【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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159_武器の力

 

「霧は消えてない、と」

 

 心地いい朝──霧に包まれた目覚めは経験したことなかったけど、存外に気分が良い。ほんのりと布をかき分けて入ってくる霧は不快感を増すことなく、清涼感のみで以って俺たちの顔を優しく撫でてくれる。そして、余計な騒音がここには無かった。セクターにいては決して味わえない静けさだ。

 完全な無音ってわけじゃない。風が霧を動かし、木立を揺らす穏やかな音が不定期に耳朶を揺らす。

 俺が見てきた中では、最上級に穏やかな場所の一つかもしれない。

 

「──そっちか」

 

 テントを片付け終えると、コマちゃんは待っていましたと歩き出した。それにしても今回は珍しい。

 コマちゃんは長くなりそうな旅路には基本的に付いてこない。途中で合流する事はあったけど、こうして最初からテクテク歩いていくのは覚えてないな。

 

「暇だから聞くけど、なんで今回は付いて来たんだ?」

 

「…………」

 

「おーい」

 

「……」

 

 答える気はないらしい。ツンとした表情で歩みを早められてしまえば、もう人間出力では追いつけなかった。人間は根本的には最弱の獣だからな……基本の身体能力では小型犬にも勝てねえんだ。

 

 行っても行っても光景は変わらなくて、霧に巻かれて同じところをグルグルしているんじゃないかと不安になって来た頃、ようやく霧の森を抜け出すことができた。何で抜け出せたかがわかったかというと、くるぶしほどの深さの清らかな小川に辿り着いたからだ。左右を見ると上流下流への視界が開け、足元では魚がパシャパシャと水音を立てながら走り回っている。

 

『ウォー』

 

『ウォー』

 

 鳴き声まであげて元気なことだ。これだけ活きが良ければ焼いても美味いだろう。

 それにしても、ここはまるで春のようにほんのりとした暖かさに覆われている。これだけ薄い川だと冬は凍りついて魚が生きている余地なんてないだろうに、上流がどうなってるのか気になるところだった。

 

「……っ!?」

 

 刹那、数日前にも聞いたあの遠哭と同種の音が前方──対岸のはるか奥から聞こえて来た。

 

『──ォォ』

 

 どれだけの距離を超えて俺に届いているのかすら分からないほどの微かなもの。何故かコマちゃんが狛犬モードになって首を大きく逸らした。

 

「アォォォォォォン!!」

 

 俺は犬語はわからないので、コマちゃんが遠吠えで何を伝えているのかは理解できなかった。表情からも声色からも剣呑な雰囲気は無く、何に対して呼応しているのかが読めない。

 ともかく、コマちゃんの気が収まるまでは好きに吠えさせることにした。

 

「コマちゃん……?」

 

「──わふ」

 

「あ、はい」

 

 先へ進むとのことで、コマちゃんを頭の上に乗せて川を渡る。今は毛が濡れるのは気分じゃないそうだ。

 

「……ちっちゃくなってくんない?」

 

 狛犬モードなので抱き抱えられるサイズじゃない。頭の上に器用に足をつけているけど、スコティッシュテリアの姿なら普通に抱っこで運べるんだよなあ……

 

「──さて、また変なところに来ちまったか」

 

 対岸に渡り切ってからは、開けた岸というものにありつくことができた。奇妙なことに、俺たちが足を下ろした川岸は砂利が敷き詰められていた。岸辺に存在する礫や石の大きさというのは、基本的にはどれだけ川に流されたかに比例的だ。故に川の上流は大きな岩が大量にあるし、終端である海岸には細かい砂や砂利が多い。

 

「…………」

 

 手で掬ってその粒を見てみると、やはり細かい砂粒が集まり全体を構成していた。ザクザクとした感触が靴越しに感じられるのも海砂と同じだ。

 

「どうしようかねえ」

 

 眼前には原生林さながら、鬱蒼と茂った森が口を開けていた。晴れ間から差す光が雪葉を押し分けて地面までの道を形作っているが、その奥にはゆっくりと歩みを進めるモンスターの群れが。穏やかそうな見た目をしているけど俺は騙されない。下草をかき分ける小型のモンスターを、その長い鼻で吸い込んで咀嚼していたからな。

 

 先ほどまでとは違って多くのモンスターがいる──つまり、間違いなくダンジョンの一種だ。

 奇妙なのは──濃霧の森にも共通していることだけど、こんな地形は聞いたことがなかった。竜の谷はドラゴンメインだからそれ以外の情報はまともな報告がされていないのかもしれない。

 

『ブモォォォ……』

 

 これほどに多種多様なモンスターがいるとなれば、それはダンジョンどころか生態系として完成している。アンダーや第100セクターなんかと比べても自然環境が自然環境として機能しているようだった。

 そして見た範囲だけでこれほどに多くの獲物があるのであれば、少なくとも最初に見たドラゴンの食糧庫としては十分に機能するだろう。

 

「こっち進むかあ」

 

 森に入らないとなれば、川沿いを進むしか他の道はない。それも結局は森の至近を移動することに変わり無いし、森の中から出てくるモンスターと鉢合わせて戦闘になることもあるだろう。

 そう──

 

「初めまして、ってか?」

 

 木々の間から出て来たのは、体高がコマちゃんの2倍はあろうかという四足獣。巨大な犬歯には獲物が刺され、どんどんと萎んでいく。このモンスターは猫科見た目をしているくせして体液を吸い出すという捕食方法をとるらしい。

 

『──シッ』

 

「うおっ!」

 

 振り抜かれた爪の先からは糸が──糸!? 

