【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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169_黄金のハンマー

 

「いやあ……ここは面白いな」

 

 働きまくった。

 探索者としての仕事というよりも家政婦とか日曜大工みたいな感じだったけど、ある意味では新鮮な経験を得ることができた。どうやら、ここには客人という概念は基本的には無いらしい。彼女は一応もてなしてくれたけど、それは彼女が特殊なだけなのかもしれない。

 

『人間は気に入ってくれますかね?』

 

「うん。だって俺が人間だし」

 

『でもほら、アキヒロはちょっと変じゃないですか』

 

「なんてことを言うんだ」

 

 再びやってきたのは彼女の庵。ここはどうやら彼女の家として機能しているようだ。確かに、彼女の体躯でドラゴン達の洞窟を利用するのは広すぎて落ち着かないかもしれない。

 寝るにあたっては、昨日と同じく中を貸してもらえるらしい。土間だから外とあんまり変わらないけど、雨風が凌げるのでテントを立てる手間は省ける。

 もう少し壁とかしっかりしてくれればベストだ。

 

『アキヒロってあの3人を見逃したましたけど、あの3人とまた戦うってなったらどうするんですか?』

 

「状況によるとしか……」

 

『あの時と同じだったら?』

 

「救いようがないから6:4くらいで殺すかも」

 

『優しい〜』

 

 煽りか? 

 

『…………人間って、なんで仲間内で殺し合うんですか? 序列がちゃんと決まってないんですか?』

 

「序列? …………ああ、なるほど。人間はそこまでガチガチに序列で物事は決めないんだよ。もちろん決める時もあるけど、完全服従なんてのは基本的にあり得ない。だから、やりくないって気持ちが強くなると喧嘩になるな」

 

『それは一緒ですけど……殺すのはやりすぎだっていつも思うんです』

 

「無いの? 殺し合い」

 

『私は無いです』

 

「というか、君は喧嘩とかするの?」

 

『するに決まってるじゃないですか』

 

「その割には傷とか無いけど……」

 

『すぐ治りますから』

 

 彼女、身体小さいのにドラゴン達とどうやって喧嘩するんだ……

 

『背中に乗って、こう……鱗をひっぺがしてやるんです!』

 

「痛い痛い」

 

 想像しただけで痛い。

 鱗は肉に直接付いているものだ。それを剥がすというのは人間からしてみれば爪を剥がされるようなものだろう。喧嘩で爪剥がすか? 

 

『私が狩りをしてたら、横から獲物掻っ攫ったりするんですよ!? 紫色の鱗のやつなんですけど……お爺様もあんまり止めてくれないし、本当に嫌い!』

 

 やはり仲間内でも好き嫌いはあるらしい。

 

『……ところで、そのネブクロでしたっけ?』

 

「うん」

 

『私も使ってみたいんですけど』

 

「まずは風呂に入ってからだな」

 

『フロ……それもまた私が知らないやつですね、入るってことは建物?』

 

「お湯に入るってことだよ」

 

『お湯に入る? お茶になるってことですか?』

 

「加賀美茶かあ」

 

 俺たちは今、汚い。

 汗と脂に塗れている。

 熱されて気体になり空中を漂った脂は、付着した先の俺たちの体温で固体に戻る。手先も勿論だけど、髪や耳、服にべったりとだ。

 彼女も朝より肌がテカテカしている。

 

『便利ですね、これ』

 

 光源として生きているのはライト。暗いのでリュックから出した。彼らは炎を操る能力はあるが、光源としての炎に関してはそもそも馴染みがない。松明すらなく、夜は暗闇の中で生活しているようだった。

 星明かりさえあれば見えるということだろうが、ライトがあるのとないのでは見えるものの鮮明度が雲泥の差だ。

 

『すごーい』

 

 ベタベタと触り、ガラス部に指の跡がついてしまった。せめて風呂に入ってからにしてほしかったな。

 

「身体が汚れたらどうしてるんだ?」

 

『どうって……朝もしたじゃないですか。水浴びとかですよ』

 

「脂は落ちないだろ、疎水性だから」

 

『燃やせば消えますし、時間が経てば関係ありません!』

 

