【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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171_蟹系男子

 

『――帰っていいですよ!』

 

「あ、はい。帰ります」

 

コマちゃんとの話を終えるとそんなことを口走った。しかも満面の笑みだ。

お前の名前は今日から笑みちゃんだな。

冗談は置いといて、全部リュックに詰めてさようなら〜。とても興味深い場所だった。今度来た時には牧場を作っておいてくれると嬉しいな!

 

何で心変わりしたかなんてどうでもいい。どうせコマちゃんがなんか言ったに決まっているんだ。

それよりも、俺は急いで帰らなきゃいけない。

 

「雷やべーい」

 

そう、季節が変わっているのだ。アリサの受験も完全に終わって、家にたどり着く頃にはどの大学に入るのか決まっている。雷鳴の中で入学式が行われ、雷鳴の中で新たな生活を迎えることになるのだ。アリサは同じ大学に来たいって言ってたから、何もなければキャンパスライフを一緒に楽しむことになる。

入学金?とかいうのはちょっとよく分かんないけど手が滑って金が振り込まれるかもしれない。アリサのご両親は一般家庭だからな、大学に入るための金など持ち合わせているはずがないのだ。

アリサと同じ学校に通う……ワクワクしてきたな!

 

『また会いましょう』

 

「ああ、元気でな」

 

あっさりと。

そう、あっさりと俺はドラゴニアの隠れ里を発った。ドワーフもそうだけど、人類の生息圏であるにもかかわらず新たな種族が生まれすぎだろ。モンスターだけじゃ足りないってか?

知的生命体がこうもぽんぽん生まれるようじゃあ、生命の神秘も宇宙の軌跡も形無しだ。

 

『ブン』

 

「わふ」

 

『……ブン?』

 

「わふっ、わうわう」

 

黄金竜の背で過ごす旅。行きとは違って消耗のない俺たちは、変わらぬ風圧に晒されても体幹を崩す事はない。ドラゴニア達が持ってくる肉はクセのあるものや危険性を持つものが多かったが、滋養強壮という面から見れば非常に効果が高かった。おかげで十分な休息を取る事ができたみたいだ。

 

『ブーン』

 

「わふぅ……」

 

2匹はいつのまにか意気投合していたようで、背中に載る載せるの関係ではあるものの盛んに話している。あんたら里ではそんなに話さなかったのに、外に出た途端に元気だね。

 

「わふ」

 

『ブン!』

 

「音圧ぅ!」

 

樹上回廊を超え、霧に満ちた森との境目。外界とこの一帯を隔離しているであろう結界のところまで連れてきてもらった。ここまでしてもらえるなら俺としてもまた来る気になりますよ。行き道――樹上回廊では天候に殺されるところだったから余計に。

 

「わう?」

 

『ブン……ブンブンブブン』

 

別れ際、2匹は何かをやりとりしていた。俺がコマちゃんの言葉を聞き取れるか否かはコマちゃん次第なので、シャットアウトされてしまうと何喋ってるか全くわからない。

ともかく、色々とお礼を言った上で気持ちよく別れたのは確かだ。優雅に空を飛ぶ巨大な背を見つめた後、俺たちは霧を抜けて164セクター跡地に戻ってきた。

 

「――もうあれだな、雷しか聞こえねえ」

 

鳴り続ける雷。例のドラゴンは空には見えない。一応セクターを周ってみたが、やはりそれらしき影は見当たらなかった。

ホッとしたような残念なような。

 

「これがあるから別に倒す必要はない……よな……?」

 

土産に渡されたのは黄金竜をはじめとした里の竜の鱗。彼女は鱗をほぼ持たないので、代わりに髪を少し切ってくれた。

これのうちの一枚を見せれば、討伐証明としては十分だろう。十分かなあ…………うん、やっぱりこれは見せられないな。

 

俺はドラゴン討伐の届出を出してここにきている。依頼云々ではなく、自主的な出張という事だ。届出をするって事は倒してきますよって遠回しに言ってるわけで、手ぶらで帰ったら結構アレな目で見られるはずだ。

……まあいっか。

 

 

――――――

 

 

「あれ珍しい。失敗したんだ」

 

「ええまあ、想定以上のが出てきましてね」

 

「ふーん?」

 

帰ってきました、我らが第32セクター。届出に際しては報告はいらない。あくまで帰還報告をするというのが手続き上の必要事項になっている。だけど、受付と親交があるとこうして話が深まっていく。

大抵はよくない方向に。

なにせ相手は方目さんだ。

 

「たまには手ぶらで帰ってくるのもいいでしょう?」

 

「………なんか変な気がする」

 

「なにが?」

 

「そういう時は腕を切り落とされてでも倒すのが加賀美くんだよね」

 

「いやいや、俺は無理と無茶は間違えないので」

 

「いーや!加賀美くんは腕を切り落とすよ!」

 

「蟹かよ」

 

「――ねえアオイちゃんはどう思う?」

 

何故かツノダさんに話が飛んでった。彼女は新人だから俺たちみたいな若者を相手に受付をしているわけだけど、俺だけはあんまり絡みがないんだよな。

 

「加賀美くんはほら、ぶっちゃけ誰が受付でも全く気にしないでしょ」

 

「まあ、はい」

 

「だからしょうがないね」

 

探索者は水商売だ。金も欲も流れるように動き、次から次へと人員が変わる。我慢しない奴らだから、受付の相手が男だったりすると露骨に態度が悪くなったりするのだ。

あまりにもひどいと叩き出されるけど、ちょっとだと受付に我慢しろというのが時勢というか……

 

「加賀美くんは誰でもいいんだもんね」

 

「だからそうですって」

 

多くの探索者は3級で止まる。ある程度以上は肉体が進化しなくなるからだ。そもそも肉体が進化するというのもどういう理屈か分からないし判明してないけど、レベルが上がるほど進化しやすくなるという事はわかっている。つまり比較的低レベルの探索者が多くて、そういった人間は腐りやすい。より一層扱いに気をつけないといつ爆発するかわからない。

それでも、ツノダさんみたいな子供相手に爆発するような奴は探索者の中でもカーストが下として見られる。だから、下級の探索者にあてがうのは女で若い子が最適ってわけだ。

 

「あーあ!方目さんがいい、方目さん最高って言ってくれたらサービスしてあげたのになー」

 

「角田さんは俺のことどう思ってるの?」

 

「無視しないで?泣いちゃうからね私」

 

ツノダさんはうーんとアヒル口を作ると方目さんに笑顔を向けた。俺じゃなくて。

その顔を翻して俺に向けると満面の笑みが、あら可愛い。

 

「先輩からは、いい人だって聞いてます!」

 

「へえ」

 

「他の探索者に比べると少し変に見えるかもしれないけど、真面目で善良な人だって!」

 

「ふーん……へえ〜……」

 

「困ったことがあったら頼れって!」

 

「ふー……ん?え?ん?」

 

「だから……まだ、ちょっと私は分からないですけど……いい人なんだろうなって思ってます」

 

「あ、ありがとう……」

 

褒められて嬉しい気持ちは山々だけど、方目さん第2号が爆誕する可能性があるってこと?そんなことになったらこのセクターは終わりなのでは?

 

「ねえ、恥ずかしがるタイミングかなって思ったのに何で微妙そうな顔してるの?私は結構恥ずかしかったんだけど」

 

「あんまり若い子に変なこと吹き込まないでもらっていいであだっ………」

 

「あ――」

 

パリン、と特徴的な音。硬く脆いガラスが頑丈なものに当たって割れる音だ。

今回は俺の頭だった。

 

「結局、ホラじゃねーか」

 

「………」

 

投げたのは当然探索者。赤い顔で、机の上に片足を乗せて立ち上がっている。敵意剥き出しの顔で俺を見ているのは一体何故なのか、考えずともわかっていた。

 

「なーにがレベル50だ。適当こきやがって」

 

「嫉妬は醜いぞ」

 

「けっ!嫉妬するまでもねえや!あれだろ、金詰んで登録情報変えてもらってんだろ!」

 

