分で言うのもなんだけど後ろに目があるくらい敏感だからな。
これでレベル上がるの遅かったら禿げ上がってますよ!
「俺も頑張ってるのにぃ……なんであんな盗賊に異能が出てきて俺は出て来ないのお……」
そこが本当に許せない。許せなさすぎてベッドの上でジタバタして耐えていた。
「──まあいいか」
良く考えたら、あんなに異能に頼ってたら人間として機能が落ちちまう。手札がそちらに偏るから読みやすくなる。あの斧使いだって結晶が溜まるのを待ってから攻撃してきたけど、溜まるまでの間に何度だって攻撃できるはずだ。その時間がとてももったいない。
「あんまり嫉妬ばっかりしててもしょうがないしな」
そんな感情を抱いていたら、そのうちアリサの事すら憎く感じるようになってしまうだろう。俺はそんな人間になりたくない。
「わふ」
「ああ、そうだな」
取り戻した回復薬の数は十分、次の目的──というか本来の目的のために動く時がやってきた。
竜の谷。
俺たちは恐るべきダンジョンに足を伸ばさなければならない。アイツらから物資を回収した後、この廃墟周りにあるものをだいたい把握した。その上で、これ以上留まる価値は無いということがわかった。3人組が相手をしたドラゴンのことはともかく、それ以外の個体が痕跡も含めてどこにも見当たらなかったからだ。
結局のところあのドラゴンが何をしていたかはよく分からないけど、俺達が拘る意味もあまり無さそうだった。
「──霧?」
「わふ」
「結界か何かってことか……?」
「わん」
早々に拠点を片付け、歩みを進めた俺たちは霧が覆う森に辿り着いた。コマちゃんはその霧を幻惑の効果があるものだと言った。だけど、あまり意味はないと。意味が無いなら無視しても良いけど念の為にコマちゃん先導の元、霧に包まれた森を進む。迂回するにはあまりにも広そうだったし、そんな効果を持っている森がなんの意味もなく鎮座しているわけがないからな。
「なんも出て来ねえな……」
しっとりと髪が濡れるほどに濃い霧は、昼から夜になるまで歩いても途切れる事はなかった。上を見上げると月がしっかりと見えるのに、視線を下に戻すと霧が今もある。これこそが幻惑ということだろうか。
「わふ」
しかし、それでも俺たちには意味が無いらしい。根拠がわからないけど、おそらく野生の勘ってやつだろう。じゃあ意味も無いのに用意されてる霧は誰に対して効果があるのかって話なんだけど、それは直接聞けと。
は?
「この霧はなんなんだっつってお前に直接聞いてんだが」
「わんっ」
じゃあもうただの濃霧でいいよ、だそうです。
おちょくってんのか。
「──うおー……落ち着く」
森のド真ん中にテントを張り、寝る前の現状整理を行う。モンスターがいないという前提、湿り気が凄すぎて火を焚くのにすら悪戦苦闘という状況なんだけど……意外と悪い気はしない。森林浴ってやつかな。
「実態の知れない森だからな、もう少し続くかもしれないってことだけは気を付けよう」
幻惑云々は置いておくとしてもあの廃墟からの方角は全く分からないので地図起こしはできない。霧も単純に地形的なものとは違うということか、昼夜問わず俺たちの周囲を漂い続けている。そのせいで天空以外の視界が開けずに方向感覚を掴むのが極めて難しかった。
「周りに川や湖は見られないにも関わらず濃い霧が立ち込める不思議な森──モンスターの姿もなく、私が認識する限りではそれらしき音や影すら捉える事はできなかった。この森のことを先立って把握しておかなかったのは完全に私の落ち度だが、安全に通ることができる場所だったのは怪我の功名だ」
ツラツラと報告書をまとめていく。これがなんの報告書かと言えば、永井先生に提出するものだ。大学に碌に出ずに単位を取得する方法がこれですよ。ダンジョンに潜って見聞きしたことを報告書に纏め、先生方に提出する。みんなやればいいのにな〜、あーあ、もっと大学生が参入してくれれば色々変わるんだけどな〜。約束破らないし、いきなり怒鳴らないし、人のテントに勝手に侵入しないだろうしな〜。
「上方は開けているが、水平に視線を戻すと霧がすぐに視界を覆い隠す。どれだけ高速に首を動かしても同様の現象に晒される為、自らの位置情報を掴むのは至難──進むに従って進路としたのは飼っているペットの犬。探索者をやっている身として、野生の勘が侮れないと実感したことが多々あるため今回は従う形となった」
「……ふぁ〜あ」
あくびを噛み殺したコマちゃんは、テントの中に戻って丸くなった。流石にこんな場所で腹を晒して眠る気にはならないらしい。
「方向感覚は無いがモンスターの姿もない。即時的な危険がやってくる可能性は低いと判断し、夜半ほどに野営地を定めた──よし、こんなもんだな」
乾肉を焼いていたらコマちゃんは起きてきたけど、結局食べ終えてもモンスターがやってくる事はなかった。モンスターはこの森にはいないのだろうと結論付けて、体を休めることに決めた。なにしろ、道のりがわからない。もしかしたら一ヶ月では済まないかもしないという気すらしてきた。
本当に、今回は反省点に満ちている。
良すぎるところにテントを置くとトラブルになるということ、あとは単純に情報収集が甘すぎたということ。頑張ったつもりだったけど、全くもって備えとして機能していない。一年待って、春に挑むべきだったのかも──いやいや、流石に弱気すぎる。全てを知らなきゃ挑めないなんてのは流石に探索者として失格の心構えだ。
何も知らない状況で異常事態が起きても冷静に対処できなきゃいけねえ。
「…………わんっ」
「ん、そうだな」
「ばふばふ」
反省もほどほどにというありがたいお言葉を受けて、コマちゃんをモフりながら睡眠の谷底へ落ちていった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない