【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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164_ドラゴニア

 

『まずは中にどうぞ』

 

「……」

 

 庵の中はなんというか、風情に満ちていた。こぢんまりとした室内を見回すと、所狭しに置かれた小物が目に付く。手に取ることはせずとも、顔を寄せるとカエルの置物や骨から削り出したらしき装飾品が見て取れた。

 

『疲れてますよね?』

 

「そりゃあもちろん」

 

『では、お湯を沸かさないといけないですね』

 

「ご丁寧に…………っ!?」

 

 パカリと開いた口から炎が吹き出た。着火させるために薪に浴びせているようだが、いきなり過ぎて見つめてしまったのが良くなかった。口を一旦閉じるとコチラを見てはにかむ。

 

『ちょっと恥ずかしいかもです』

 

「すみません」

 

 内部の水分が気体となって木を押し広げ、パキンという音が弾ける。

 暖炉に焚べられた薪はこのヒトガタが自ら調達したものだろう。ドラゴンがこの大きさのものを作るには、あまりにも手先の器用さが足りていない。自分の指よりも細いものを作るのはあの手じゃ無理だ。

 

『お茶、淹れますね!』

 

「どうも」

 

 よくわからないのは、なんで俺は歓迎されているのかということだ。そもそもこいつは誰で、ここはどこだ。ドラゴンの長か何かなのか。はたまたソフィアみたいな混血なのか。

 思惑が全く読めない。俺の心へ語りかけてきて、わざわざこんなところまで呼び寄せるのは一体何故だ。

 どうせハッカーみたいな陰気なやつがいるんだろうと思っていたらめんこいのがいたので、吐き出すものも吐き出せない。

 

『ふんふーん』

 

 しかも、俺を呼び出した本人は何故か上機嫌。俺たちはもしかしたら丁寧に下味をつけたのちに調理されるのかもしれない。

 この喜びようは食への感謝、これから美味しくいただくことに対する歓喜なのだ。

 

 ──真面目に、何が起こってるんだ? 

 

『お茶ができるまで寝ててもいいですよ』

 

 整いすぎると年齢の境目が曖昧になるのか、成熟しているようにも幼少なようにも見える。不思議な容姿だ。

 イルヴァの牙ではこんなに歓迎されなかった気がする。初っ端に投獄だったからというのが印象として強く残っているんだろうけど、初対面の大事さを改めて身に沁みて感じさせられた。

 

『……お茶ってどうやって淹れるんだっけ』

 

「茶葉は?」

 

『茶葉? お茶って茶葉なんでしたっけ……薬なら煎じられるんですけど……』

 

 何がしたいのかよくわからないタイムに入った。

 茶葉はなかったけど、食べられる根っこはあったのでそれをお茶にした。煮出した汁を混ぜれば全てはお茶になる…………なんで客人の俺がお茶を淹れてるんだ? 

 寝かせるなら寝かせてくれ。

 もうここまで来たら戦うとか抗うとかじゃない。ドラゴンに囲まれてるんだから開き直るしかない。暖かくて落ち着いたノルウェーっぽい雰囲気の小屋に入れたんだからゆっくりしよう。

 やや小さいけどロッキングチェアーに腰掛けてるので、段々瞼が重くなってきたところでもある。これ、作ったのかな…………

 

『あ、ちょっと待ってくださいよ! もう一度お茶を淹れてください! 結構美味しかったので! まだ寝ないでください!』

 

「…………」

 

『ほら! お湯はまだありますから!』

 

「──あっちい!」

 

『いだあっ!』

 

 指先がいきなり熱に包まれて反射的にぶん殴ってしまった。ナイフも抜いてるぞおい! 

 

『なにするんですか!』

 

「こっちのセリフだわ!」

 

『ちょ、しまってくださいそれ! 刃物は嫌いです!』

 

「誰のせいで……って俺の指をつけようとすんな!」

 

『いや、でもほらちょうどいい温度で……』

 

「普通の人間だったら今ので完全に火傷だよ!」

 

『ええ!? …………あはっは! ジョーダンうまいですね!』

 

 なんだその笑い方、ふざけてんのか。人が1人怪我しそうになったんだぞ! ビックリして敬語抜けたわ! 良いわもう! 

 

『──本当なんですか!?』

 

 なんだこの……なに? 

 

『よっわあ……お爺様の言ってることって本当だったんだ……』

 

「具体的に何を?」

 

『人間は弱くて脆いから、本当に仲良くなりたいなら気を付けろって』

 

「…………」

 

 人間じゃねえってことじゃねえか! 

 

『あ、そういえばそちらの……』

 

「ん? こいつ?」

 

『あ、はい。なかなか出てこないなあって……』

 

 コマちゃんは寝袋の中に埋めてある。お腹は満たさせたので、しばらくは眠っているだろう。こういう時はウンコもしないのでとても楽で助かる。

 頭を軽く撫でると、ピクリと耳を反応させつつも起きる気はないようだった。

 

「疲れてるんだってさ。今は放っておいてあげてくれ」

 

『あー……』

 

「というか、正直俺も疲れてて……出来るなら眠りたい」

 

『あー……』

 

「雨とかモンスターとか雹とか雷とか……知ってるかもしれないけど、キツかったわ」

 

『あー……』

 

「……もういい?」

 

『…………ヨシとしましょう! ここで許すのも度量ってやつですからね!』

 

 最初は神秘的なやつだと思ったのに、ここまでの会話でただの不思議ちゃんに格下げしちゃったよ。

 

『荷物、見てもいいですか?』

 

「え?」

 

『この背負うやつとか、こんな綺麗なの初めて見たんです! あとこの良い匂いするお肉も、あとこの布の塊も!』

 

「……好きにどうぞ」

 

『やった!』

 

 おやすみ……

 

 

 ──────

 

 

『──』

 

「…………」

 

『────あ〜』

 

「…………?」

 

『──てるんだあ』

 

「………………」

 

 身体を弄られる感覚で目が覚めた。微妙に回らない頭で自分の今の状況を把握して、思考が飛んだ。

 

「…………何してんの?」

 

 疲れすぎて深く寝入っていたからここまでされても気付かなかったのだろう。というかまだ眠い。

 

 伽藍堂の窓から覗くと今は夜、空も俺の睡眠に支持の一票を入れるかのように黒々としている。浮かぶ星々とクラゲ、ナマズどもは遥か高く、成層圏の上方で放電していた。

 

『あ、起きたんですね』

 

「ああうん、おかげでよく眠れた──じゃなくてね? 何をしてるの?」

 

『え? なにって──』

 

 目を覚ました時から楽しそうだった顔に浮かんでいた笑顔を、さらに深めた。

 

『人間の身体に興味があったんです!』

 

 俺は全裸だった。

 ついでに言うとコイツも全裸だった。

 起きた時はちょうど俺の太ももを触られていた。脱がされた服はピンと張った状態で台の上に置かれている。

 

「そ、そっか……」

 

『はい! お爺様達から聞いてはいたんですけど、本当に違うんですね!』

 

「……そうだね」

 

 俺の股間にぶら下がっているものはコイツの体にはついてなかったし、凹に当たるものも見当たらなかった。全体的にほっそりとしながらも柔らかな身体つき。男女どちらとも判断がつかなかった俺はやはり正しかった。

 長い髪としなやかな手付きはどちらかというと女性寄りだけどな。

 

『あの……それってお爺様達にも付いてるやつであってますよね?』

 

 指差したものは──

 

「うん」

 

『やっぱり交尾の時は大きくなるんですよね?』

 

「なるね」

 

『ほえええ……大きくしてください!』

 

「無理」

 

『なんでですか!』

 

「…………夜だから、ちょっと落ち着こうか」

 

『眠くないですよ?』

 

「俺は眠い…………あとコマちゃんが寝てるんだよ」

 

『コマちゃん? この方はコマちゃんというお名前なんですか?』

 

「うん」

 

『へえー……大きくなりました?』

 

「ならないよ、なるわけないじゃん」

 

 なんで寝起きでいきなりオッキを強要されてるんだよ。そんな気分じゃないし、そもそもここでオッキしたら浮気では? 想像しただけで萎えるわそんなん。

 俺は出張先で現地妻を作るタイプじゃないんだ。

 

『繁殖期じゃないのかあ』

 

「繁殖期とか知ってるんだ」

 

『ふふ、教えてもらったので』

 

 得意げに笑うこいつは、一体誰からそんなことを教えてもらったというんだ。ここはドラゴンが多数生息する魔境、しかも道中の環境も過酷。俺は正直なところ、今から1人でここに来いと言われても出来る気がしない。

 

『誰から教えてもらったって……そりゃあお爺様やお母様、お兄様達からですよ』

 

「それってドラゴンの?」

 

『あはっは! それ以外にないでしょう! 変なこと言いますね! まあ私たちは自分たちのことをドラゴニアって呼んでますけど!』

 

「ふーん……寝ていい?」

 

『え、じゃあ触ってても良いですか?』

 

「それはダメ」

 

「むぅぅぅ……」

 

 閉じられた唇の間から煙が漏れる。もしかしてこれは不満を示しているのかな? でも、触られてたら気になって眠れないしアレを触られたら根本的にダメだろ。反応しちゃうかもしれないし。

 

『……あ、じゃあお話したいかもです』

 

「はぁぁぁ……じゃあこれでも飲む?」

 

『──うわっ!? …………な、何それ! 近づけないで下さい!』

 

「意外と美味いぞ」

 

『え、本当に?』

 

 美味いという言葉を聞いた途端に部屋の隅っこから寄ってきた。ゲンキンという言葉が本当によく当てはまる性格をしている。

 

『──ふへ』

 

 荒く木から削り出されたようなカップに注ぎ、呑ませたところ一瞬で酔った。お目目ぐるぐるで、上半身をゆらゆらさせて座り込んでいる。もう会話どころではなく、今にも倒れそうだった。なんなら呑ませる前に酔っていたような気もする。

 流石はドワーフの酒、ドラゴンすら酔わせるという言葉は伊達じゃなかったな。

 揺れる上体を抱き留めて、粗雑なベッドに寝かせていると、窓から巨大な瞳が覗き込んだ。

 

『──ブン』

 

「ああ、うるさいからこれで酔ってもらっただけですよ」

 

『ブン』

 

「正直寝たいんですよね」

 

『ブン』

 

「…………欲しい?」

 

『!』

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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