【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
『ふふ』
「うん?」
『すっごく楽しいです』
「そっか」
こちらを見ているわけではない。肉の加減を見させるために即席の箸を作って、その使い方を教えた。熱くないなどと言っていたけど、手でやると汚れるという反論には素直に頷いた。
今も下を向いて肉を突いているが、その横顔は本当に楽しそうで見ててこちらも嬉しくなるようなものだった。
『──カミサマの土地で拾ったイヌ……ですか』
「カミサマのことは知らない?」
『はい。探索者たちの会話の中で出てくることはありましたけど、どういうものかということまでは話がつながりませんでした』
このドラゴニアの少女、驚くべきことに探索者たちの会話を全て覚えていた。人間とは脳の作りが違うのか、凄まじい記憶能力だ。
『あと、イヌとはなんですか?』
「ありゃ」
『あの方──コマちゃんがイヌだというのはわかります。イヌとカミサマは同じ意味であってますか?』
「カミサマは特別な力を持ってて、俺たちや君たちみたいな存在だと敵わない相手だ。そんでイヌってのはドラゴニアや人間みたいに、生物の種族を表す名前の一種だよ」
『へー』
目とか網とかあったと思うけど、生憎俺はそういうのには疎い。深く話題に突っ込まれると苦しいので、そこで納得していただきたい。
『イヌというのはコマちゃんのようなチカラを兼ね備えているのが普通なのですか?』
「いいや、コマちゃんは特別だな。普通はただの四足歩行の動物でしかないから」
『ふーん……ちなみにコマちゃんとはどういう関係なんですか?』
「関係? ペットと飼い主」
『ペット……人間ってペットになるんですね』
「?」
『ペットと飼い主は信頼し合う関係って聞きました!』
イヌは知らないけどペットと飼い主の概念は知ってるなんて、探索者の話しか聞いてないから偏った知識になっちまうんだな。あと、俺がペットってどんな勘違いだよ。拾ったっつってんだろ。
「コマちゃんがペットだよ」
『あはっは!』
「え?」
『あはっはっはっは!』
「癖強すぎ……ドラゴニア漫才やめて?」
『いやいや……どう見てもコマちゃんの方が上じゃないですか!』
m9(^Д^)プギャー
と、俺のことをあまりにも馬鹿にした態度。
さきほど爆発した肉の破片を口の中へぶち込んだ。
『うえええ……』
「ほら、俺って結構プライドとか大事にするタイプだからさ」
『口の中がまじぇすてぃ』
『ぎゅいい』
『ぴー』
『……ありがとう』
大丈夫ぅ? というような感じで彼女の顔を覗き込む、幼ドラゴンたち。彼女にとっては姉妹兄弟も同然なのだろう。笑顔を浮かべて全身で抱きしめると、腕を動かして撫でた。
『ぎー!』
『ぴー!』
『ぶぉーん!』
お姉ちゃんをいじめるなー! ><
そんな顔で立ちはだかる。
自らに非がないことを子供に対して理解させるのは、多大な労力が必要な割には実らないことが多い。つまり、無駄だろう。ここは悪者になるしかあるまい。
「ぐははは! 貴様らもこの肉を食ってみるかあ!」
『ギャアアアアア!』
『ピェェェ!?』
蜘蛛の子を散らすように逃げていった子ら。本当に、姿以外を見れば人間と何にも変わらなかった。
『子供の扱いが慣れてるんですね』
「まあな」
『……ちなみにあの肉は本当に不味かったんですけど』
「知ってる」
『生肉って……あんま。美味しくないんですね』
「おいおい、自分たちの文化を否定すんなよ。いいじゃん、これからも生食で。強い歯と胃をもってるんだからわざわざ時間かける必要ないって!」
『…………分かってて言ってますよね?』
「まあな」
里の至る所でドラゴンたちが集って口を動かしていた。その中には黄金竜もいる。焼いている最中にやってきて一塊持っていった。彼には運んでもらったお礼があるので、もう少し渡してもいいくらいだった。だけど、結局子供達が彼のところに集まって肉を齧りとって行くのであまり意味はないのかもしれない。
