【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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『────』 

 

「こっちか!? こっちだな!? 本当にこっちでいいんだな!?」

 

『────』

 

「もっとハキハキ喋れ! 風がうるさくて声なんか何にも聞こえねえんだよ! 病院で寝たきりのジジイにも聞こえるくらいの声量出せっつってんの! そうじゃなきゃ今直接俺の目の前に来てちゃんと会話しろ! 端末でも可!」

 

 実際のところ、端末は使えない。魔素をどうのこうのして通信を可能にしているせいで、高濃度に魔素が存在するところでは通信が行えないのだ。こんな異常地帯で魔素が低濃度のわけがなく、ミツキへの日報も繋がらなかった。

 

「これでレストランにでもたどり着いたらその瞬間に爆破処理だぞ……」

 

 というか、人に対してこんなふうに離れた位置から意思を飛ばせるなんてのは破格の力だ。ほぼ死んでるイヤホンくらい無音だけど、なんとなーくこっち来いみたいな意思は感じられる。

 最低でも数十kmは思念を飛ばすことができるってのは凄まじいことだけど、欲しいとは思わない。そんなことに異能の枠を割くくらいならもっと移動系の異能が欲しい。

 そもそも──

 

「そんな不完全な力を手に入れるくらいなら魔素から離れて端末をゲットしろ! 何歳か知らないけど、もう文明の利器はお前の力を超えてるんだからな!」

 

 世の中には異能名鑑というものがある。読んで字の如く、探索者たちが発現させた異能をその効果と一緒に紹介してくれる解説書だ。ちなみにゲロ吐くほど高い。これ買うくらいなら普通に人に聞いて回ったほうがいい。でも、希少な異能なんかも載っているらしいから意外と力にはなるんだろうな。俺も中身を見たことはなくて、コウキさんからそんなものがあるという話を聞いた程度だ。実物はどっかの金持ちが持っているとか。

 こいつが保有する異能もそこにあるのかもしれない。魔素を抑制するような異能は載ってないらしいので買う気はないけど、テレパス系の異能があるのかということは気になる。

 無いと思うけどな。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 コマちゃんはこうしている間も服の中で眠っている。俺が左腕で抱えてこそ安眠できているので、そこは誇らしいけど面倒臭い部分でもある。急襲されたら対処がワンテンポ遅れて2人ともお陀仏だ。

 故に、右手から魔剣が離せない。

 もう何時間握っているか分からないぐらい状況は進歩していない。

 

 1週間前は「へへーん、こんな旅余裕だったわ笑」ってな感じでイルヴァの牙から戻って来る最中だったのに、落差が大きすぎる。完全に自分のせいなんだけど、モンスターじゃなくて環境に殺されそうになっているのはいかがなものだろうか。聞いたことないぞ、探索者が雨に降られて死んだなんて。

 

「現在は竜の谷目掛けて進行中。樹上回廊の上部に到達してしばらくすると大雨が降り出した。前進を選択したが、やがて大雨は想定以上に強烈なものになり、進む足を遅滞させた。しかし避難場所は存在せず、我々は前に進むしか選択肢がなかった。ドラゴン討伐どころかそこに辿り着く前段階でかなりの消耗を強いられ、私は自らの準備が不足していたことを否応なしに実感させられた。レベル50になって調子に乗って──」

 

 報告書を書いているわけじゃない。自分の脳内と実際の状況を整理するために、敢えて言葉にした。これは孤独に耐える上でも重要な手法で、自分の脳みそが補完している都合の良い妄想と現実を切り離すことができる。

 少なくとも、この状況の大元は俺の油断が招いた事だと改めて認識した。

 

「……弱まってきたな」

 

 しかし止まない雨は無いという言葉が示す通り、進み続けるうちに段々と弱まり始めた。一般人であれば雨勢だけで溺死していたような振りが土砂降りへ変わって、下段にも足場として活用できるような部分が見え始める。しかし、ここまで来ればもう少し進みたいというのが心理だ。意地と言ってもいい。

 全身ズタボロだけど傷はすぐに治る。ここで休憩になど入ろうものなら、このなんとも腹の立つナニカが俺のことを笑うだろう。それは許せない。

 

「くっ……!」

 

 だけど、流石に足がもつれる。ひっきりなしな雷によるダメージの蓄積と痺れがあった。これでも防具越しに喰らっているのでまだマシであるにもかかわらず、だ。

 

「負けない……負けないぞ!」

 