 その衛生観念でよくもまあこんな良い匂いを保てるな。

 

『……もしかして、人間はフロに入って落としてるんですか?』

 

「おっ! そうそう、よく分かったな」

 

『ふふふ』

 

 

 ──────

 

 

「土を掘って」

 

『はい』

 

「水を溜めて」

 

『はい』

 

「石を熱する」

 

『は────ー』

 

「そしたら水に放り込んで」

 

『はい』

 

「待つ!」

 

『…………アキヒロ、何もしてないですよ』

 

「ああ!」

 

 土を掘ったのも水を汲んだのも石を温めたのも全部彼女だ。楽ちん楽ちん。

 

「そろそろいいかな」

 

『……』

 

「入りますか」

 

『…………』

 

「そんな恨めしそうな顔すんなよ。俺がやってもそっちが覚えられねえだろ」

 

『覚えられますから!』

 

 適温なことを確かめてから、服を脱ぎ捨てて浸かった慣れた感覚にニヤケが出る。

 

『聞いてますか!?』

 

「入りなよ」

 

 女の子の前で躊躇なく裸になるのはどうなんだと聞かれたら確かにそうなんだけど、相手はドラゴニアだからな。特に何とも思わない。

 彼女も布を脱ぎ捨てると、ちょんと足先をつけた。

 

『これに入るんですかあ?』

 

「熱すぎた?」

 

 体感では43°くらいだ。

 戦闘時は熱に対する抵抗なんかも上がるけど、普段は普通だからな。ギアを上げさえしなければ人間としての感覚が死ななくて非常に助かる。

 彼女にとってはもしかしたらヌルすぎるのかもしれない。そうしたらもう一つ作ってもらわないとな。

 俺はこの温度がいい。

 

『…………入ります』

 

「どうぞ」

 

 そろそろと足先から下ろし、指が触れるとビクッと震える。入ろうとするたびに震えて、指を戻す。

 

『炎なんか別に熱くないのに……』

 

「一気に入ったほうがいいぞ」

 

『…………てりゃっ』

 

「おぶっ」

 

 一気とは言ったけど、ヒップドロップで入れとは言ってない。

 全身が浸かると、何かに耐えるように目を瞑り声を漏らす。

 

『あ゛あ゛〜…………』

 

「ふはっ」

 

 熱が染み渡る感覚に耐える様子は、まさに銭湯のおっさんだった。

 

『良いものですね』

 

「だろ?」

 

 パシャパシャとお湯を髪にかけると、脂で絡まっていたのがだんだんと解けていく。これでシャンプーがあればもっと良かったけど、それは無い物ねだりだ。

 彼女はお湯に浸かる感覚を楽しんでいたが、暫くすると距離をグッと詰めてきた。顔のテカリも消えている。何度も顔を洗っていたから、やはり脂が気になっていたのだろう。

 隣に腰を下ろした彼女は、空を見上げた。

 遠くから聞こえるゴロゴロという音は、あることを告げている。

 

『人間はこういうものをいっぱい知ってるんですか?』

 

「そうだな」

 

『いいなあ』

 

「人間は弱いから、知識を溜めることで数を増やしてきたんだよ」

 

『弱いから増やせた…………』

 

「そうだな。弱いからこそ増やせたんだ」

 

『私たちは……強いです』

 

「うん」

 

 少なくとも、個々の平均的な強さで比較すれば圧倒的な開きがあるだろう。

 

『強い私たちは、増やせないのでしょうか? 人間と同じように、いろいろなものを作り出せないのでしょうか?』

 

「それは君たち次第だ」

 

『私たち次第?』

 

「君たちドラゴニアが何を指針として生きていくかによって大きく変わる」

 

 人類が数を増やしたのは、農耕という概念が取り込まれたからだ。この土地においては農耕などなくとも食事の供給が安定しているのかもしれない。しかし、それも現段階の話──数が増えていけば限界はやがて訪れる。

 わかりやすい話をすると、獲物の数よりもドラゴニアの個体数が多くなれば維持は不可能だ。勿論、そのずっと前に限界は来るだろうが、猶予はある。

 

『…………難しい話ですね』

 

「たったの100年で俺たちに追いつこうなんてのは、無理だよ。特に、強い種族であるほどね」

 