 

「なんっ、だっ、こいつっ!」

 

 次々と空を走る軌跡に捉えられぬように身を翻しても、後追いで糸がばら撒かれるので回避が難しい。しかもかなりの素早さだ、逃げ切れないだろう。

 

「今戦うのは非常によくない……!」

 

 モンスターの多いこんな場所で戦って、仮に囲まれてしまえば最終手段を使わざるを得ない。俺も前後不覚になりかねない諸刃の剣なのでなるべくなら温存というかカードを切らずにこの場を納めたかった。

 

「…………そうもいかねえか」

 

 しなやかに地を踏み、こちらを睨みつけるスパイダータイガー(命名:俺)。どんな動きも見逃さないと言わんばかりの様子に、すぐさまノールックで魔剣を抜いた。

 さすがに自分の武器がどこに収まっているかなんてのは覚えている。

 

「わんっ!」

 

「!」

 

 コマちゃんが飛び込んだ刹那、砂利を蹴った。左右方向から狙うことで判断を鈍らせようという魂胆だったけど、その目論見通り身体を固まらせた。

 お互いの物理的距離を考えれば、一呼吸すらしない間にそこを詰めることができるのは自明だった。左肩に振りかぶった魔剣を首に向けて振り下ろす。そこを断ち切ってしまえば大抵のモンスターは終わりだ。

 

「──おおっ!?」

 

 予想外のことが起こった。

 紫刃は、モンスターが咄嗟の反応で向けた顔に当たった──それも特に頑丈であろう牙に。

 

 魔剣は極薄の剣だ。速度を重視した切るための武器で、硬くて分厚いものを両断するのは不得手としている。それこそ牙や爪、背骨など生物の肉体の一部であっても切れないものは切れない。銃も威力はそこまでなので、他に得物が無い俺の弱点だというのは自覚していた。

 そういう時はどうしてたかと言えば──この剛腕ですよ。拳単体だとアレでも、レイスの籠手込みであれば殴り続けるんだ。他に弱点があればそこを攻撃すればいいけど、全身硬いやつなんかはな。

 だけど、今回は話が違った。

 

「まさかスパッといくとはな……」

 

『グルルルル……』

 

 牙とかちあった瞬間、全力を腕に集中させた。魔剣は強度でこれまでに一度も折れたことがない。全力でぶち壊そうとしたこともあったけど傷一つつかなかった。

 言ってしまえば、その強度に任せてへし折ってやろうとしたわけだ。

 だけど刃から帰ってきたのは硬い感触──ではなくて、ヌルッと通り過ぎたという結果だけ。長い犬歯だけにとどまらず、その軌跡上にあった他の牙も何本か切り落としながら最後まで振り抜かれた。

 モンスターの牙は根本から綺麗に断ち切れ、地面に落ちている。アレを加工すれば良い牌ができるだろう。

 

「…………」

 

『…………』

 

 首を叩っ切るか、逆に吹き飛ばされることを想定していたので、その場──巨大な目の真ん前に着地してしまった。向こうもまさか牙がいかれるとは思わなかったのか動きを止め、無言で見つめ合う時間が訪れる。

 

「──」

 

 構えた瞬間、頭上から降ってきたのは巨木のような一撃。筋肉と骨で構成された猫パンチを受け止め──重っ!? 

 

「ぐぅっ!」

 

 やばい! 重すぎて潰されそうだ! 

 今の衝撃で股下全部地面に埋まってるし、このままだと色々まずい! 機動力が死んだ探索者なんて俎上の鯉そのものだ! 

 

「バウッ!」

 

『!』

 

 圧力が消え、天空が開放された。

 コマちゃんが奇襲をかけてくれたおかげでモンスターが距離を取ったようだ。

 

「ナイス!」

 

「ワウッ!」

 

 そうだ、コマちゃんがいる。俺1人なんかよりも、こうして誰かと一緒にいる時の方がやる気もできることも増えるってもんだ! 

 

「こい!」

 

『…………!』

 

「あ、ちょっ……」

 

 やる気万倍で三度目の構えを取ったのに、奴さんは何度か自分の顔──牙のあった部分を擦ると背中を向けた。動きは猫そのままなのに大きすぎてスケール感が狂いそう──ということで、牙を折られたことで戦意が削げてしまったようだ。

 

「いや、まあ良いんですけど」

 

 俺は戦闘狂じゃないので、戦いから至上の喜びなんてものは得られない。調査に時間をかけられる方が全然嬉しいね。

 

「わふっ」

 

「あー……とりあえずは進もう」

 

 指差した先にあるのは森の奥。あのスパイダータイガーが逃げた方向と重なっている。

 川を上っても何もねえだろこれ。

 それなら森の奥まで調べ切って、その後で高い場所を確保したら竜の谷を探すのが良い。山の頂上見下ろせば大抵のものは見つかるからな。ドラゴンなんて目立つ存在が目に入らないはずもない。

 鳴き声のことは気になるけど、コマちゃんが反応をしていたことを考えると狼や犬という線もある。今すぐに解決できないもののことは一旦棚に上げて、まずは目の前にある物を調べて報告できるレベルに情報を集めないとな。

 

「いくぞ」

 

「わふ」

 

 濃霧の森の次は、生命の栄える森に足を踏み入れた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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