【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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174_ささやかながら

 

「アリサちゃんおめでとう!」

 

「ありがと! 茜ちゃんも頑張ってね!」

 

「うん!」

 

 アリサは晴れて大学生になった。お祝いということで関根家を訪れようと思ったけど、逆に俺の家でやりたいというのでご希望の通りにした。お母様お父様と、妹の茜──俺の周りの人間だと一番仲がいい──が出席だ。コマちゃんは里帰り中。ハシュアー達3人は今日は来ない、というか流石に遠慮してもらった。

 

「お父様、お母様、この季節なので本当はそちらのお宅でと思っていたのですけど……」

 

「あはは! そこまでしてもらったらもう返せるものが…………うん、既に返せるものは無いからね。せめて足を運ぶための労力くらいはかけさせてくれよ」

 

「それに、私たちから返せるものって言ったら一つよねえ」

 

「はは……でも本当に良かったです、アリサさん頑張ってましたからね」

 

「そうだね……アリサはよく頑張ったよ、うん……うん…………がんばっだよなあ゛あ゛」

 

「ぐすっ……ふふ……」

 

 子を持つということはこういう事だ。絶えず変化していく成長点の塊である子供、それと既に育ちきった大人を比較すれば時間が違う。隣を往く時間の流れに取り残され、赤子がいつのまにか大人になっている。

 その実感を得た時、ふと感情が漏れるのだ。

 

「ありがとう……ありがとうなあ……」

 

「こちらこそ、アリサさんからは色々なことを教えてもらいました」

 

 人に何かを教えることの難しさ。どれだけ経っても最適解をいまだに見つけることができていない。

 無知の知に近いだろうか。慢心し始めたタイミングでそういう機会が訪れるから、身につまされる思いだ。

 

「──ヒロさん、本当にありがとうございました」

 

「こんな時に余計な気遣いすんな。主役はお前なんだから、ふんぞりかえってなよ」

 

「はい!」

 

「入学手続きはもう済んだな?」

 

「お金は、絶対に、返します!」

 

「そうか?」

 

「絶対にです!」

 

「それじゃあ返してもらったら、そのお金で良い武器でも買おうかな」

 

「……た、足りないかもしれないっす」

 

 アリサは預貯金を指折り数え始め、見るだに冷や汗をかいている。実際のところ、今使っている神器やその代わりとして譲り受ける予定のオリハルコン製武器などに勝る武器はこの世に存在しない気がするので、買ったとしてもサブのサブぐらいにはなるはずだ。

 そう考えると武器よりはアイテムを揃えた方がいいのか。

 俺には無い機能を補うもの。

 まあ、おいおいの話だな。

 しかし、なんでそんなに顔が暗いのか。

 

「…………あの……聞きました、ヒロさんの研究室の先生がいなくなっちゃったって」

 

「そっか」

 

 入学前の情報収集に余念がないようで、感心だ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「どちらかと言えば大丈夫じゃないけど……まあ、なんとかするさ」

 

 ショックは受けたけど…………こんな世界だ、こういうこともあるだろう。たまたま俺の身近では起きていなかったことが、今回は俺の番だったっていうだけの話だ。

 何となくだけど、探しても見つからないような気がした。だから、先生のことを探す気はない。

 この内心を誰かに話せば薄情だと言われるかもしれない。でも、起きたことを変える力は誰にもない。受け入れて、次のステージへ進まなくてはいけないんだ。

 そう、止まっている暇はない。

 

「雷強いねー……お兄ちゃんの家って雷当たっても崩れないよね?」

 

「大丈夫」

 

 電子の奔流である雷で家が倒壊するわけないと思うだろう? だけど俺たちの実家は倒れた。火事とかじゃなくて、衝撃で。

 普通にショッキングな光景だった。

 帰ったら家が無くなってたからな。

 

「うひゃっ」

 

 一際大きな雷が鳴り響き、外が白黒に包まれる。飛び上がった茜はアリサと顔を見合わせてクスクスと笑った。その様子を見てお父様達もまた微笑む。

 

「…………はは」

 

 しかし、アリサの言葉には強がったものの実際の気持ちは下向いている。明るくめでたい場で俺の内心はそぐわないが、それでも気分自体が落ち込んでいるのはどうしようもなかった。

 するとお父様が俺の肩を軽く叩き、外に誘われた。

 

「──加賀美くん、俺たちも聞いたよ。君の師匠がいなくなってしまったたいう話……残念だったね」

 

「……まあ、こんな世界ですから」

 

「これからどうするんだい?」

 

「…………」

 

「これは完全に俺たちの我儘なんだけどね…………できるなら、君には大学を辞めてほしくないな」

 

「──気付いていたんですか?」

 

 一回も口に出したことはないけど、そういう選択肢が存在しているのは否めなかった。

 

「まあ、なんとなくだけど」

 

 そんなに俺はわかりやすかっただろうか。

 

「アリサから先生がいなくなったって話を聞いた時にピンと来たんだよね。そういえば加賀美くんは、牛をなんかしたいんだったってさ。そうすると探索者と大学を一緒にってのはなんだか妙だから……こう、色々と頭の中で言葉が飛び交って……何故か分かったんだ」

 

「なんだそりゃ」

 

 もしかしてご職業は名探偵ですか? 

 

「……加賀美くん、これは娘を思う父親としての言葉だ。君には何の責任もないし、なんなら……これまでも君には本来かけるべきじゃない重荷を背負わせていた」

 

 アリサが重荷。

 そんなふうに考えたことはない。

 むしろ、俺みたいな未熟な人間を先生として迎えてくれた関根家には感謝している。人は自らの限界を乗り越えて成長していく。本来の俺は人間として限界にいたが、新たな分野で戦う──戦闘の意味でなく──ことによって足りない部分が色々と見えてきた。精神が変容して大人になるという意味でなく、土台に積み上げていくという意味の成長。

 会社の後輩に物を教えるのとは違うプレッシャーを感じながらの指導で、何がわからないかを聞き出すところからまず始めるっていうモノだった。会社だと、何がわからないかは自分で整理してから質問しろって言ってたからな……まあ、なかなか楽しかった。

 

「な、何か言ってくれると助かるかな」

 

「ちょっと感慨深くて……俺もあんな感じにつききっりで人に教えるのはそこまで経験がないので──それこそ大学までなんてのは初めてですから」

 

「俺たちは大学まで行ってないから、どんなところかは正直わかってないんだけど……お金持ちの場所ってイメージがどうしても、ね」

 

「概ね合ってますよ」

 

「……どうなんだい? その、ほら……あるじゃん?」

 

「心配の元はわかりますけど、みんないいやつですよ。少なくとも探索者と比較にならないくらいしっかりした奴らの集まりです。さすがは幼少期から金かけて英才教育を受けているだけありますね」

 

 これだけ後退した世界でも、富裕層はある程度まともな倫理観を持って生きている。俺には負けるけどな! 

 まあ、分野が違うってやつだ。

 アイツらは人を使うってことに特化していろいろな教育を受けているだろうから、その分野に関しては負けるはずだ。でも、一般教養に関しては劣っているところなど一つもない。肉の焼き方に米の炊き方、一瞬で寝る方法、果ては民宿の予約までバッチリだぞ。

 

「……君は、大学で浮いたりしてないかい? 正直言ってアリサがそんなお金持ちの子達と馴染めるかわからなくて不安なんだよ」

 

 こうして不安を吐き出してもらえる程度には信用されているということだ。

 嬉しいね。

 

「俺は馴染んでないんでわからないですけど、ミツキがいるので大丈夫なんじゃないですかね」

 

「馴染んでないの!?」

 

「いやほら、大学にいる目的が違うんで」

 

 大学で最も授業に出てないのが俺だろう。まあ俺の知る大学ほど単位は重視されてないというか……実績やどれだけ大学に貢献したかで判断されるので、本来の学校機能というのはあくまで一側面でしかない。

 

「馴染んではないですけど、排斥もされないですから大丈夫ですよ」

 

「アリサは……?」

 

「ミツキと一緒にいれば大丈夫ですね」

 

 指折りの資産保有者でもあるコウキさんが親なので、金持ちランクという意味では上位にいるからな。

 

「でも、ミツキちゃんとはあんまり……仲が良くないというか……」

 

「ミツキもアリサさんのことを嫌ってるわけじゃないんですよ。あれはまあ、可愛い嫉妬です」

 

「自分で言うんだね」

 

「あー……」

 

「もういいさ、分かってるからね」

 

 スゴクキマズイ。

 俺がアリサとかミツキの父親だったら、俺のことを殴り飛ばしてる。何なら、コウキさんには既に殴られてるしな! 

 

「複雑だ…………複雑だよ」

 

「そうですよね」

 

「娘が手の届かないところへどんどん進んでいく……これほどに複雑なことはないな。俺などよりもよっぽどすごい人間になるんだろうってことも何となく見えるんだよ」

 

「あんまり期待のしすぎは……」

 

「いいや…………白状しよう、俺はあの子に期待をしていなかった」

 

 壁にもたれかかり、酒で唇を湿らす。

 その眉は寂しさで垂れていた。

 

「だから今、こうして期待できるようになったってことがすごく嬉しいんだ…………こんな自分勝手な父親、失格だけどね」

 

 言葉を遮らないように空が遠慮しているのか。雷が空を迸っているのにも関わらず、ボソボソとした喋りがしっかりと耳に聞こえる。

 

「アリサは加賀美君と一緒に大学に通えることをすごく楽しみにしてたよ」

 

「…………」

 

「まあ聞いてくれ、君の気持ちはわからないけどアリサの気持ちは分かるんだ」

 

 語られたのは、アリサの部屋から聞こえてきたという話。直接教えてもらったわけではないというのが非常に父親だった。

 服を買ったりどんな店があるかを調べたりと、期待に胸を膨らませていたようだ。

 

「──どうなんだい? 実際、大学を辞めようとは思ってるのかな」

 

「…………」

 

 大学に行く意味が完全に失われたかというと、そうでは無い。永井先生以外の研究室に興味はないけど、顔つなぎという意味では大きな役割を果たしてくれるだろう。

 ……まあ、その程度だ。

 辞めてもやめなくてもいい。

 どっちでもいい。

 どうでもいい。

 そんなところか。

 

「君にとっては時間の無駄かもしれないけど……」

 

「関根家の欠点その一」

 

「え?」

 

「早とちり」

 

「あ…………はははっ……はははははっ」

 

「俺は辞めるなんて言ってません」

 

「ははははっ──でも、普通に考えたら辞めるじゃないか。その……無駄なことに時間を割くのは、それこそ君みたいな先の有望な人間がやることじゃないだろう?」

 

「無駄なことを、無駄だからと切り捨てる。その果てにあるのは、機械のように切り詰められたつまらない人生ですよ」

 

「……じゃあ、いいのか?」

 

「俺だってアリサさんと一緒に大学に通いたいですからね」

 

「そうか……ああ、よかった」

 

 そんなタイミングで扉が開いた。

 

「2人ともいつまで外にいるのー? ご飯冷めちゃうわよー」

 

「あ、はーい…………じゃあ戻りますか」

 

「うん」

 

 進むに連れて酔っ払いが増えていく室内。飯も、育ち盛りが3人もいればスイスイと胃の中に収まってしまった。

 大人2人まで何をしているのかって話だけど、娘が立派になったということの祝いの日だ。酔い潰れたって仕方ない。

 

「へへへ……へへ……」

 

 茜はいわゆるゲス笑いをしながら肩を組んできた。

 

「おにーさまー」

 

「おう」

 

「うへへへ、頼みがでしゅねえ」

 

「…………」

 

「な、なにすん………………ぐぅ……」

 

 知り合いの家族一家の目の前で痴態を見せつけるところだったので、撫でて誤魔化そうとしたらすぐに眠りに落ちた。今はスヤスヤでワロタって感じにソファーで寝ている。

 

「ヒロさぁん、今日はいつもより硬いですねぇ……もしかして鎧着てますぅ……?」

 

 アリサは壁に向かって話しかけ始めたので、こちらも座らせると意識がフェードアウト。この空間、アルコール臭くないか? 

 

「……ふぅっ」

 

 既に床に寝転がっているお父様は時折犬みたいに吠えるけど、お母様は至って静かな寝息だ。

 いっぱい枕あってよかった……

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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