『──』

 

「おっとお?」

 

 俺の肩に触れ、何かを確かめるように指圧する。顔を触り、髪を触り、手を触り──きっと夜にも同じようにしていたのだろう。

 

「楽しい?」

 

『……』

 

 気の済むまで触らせておくことにした。

 流石に局部は遠慮させてもらったが、それ以外のところは満遍なく。揉んだり嗅いだり、ABCのAをすっ飛ばしてBだけやってるみたいな状態になった。

 ただまあ、彼女にそういった意図はないだろう。俺もコマちゃんのことは吸ったり揉んだりしてるので似たようなもんだな。

 

『はわあ』

 

「だからいい加減に上がれって言ったのに……」

 

 ドラゴンものぼせるようだ。

 風呂を出ろと言っても、考えことがしたいとか言っていつまでも浸かっているからこんなことになるんだ。

 

『ブン』

 

「のぼせちゃったみたいで」

 

『?』

 

「お湯に入って──」

 

 のぼせたというところの説明をしたら、俺たちがさっきまで入っていた湯を指先でツンツンし始めた。

 

「ちょっとぬるいかもしれないので、ドラゴニアがやる時はもう少し高めの温度でいいかもしれないですね。彼女は俺と同じ温度でも満足してくれましたけど……」

 

『ブン』

 

「おやすみなさい」

 

 寝袋で寝てみたいと言った彼女は要望通り寝袋の中に放り込んで、俺は彼女が作ったと思しきベッドもどきに横たわる。恐らくはお爺様からベッドという存在について教えてもらって作ったのだろう。羽毛やら毛やらが雑に積み重ねられただけのそれは、意外なことに虫はいなかったが寝心地は良くなかった。

 

「ベッドも……もうちょい改良できそうだけどな」

 

『すぴぃ』

 

 出会って2日目の女の子の寝顔を覗き込むほど気持ち悪い性格はしてないが、寝息からして穏やかに眠れているようだった。

 

『──これ、すごいです。ベッドよりもちゃんと寝られました!』

 

「そもそもこのベッドがあまり良くないと思う」

 

『……そ、そうですよね』

 

 ドヨーンとした空気を纏う彼女に、一つの提案をした。

 それを聞くと、寝起きにも関わらず強い意志で頷いた。

 

『やります』

 

「俺もこういうのに詳しいわけじゃないから、そこは許してくれ」

 

 そこからまず行ったのは、木を切り倒す作業だ。

 

『その刃物……やっぱり凄い力を感じます』

 

「まあな」

 

『それ持ってる時はみんなにあんまり近づかないで下さい。きっとみんなパニックになります』

 

「分かった」

 

 彼女はそう言うが、作業中はドラゴン達の方から寄ってくる。俺が何をやっているのかが気になって仕方ないらしく、特に子ドラゴンがたくさん。その度に一々手を止めていては作業が進まないので、逆に魔剣をかざしたのだが、別に何の反応もなかった。どうやら彼女が先端恐怖症な上に敏感なだけで、黄金竜を除けば気にならないようだ。

 

『えー……』

 

 自分がおかしいだけというあまり知りたくなかった事実にショックを受けつつ、目的のために手を動かす。言った通りに枝葉までは落としてもらって、魔剣でスライスしていく。

 流石に木では抵抗などなく通り抜けていくので、加工も容易だ。豆腐みたいに切っていくのを見ると脳みそがバグる。

 

『すっごい切れ味』

 

「だろ?」

 

 ぶっちゃけうろ覚えだけど、多分支柱と横材と板があれば足りるだろ。あとは釘があればいいので──

 

『ブン……?』

 

「黄金をこの形に出して欲しくて」

 

『ブン……』

 

 めちゃくちゃ律儀なお爺様だ。可愛い孫のためなら、本来敵であるはずの俺の言うことも聞いてくれる。

 それに、さすがの年季。

 黄金を精密に扱うこともできた。

 

「おお、釘だ……」

 

 ついでにハンマーの頭の部分も作ってもらって、木の棒で適当に固定した。本当は鉄でやってもらいたかったけど、どこにもないものをどうにかすることはできない。

 今回限りならこれでいいよな。

 