「………」

 

「言い返せねえって事は図星なんじゃねえか!それみろお前ら!いきなりレベル50に上がってまともでいられるわけがねえんだ!嘘なんだよ!」

 

そういう噂が立ち上がっていることは何となく理解していたけど、それを直接にぶつけられるとは思わなかった。だけどレベル52というのは自己申告じゃなくてレベル測定で出てた結果なので、否定するなら商工会という権威そのものを否定することになる。

方目さんも、流石にレベルを嘘呼ばわりされると仕事に支障が出ると判断したのか口を開いた。

 

「加賀美さんのレベルは私たちが測定したもので、彼が勝手に主張しているものじゃありません。むしろ彼は前の通りのレベルなんじゃないかと複数回の測定を希望しました」

 

当たり前である。仮にレベル測定が間違ってて、そのレベルに基づいた難易度の業務を受注してしまったら、死は確実だ。

 

「そんなわけねえだろうが!そもそも、どうやったらそんないきなりレベルが上がるってんだ!おかしいだろうが!高レベルの探索者にでも頼んだんか!?あ!?」

 

「……外部委託によるレベル上げは推奨されていませんし、そういった事実も確認されていません」

 

「記憶喪失とか何とか言ってたじゃねえか!」

 

「そこは彼個人の話なので何とも……ただ、外部委託の事実は確認されていないとだけ」

 

明言はしてないけど、内部的に調査が入ったのだろう。俺が日向の実家に行った時に高レベル探索者と出会ったような履歴が残っているのか、ダンジョンに出入りしていた探索者はいるか。

本当に記憶喪失なので覚えてないけど、日向の実家に行くことを計画していた時にそんなことを考えていたとは記憶していない。俺の性格的にもそういうことはあまりしないと思う。

ガチの記憶にございません状態になってる時って自分でも発言に確証が持てないの嫌すぎる。

 

「おい!お前も何とか言ったらどうなんだよ!」

 

「なんとか」

 

「ざけてんのか!」

 

「いやいや、でもほら………特に言うことがないなって」

 

殺気立ってきた。面識は――ない。顔だけなら見た事はあるけど、挨拶はした事ない探索者だ。

そんな奴に対して一生懸命に弁明して何になる?何の役に立つ?ここで土下座でもして、俺は本当に知らないんですって泣きつくのか?

――無意味だ。世の中の大部分の人間は自分とは無関係で、そんな人間たちに対して何かを訴えることに価値は無い。政治家など特殊な性質の人間でも無い限りは、自分と周りの人間にだけ気を配っていればいいんだ。

周りってのは精神的な話な。

 

「ちょっと――」

 

「方目さん、気にしないで大丈夫です」

 

商工会の職員がどちらかの意見に肩入れするのはよくない。たとえ自分のことだとしても、それを許してしまえば今後に悪影響が残るのは間違いないからだ。

方目さんだってそれは同じ。

 

「結局、俺に何を求めてんだ?仮に俺がレベルを偽っているとして――」

 

次に飛んできたのは鳥の素揚げ。熱々で出来立ての、今にもかぶりつきたくなるような肉だ。皮目から脂が滲み出て滴っている。俺の服についたこれは、落とすのに少々手間取るだろう。

赤い顔を見る。

 

「今のは開戦の合図と考えても?」

 

「――舐めやがって」

 

「うぉううぉううぉう!武器出したぞ!方目さん!」

 

まさか、ここで武器を抜くなんて。探索者は商工会にいる時、何があろうとも武器なんて抜かない。何がこいつをそうさせるんだ!?

 

「ま、ままままあまあ!落ち着けって!悪いな!ちょっと嫌なことがあったんだ!」

 

「どけ!」

 

お仲間が止めに入るも、俺に向かってこようと足を動かす。

 

「ほら!いくぞ!……悪いなナナオちゃん!多めに見てくれ!例の……アイツらのせいなんだ!」

 

顔を一つ顰めた後、酔っ払いを3人がかりで引きずって連れて行った。例のアイツら、とはなんだろうか。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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