【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
矮小な人間如きに警戒など必要ない!
「ワラワラと、人間みたいな集まり方しやがって……」
なんかいる〜と集まってきたドラゴン達。
みんな大きいこと!
俺が無害だと分かった瞬間にこれなのは、娯楽が少ないことの証左だろう。まだ醸成前の文化圏でありがちな珍しいもの見たさの集合。
黄金竜の背中に乗っているときと同じように、興味津々だ。
『ギャギィ……?』
「あー……言葉わかる?」
『ギャ、ギャッ?』
覗き込んできたメスドラは、おれが喋ったことに若干ビビっていた。どうやら言葉はわかるようだ。
おれは分からないのに、あっちは分かるのばっかりで本当に納得いかない。
メスドラは後ろにいたドラゴンにヒソヒソとなにかを話しかけている。
『ギャア……?』
「…………なにこれ」
『ギャッ』
デロンと差し出されたのは生肉。
目を見ると、悪意など全く感じられない100%の善意だけがそこにあった。きっと、野良犬にクッキーをあげる感覚なのだろう。しかし生肉は寄生虫やらウイルスやらがたくさんだ。
いくら探索者だと言っても、その知識がある状態で食べたいかと言われるとノーを紙で貼り出すしかない。
──しゃあねえな。
『…………』
『ギャッ! ギャッ!』
『──ギャギイ?』
『ピィイ』
『ブゥオブゥオ』
大変やかましゅうございます。周囲、360度を取り囲みますはドラゴン。肉を焼き始めたら先ほどよりも数を増やし、鼻を近づける。
目立つような道のど真ん中で焚き火を始めたわけじゃない。ちゃんと脇にどいて、周りに誰もいないことを確認した上で火をつけたぞ。それなのに、鼻聡く嗅ぎ付けたコイツらが寄ってきたんだ。
『あ、何してるんですか?』
「お肉焼いてる」
彼女がやってきた。騒ぎに釣られてやってきたようで、ドラゴンたちの足の間を俺のところまで辿り着いた。やっぱり彼女だけ姿が異質だな。自然界だと肉体が足りないやつは捨てられるって聞いたことあるけど、少なくともドラゴンに関してはそんな事ないんだな。
『……なんでですか?』
「肉渡されたから」
『普通に食べれば──あ、そっか。人間は生で食べないんですね?』
「生で食べるのか?」
『はい! 美味しいですよ!』
「俺はいいや」
『なんでですか?』
「生の肉には寄生虫や細菌がびっしりついてるからな。人間が食べると腹を壊したり病気になったりするんだよ。ドラゴンは免疫が強いから大丈夫なのかもしれないけど、俺は生で食いたいとは思わない。そもそも生だとそんなに美味しくないし」
『えー』
「昨日は湯を沸かしてくれたじゃん。なんで食材を熱しないんだ?」
『時間かかるじゃないですか……前に焼いた時、全然美味しくなかったし』
「…………お茶は? なんで知ってたんだ?」
『荒れ谷にいた人間の話を聞いてたんです。その時はなんか言ってるのを一応聞いてたので作れるかなーって思ったんですけど……』
「なんて言ってたの?」
『ミセで飲んだのが美味しかったって! どこにあるんでしょうか、ミセは……もしかしたら荒れ谷のどこかにあったのかな』
「…………店かあ!」
『え?』
「人間の生息地にしかないよ、店は」
『えー!』
「モノとモノを交換して成り立ってるんだ」
『おー! …………お〜? ……よく分からないですね」
やりとりをしている間に肉が焼けた。ドラゴンの味覚では肉とは焼いても美味しくないらしい。それはそれで仕方ない。
仕方ないけど……
「なんでこんなに集まってんだ!?」
『美味しそうな匂いがしてるからじゃないですか? 私も匂いに釣られてきました』
「いまさっき自分で言ったことを繰り返してみようか」
『まあまあ…………』
「何食べようとしてんだ!」
油断も隙もあったモノではない。言いながら手を伸ばして肉を掴もうとしたのではたき落とした。俺は昨日からまともに飯を食ってないんだから、俺が食べるに決まってるだろ。そもそも俺がもらった肉で、俺が焼いた肉だ。
『ギャア……』
「あ、さっきの」
『叔母さまがお肉をあげたんですね』
『ギャア』
「ありがとうございました。いただきまーす…………うん、美味い!」
見た目からしても鮮度は抜群だった。さっき解体したばかりくらいの生々しさで、筋肉がボコボコと動いていたからな。それでも、ドラゴンがベタベタと触ったモノを生で食うわけにはいかなかった。
焼いてみたところの味はとても牛に近い。しかし、俺の覚えている牛と違ってやや硬い気がする。これは何の肉だ?
『3本ツノですね』
「3本ツノ?」
『毛むくじゃらで、茶色で、頭にツノが生えてるんです』
それ、牛じゃない?
『私は勝てないですけど……叔母さまならたしかに狩れますよね』
叔母さま、10mくらいあるんだけど……この巨体じゃないと勝てない牛って何ですか?
ともかく──
「うめえわ」
『ギャアアア……』
『ビェェェェエエ!』
『ブゥオオオオ……』
やかましいし、汚い。
鳴き声だけじゃなくて、他の音も混じり始めた。具体的には、ボタボタと口から溢れた唾液が地面に落ちる音がね……中には特異な唾液を有している個体もいるようで、あたったところが発火したり帯電したりしている。
恐ろしい光景だ……!
