【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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163_お前だれー!?

『────』

 

「詰みか?」

 

 眼前で黄金の鱗で覆われた肢体を披露しているドラゴンは、怒りに満ちているわけではなく、これから攻撃を行おうという意思に覆われているわけでもない。ただ、平然とした目でホバリングを行っていた。それは俺がかつて出会ったドラゴンとは違う振る舞いであり──つい最近見たばかりの、斧使いたちが戦っていたあのドラゴンとも異なっている。

 身体の大きさからも、その落ち着き具合からも、俺をはるかに上回るレベルを有しているとしか思えなかった。

 

「はぁ……」

 

 世の中、諦観というものはどこかでついてきがちだ。俺も簡単に諦めるつもりはないけど、戦闘を消化し切れるだけの力が残っているとはいえなかった。

 こいつは結構強そうな見た目をしているが、仮に倒したとて他にもたくさんドラゴンがいる。しかも最初から捕捉されているときた。この場のどこかには俺のことをここに導いた野郎がいて、そいつがドラゴンたちに俺のことを教えてまわっているってことだろう。

 ……いるんだな! 煽り全1が! 

 

「んで……やるのか!?」

 

『…………』

 

「あ、違う? そう……」

 

 一応構えてはみたものの、黄金竜(今命名した)は本当にやる気はないらしく首を振った。それどころか、俺の目の前に着地した。

 ふわぁ……という擬音が当てはまるような柔らかい着地だった。しかし壁である。大きすぎて、ビルがいきなり目の前に建ったような圧迫感だ。

 その理由は明らかで、なぜか二足で直立しているからだ。とても近いので、真上を見上げないと顔が見えない。

 正直、向こうも見辛いと思う。首を90度下に曲げているけど、見下ろしている間は二重顎になっている。

 

『…………』

 

「…………」

 

『…………』

 

「……!?」

 

 様子を見ていたら、いきなり大の字になって地面に寝そべった。腹を大きく空に向けるトト◯スタイルだ。あんまり慣れてないのか、尻を地面につくときに恐る恐る座り込んでいたのは非常にシュールだった。

 ドラゴンって寝そべるとき尻尾消せるんだな……知らなかった……スゥゥって半透明になって消えたよ……

 

「なに?」

 

『ブゥーン』

 

「なになになに」

 

 そもそも何してんだこいつ。

 お腹の上に乗ればいいの? 

 なんで寝たの? 

 

「俺疲れてるんだけど……」

 

『…………ブン』

 

 ぶんってなに!? 

 

「ドラゴン語なんて知らねえんだけど、日本語で喋れない?」

 

『?』

 

「人間の言葉で言えない?」

 

『ブン』

 

 どうやらブンしか言えないらしい。

 ブンブン。

 

 しばらく腹を見せた後、俺があまりにも困惑しているものだからか、のそのそと起き上がった。その時も体を左右に揺すって勢いで起き上がるというコミカルな動きを見せてくれた。起き上がると今度は腹這いになり、ブンと鳴く。尻尾は背中側にまで動くようで、ペシペシと翼と翼の間をを叩いて何かを示した。

 そこらへんでなんとなく察して乗り込むと、良い感じの窪みがあった。そこに収まって、何をするかと思えば黄金竜は樹上回廊から飛び上がった。

 

「どこに向かってるんだか」

 

 俺が竜と出会ってからは天候も安定しているので、森の様子がよく見える。引きで見ると、あの回廊はやっぱり異常だ。みっちみちに絡み合った巨大樹の幹や枝葉が山のようになっていて、下に行くほど密度が下がっていく。頂上にはモンスーの姿は見えない。中腹や麓に生息しているのがほとんどのようで、そこには姿が見えるし木が揺れもしている。

 

「そもそもここはなんなんだ?」

 

 竜の谷を目指しているのかと思ったら、よくわからないところに辿り着いてしまった。ドラゴンがたくさんいるのは確かなんだけど、襲ってこないのはよくわからない。襲えよモンスターなんだから。

 本当に襲われたら死ぬけど。

 

 俺たちが見ていたのは、樹上回廊の先にある長くて深い渓谷のほんの始まりだ。渓谷ではドラゴンたちが飛び交い、寝そべり、子ドラゴンは遊んでいるようにも見える。しかも所々二足歩行で歩いているやつもいるのでとても知性を感じる。仮にこいつらがセクターを滅ぼした竜の一族なんだとしたら、予想外すぎて永井先生と詳しく話をしないといけない。

 

『……』

 

「あ、どうも」

 

 渓谷のあちこちから飛んできたドラゴンが物珍しげに見ていく。隣のドラゴンとヒソヒソ話している様子は本当に人間さながらだけど、形はやはりドラゴンだ。

 ──こ、こんなのは俺のデータにないぞ!? 