『──どこへ行くんですか?』
「ひとまずは、この坂がどこへつながっているかを確かめようかなって」
『食べないんでふか』
「もちろん食いながら、だ」
自分で食べる分くらい、確保しているに決まっている。それに焼いている最中も味見を兼ねて口に入れたりしていたので、なんだかんだで足りるはずだ。
しかし、ここでの食事が肉メインになってしまうと栄養が偏ってあまり良くないな。俺は食事にはうるさいんだ。
『ここの何が気になるんですか?』
「全てだ」
『?』
「全て」
知的生命体が営みを行う場所において、魔素がどのような挙動を起こすのか。
旧時代の存在である人間であれば、どこかに存在する閾値を超えた活動が行われるとダンジョン化やモンスターの出現を引き起こす。倉庫であれば守護者の出現や、内部の資材がモンスターと化す。工場などがあると、機械ベースのモンスターが活動を始める。
しかし、新たな時代の存在であるドラゴニア。生まれた時から魔素に馴染んだ肉体を持っている強者である彼らの里──定義上は、ここはすでにダンジョンであると言っていい。なぜならドラゴニア──ドラゴンとはモンスターであり、彼らが生息している以上はダンジョンなのだから。
彼らが知的活動をすることは何を引き起こすだろう。
ダンジョンのダンジョン化? それともドラゴンがさらに別のモンスターへと進化するのか?
──それとも、何も起きないのか。
ドラゴニアという文明は、そのレベルとしては彼女を除いて原始時代と変わりない。力のみを掟として、狩猟による食い扶持の確保が行われている。
彼女はきっと転換点なのだ。
力だけだった彼らが、知恵を生かして生きる時代がやってきた。この世に現れてわずか100年で進化をするなど人類の歴史からすればあり得ないことだけど、俺のあり得ないはこの世界においてはあり得ることだ。
「君たちの全てがきっと、俺を押し上げてくれる」
『……よくわからないです』
「そうだろうな」
まだ仮定の仮定、ぐらいの話だ。
彼らの環境が特殊であるのならば。
神を必要としない環境が用意されているのならば。
その環境が他の場所でも再現できるのならば。
俺はそれを解き明かしたい。
──坂道は続き、やがて小山の上に辿り着いた。切り立った崖が終端にあり、その先には。
「…………凄まじいな」
『ふふ』
「これは……何の痕なんだ?」
巨大なクレーターがそこには存在した。
ただのクレーターじゃない。
黄金の塊がそこら中から突き立ち、水が底に溜まっている。しかも、何かで地面をまっすぐに切り開いていったような痕跡まであった。
『これは、お爺様たちが戦った痕だそうです』
「…………君が生まれる前の話か?」
『赤ちゃんの頃だそうです!』
「どうしたらこんなことになるんだ?」
『お爺様と、お爺様のお兄様が戦って』
「……あの黄金はお爺様のものかな」
『はい』
「で、水がお爺様のお兄様?」
『はい!』
おほっやっべ、これ逝くわ(戦ったら)。
「荒れ谷のヌシとどっちが強いの?」
『ふふ、それはもう当然……お爺様ですよ』
絶対勝てないわ。
雰囲気で理解してはいたけど、改めて言葉にされると無理なんだなあって。肉をくれたおばさまだって俺より強いかもしれないし、ここは魔境じゃあ!
「お爺様は黄金を操るのか」
『はい! 最初はドロドロしてるんですけど、固まると離れないんです!』
「……そりゃあ黄金だな」
『はい! 重いんです!』
黄金だなあ。
『これがあるおかげで、弱いのに威勢だけは良いモンスター達が近寄って来ないんです』
「…………?」
『匂いませんか? お爺様達の匂い』
「全然」
『……ほら、こことか特に強いですよ』
自然の匂いしかしない。彼女から微妙に花の香りはするけど……お爺様達の匂いってなんだ? 加齢臭? 彼女は何を言っているんだ?