「焼いた肉は美味しくないんだろ?」
『匂いが……いい感じで……』
「…………待て!!!」
『『『『!』』』』
手を翳す。
少なくともこれは俺が焼いた肉で、量も俺用だ。大きな塊をもらいはしたけど、ドラゴンが食べようと思ったら一瞬で──本当に一瞬で食い尽くしてしまうだろう。
そうはさせねえ!
「まず、おまえ!」
『私ですか?』
「いつもと同じ感じで肉焼いてみろ!」
『は────────ー』
言いながら炎を吐きかけ、残っていた生肉は地獄の業火に焼き尽くされた。後に残ったのは炭化して黒くなった残骸。ナイフで突いたところがボロボロと崩れ、食べるとか食べないとかそういう状態じゃないのがわかる。
「…………これ?」
『はい!』
「食べてみて?」
『…………べっ』
一口含んで吐き出した。
そりゃあそうだよねえ!?
『…………なんですか? 私のことを怒らせたいんですか?』
「俺の肉と比較してみ?」
『……色が違います』
「何でか分かるか?」
『さあ……そういう力ですか?』
「焼きすぎなんだよ」
『ええ? でもアレ以上弱くするのは……』
「お湯沸かす時みたいにしなよ」
『それだと全然焼けないですけど』
「せっかちか!」
直火で焼くのも悪くはないけど、火を噴きながら焼き加減を見るのは視界の状態も相まってかなり厳しいだろう。口元から火が出てるからな。
炎を身体能力の一部として活用できる種族だからこそ、肉を焼くってのは逆に難しいのかもしれない。強力な息吹はそれだけで対象を炭化させ、十分な攻撃・防衛手段として機能している。本質的には戦闘に用いるものだからこそ、加減をする意味があまりない。
相手を殺し切ることに特化したメインウェポンだ。
──じゃあ、焚き火でいいじゃん!
『お湯はまあ、沸かせますけど……あっちは時間かからないですから』
「肉だって変わらんだろ」
『うーん……正直、馴染みがないです』
「…………もういいから食え!」
『んぐっ………………!』
大きく見開かれた瞳に映るのは、今も赤く燃える上がる焚き火の炎。最初は驚きで固まっていた口元がだんだん激しく動くようになり、やがて咀嚼物は喉を下っていった。
「な?」
『…………』
「待てい!」
『あ、後一つだけ!』
「一つしか残ってねえだろ! ──っておまえらやめろお!」
押し寄せてきたドラゴンに残りの肉は食われましたとさ。
──────
「肉くらい自分たちで焼けってんだよ……」
『お爺様たちは繊細な作業はできないんです!』
「偉そうに言うことじゃないな」
俺は探索者だ。危険なモンスターやダンジョンに挑んで人類の生息圏を維持するのが職業。
そして大学生でもある。この世界で知識層を算出する唯一の機関であるそこで、永井准教授に弟子入りして未知の世界を探求するために活動している。
そんな俺が、人類初到達であろうドラゴンの隠れ里で何をやっているかと言えば──
『あ、いい匂いしてきました』
「まだ早い! 待ちなさい!」
『えー…………』
「だから摘み食いするんじゃねえ!」
『むふ』
次から次へと肉を焼いていた。
料理とすら呼べない。
本当に肉を焼いているだけだ。
バ火力一点特化のドラゴンには繊細な作業が向いていないらしい。自分で焼き始めた器用な奴もいるけど、大勢は苦手としていた。もちろん彼女は俺の焼いた肉をつまみ食いしている。
…………君も焼いてね?
『なるほふぉ、人間ってのはこういうふぉがとくひなんふぇふね』
「うん、せめて一回に口に入れるのは一つまでにしようか。しかも俺が焼いたやつ」
『さっき言ってたのってこういうことだったんでふね……一度味わってしまったらもう2度と前には戻れないって』
「そうだけどそうじゃないんだよなあ」
匂いに釣られたのはドラゴンたちだけじゃない。コマちゃんもだ。
体力は元に戻ったのか、調子良さげな顔をしている。姿も狛犬だ。
それでもドラゴンたちと比較するとだいぶ小さいけど……ドラゴンたちはコマちゃんを見て道を開けていた。それどころか、肉を食べるのをやめて静かにしている。
俺に対してのソレと態度が違いすぎないだろうか。
しかしコマちゃんにとっては知らん奴の態度などどうでもいいらしく、実際にした事といえば普通に道を歩いてきただけだ。
「コマちゃん、やっと元気になったか」
「わふ」
「食うか?」
「わふ」
肉を渡すと、少し離れたところでちまちまと食いちぎり始めた。まだ完全に調子が戻っているわけではないみたいだ。
『あの……!』
「なに」
『あの方って結局何なんですか……!?』
「今、お肉焼いてるんだけどああああああ」
肉が焼かれるだけの存在だと誰が言った。体液が可燃性のモンスターや、酸性のモンスターだってこの世には存在している。ドラゴンは一々そんなの考えずに狩って持ってくるので、焼き石の上に置いたらいきなり液を撒き散らして石を溶かすこともあるし、とめどなく燃え続けて炭になったりすることもあった。
今なんかは、肩を揺らされた拍子に箸があたった部分から爆発して煙が……!
「…………」
『…………ぷっ』
「何がおかしいんだよ」
『ふふ……だって、髪がもわーって!』
「──な、何だこの不思議現象!?」
髪がアフロのようになっていた。焦げてチリチリになってしまったのかと思えば、めちゃくちゃベタつく。どうやら油を主成分とした煙がひっついて、さらに爆風で髪の毛が巻き上げられてしまったらしい。
焦げてたら切らなきゃいけなかったから、それをしなくていいのは助かる。
……じゃあ、油はどうやって落とせばいいんだ?
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない