【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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173_失踪

 

「おい」

 

「はい?」

 

「なんだこれは」

 

「あ゜っ」

 

 日向が摘んでいたのは一房の髪。荷物を整理しようとリュックを開いて、さらに仕舞い込んだ袋を見つけてしまったようだ。

 ……やれやれ。

 

「毛虫の──」

 

「女の髪だろ」

 

「…………」

 

「……なんで隠そうとしたんだ?」

 

「色々と複雑な事情があって」

 

「どんな事情だよ」

 

「人には明かせない事情と言いますか、ええ、なんとも説明し難いんですけどもね」

 

 おかしいな

 どうして俺は

 敬語なの? 

 そんなお堅い

 間柄じゃないのに(字余り)

 

「そ、そんな顔すんなって。ほら、もっとスマイルスマイル! 可愛いお顔が台無しだぞ!」

 

「あ?」

 

「…………」

 

「そんでなんだよこの大量の鱗」

 

「ドラゴンの鱗」

 

「はあっ!? おまっ……えぇっ!?」

 

 どたどたと足音が近付いてくる。

 

「なになに!? どうしたの!?」

 

「…………いや、こ、これ……全部ドラゴンの鱗だって」

 

「へぇ〜」

 

「姉ちゃん意味分かってんのか!?」

 

「ドラゴンでしょ? だって、ほら……」

 

「…………いや、そうだけどさ……まさか繋がりが弱くなってたのって……!?」

 

「多分そうじゃない?」

 

 俺には分からない会話するのやめたら? 

 

「まあまあ、ご飯食べよー」

 

 早苗ちゃんに手を握られて席へ着く。

 今日はステーキだ。向こうでも散々食べた肉だ。

 そして肉はどれだけ食ってもいい! 

 

「それでさ、髪の毛は誰のなの?」

 

「…………」

 

「あはは、流石に分かるって」

 

 女の子の勘なのか、はたまた別の第六感なのか。こんなにあっさりと看破されるなんて微塵も思わなかった。

 

「ほらほら〜、吐いちゃいなよ〜」

 

「……」

 

「大事なことほど1人で抱え込むと大変なことになるって言ってたのは、アキヒロ君でしょ?」

 

「…………誓うけど、俺から髪の毛をくれなんて言ってないからな」

 

「分かってるって〜、それで誰なの?」

 

 目が笑ってないんだよ……

 

「誰のか言わないなら捨てるからね」

 

 なんでそんな酷いことするの……? 

 

「だって、浮気疑われても仕方ないじゃん。誰も見てないダンジョンで女の子と会って──なんて、常識的には信じられないけど」

 

「…………」

 

「言わなければ言わないほど酷いぞー」

 

「ぐ、具体的には?」

 

「ご飯がどんどん減っていきます」

 

「酷すぎる……」

 

 考える。

 ドラゴニアの里についての秘匿は守られなければならない。特に探索者等に対しては。

 たかが一市民が知ったところで辿り着けるわけもないし、そういう意味では2人に話すことに問題ない。しかし噂というのはねずみ算式に広がっていくもので、彼女のどちらかでも漏らしてしまえばその理論は破綻する。

 親しい2人だとして、簡単に教えていいと決められるような内容じゃなかった。

 

「わふ」

 

「え? ……何を根拠に?」

 

「わふわふ」

 

「はぁ」

 

 よく分からないけど、コマちゃん曰く2人は大事な秘密をしっかりと守っているから教えても大丈夫だそうだ。

 ……はーん、なるほどね。

 

「2人とも」

 

「「なに?」」

 

 首を傾げた姿は、とてもよく似ていた。

 

「コマちゃんに口止めされてんのか」

 

「「!」」

 

「なあコマちゃん?」

 

「…………」

 

 この迂闊なワンコロめ、俺にヒントを与えるなんてアホなことをしたな! それにしても、三船くんたちも口止めを…………共通してることといえば、顔がいいことくらいで…………っ! 

 

「酷いことされたの隠してるとかじゃないよな……?」

 

「…………いや、ちょっと違うかな」

 

「ちょっと違うってなんだ!?」

 

「別にお前が心配してるようなことじゃねえよ」

 

「本当に?」

 

「うん、本当に」

 

「……早苗ちゃんも?」

 

「うん! 大丈夫!」

 

「そっか…………そっか、よかった」

 

 一気に肝が冷えた。

 へたり込むほどじゃないけど、若干全身の力が抜けるぜオイ。でも、それなら何を隠してんの? ってなるわけで……

 

「秘密の交換ってのはどう──」

 

「「ダメ!」」

 

「なんでだよ」

 

 ……もう一度突っ込ませてくれ。

 

「なんでだよ」

 

「なんで2回言ったの」

 

「大事なことだからだ」

 

 ともかく、秘密の交換会とは行かずに俺だけが発表することになった。セクター跡に辿り着いて、探索者たちと一触即発になって、そこから改めて竜の谷を探したら別のところに辿り着いたと。

 ──彼女のことを話したら、途端に目つきが鋭くなってとても怖かったです。

 

「ドラゴンの里って……」

 

「聞いたこともないや」

 

 俺だってない。

 あんな特殊な場所についての話が世に発表されていたら、永井先生か俺が把握してないはずないんだから。それに、さりげなく方目さんに確認してみたら商工会はドラゴニアの里については認知していないということもわかった。

 

「2人とも、絶対に漏らしちゃダメだぞ」

 

 尿漏れ、ダメ、絶対。

 

「わーかってるよー」

 

「お前よりよっぽど口硬えから」

 

 そこで俺を引き合いに出す意味はなんなんですかねえ。

 とはいえ、特に誤解なく終わりそうでよかった。

 

「でも、女と会ったって話は別だよな」

 

「どうせ顔のいい子だったんでしょ〜?」

 

 なんで決め付けるのか。

 

「えー? だってほら、アキヒロくん面食いだし」

 

「女の子目当てで行ったわけでもないのに顔がいいとか悪いとか関係ないだろ。確かに顔は良かったけど、それはあくまで結果であって俺の意思が介在する余地はありません!」

 

「やっぱりそうなんじゃん」

 

「そうだけども!」

 

 切り抜き報道によって俺の名誉に著しい傷が付くところだったが、それも悪ノリの範疇。とにかく2人には他言無用であることを申し付けた。

 本気で。

 

「明宏くん怖い……」

 

「いきなり真面目になるのやめろよ……」

 

 怖くても関係ない。人類に彼女等の存在を悟らせるわけにはいかないんだ。

 

「なんでそんなに必死なんだ?」

 

「人類が愚かだからだ」

 

「……お前もその愚かな人類の1人だろ」

 

「そうだな。だから分かるんだよ、人類が彼女たちのことを知ってしまったらどうなるかってことが」

 

「…………晒し者?」

 

 日向は、一発で答えを当てた。

 

「うん、晒し者だ。しかも一番良くての話な」

 

「……結構ヤバいことに関わっちまった感じか?」

 

「だから言ってんだろ。本当に誰にも教えちゃダメだぞって」

 

 実際のところ、あんまり心配していない。犬に口止めされただけで俺にすら向こうで何があったかを教えてくれないくらいだからな。

 そうでなくても信じてる。

 この子達はそういう子じゃない。

 

「……危ないことしちゃダメだよ?」

 

「ははっ、いきなりなんだよ」

 

「ううん」

 

「変な早苗ちゃんだな」

 

「なにを〜!」

 

 

 ──────

 

 

「永井先生が……失踪した……!?」

 

 それは、安全なセクターに住んでいることで寝ぼけていた俺の目を覚まさせるような一撃だった。

 実際に殴られたわけじゃない。それでも、話を聞いた時に俺は……頭をぶん殴られたような衝撃を間違いなく感じた。

 

「いや……そ、それは……本当なのか?」

 

「ええ、だから学生さんには申し訳ないけど今日は休講なの」

 

 上擦った声は自分の声のようには感じられず、目の前にいるはずの建物管理のおばさんの顔すらもぼやけて見えた。永井先生の研究室には商工会の人間が集まっていて近付くことができない。

 俺が提供していたモンスターの素材や先生の研究資料なんかも全てあそこにある。

 

「…………」

 

 正常性バイアスとでもいうのだろうか。心配するべきなのは資料や物品ではなく先生の安否のに、あろうことか研究はどうしようなどと考えていた。

 こんな時まで、俺の頭を占めているのは『どうすれば先生の研究資料を取り戻せるか』だった。

 

 サブプランはもちろんある。

 研究者は少ないが1人ではなく、第一セクターにアテがあった。もはやマッドの範疇に足を踏み入れている頭オッパッピーで、こちらも一応優秀な研究者だ。神の領域に足を踏み入れられる方向性ではなく、どちらかといえば技術畑の人間。足よりは手を動かすほうが好きなタイプだったはず。

 彼は世界の真実とかそういうのには興味ないけど、ソフィアの件でお世話になっている。

 

 だけど、そうじゃない。

 永井先生ほど霊領を研究していた人間はいない。神様の土地に踏み込むなどという自殺行為を何十年もやるというのは、他の追随を許さない成果を与えていた。

 ちらっとだけ、その一部を見させてもらったことがある。パラパラとページをめくっていくと神の姿を紙に書き写したものが資料の中にあった。すぐに目を逸らしたからちゃんと見たわけじゃないけど、なんと冒涜的なことをする人なんだと戦慄した。

 そして確信した。この人ならば──狂気に呑まれた彼ならば俺を導いてくれるだろうと。

 師事するに値する、類稀なる熱意を秘めた方だった。

 

「…………」

 

 食堂に来たけど食欲が湧かない。椅子に座り、背もたれに体を預けたまま時間が過ぎ去っていった。

 怪訝な顔をして通る学生達は気付いているのだろうか。彼がいなくなったことが、人類においてどれだけの損失につながるか。

 

「あれ、アキヒロ君じゃん」

 

「……タクヤ」

 

「なにしてんの? お腹痛いの? ……いや、探索者がそんなわけないか」

 

 大学で見かけるとちょくちょく会話をする程度の仲ではあるタクヤが、取り巻きから離れてやってきた。4人の男女が俺のことを見てヒソヒソと話している。

 

「聞いたか、永井先生のこと」

 

「え? ああ、なんかいなくなっちゃったってね。そういえばあの人の研究室所属だったっけか」

 

「…………」

 

「まあ、そのうちひょっこり戻ってくるんじゃない? アキヒロ君だってレアキャラみたいなもんだけどちゃんと戻ってくるし、あの人も似たようなもんでしょ? 霊領? の研究してるんだから」

 

 やはり、その程度の認識か。

 

「あ、ごめんみんなが待ってるんだわ」

 

「ああ、気を付けてな」

 

「ははっ! 何に気を付けるんだよ! まぁでも、気を付ける!」

 

 昼飯は食わずに食堂を出ると、商工会の連中は学生への聞き込みを始めていた。人が1人いなくなった程度でこれ程の数を動員するなど、普通は考えられない。

 遠目に観察していると、1人の職員がこちらへやってきた。

 

「加賀美明宏さんですね」

 

「ええ」

 

「あちらで話を聞いても?」

 

 研究室に所属している探索者ということで、どこか行き先は知らないかと半ば強制的な取り調べだった。だけど記録の通り、俺はその時ちょうど竜の谷に向かっていた。逆に俺の方から質問をした。

 先生の資料はどうなったのかと。

 商工会に接収されてしまえば、俺がそれを目にする機会は無くなってしまう。もしかしたら先生が俺の目からは隠していた核心的な資料というものが中にはあったのかもしれないのだ。

 正直、答えを返してもらえるとは思っていなかった。普通に考えたら捜査資料なんて明かせるわけがない。だけど、本当にポロッと。若い姉ちゃんだったことも関係しているだろう。

 

「それが、何も残って──あっ」

 

「……聞かなかったことにします」

 

「あ、えへへ……すみません、そうしてくれると助かります」

 

 俺が聞くことが最も重要なのだ。聞かなかったことになんてできるはずがない。その後もいくつか質問をされて、俺が関わっていないことは納得してくれたような顔をしていた。チラ見した聴取内容も変なことは書かれていない。嫌疑は晴れたようだ。

 

「では、失礼します〜」

 

 部屋に1人残され、頭を抱えた。

 

「…………なんだってんだ」

 

 永井先生は何の予兆もなく、多くの資料と共に忽然と姿を消した。俺が寄付したものなんてどうでも良い。その何百倍も価値あるものが失われた。

 

「……」

 

 目標直接的に追求するというカテゴリにおいて、俺が大学に通う意味は最早無くなったと言って間違いなかった。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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