『もしかして、鼻が悪いんですか?』
「悪いっていうか普通っていうか……人間はこれくらいだから」
探索者だとしても、異能でも無い限りは嗅覚の鋭さが数百万倍になるわけじゃない。あくまで人間の規格を超えているだけで、そもそもお爺様達が戦ったのって相当前だろうし、そんな残り香を俺が判別できるわけがない。
『じゃあ私の匂いもわからないんですか?』
「一応分かる気はするけど……花の匂いであってる?」
『おっ! そうです!』
「それは何、洗剤かなにか? 石鹸?」
『?』
「良い匂いだけど、誰かに作り方を習ったの?」
『…………』
確か、石鹸作るにはアルカリ性の物質が必要だったはずだ。調質を間違えれば痛みもなく肌がデロンデロンに溶けてしまう事故が起きる。
『なるほど……』
「うん?」
『それは、交尾してくれって人間なりの合図ですね?』
「おおおおお!? な、何を言い出すかと思えば何を言い出しちゃってんだ!?」
『え? ……そうでもなければ匂いをいきなり褒めたりしないですよね?』
「石鹸褒めてもそっちの話にはつながらないぞ!? ……いや、場合によってはあるけど今は違う!」
『そもそも石鹸なんて知らないです』
「じゃあ、素でその匂いが?」
『はい! お爺様にもよく褒められます!』
「あー……まあ、とにかく俺はそういうのじゃないから。すでに女の子と付き合ってるし」
『付き合う? よくわかんないですけど、子供はたくさん作った方がいいですよ』
強大なドラゴンによって守られた土地。レベル50の探索者ですら容易には辿り着けず、彼女の呼び声があってやっと場所を見つけることができ、さらに黄金竜に認められた上でないと生きて中に入ることはできない。
穏やかに暮らすドラゴニア達が住んでいて、その中に1人だけ異形(ドラゴン的に)が混じっている。
こんなの、信じろって方が無理だな。
到達の再現性が低すぎる。
「子供は……まあ、そうだな」
『いつ殺されるかわかりませんからね! お母さんも探索者に殺されました!』
「…………」
『あ、別に責めようとか思ってないですよ!? 私たちだって人間を殺すのでおあいこです!』
「はは、そうだな」
会話の内容はあまりにも物騒だが、雰囲気は別にそんなことない。彼女は本当に、同じ形の相手と話すのが楽しくて仕方がないのだ。物騒なのも戦闘民族らしいといえばらしい。
『……あ!』
「?」
『そういえば、名前を聞いてなかった!』
「ああ……別に何でもいいよ。君だって名前無いんだから、こっちだけ名乗るのも変な感じだしね」
『いいえ! 教えてください! 記念すべき初人間の名前を知らないのって勿体無いですから!』
探索者達の話を聞いているのだから、名前だって聞いたことがあるだろうに……それでも、俺の名前を聞いてくれるのならば。
「──カガミアキヒロだ」
『カガミアキヒロですね!』
「カガミとアキヒロで分けられる。カガミってのは一族の名前で、アキヒロが俺個人の名前だ」
『ではアキヒロと呼ぶのが正しいですね!』
「うん」
『これが名前……ふふ、変ですね』
「変か?」
『私たちは基本的に匂いでお互いを判別するのです』
「ふーん」
──影。
「!」
突然に舞い降りた黄金竜は俺たちではなくクレーターの方を見つめ、懐かしげに目を細めた。一歩二歩と歩みを進め、地面に浅く残る足跡が体重を物語る。
『お爺様!』
『ブン』
『え!? ……アキヒロ! お肉が足りてないそうですよ!』
「あ、そうなんだ…………何で見るの?」
『焼きに行かないと!』
「そうなんだ」
器用なだけあって、すでに肉を焼く要員として求められるようになったらしい。木彫りとかできるんだからそりゃあできるよな。
『あなたが行くんですよ!』
「俺!?」
『ブン』
『ほら、お爺様も言ってますよ!』
「なんて!? なんて言ってんの!?」
『ここにいるならば働けって!』
「観光客扱いしてくれないんだ……」
夜まで、肉を焼いたり作って欲しいと言われたものを作ったりと忙しい一日を過ごした。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない