【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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165_水浴び

 

「よく寝た」

 

『お爺様がひっくり返ってる……』

 

 庵の外でひっくり返っているのは黄金竜。

 酒をあげたら即落ちしたので、やはり効果ありだ。

 

「あのまま寝たから身体がベタつくな…………川とかある?」

 

『こっちにありますけど──あ! 大きくなってる!』

 

「無邪気だねえ」

 

『水浴びですか?』

 

「うん」

 

『私も行きます!』

 

「もっていうか、俺が着いて行くんだけど……道案内お願いします」

 

 ちゃんと道中では布を巻いているわけで……しかも昨日は炎を吐いているところを見たら恥ずかしがっていた。羞恥心がどこにあるのかがわからなくて困るな。

 

『そりゃあ火吹くところじっと見られたら恥ずかしいですよ』

 

「裸は?」

 

『裸っていうか……基本は服とか着ないんで』

 

「ドラゴニアだから?」

 

『そう! ドラゴニアは強いから何も着る必要がないんです!』

 

「じゃあなんで布巻いてるの?」

 

『大事なものだからです』

 

「そうなんだ」

 

『そんなに着込んで、よく落ち着きますよね』

 

「これくらいが人間の普通だよ。お爺様はそういうことは教えてくれなかったのか?」

 

『人を見る事自体があんまりないですからね! そもそもここら辺に呼び込んだの初めてですし』

 

「そうなんだ…………そうなんだ!?」

 

『はい』

 

「いや、そうだよ。こんなところ聞いたことねえもん……じゃあここどこだ?」

 

『ここは私たちの住んでる場所ですよ?』

 

「そうじゃなくてさ──」

 

 俺たちが向かっていた場所、竜の谷についての説明をした。おそらくドラゴンの一種か何かであろうこいつに『僕はドラゴンを殺しにきた!』と白状するのはあまりにも愚かだけど、そもそも遠くから俺たちのことを把握していたのだからそこらへんも分かってるだろう。

 

『竜の谷? ……谷って言うならここも谷じゃないですか。ドラゴニアもたくさんいますよ』

 

「そうだけどそうじゃないというか……あ、そうだ。セクターがあったじゃん」

 

『せくたあ、ですか?』

 

「俺たちが最初にテントを張ったところだよ」

 

『テント…………あの布ですね!』

 

「そう、あそこはもともと人類が住んでた場所なんだけどドラゴン達が攻め込んできて滅んだじゃん?」

 

『?』

 

「あ、知らない? そこらへんはお爺様に聞いてないのかな……」

 

『いいえ、あそこがどんな場所かは聞いてますよ? でも……私が聞いた話とはだいぶ違うようですね! 私が聞いたのは、愚かにも増長した猿が摂理に抗い破滅の嵐を呼び寄せようとしたので、一翼の竜がそれを止めたという話です!』

 

「へ、ヘイトスピーチ……」

 

『そっちだって私たちが侵略者みたいな伝え方してるじゃないですか』

 

「…………そうだな、申し訳ない」

 

『……あ…………う……』

 

「どうした?」

 

『な、なんでもないです……ゴホン! とにかく、到着しましたよ!』

 

「……おお、綺麗だな」

 

 いくつもの湧水からなる泉。小風に波立つ水面は陽光を乱反射して煌めき、本当に細くて小さな小川に流れ込むことで水量を一定に保っている。小魚が水中をスイスイと進むのはプランクトンを追っているからだろうか。

 煮沸しなくとも飲めそうなほどのクリアウォーター。水底は砂地で、沸き立つ水に揺らされて上へ下へと動いている。

 

「どれ」

 

 そこへ指を入れると、地下水ゆえの温かみと、風呂として入るには冷たすぎるという当然の感想を得た。

 

『──ふぅ』

 

 羽毛のような軽い音を立てて地面に置かれた布は、今の今まで着ていたもの。とても大事だと語っていたそれを地面に置くのは、人間的には大事にしているとは言いづらいけど──ドラゴニアにとってはそこは関係ないのだろう。

 滑らせるように足先から泉に入り、両手で作った器に水を掬う。顔に軽くかけると、気持ちよさそうに微笑んだ。

 

『さあ、一緒に入りましょう?』

 

「……そうしますかね」

 

 俺も着ていた服を脱ぎ捨てる。防具は無傷だが、雨やら風やら雷やらで大分ダメージが入った布製のそれらはとても汚い。足元がぬかるんでいるところを通る時は泥がついたし、俺の体液もついている。

 あとで洗おう。

 

『傷だらけですね……叔父様みたいです』

 

 泉の中に入ると、腰までの水を掻き分けて歩いてきた。伸ばされた腕は細く、とてもドラゴンの一族であるとは考えられない。

 

「叔父様がどんなドラゴニアかは知らないけど、探索者ってのは怪我してナンボなところがあるからな。みんなこんなもんだよ」

 

『…………』

 

 腕を伸ばしたまま、視線が俺の腕に寄る。同じように伸ばすと自分のものと見比べ始めた。

 

『違うのに、どうしてここまで似ているのでしょう』

 

「収斂進化なのかもな」

 

『どういうことですか?』

 

「全く違う種類の生き物でも、同じような環境に長く生息していると同じような姿をとるようになることがあるんだよ」

 

『……では、いずれ私たちは同じになるのですか?』

 

「いいや、ならない」

 

『どうして?』

 

「収斂があるように、分化だってある。ドラゴニアの文化は俺たち人類とは遠く離れたもののはずだ。知的活動をする以上は、自分たちの住む環境に合わせた形にもっと進化していくだろうよ」

 

『今はこんなに似ているのに?』

 

「たまたまだよ」

 

『…………それは、なんだか寂しいですね』

 

 腕が重なった。

 見た目は確かに似ている。

 しかしその肌は人間よりも硬く、それでいてスベスベとしている。鱗があからさまにあるわけじゃなしに、単純に強度の違いというもののような気がした。もちろん俺のほうが上だけど、素の状態であれば勝てる道理はないだろう。

 

「そういうもんだよ」

 

 人は近いのに遠いものを忌避する。同じ形をしているのに全く違う精神性を有する目の前のドラゴニアのような存在がいれば。まずは遠ざけて、次は好奇の目を向け、違う個体が多く出てくれば恐怖する。そして捕え、酷いことをするだろう。

 自分たちのためならどこまでも酷いことができる。それが総体としての人類の性質だ。

 

『うーん……』

 

「竜の谷の話なんだけど、ここで合ってる?」

 

『ここってそんなに有名なんですか?』

 

「探索者も結構訪れてるはずだよ」

 

『……あっ! じゃあここじゃないですね! 多分荒れ谷のことだと思います!』

 

「アレ谷? どういうこと?」

 

『ええと──』

 

 なんでも、セクターから割と近い場所に荒れ谷と呼ばれる谷があって、そこには気性の荒い若ドラゴンや他の場所からやってきた新参がいるらしい。さらに、その中でも一際気性の荒い一頭がリーダーのような事をやっているとか。

 じゃあそうじゃん。

 

『私、あなたが荒れ谷の方に行こうとしたから一生懸命呼びかけたんですよ』

 

「そうだったの?」

 

『あのまま行ってたら普通に死んでました!』

 

 えっへん! と胸を張る。しかし胸は無い……

 ドラゴンってお乳とか出るのかな。モンスターの生態って全然解明されてないもんな、それこそ永井先生が第一人者なだけはあるし、歴史の浅さはそのまま情報の薄さだ。

 その上で、ドラゴンの生態などよりも気になることがあった。一晩経っても未だに明かされていない情報だ。

 

「なあ、君の名前は?」

 

『娘と、そう呼ばれてます』

 

「それは名前じゃないな……」

 

『一応、名前の意味はわかってますよ?』

 

「ああそう」

 

 メスなんだ……まあそうだよな。これでオスとか言われてもちょっと反応に困るところだった。でも名前が無いのはもっと困る。なあ娘! ってやばいだろ、盗賊の頭目くらいじゃないとそんな呼び方しないぞ。俺は、おい坊主! なら言われたことある。

 

『人間はそれぞれ違う名前を持ってるんですよね?』

 

「まあな」

 

『じゃあそういうの考えるの得意ってことですか?』

 

「得意……動物の中では得意なほうなんじゃないかな、こういうのは」

 

『私にもつけてくださいよ、名前!』

 

「つけないなあ」

 

『えー!』

 

「こういうのは親がつけるもんだよ」

 

『ヘェ〜、でもお母様は死んでしまったし、お父様も元気ないし、誰に頼めば良いんでしょう?』

 

 少なくとも俺じゃないことだけは確かだ。なんでいきなりやってきたばかりの人間がドラゴンの名付けなんてものをするんだ。俺、一応ドラゴンを殺しにきたやつからな? 

 

「そもそも、今更名前なんて欲しいのか? 

 

『欲しいです! 私は名前が欲しいんです!』

 

 大事なことなので2回言ったのかもしれない。

 

「お爺様達に頼みなよ」

 

『お爺様達にはそういう名前はないですし、ちゃんとしたのをつけてもらえるかどうか……』

 

「でも、ドラゴニアっていう呼び名は自分たちで決めたんだろ? 良いセンスじゃん」

 

『長老がつけたんです』

 

「長老?」

 

『昔から生きてる方で、お爺様の友達なんです! お爺様と同じくらいいろいろな事を知っていて、人間のことも結構知ってるんですよ! 例えば……食べてもあまり美味しくないって言ってました!』

 

「味を知ってるのね」

 

『でも、あなた達も私たちのこと食べますよね?』

 

「うん」

 

『私たちはそうやって生きてるんですね!』

 

 ──お互いにたべっこしてて仲良しだね! 

 

 狂気に満ちてやがる…………知的生命体同士で争うのはやめろ! より良い世界を手に入れるために協力しろ! 同じ星に二種類も知的生命体が生まれ出でるなんて天文学的な確率だぞ! お前らが協力すれば──なんでドラゴンが知的生命体になってるんだ! 収斂進化如きでモンスターが人間に近づくわけないだろうが! どんな理屈だ! 

 そもそも、進化は100年じゃ進まねえ! 

 

『そういえば、起きたばかりの時は大きくなってましたけど──』

 

「いきなりだね!?」

 

『はい』

 

 はいじゃないが。

 

『さっきは興奮してたんですか?』

 

 なぜ俺たちは泉の中でこんな話を……? 

 もっと神秘的な会話しようよ、せっかくこんな場所にいるんだからサ。まあ、答えちゃうんだけど。

 

「男の子は朝起きるとああなってるんだよ、レム睡眠の時に勃起がどーのこーのって聞いたかな」

 

『レム? ってのは知らないですけど……お爺様はなってないですよ?』

 

「お兄さんは?」

 

『お兄様も……なってないですね』

 

「じゃあ種族的な違いじゃないか?」

 

『面白いですね!』

 

「確かに」

 

 実に面白い。

 ドラゴンは朝勃ちしないという、世界で一番どうでも良い雑学を手に入れてしまった。この知識が役に立つとしたらどこだろうか。少なくともドラゴン研究者なら喜びそうだ。

 泉から上がると、風が軽く通り抜けた。

 

『クシュッ!』

 

「寒いんだ」

 

『寒くないです! ただ、身体が震えてるだけです!』

 

「寒いんじゃん」

 

『ドラゴニアが寒さなんて感じるわけないじゃないですか!』

 

「でも、君は普通のドラゴンより脆そうだけど──」

 

『ていっ』

 

「いたっ」

 

『…………』

 

「…………」

 

『…………』

 

「……ごめんなさい」

 

『はい!』

 

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