『ブン?』

 

「これをこうするんですよ」

 

『……』

 

 打ち込むたびに釘もハンマーも両方とも変形していく。やっぱり純金だと柔らかくて扱いづらいな。

 それでも、30分ぐらいかけて何とか全部の釘を最後まで打ち込むと形はできた。

 

「不恰好すぎてドワーフとかには見られたくないけど……まあうん、これでいいよな」

 

 不安なのは釘の耐久性だけど、支えるのは木の方で釘はぶれどめみたいな役割なので多分大丈夫だろう。

 それに、後々駄目になったら別の素材でやって貰えばいい。彼女は最後まで見てたからわかるはずだ。

 

「あとはあれだな」

 

 毛皮を大量に集める。

 ドラゴン達が食べるために捕まえたモンスターやら獣やらの皮は基本的に燃やして終わりだけど、その一部をもらった。流石ドラゴン、とんでもない量が集まったぜ。

 というか……こんなにいらねえ! 

 こびりついた肉やら脂やらを落とし、灰を混ぜた水で洗ってから遠火で乾かす。本職に任せればもっと丁寧にやってもらえるんだろうけど、これが限界。

 

 モンスターの皮は脂肪を抜きにしても分厚くて頑丈だから、数枚重ねれば十分なクッション材になる。それを板の上に載せた。

 

『おお〜……』

 

 その上に飛び込むと、嬉しそうに顔を埋める。

 結局、最終的な完成までは何度か日を跨ぐことになってしまった。毛皮を乾かすのが一番時間かかったな。木はスルスル切れるので、あんまり労力をかけてない。

 

「これで前のベッドの方が良かったら俺は日曜大工を引退する」

 

『良いですよこれ! アキヒロも寝てみてください!』

 

「じゃあ失礼して…………確かに意外とできてるな」

 

 満足感よりも安堵の方が大きかった。1週間かけてゴミをつくりました! 何てことになってたらどんな顔をしていれば良かったのかわからない。

 

『マクラもいいですね!』

 

 毛皮を縫った袋に、炒った木の実の殻をぶち込んで作っておいた。縫製用の糸は俺の服を一部ほどいた。流石に、蜘蛛の糸や植物を裂いた繊維でってのは無理だった。本当は敷布団部分も毛皮の中に羽毛を入れたかったんだけど、それやると俺の服が大分なくなるからやめといた。やり方は教えたので許してもろて。

 

『柔らかいし、良い感じですよ!』

 

「良かった……」

 

 作ってる期間はずっと俺の寝袋で寝てたもんね。

 そんで俺は君のベッドで寝てたもんね。

 

『せっかく作ってくれたんだから、アキヒロも寝てくださいよ』

 

「汗かいたから嫌だ」

 

『そしたらお風呂です?』

 

「うん」

 

 お風呂の形もそのうち変わっていくだろう。地面に穴を掘って──という今のスタイルは面倒臭いという欠点がある。せめて浴槽に代わるものを作ることができれば、もう少し気分よく入れるはずだ。

 

『そんな都合のいいものがあるんですか?』

 

「あるけど、俺は作り方とか知らないし」

 

 セラミックとか何で作るんだろうな。

 ケイ素だっけ? 忘れたわ。

 

『もしかして、人間の住んでる場所に行けばそういうのも学べるんですか?』

 

「……いや、無理だな」

 

 化学が発展してないから、セラミックはこの世界には無い。遺跡ダンジョンからは様々なものが算出するらしいけど、風呂がピンポイントで出てくるわけもないし、俺はそもそもあそこには興味ない。

 俺たちの風呂は職人が不思議パワーで作ってくれるので、正直何でできているかわからない。ガラス質っぽくはある。

 

『知りたいなあ』

 

「そこら辺は何とかしてくれ」

 

 千年ぐらいかければ自力で追いつけるんじゃないか? ドラゴニアの基礎スペックは人間よりも高そうだし、あとは彼女のような人型ドラゴニアが増えるのを待つしかないな。進化の方向が人間と同じになるように。

 弱くなって、知恵を手に入れられるように。

 

『えー!?』

 

 がんばれ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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