【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「つってもそんなに危ない場所じゃないというか……なんか普通のジャングルだな」
「わふ」
「俺はもっと四方八方からジャガーが飛びかかってきて、肩には蛇が乗っかって足元には巨大なサソリがいて──みたいな、もう地獄そのものっていうか終わりみたいなのを想像してたんだわ」
「わふ」
「でも、これじゃあ気楽なジャングル旅行だぜ。ミツキ連れてくればよかったかもな」
「…………」
もちろん冗談だけど、それくらい何もないというのは事実だった。でも退屈というわけじゃない。最初は地上を歩いていたけど、そのうちあまりにも木が密集して通ることができなくなり、巨大樹の葉や蔦、根っこが空中にまで持ち上がって絡み合った足場を進んでいるってわけだ。モンスターは一応そこら辺をほっつき歩いているんだけど俺たちが慎重に立ち回っている事もあってか、最初のモンスターを除いて襲いかかってきた奴はいなかった。
「よっ……と……なんでこんな地形が成り立ってんのかね」
蔦でできた天然の橋を渡り切った。地上数十mを征く旅は、周囲の環境も相まって飽きが来ることはない。濃霧とは真逆、極彩の空間には初見の鳥や花々、昆虫、獣が多くいた。少なくとも俺が知るような種類ではないことを見るに、この世界の固有種か、微妙に変異したモンスターもどきといったところに違いない。
「──ほい」
『ピッ! ピィィィィ! ピィィィィ!』
「あ」
通りすがった鳥を捕まえると激しく鳴き始めた。やたらと風を感じるので翼を探ってみると風が吹き出している。扇風機代わりに使えるな、なんて思いながら試しに離してみたら小規模な爆発音と共に超加速してあっという間に天高く舞い上がってしまった。
すごい加速だけど、何よりすごいのは今の加速に耐えられる肉体だ。
鳥がどれだけ進化しても絶対にあんな風にはならない。間違いなくモンスターだな、もどきじゃあ耐えられない加速度のはずだ。
「この足跡は……」
面白い出会いもあった。
樹上回廊は地上に比べるとだいぶ通りやすくてスイスイと足が進んだけど、同じように獣が通った足跡があった。人間が通りやすい道は当然他の生物も通りやすいというわけだ。モンスターが近くにいるのは確定だなと警戒して進んでいたらところ獣臭が強くなった。
「なんかいるな、主にコマちゃんみたいなやつが」
『──クルルルゥ!』
「うおっ!? な、何すんだこら! 裏切りか!?」
戦闘体勢に入ったタイミングで飛び込んできた影があった。咄嗟に斬りそうになったところをコマちゃんに抑えれられ、影の姿を改めて見る。
「…………狼?」
『クルル?』
何かと思ってみれば、狼型モンスターの群れと遭遇していた。飛び込んできたのはその幼体だ。
群れは多くの食事を必要とする。俺たちも捕食対象だろうということで再び武器を構えた。
「わふ」
「え?」
しかしこれもコマちゃんに制止され、とりあえず話してみるといって犬語による会話が始まった。ワフワフ穏やかに唸っているだけで、正直何やってんのかよくわからない。
『……クルル?』
「おー……よしよし」
『クルッ! クルルッ!』
暇すぎてさっき飛び込んできた大きな赤ん坊の相手をしていると、思っていたより可愛い。まさかモンスターなんぞに対して可愛いという気持ちを抱くことになるとは思わなかった。赤ちゃんでも大きさは成犬のジャーマンシェパードくらいあるというのが非常にモンスターを感じるけど、可愛いのは可愛い。
「お目目くりくりでちゅね〜」
『キュゥーン』
顔をベロンベロンに舐めてくるところは犬っぽさマックス。ここまで友好的なモンスターに出会ったのは初めてだ。コマちゃんがいなかったら多対一を強制されていただろうことを考えると、本当に連れてきてよかったな。
『キュウンキュウン』
「ああ、はいはい」
首筋を撫でるのをやめるともっとやれという催促が入る。お腹まで見せて、警戒という概念を知らないのかと余計な心配が湧いてきた。
「──わんっ」
「ふーん?」
大いなる翼が住み着いているという、彼らの言葉では『火の匂い』と呼ばれる場所がどの方向にあるかを聞き出したらしい。
翼とはドラゴンのことだろう。であれば、コマちゃんが聞き出したのは竜の谷ということになる。俺、いらないなあ……
『キュウ?』
「よしよし」
『ハッハッハッ』
「綺麗な歯してるなぁお前」
コマちゃんも可愛いけど、大きくて甘えん坊の狼ってのもクソ可愛いな。赤ちゃん特有のふわふわした毛並みとかクリクリのお目目とか、サイズ以外は俺の知ってる狼と同じだ。
「──」
「あいたっ」
「…………」
「なんだよ」
「…………」
「──あ、もしかしてお前! 嫉妬してんのか!?」
「…………」
肩を噛むので抗議をしたらプイッと顔を逸らして、そのくせ否定はしない。こいつめ、随分とあざといやり方を知ってるじゃねえか。どこで学んできた?
「よしよし、こっち来い」
「……ふんっ」
鼻で笑われた。
耳ピクピクさせといて何強がってんだこいつ。
「…………」
先ほどまではできるリーマンみたいな感じで振る舞ってたくせに、なんでもないですよ? みたいな顔でそのまま歩き出した。モンスター達もそれをどうこういうつもりはないようで、群の脇を通れるように開けてくれた。
というかコマちゃんが群れの先頭にいても全然違和感ないな。サイズ的にも俺がコマちゃんのペットみたいな感じになってる。
『キュウン?』
「あんまり知らない人についてっちゃダメだぞ。毛皮剥がれたりしちゃうかもしれないからな」
『?』
「じゃあな」
『!? ──ハムッ』
「おあっ! な、なにすんだ!」
『フゥー! フゥー!』
「離せって! コラ! めっ!」
さーて行くかーっつって背中を向けた途端に捕縛された。襟を噛まれてズルズルと後ろへ、踏ん張りが効かない体勢だからってのが一番大きいとはいえ相手は赤ちゃんだ。敵対してたら魔剣を抜いて口を引き裂いてやるところだけど、そういう物騒なのが無いのもたまにはいいじゃん。
「めっ! ちゃんとお母さん達について行きなさい!」
『キュルルル……』
母狼らしき成体がこちらを用心深く見ている。俺が乱暴しないかを心配してるのかもしれないけど、乱暴されてるのは俺の方ですね?
『……ガルルッ』
『キュゥンキュゥン!』
『ガルルルッ!』
『ヒャンッ!』
結局、ママに怒られてすごすごと引き下がった。
尻尾も丸まっている。
仮に俺が乗り気になって連れてったら普通に死ぬので、大人しくこの森で育ってほしい。
『…………クゥン』
「ママの言うことはちゃんと聞かなきゃ駄目だぞ。外にはこわーい探索者がいっぱいいて、お前のことを毛皮だけにしようとしてるんだから」
『…………』
「いいこだ」
最後に額を一度だけ舐めると、何度もこちらを振り向きながら名残惜しそうに去っていった。
──モンスターとの意思疎通が成功したのは、おそらく人類において初めてではなかろうか。竜の谷へ向かう道の途中ではあった上、飼い犬の力ありきでもあるが、戦闘に発展する気配は全くなく遭遇は終了した。
興奮冷めやらぬ心を抑えて道を進んでいくと、やがて辿り着いたのは上へと向かう道。100年の中で積層されたいくつもの足場を上へ上へ。樹上回廊の冠部に向かう道だろうという確信にも満ちた予感に従って歩みを進めた我々は、その通りに頂上へ辿り着いた。
登山と呼ぶのがふさわしいほどの高さ──雲の最低高度は既に通り越していた。頂上に辿り着いても道のりは終わりでは無く、広くひらけた地形があるそこは言うなれば樹が作り出した台地のような形状になっていた。
恐るべきことに我々は木を登り続けて数千mに辿り着いたのだ。これより先。進むべきは竜の谷、コマちゃんの言葉に従い歩みをさらに進めた我々は二晩を超えてもなお歩き続けた。
重力が弱まり空気の薄さを感じるそこは、強烈な風雪雨に襲われるような過酷な環境だ。特に気温の低さは凄まじく、下で感じたような暖かさはどこへ行ったのかというような低気温の風が肌を差す。探索者といえど、マイナス数十度の世界では寒さを感じるのも当然のこと。一旦は下に降りて進もうとしたが、降りたら降りたであまりにも蔦が複雑に絡み合っており、道と呼べるような開け方はしていなかった。無理に道を作った結果として崩落してしまえば、数千mを木片と一緒に落下することになる。
実際、モンスターが戦っているのを遠目に見ていたら、とある攻撃で周辺の蔦が崩壊し、真っ逆さまに落下していった。故に、我々は上を移動せざるを得なかったのだ。そこからずっと進み──
「わふっ」
「お?」
「わんっ」
「今いいところなんだけど……」
「ぐるるる」
「わーったよ」
人とコミュニケーションが取れるモンスターとの遭遇という世にも稀な事を体験してから数日後の夜、俺達は頂上から一段降りてテントを張っていた。一段降りただけで風も雨も通さない堅牢な構造になっている。それだけ蔦の絡み方が凄まじいのだ。
しかも、昼間は下段に降りても暗く無い。太陽光を下に伝える不思議な蔦だった。恐らくは光合成を下部でも行う事で枯死を防ぐような進化をしたという事だろう。
そこら中に穴が空いているので、降りる事自体は容易なのは助かる。
では何を揉めていたか。いつも通り報告書をまとめていたら、コマちゃんが良い加減に光を消せと怒ったのだ。どうやらこの地ではコマちゃんの体力消費が大きいらしい。高山病じゃないかと不安になったけど、単純に疲れただけだから問題ないという自己申告があった。
「珍しい事もあるもんだ」
「…………わふ」
「まあ、朝までゆっくり休みな」
霧に覆われた視界、俺たちは進行を一旦ここまでとした。
二度目の霧だ。
霧季になるにはちょいとばかし早すぎるので、これに関しては自然現象──だと思うんだけど、例の濃霧の森のせいでいかんせん自信がない。
なんにせよ、今日は終わりだ。
『────』
「…………?」
眠りに落ちる直前、妙な感覚が身体を貫いていった。
敵意ではないそれはむしろ心地よさすら感じさせられて、それ故に不気味だった。
あの遠い咆哮もこの森に来てからは聞こえない。
気になることはいくつかあるけど、そういったものも含めて明日だな。そう、無理やり納得させた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない