【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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成長の章
1_ハシュアー、一歩


 

「武器の扱い方を教えて欲しい? …………運が良いわね、教官枠が今空いてるのよ」

 

「じゃあその人に教えて欲しいです!」

 

「やる気あつ〜、じゃあ名前ここに書いてね」

 

「……は、しゅ、ああ」

 

「あなたアレね、字が汚いわね」

 

「う、うるせえやい!」

 

「あの2人はいないんだ?」

 

「えっとお……なんか用事があるらしいです」

 

「ふーん、じゃああそこの廊下を奥に進んだら訓練場があるから。そこで──って、もう行ってるし……」

 

 地上にやってきたばかりのハシュアーにとって、人間世界は興味が尽き果てなかった。街を歩くのは全員がヒューマン。ドワーフなんて1人もおらず、ヴォルフガングもアレ以降姿を見ていない。

 しかし、ハシュアーにとってそれは覚悟していたことだ。寂しさはあるが、胸の中には『牙』たる彼女の言葉と家族からの愛、そしてイルファーレからの加護が根付いている。現段階において挫ける動機にはならなかった。

 

「よろしくお願いしまーす……?」

 

「おう」

 

「──うわあああ!?」

 

 ハルバードを背負った男がいきなり目の前に現れた。ハシュアーにはそうとしか捉えられなかった。

 

「いつのまに!?」

 

「ハッハッハ! ……お前誰だ?」

 

 その立ち振る舞いからして、この無骨な部屋の主であろうとハシュアーは何となしにあたりをつけ、元気よく返事を返す。

 

「ハシュアーって言います!」

 

「ハシュアーね。俺はレイジだが……何しに来たんだお前みたいなガキが」

 

「ガキって……もう13歳だ!」

 

「ガキじゃねえか」

 

「ガキじゃない!」

 

「あーはいはい。それで結局なにしにきたんだ?」

 

 訓練場に来るのだから、普通に考えれば聞かずともの話ではある。しかし、明らかに小学生くらいの子供が来ているとなればその常識も通用しない。そもそも訓練場に来るような探索者が少ないということもある。

 

「……武器を使えるようになりたいんだ」

 

「ああ……まあ、そりゃそうか」

 

 結局、日向達に鍛えてもらうという案は無かったことになった。

 ハシュアーと姉妹が話そうとすると、何となく距離ができるのだ。バリアーでも貼られているかのように自然と用事が間に入ったり、くぐもった感覚を得るというべきか。

 お互いに相性が良くないということが察されていた。

 だから、商工会にわざわざ安くない金を払って鍛えてもらうことにしたのだ。来たばかりのハシュアーの懐のどこにそんな金があるのかというと、出立の支度金として受け取っていた金をあてがっている。

 

「……」

 

「すっげえ……」

 

 まずは軽いお手本ということで、ハルバードを背中から引き抜いて手元で回す。巨大な物体が動くとき特有の風切音のみが室内で唯一聞こえる音。

 まるで枝切れでも扱うかのような手捌きで狙うのはいくつも置いてある的だ。

 

「ほーらよっ!」

 

 軽い掛け声とともに振り抜かれたハルバードは、一撃で全ての的を上下に断った。

 

「うん、いいね」

 

 振り抜いた姿勢を残心とし、ゆっくりと直立に戻る。

 

「こんな感じだが、十分…………そうだな」

 

 ハシュアーの瞳はキラキラと輝いていた。

 今のを見ただけで、すでに敬意の対象に組み込まれたということがありありと分かる。

 

「俺も今のやりたいです!」

 

「じゃあ、まずは基礎からだな」

 

 

 ──────

 

 

「──はああ!」

 

 的──木製の円柱に向けて打ち込まれるメイス。

 ハシュアーが武器として選んだそれは、剣に比べて扱いやすいのが特徴だ。刃の向きに合わせて振らなければ威力を持たぬ剣と違い、メイスというのはがむしゃらに振り回すだけで一定以上の効果をもたらしてくれる。

 しかも、その先ぶくれした形状がモーメントを増大させるので剣と比較して平均的な威力も高い。

 あまり選ばれないのは剣の方がかっこいいからという単純な理由だ。

 

「えいっ! やあっ!」

 

 直撃した部分は凹み、抉れ、跡がついていく。

 

「あいつ、ちっせえくせに腕力あるな……レベル7って聞いたけど、どうなってんだ?」

 

 教官は首を捻っている。

 面倒を見始めたばかりで、体躯が小さくレベルも駆け出し以前。子供にしては高いか、という程度のレベルしか保有しない少年が存外な結果を目の前に表していた。

 

「アレかね、見た目にそぐわず服を脱ぐと的な?」

 

「はあっ!」

 

「あ、おーい! 一旦そこまで!」

 

「──はい!」

 

 ストップがかかると、即座に教官の元まで戻ってくる。的はかなりボコボコにやられていて、修復には時間がかかるだろう。

 

「なんですか!」

 

「うん、的がもう限界だからな」

 

「……気付きませんでした!」

 

「夢中だったからな……でも、ダンジョンでは夢中になりすぎると背後から襲われるなんてこともあるから、集中はほどほどにな?」

 

「はい!」

 

 それにしても、とハシュアーを見た。

 気持ちのいい返事をする少年だった。彼がこれまでに担当した探索者及び探索者志望者の中では最も前向きで、しかもそれが顔に表れている。

 

「お前さん、力が強いな」

 

「はい! 何たってか──」

 

「か?」

 

「か、母ちゃんの息子ですから!」

 

「お、おう……そりゃそうだろうけどさ……まあいいか」

 

 13歳の子供に自分の力の源泉なんて分かるわけもないか、と諦める。大事なのは、武器を扱えるかどうかということなのだから。

 メイスでなくとも、剣でも弓でもナイフでさえも、武器を扱うというのは簡単ではない。

 止まっている相手に振るう包丁と違って、彼ら探索者は動いていて食材などよりもよほど頑丈なモンスターにダメージを負わせなければならない。

 

「全然疲れてませんよ!」

 

 ブンブンとメイスを振り回す。

 

「お前、まだやれんのか」

 

 ダメージを負わせる前に、まず探索者は武器を十全に扱う能力を身につける必要がある。

 武器を扱うには技術、体力、腕力が必須だ。

 探索者になるやつなんてのは基本的に資質が無いし、食生活も貧しいことが多い。そうすると最初は武器なんて持ったところで持ち上げられないか振り回されるだけだ。それなのに、ハシュアーは全く体幹がぶれない。

 

「俺は覚悟してきたんです! これくらいなんてことない!」

 

「うむむ……」

 

 当初の計画ではもう少し緩やかな曲線を描くように内容をキツくしていくつもりだった。最初は今日のように好きなだけ武器を使わせて、自分がどれだけ武器を振れないかということを自覚させ、まずは体力をつけさせるために走り込みから。

 ここで心が折れて逃げられることも多い。

 しかしハシュアーの様子を見ると、少なくとも肉体的な素質という面では十分に思えた。

 

「俺、盾とメイスで行きたいです!」

 

「盾とメイスか……確かに、お前は向いてそうだな」

 

「前に立って2人を守ってあげたいんです!」

 

「……珍しいな。お前みたいな奴が探索者になるなんて」

 

 彼のようにやる気に満ち溢れているのならば、それこそ探索者などよりもよほどマシな職業につけただろう。しかし、なりたいと言うならば十分に鍛えてやるのが教官としての役割だ。

 すぐにレベルなど追い越されてしまうだろうが、それこそ教官としての本望。後進を育成することを選んだ彼にとっては、教え子が活躍する姿を見ていたい気持ちがあった。

 

「その2人は来ないのか?」

 

「俺が勝手に来てるだけですから」

 

「いいのか?」

 

「自分のことは自分で決めます!」

 

「あぁ……苦労してんだな」

 

「?」

 

 子供には、必ず親がいる。

 まともな親とそうでない親。

 金持ちの親と貧乏な親。

 そのどちらの元に生まれたかで、人生はまるで違うものになる。金がなくてまともじゃない親の元で生まれてしまったら、その先は地獄だ。

 彼の身体を見るに栄養が足りていないことは確実で、それでもここまでのポジティブさを保ったまま生活を続けるというのは生半可な精神の強さでは達成できないはずだ。それか、幼過ぎてわかっていないか。

 

「頑張れよ」

 

「はい!」

 

 まだ体力が有り余っているというので、メイスと盾を持たせた上での走り込みとなった。ダンジョン内では走りやすい格好など夢のまた夢──特殊な武装で身を固めているのでもない限り、ガッチャガッチャと音を鳴らしながらの走行になる。

 メイスを振るのは余裕そうにしていたハシュアーだが、これにはかなり早い段階で限界を迎えた。

 

「はぁ……はぁ……っ……はぁ……!」

 

 地面に突っ伏した状態で肩を荒く上下させる。メイスも手から離れて土の上を転がっていた。腕を金輪に通して保持する丸盾と、留め金によって保持されている鎧は未だに身体から離れていない。

 

「ほら、立てるだろ!」

 

「くっ……!」

 

 腕を震えさせながら起きあがり、教官を睨みつけた。

 

「オラ! 並んでる暇あんなら立って走り出せ! モンスターは待ってくれねえぞ!」

 

「っ!」

 

 尻を蹴っ飛ばされ、つんのめる。100mも進まぬうちに石に蹴躓いて再び大勢は元通り。今度は顔に土がついてしまった。

 

「いってえ……」

 

「モンスターは痛かろうがなんだろうが待ってくれねえぞ──とはいえ、流石に無理そうだな。終わりっ!」

 

 詰める時は詰めるが、止める時はあっさりだった。疲れて崩れ落ちたハシュアーを肩に担ぐと、人を1人持っているとは思えない身軽さで訓練場まで走っていく。

 

「いちち……」

 

 回復薬を少しだけ膝に垂らすと、擦過傷がたちまち消える。商工会公認の訓練場なだけはあって、備品は豊かだった。

 

「そんな程度で痛いとか言ってんじゃねえ。これからはもっと痛い目に遭うんだぞ」

 

「痛いもんは痛いだろ!」

 

「まあな……っと、よし! ほら、今日は終わりっ! 解散っ!」

 

「……えーと、明日も来て良いんですか?」

 

「初日あんなに良い感じだったのに2日目以降逃げるってまじ? そんなの許されるんですか?」

 

「そうじゃなくて!」

 

「冗談冗談、もちろん大歓迎だ。なにせ基本的には暇だからな!」

 

 何でそんなことを堂々と言えるんだ……とハシュアーは曖昧な顔で困惑するしか無かった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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