 この時の頭からはドラゴンのことなんてすっかり抜け落ちていた。ただ、目の前に広がる緑の大地──樹木によって構成されているので文字通り緑色の大地だ──を一歩一歩踏み締め、次に訪れる災いを予想し、それに耐えるつもりだった。身体が消耗していようとも、生きているならばそれはなんの問題もない。

 死にそうなラインと死そのものは理解している。今この状態は辛いだけだ。

 

「ふぅ……くるぜ……結構な……」

 

 それに何の保証もないけど、この森を通ってきた経験からするとモンスターが襲って来ることはない。仮に来るとしたら、それはもう天晴れだ。激しい悪天候に見舞われて消耗した俺たちを狙い撃つ、明らかな知性を感じさせる行動。その時は俺も死力を尽くしてやろう。

 

「…………バカなこと考えてるなあ、俺」

 

 そんなことをするくらいなら一時避難して調子を整えたほうがいいに決まっている。何より今はコマちゃんがダウンしているから索敵能力が激減していた。しかもいくら独り言で誤魔化しても、判断能力が低下しているということは自分でも明らかに分かった。

 

「でもよ、コマちゃん……引いたら負けなんだよ」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「俺は男だ。性自認も遺伝子も思考も全てが男だ。そんで男ってのは逃げねえ」

 

 挑戦されたら応えるのが男だ。ましてや俺は、この世界のあり方に真っ向から挑戦している身。自分は挑戦をし続けながら、誰かの挑戦は無視して平然とした顔をするなんてのはあまりにも冷たすぎる。戦略的撤退と逃避を一緒くたにして楽な道を進むなんてのは、正道じゃない。

 

「寄り道を恐れちゃダメなんだよ」

 

 俺は自由に生きていると自負しているけど、それでも自分に課しているものはある。

 

「まっすぐ進んでも答えには辿り着けないって、散々分からされてるからな」

 

 俺にとっての真っ直ぐは、過去の記憶を頼りに科学の発展を見届ける事だった。期待するのだって仕方ないだろ? なにせ車や列車、端末、PCなんかは俺の時代──世界にもあったものだ。大幅劣化しているとはいえ、その技術が先鋭化されていけばいつかはたどり着く未来がある。

 

 そう思ってた俺の気持ちを打ち砕いたのは、新たな常識の数々だった。情報を収集し、アップデートすることは広義では科学技術だ。だから魔素という未知の物質が世界に現れようとも、問題に対策する頭脳を持っている人類ならば克服は可能だろう。

 ただ、そのアップデートや情報の集積そのものを阻害するような何かがあるなら話は別で、魔素はまさにその性質を有していた。

 

「しかもカミサマとかいうハゲちゃびんも……」

 

「……」

 

「ああごめん」

 

 居心地悪そうなみじろぎ。ぶつぶつ喋っているのがうるさかったらしい。

 

「──お?」

 

 雨が弱まると、今度は雹が混じり始めた。パラパラと音を立てながら地面を転がる氷の粒。こちらも雨と同様、粒度がどんどん増していく。しかし雨よりはだいぶマシで、直撃コースの巨大塊を殴り壊すだけで怪我はない。雨や雷はともかく、固体ならば対処法はいくらでもあった。

 

「お、おお……」

 

 しかし、俺に対してのものはともかく地面──蔦や葉に直撃するとそうもいかない。グラグラと揺れる足場に若干不安になりつつ、これ以上足場が壊される前に駆け抜けた。

 抜けた。

 俺は異常気象地帯を抜けた。

 抜けて、出た。

 どこへ? 

 

「あ〜……」

 

 雹が弱まっていき、太陽の光が燦々と降り注ぐ地が遠くに見えた時はそれだけで笑みがこぼれ出た。やはり人は太陽共に生きるものだと実感した。

 それだけに……

 

「まじか……」

 

 樹上回廊の端、俺は崖上に立っていた。

 だけど、視界に広がるものがあまりにも予想と違っていたから立ちぼうけのような形になった。左を見ても右を見ても似たような光景。とはいっても先ほどのような木々に満ち満ちた光景ではない。

 

『──ギュルルアアアアア!!!!』

 

 目の前を通り過ぎた影は俺をしっかりと視認しながらも攻撃はなく、物珍しそうに見ているだけで終わらせた。所々に浮かぶ黄金色の雲の上に横たわり、昼寝と洒落込む奴もいる。またある所には火を噴き続ける奴らがいる。何かを熱しているようにも見えた。

 

『────』

 

「これが、俺を連れてきたかった場所だって?」

 

『────』

 

 崖下、雲を突き貫いて現れたのは巨大な竜だった。

 

「とんだサプライズだ」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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