 

『…………オーン』

 

「どうも」

 

『オーン』

 

 中には頭を下げたり独特な鳴き声で何かを伝えてこようとする奴もいるけど、基本的には動物園状態で俺のことを見にきただけのようだ。

 こいつら俺の言ってることわかってんのかな。分かってんならもうちょい反応してくれても良いはずだから多分分かってないんだろうな。

 

『ブゥゥゥゥゥン』

 

「うるさ」

 

 黄金竜の鳴き声は重々しい低周波で身体を芯まで震えさせる。並飛するドラゴンたちに比べて大きいことがその原因だろう。

 隣に現れたピンク色のドラゴンが何かを言うたびにブンブンと鳴き声を発するので、うるさくして仕方がない。

 

「すいませーん、もうちょっと静かにしてもらってもいいですか?」

 

『……ブーン』

 

 心なし高くなったおかげで頭が揺らされるような感覚は無くなった。しかし他のドラゴンたちは身体を揺らして明らかに笑っている。

 

『ギャッギャッギャッ!』

 

『ギィィィィイ⤴︎』

 

 この光景は全て脳内に収めている。報告書に書くこともそうだけど、この世界においてはあまりにも通常とかけ離れた出来事は記憶しなければいけない。イレギュラーとは、その出来事の異様さか、常識そのものの不完全さのどちらかを表している。ダンジョンの常識、モンスターの常識──それらは全て、人類がこれまでに経験してきた事をもとに作られた常識だ。

 モンスターが人類に対して敵対しないということは滅多にない。先ほど食事を終えたばかりで腹がパンパンに膨れているとか、あるいは霊領の中にいるからとかそういう事でもない限りは人は狙われる。基本的には手頃なおやつとしか見られていない。

 

「人間みてえだな」

 

『ブン』

 

「人間なのか!?」

 

『ブブン』

 

 わからん。

 なんもわからん。

 ブンだけで意思表示はかなり無理があるから、おそらく耳が良ければ意味が分かるんだろうけど俺は音楽家じゃない。

 聞き分け不可だ。

 

『────』

 

「…………!」

 

 それは、もっともっとと何かを求めるような声。無音による意志の発露。

 呼び声。

 

『────』

 

「こっちにいるんだな!?」

 

『ブン』

 

「そうか…………連れて行ってくれ!」

 

『ブン!』

 

「もう少し静かにしてもらえるとありがたいです!」

 

『ブン!』

 

 

 ──────

 

 

『ああ……どうも』

 

「あ、どうも」

 

 降り立ったのは庵。ドラゴンが住み込むにはどう考えても小さい、それこそ人間が住むような大きさの場所だった。黄金竜は少し離れた場所からこちらをのぞいている。木から顔を出してこっそり見ているつもりなのかもしれないけど、大きすぎて全く隠れていなかった。

 そして俺たちの目の前にいる『ナニカ』。

 ドラゴンの大きさではないそいつは、ドラゴンの生息地にいながら明らかにドラゴンではななかった。探索者でないと考えられない、頭部から生えた角。白銀の髪に白銀の瞳、まっちろけっけの肌。

 美しさの権化と言っていい、常人離れした容姿だ。

 

「失礼ですが、人間ですか?」

 

『…………どう見えます?』

 

「彫刻にでもなってそうだな、と」

 

 彼……彼女……こいつが身に纏っているのは着心地の良さそうな布一枚だ。古代の彫刻なんてのも大抵は布を纏っているので、そのイメージに引っ張られたのかもしれない。

 

『彫刻……?』

 

「美し──あー……とてもお綺麗なので」

 

 ヒトに対して美しいというのは褒め言葉になってないような気がしたので、敢えて綺麗と表現した。ただ、見た時の印象を正確に表現するならやっぱり美しいになるだろう。

 

『なんといいましょうか……やっぱり面白いですね』

 

「やっぱり? どこかで会ったことが?」

 

『ふふ、鈍い方です』

 

「…………もしかして、俺を呼んだ?」

 

『…………』

 

 にっこり。

 

「しつこく呼んだ?」

 

『…………』

 

 にっこり。

 

「俺のことを笑った?」

 

『…………』

 

 にっこり。

 

「あんまりそういうことしない方がいいよ」

 

『はい、ごめんなさい』

 

「なんであんなしつこかったの?」

 

『そうしないと道を逸れてしまいそうだったし……なんだか反応が面白くて』

 

「人のことを玩具みたいに言うのはやめてくれ」

 

『うふふふ』

 

 本当に、顔の良さに感謝しろよな! あと、反応がドワーフの姫様みたいだぞ! 

 

『爺やは優しいでしょう?』

 

「え? …………爺や?」

 

『え? いや、あなたではなくて……あの方です』

 

 指差したのは俺たちを運んでくれた黄金竜だった。いきなり爺とか言われても分からんわ。というかあのドラゴンお爺さんなの? 

 

『なんで自分のことを指差したんだろう……』

 

「ま、まあそれはなんでもいいんで……そう! なんで俺たちのことを呼んだんだ?」

 

『はい』

 

 それは真面目な顔だった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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